あれから事情聴取などをしてから大沢さん達と共に祭りの会場に向かう。
あの後に聞いたのだが敵のISはどうやら無断で持ち出された機体らしく既に調査が始まっていたとの事。そこに今回の事が起こり回収が達成されたらしい。
そして搭乗者の三人だが、
三人とも死んでいた。
それも当然と言えば当然だろう。
これだけの高さからの落下の衝撃に耐えられるはずがない。
こうして一連の騒動は終わって行った。
変える道すがら、車に向かう時の足取りも心もどうしてだかとても重く、億劫だった。
このままここで座り込んで朽ち果てるのもいいかもしれないと考えるぐらいには。
「……只今戻りました」
そう言って皆に合流する。
しかし普段と変わらないように声を掛けたはずなのに。
皆は俺の顔を見て青ざめた。
いや、正確には目、だろうか。
俺の目を見た瞬間に。特に楯無さんの顔が酷かった。
俺の方に歩いてくるものだからどうしたのだろうかと思っていたが俺に向かって歩いていたわけではないらしい。
楯無さんは俺の横を通り過ぎて後ろに待機していた大沢さんに詰め寄った。
「なんで……!なんで輝義君があんな目をしているの!?」
「申し訳ありません……」
楯無さんが大きな声で聴くと大沢さんは小さな声で言った。
そんなに目が変なのだろうか?
ちゃんと見えているのだが。
自分では分からない。
「……楯無さん、俺の目が変なんですか?」
「ッ!輝義君、帰るわよ……」
「……ですが」
「いいから!!もう、今日は帰りましょう……」
そう言うと楯無さんは俺の手を掴んで歩いていく。
箒や織斑、セシリア達もそれに続いて歩いていく。
帰り道は誰一人として言葉を発さなかった。
家に帰ると楯無さんは俺の両親の所に行ってくると何処かに行ってしまった。
俺は部屋に戻り取り敢えず楯無さんに言われた通り風呂に入る準備をする。
何時もと同じように風呂場に向かい服を脱ぎ身体を洗い湯に浸かり。
身体を拭いて鏡の前に立った。
その時俺は俺自身に恐怖した。
その鏡の前に立っていた俺は自分でも見た事のない、顔をしている俺だった。
顔だけじゃない。目も雰囲気も何もかもが変わっている。
人を殺して身体にはこれだけの変化が出ているのに心には何も思わない。
そんな自分に恐怖した。
人を殺して当たり前のようにそこに立って皆に接して。
自覚をするたびに恐怖感がどんどん強くなる。
鏡を見るまで人を殺したことに何も思わない自分が怖かった。
手が、足が震える。
歯がカチカチと音を立てる。
寒くなってきた。
座り込んだ。
もう何も見たくなかった。
話したくなかった。
聞きたくなかった。
触れたくなかった。
そうしてどれほどの時間がたったのだろうか?
身体は夏とは言え冷え切っている。
それでも此処から出たくなかった。
そうしているとドアが開けられた。
そこに立っていたのは楯無さんだった。
「輝義君……どうしたの?」
「……何でもないです」
「嘘をつかないで……」
「……大丈夫です。もう少ししたら戻りますから」
そう言って楯無さんをここから遠ざけようとした。
だって俺みたいな人殺しと一緒にいて良い筈なんてないのだから。
そうして俯くといきなり顔を上に向けられ思いっきりビンタを食らった。
「ふざけないでっ!!どうせ俺みたいな人殺しと一緒に居たらダメだとかそんな事を考えているんでしょう!?」
「……そんな事は……」
そう言いながら見た楯無さんは泣いていた。
そして楯無さんは続けて言う。
「嘘を言わないで!何があったのかなんて私は想像できるわ!でもなんで何も話してくれないの!?」
「……」
そこまで楯無さんは言うと俯いて、
「それともそんなに私達は頼りない……?」
小さな声で呟いた。
そんな事は無い。
楯無さんはそのまま俺を胸元に引き寄せて抱きしめる。
「話して……」
「……」
「さっき起きた事を私に話して」
そう言われても言葉が出てこなかった。何をどうやって話せばいいのか、どう伝えればいいのか。
何よりも本当のことを言って楯無さんが離れて行ってしまうのではないか。
そんな事を頭の中でグルグルと考え続けてしまう。
「輝義君、私が話を聞いて離れて行っちゃうんじゃないかって心配してる?」
「……それは……」
お見通しか……なんでだろうな。俺ってそんなに考えていることが分かりやすいんだろうか?
しかしそう言われてもやはり……
「大丈夫よ。私は何があっても貴方の傍に居るわ。私だけじゃない。輝義君のご家族も簪ちゃん達も織斑先生達も。輝義君に関わって触れて言葉を交わした人たちなら絶対に離れたりなんてしないわ」
「……ですが……」
「もし、他の皆が輝義君の傍から居なくなっても私だけはちゃんと傍に居るわ。だから信じて」
そう言いながら俺の目を見て来る楯無さんの顔は優しい笑みを浮かべていた。
それから最初はポツリポツリと少しずつ話していたのだが途中から堰を切ったようにボロボロと話し始めた。
ちゃんと話を聞いてくれて、離れないと分かったからだろうか。
泣きながら話して、震えて。
でも楯無さんは時折相槌を打ちながらそんな俺の事をずっと抱きしめて頭を撫でて背中を優しく叩いてくれた。
気が付けばあれから話始めてからもう四十分が立っている。
すっかり話し終えているのにも関わらず楯無さんは俺の事を離さない。
「……楯無さん、もう大丈夫ですから」
「いいえ。大丈夫なんかじゃないわ。今の輝義君の心はとても不安定なのよ。だから離れないわ」
「……有難うございます」
本当にこの人は俺の事を心配してくれているんだ。
多分、部屋に戻ったら皆に詰め寄られるんだろうな、と考えるぐらいの余裕は出来ているのだがそれでもまだ精神状態は楯無さんからすれば不安定らしい。
「……でもそろそろ出ないと皆が風呂を使えませんが」
「何言ってるのよ。これだけ身体が冷たくなっているんだからもう一回温まってもらうにきまっているでしょ?」
確かに少し寒いが。これぐらいならば大丈夫だとは思うが……
多分今の楯無さんに言っても取り合ってくれないだろうな。
そう思った俺は素直に頷くしかなかった。
言われた通りに風呂に入った俺は出て部屋に戻った。
まぁ予想していた通りに皆から盛大に心配されて。
その後は先程俺がどんな目にあってどうしたのかを話した。
そして皆がこの話を聞いて俺から離れて行ったしまうのではないかという事も。
皆は自分の想いを話してくれた。
「輝義さん。二度とそんな事は言わないで下さいまし。例え何があっても、世界が輝義さんの敵になっても私達は貴方のお隣に居ますわ」
「そうだぞ。私とシャルロットが国から居場所を奪われたときにその居場所をくれたのは他でもない嫁なのだから。もし嫁の居場所が分からなくなって何処にもないと思ったら私達が居場所になってやる。嫁がそうしたようにな」
「なぁ、輝義。何時も何時も俺達がピンチの時はさ助けてくれて。見返りも求めないで俺達が傷付くのが嫌だからって身体を張って命を懸けて戦ってくれる奴の事を俺達が見捨てると思うか?そんなにその背中を守ることが出来ない程信用する事が出来ないか?」
「輝義は、自分が思っているよりも周りに大きな影響を与えてるんだよ?私とお姉ちゃんが仲直りできたのも輝義のお陰。そんな輝義が傷付いて苦しんでる時は何も言わなくても助けるよ。輝義は私達に笑っていて欲しいって幸せでいて欲しいって思ってるんでしょ?それと一緒だよ。私達も輝義の幸せを願っているから」
「輝義君、いいですか?以前にも言いましたが無茶をしてはいけないと言ったはずです。なのにもう二回も約束を破っているんですよ?……無茶をしていない?これのどこがですか」
「てるてるはさ、自分が身体を張るのもいいけど周りに甘えることを覚えた方がいいよー。誰も怒らないし文句を言ったりしないからさー」
「あんた馬鹿じゃないの?私達がそんな薄情者に見えるわけ?だったら眼鏡屋にでも行ってよく見えるように眼鏡を買って来たら?それか眼球を取り換えなさい」
「輝義、いいか?私は輝義から離れて行ってくれと言われない限り何処にもいかない。ただの強がりで言った拒絶なら張り倒してでも、縄で私と輝義を括りつけてでも傍に居てやるから。だから安心しろ」
「輝義、僕もいろいろ言いたいけどさ。離れて行かないから心配しないで?それに織斑先生も篠ノ之博士も同じことを言うと思うけど。何だったら元凶を殲滅しに行きそうだし」
皆の言葉を聞いていくにつれて俺は涙が止まらなかった。
皆が俺の事を傍に居ることを証明するかのように抱きしめて来る。
俺をこんなに思ってくれている人達がたくさんいて俺は幸せ者だ。
なんでだろう……?
気が付いたらシリアスを書いていた。
でも悔いはない。( ー`дー´)キリッ
長めになるとか言ったけど全然長くなかった。
感想、評価等くださいな。