今回は暴走した時の情景を書いて行きます。
時は遡り数時間前。
アメリカの何処か。
「もー面倒だわ。態々こんな辺境でやらなくてもいいじゃない」
「そう言うな。軍事機密なんだ。しょうがないさ」
そう言って話しているのはシルバリオ・ゴスペルの操縦者兼テストパイロットのナターシャ・ファイルスと国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Project Agency)の所長である、カイル・ナンツである。
「もーホントに何なのよ。いきなりコアを使うからついでにテストパイロットをやってくれなんて言ってあっちこっち連れ回して。嫌になっちゃうわ」
「私に言われても困るよ。上からの指示だからね。逆らえないのさ」
そう言って文句を言っているうちに今回、実験を行う研究所に到着した。
「ほら、到着したから行って準備をしたまえ。もう時間はあまりないぞ?」
「はぁ……」
ため息をつきながら研究所内に入る。
「ほら、準備で来たわよ。さっさと終わらせましょう」
「こちらも準備は出来ている。早速乗ってくれ」
言われなくても乗ると言った表情をしながら乗る。
それを見ていた所長は苦笑いを浮かべながら指示を出していく。
「今のところは順調だ。この調子ならあと二十分もあれば終わるだろう」
「なるべく早くお願いね」
「勿論、分かっているとも」
両者は会話するほどの余裕はあった。
そして、この後直ぐにその余裕が崩れることになる。
それから数分ほどしたとき、研究員の一人が異常を報告する。
「所長、如何やら外部からハッキングを受けています」
この報告が悪夢の始まりだった。
「どういう事だ?」
「分かりません。ハッキングを受けているとしか言えません」
「防げるのか?」
「この程度ならば問題ないかと」
そう、この時までは何ともなかったのだ。
だが、彼らは知らなかった。
これはただの準備で本当の攻撃はまだだったという事を。
「そうか」
頷いて安心したカイルに、同じ研究員から報告が入った。
先程とは違い、焦っている声で。
「…………!?所長!」
「どうした?」
「ただのハッキングではありません!不味い!防御が突破される!」
「どういう事だ!?さっきのは大丈夫なんじゃないのか!?」
「それがどうやら準備攻撃だったらしく、今のが本当の攻撃です!」
「クソッ!今すぐに防御を固めろ!」
指示を出すが既に手遅れとなっていた。
「ダメです!既に第三防壁まで突破されました!」
異変に気が付いた他の研究員も加勢するが意味が無かった。
「第四防壁を突破されました!防御が間に合いません!」
「第五防壁突破!丸裸です!」
「今すぐに福音を停止しろ!」
「無理です!コアまで侵入されました!」
「緊急停止ボタンを押せ!」
「はい!」
その指示に従って研究員の一人が緊急停止ボタンを押す。
しかし、意味が無かった。
「クソッ!緊急停止しません!」
そう言った瞬間に駆動音を出していた福音が静かになる。
誰もが停止したと思った。だがそれは違った。
ア”ア”ア”ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!!!!
突如として福音が咆哮を上げた。
「福音が暴走を始めました!こちらのコントロールを完全に受け付けません!逃げようとしている!?」
「ナターシャとの連絡はどうなっている!?」
「応答なし!」
完全な暴走状態に陥った。
カイルは即座に判断を下す。
「駐留しているIS部隊に緊急連絡!福音を外に絶対出すな!大統領にも至急連絡をしろ!」
「既に連絡済みです!部隊は後三十秒で到着!」
誰もがそれで止められると思った。
だがその希望は打ち砕かれることになる。
「ダメです!拘束が持たない!」
「ッ!総員退避!急げ!研究所内全てに知らせるんだ!」
「はい!」
「緊急事態発生!緊急事態発生!重大な事故が発生!研究所内に居る者は至急避難せよ!繰り返す!
重大な事故が発生!研究所内に居る者は至急避難せよ!」
「我々も避難するぞ!」
ドォォォォン!!!!
避難しようとした瞬間に拘束具が壊れ、暴走した福音が解き放たれた。
その数秒後、IS部隊が到着するも既に福音の姿は無く、追いかけたが簡単に振り切られてしまった。
今回の事故で現場に居合わせた二十人の内、四名が落下物に巻き込まれ死亡。
所長のカイルも巻き込まれたが何とか一命を取り留めた。
場面は変わってホワイトハウス。
「暴走したISはどうなった?」
大統領が聞く。
それに国防長官が答える。
「現在、太平洋を西進中。予測目的地点が判明しました」
「どこだ?」
「IS学園の臨海学校の開催地です」
その報告に大統領は青ざめる。
「本気で言っているのか?」
「はい。どうされますか?」
「ハワイの部隊は迎撃可能か?」
「出来ます」
「なら、投入できる戦力を全て投入しろ!何としても止めるんだ!分かったな!?
「了解しました」
指示を出した後に近くにいた研究員に聞く。
「迎撃できると思うか?嘘は言わなくていい。本当の事だけを言ってくれ」
「正直、不可能です」
研究員はそう断言する。
「何故だ?」
「理由としてはあれが軍用のISだからです。しかも高機動広域殲滅型。戦闘機もISも攻撃を与える前に落とされます」
そう言われ大統領は顔を覆った。
そして指示を出す。
「……日本政府とIS学園にこのことを連絡しろ。もし我々がダメだった時は向こうを頼るしかない」
「ですがそれでは軍事機密を晒すことになります!」
「構わん……」
「……分かりました」
再び場面は変わりハワイのアメリカ軍基地。
「いいか、よく聞け。先程大統領から連絡が入った。
研究所で研究中のISが暴走したとの事だ。
以降、これを福音と呼称する。
そこで我々空軍第十五航空団と海軍に迎撃命令が下った。投入できる戦力は全てとの事だ。今回は時間が無い。全員が迎撃ポイントに向かう途中で説明する。総員出撃!」
その言葉を聞いて全員が愛機に飛び乗っていく。
無論、整備中の機体は無理だがそれ以外の機はどんどん空へ舞い上がっていく。
「空中集合完了」
隊長が司令部に通信を送る。
「了解。これより作戦を説明する。
作戦参加機は全て同時に攻撃を開始。一気に片を付ける」
隊長は次の指示を待つが何もない。
思わず、
「……それだけか?」
聞いてしまった。
それに対しての返答は、
「これだけだ。時間が無さ過ぎてな」
隊長はこの時既に負ける気しかしなかった。
まともな作戦もなく、ただ全力で攻撃せよなぞ意味が分からない。
「……了解した」
そう言うしかなく、通信を切った。
「全員聞いたな?あと二分で会敵予想時刻だ。気を引き締めろよ」
「「「「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」」」」
二分後。
「……見えました!!福音です!!」
部下の一人が声を上げる。
それを聞いた隊長は命令を下した。
「全機攻撃開始!全機攻撃開始!」
その言葉を聞いた瞬間に全員がミサイルをロックオン。
そして放つ。
これだけの数のミサイルを避けられるはずがない。
誰もがそう思った。
そして勝利を確信した。
だが、それは間違いだった。
「!?」
「なんだあれ……」
ミサイルが接近した瞬間に光の玉が福音から解き放たれた。
そしてその光球がミサイルを全て撃ち落としたのだ。
それを見た面々は即座に次の攻撃を開始。
だがそれも全て落とされる。
ミサイルを撃ち尽くした後はもう何もできなかった。
追ってくる福音から逃げようとするが機動性で圧倒的に負けているのだ。
直ぐに回り込まれ、翼を捥がれる。
そうして瞬く間に全体の九割が撃墜された。
残された者たちは逃げることしか出来なかった。
命からがら基地に帰った。
IS部隊も戦うが全く歯が立たない。
数で優っているにも拘らず、一機、また一機と落とされていった。
「大統領、作戦が失敗しました……」
「……そうか」
報告を受けた大統領はそう言うしかなかった。
出てきた専門用語の説明
国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Project Agency)
通称 DARPA(ダーパ)
軍で使用する新技術の開発及び研究を行うアメリカ国防総省の機関。
有名な開発はインターネットの原型であるARPANETの開発、
全地球測位システムのGPSが有名。
エリートぞろい。
第十五航空団
ハワイにあるアメリカ空軍の部隊。
F-22とかを装備している。
これぐらいですかね。
感想、評価等くださいな。