side 箒 は纏めてやるんで今はまだお待ちを……
俺は箒の元に走っている。
あの舞を見た興奮はいつまでたっても収まらない。
あれだけのものを見せられて何も思わない訳が無い。
「箒!!」
「輝義?どうしたんだそんなに急いで」
「凄かったぞ!!物凄い感動した!!」
そう言って箒の事を抱き上げる。
「わぁぁぁ!!??分かったから!分かったから一回降ろしてくれ!!」
そう言って顔を真っ赤にしながら叫んでいる。
言われてから冷静を取り戻した俺は途端に恥ずかしくなった。
「………………すまない」
「あぁ、いや、別に責めている訳じゃないんだ。褒められたのは嬉しいし、舞を見て喜んでくれた事も嬉しい。ただいきなり抱き上げるのはよしてくれ……」
「……すまない」
「全く……それじゃ着替えるから少し外で待っていてくれないか?」
「……分かった」
今は大体七時半頃。
花火が確か九時だったか?これなら十分に屋台を回る時間はある。
風呂入ったりするだろうから三十分は掛かるだろうか?
などと思っていたのだが、二十分程で浴衣の着替えた箒が現れた。
浴衣の色は白地に朝顔の模様があしらってある物だった。
「……もう準備はいいのか?」
「あぁ。早く輝義と祭りを回りたいからな」
「……そうか」
なんかものすっごいドキドキするでやんす。
センセイ、ボクハビョウキデショウカ?
まぁこれだけの美人さんと並んで歩いてんだ。緊張しない方がおかしいと思う。
あ。言い忘れてたことがあった。
「……箒」
「ん?どうした?」
「……浴衣、とても似合っているぞ」
そう言うと一瞬きょとんとしたがすぐに嬉しそうに笑いながら、
「ありがとう」
そう言った。
何というか、浴衣姿の箒を見るのは初めてだから物凄く新鮮に感じる。
それに元々が和風美人なもんだから浴衣を着ると更に魅力的に感じるのは気のせいではないだろう。
そんなことを考えていると箒は先に行ってしまった。
「輝義、立ち止まってどうした?調子でも悪いのか?」
「……いや、違うんだ」
「ならどうした?」
「……箒が綺麗で見惚れていた」
「っ!……またすぐそういう事を言う……うぅ、褒められるのは嬉しいが直接過ぎて恥ずかしくなるではないか……」
褒めたら顔を手で覆って俯いてしまった。
何か言っているが籠ってよく聞こえない。耳まで真っ赤なのはよく分かるのだが。
「ほ、ほら!早く祭りを回ろう!」
「……あぁ」
そう言って手を引かれ屋台を回ることになった。
そうそう。箒と一緒に歩いているとよく話しかけられる。
神楽舞であれだけ注目を集めたのだから仕方ないっちゃ仕方ないけど。
射的では、
「輝義、射的は出来るか?」
「……どうだろう」
「なら私と勝負しないか?」
「……いいだろう。その勝負、受けて立つ」
「なら何か賭けないか?」
「……何を賭ける?」
少し考えてから箒は言った。
「何か一つ言う事を聞く、と言うのは?」
「……いいだろう」
そうして射的勝負が始まった。
「よし、当たり!」
「……ぬぅ」
「また当たった!」
「……何故だ」
「三連続だぞ!」
「……当たらない」
「全部当たった!」
「……全部外れた」
俺って射撃のセンスが無い……?
いやでもISの訓練だとしっかり当たっているし……
そう思いながら横を見ると箒が喜んでいる。
……まぁ箒が楽しそうならいいか。
金魚すくい
「あれ?」
「……とれた」
「紙が破けた……」
「……三匹目」
「何故だ……?一匹もとれないではないか……」
「……とりすぎた」
十三匹もとってしまった。
流石にこれ以上とっても何処で飼えばいいのか分からないのでやめた。
他にも綿あめにたこ焼き、焼きそばと色々なものを買って食べてやって楽しんだ。
しかし、かき氷を食いすぎたか?
トイレに行きたくなってきた。因みに小の方です。
「……箒、少しここで待っていてもらえないか?」
「いいが……どうかしたのか?」
「……トイレに行きたくなってきた」
「あぁ、かき氷をたくさん食べていたからな。いいぞ。行ってこい」
「……すまない。すぐに戻る」
そう言ってトイレに向かうが何処なのか分からない。
看板に地図が書いてあったのでそれの通りに行くとやっと着いた。しかし物凄く混んでいる。
祭りだからしょうがないか……
やっとの思いでトイレを済ませると急いで箒の所へ戻る。
すると何人かの男に囲まれているではないか。
ナンパと言うやうですかね?
まじかぁ……こんなテンプレ展開あり得るのか。
まぁ箒は美人だしさっきの舞で思いっきり注目集めたからしょうがないんだけども。
本人はめっちゃ嫌そうな顔してるのにそれでも誘うって度強あるなぁ……
俺だったら速攻で心折れるわ。
それじゃ迎えに行きますかね。
俺は白馬の王子様ってか。いや、どっちかって言うと悪魔とか大魔王か。
……自分で言っておいて悲しくなって来たぜ。
「……すみません」
断りながら後ろに立つとメンチを切りながら、ガンを飛ばしながら振り向く……
「あん……?うおっ!?」
「誰だ……ひぃ!?」
「なんだよ……うわぁ!?」
何故皆さんそんなにビビるんですかね……しかも悲鳴つき……
まぁ後ろに二メートル近い身長に肩幅がどう考えても広すぎる、おまけに顔面に傷がある俺が立っていたらそりゃビビるわ。俺でもビビる。
「……俺の連れに何か用でしょうか?」
俺が少しばかり威圧しながら言うとすごすごと退散していった。
小声で関わっちゃダメ系な人だとか言いながら。
流石の俺でも傷付くぞ……
いや、しょっちゅうだわ。
「……大丈夫か」
「まぁ、何もされていないから大丈夫だ。でも、助けに来るのが少し遅いのではないか?」
少し不機嫌そうに言う。
だってトイレ混んでたんだもん……
まぁここで反論しても意味はない。素直に謝っておくのが吉である。
「……すまない」
「まぁ、どうせトイレが混んでいたんだろう?」
謝ると悪戯が成功したという顔で笑う。
「……分かっていたのか」
「それはそうだろう。ここは私の実家だぞ?」
「……それもそうか」
そして俺は腕時計をみる。
確か九時からだったな。
……あれ?もう八時五十分じゃないすか。
「……箒」
「ん?」
「……あと十分で花火が打ち上がり始めるぞ」
教えると箒は慌てた様子で言った。
「なに!?もうそんな時間なのか!?」
「……あぁ」
「楽しくてすっかり時間の事を忘れていた……!」
「……どうした?」
頭を抱えて何か言っている。
大丈夫か……?
「輝義!」
「……なんだ」
「ついてきてくれ!」
そう言うと再び俺の手を握って走り出す。
「……何処に行くんだ?」
「いいからついてきてくれ!」
言われるがままについていくと、開けた場所に出てきた。
「……ここは?」
「ここは神社の敷地の中で花火が一番よく見える場所なんだ。他の場所よりも高い所にあるから良く見えるんだ」
「……そうなのか」
しかし座って見られるような場所ではないらしく、ベンチなんかは置いていなかった。
しかし箒はそれを分かっていたようで小さめのレジャーシートを取り出すと地面に敷いた。
「ほら、輝義」
そうは言うがレジャーシートは小さく、普通の人が座るのなら問題のない大きさなのだが俺が座ると完全に箒が座れなくなってしまう。
「……箒が座れなくなってしまうぞ」
「それなら大丈夫だ。考えがある」
自信たっぷりにそう答える箒。
「……そうなのか」
「あぁ。だから早く座ってくれ」
そう言われては納得するしかない。
しかし何故だろうか?こう、何かが起きる予感がする。
悪い予感ではなさそうだから大丈夫だとは思うが……
促されて座る。座る時は何時もどうしてだか胡坐になってしまうのだ。
偶にだが長時間胡坐をかいていると足が痺れてしまう事がある。あれは本当に辛い。
しかし今問題なのはそれではない。
問題は箒が俺の胡坐の上と言うかなんというか、すっぽり収まって座ってきていることが問題なのだ。
え?そんなにこれ流行ってるの?
「……なぜそこに座る?」
「二人が座れるようにするにはこうするしかないだろう?」
さも当然の様に言ってくる。
いやいやいやいや。箒さんが何を仰っているのか私には理解できないのですが。
「……なら俺が立って見ればいいだろう」
「それではダメだ。私が招いたのに立たせるなど。それとも……」
あ、これ地雷を踏んだ気がする。
「本音は良くて私はだめなのか?」
あれぇ!?なんでその事を知っているんですか!?
「……いや、その、えっと……」
もう返答がしどろもどろになっているがそんなのは問題じゃない。
あの時に何があったのかを知られているのが問題なのだ。
あんなマイクロビキニを着た本音と……なんて知られたらどうなるか分かったもんじゃない。
「なんで知っているか教えてやろうか?」
あ、これもう全部知っているやつだ。
「……結構です。お好きにどうぞ」
「ん。それじゃ私は此処に座るからな」
「……はい」
俺はもう箒に逆らえない運命なのか……
そんなことを考えていると、箒が袖を引っ張って来る。
「……どうした」
「その……軽くでいいから抱きしめてほしい……」
かはぁ!!??
なんでさっきまでちょっと意地悪い顔してたのに急にそんなしおらしくなっちゃうの?
ギャップが凄まじすぎて脳みそがショートしちまうとこだったぜ……
「ダメだろうか……?」
そんな上目使いで俺を見るなぁ!!
上目使いには勝てなかったよ……
膝の上でご満悦な箒さんの顔を見てしまえばそんなことはどうでもよくなっちゃったけど。俺って激甘だよな……
「ふふ……なんかいいなこういうの……」
「……そうか」
「あぁ」
特に何もなくとも嬉しそうに、楽しそうに笑っている。
「……でもいいのか?俺の上で」
「これがいいんだ。これでいいんだ」
本当にこの座り方でいいのか聞いてみればこれがいいと言うし。
まぁ例に漏れず柔らかい感触やら良い匂いで脳内がハチャメチャなんだけども!?
しかもまだ花火が始まっていないっていう……
早く始まってくれぇぇぇ!!
なんとかして意識をそらさないと反応しちまうよ!!
ほわぁぁぁぁぁ!!!???
ムニュって!?ムニュって言ったぁぁぁぁぁ!!!???
箒さん!お尻が!お尻が当たっておりまするぅぅぅぅ!!??
どこが、なんて言えないけど!!
そんな俺の気持ちなんて箒が知るはずもなく。
「ほら、もう始まるぞ?」
「……そうか」
その言葉通り、花火が打ち上がる音がする。
その次の瞬間、大きな破裂音の後に綺麗な火の花が咲いた。
「おぉ……!!」
「な?凄いだろう?」
「……あぁ。これは凄いな……」
「私は此処から見る花火が大好きなんだ」
そう言うと俺の方に体重を預けてもたれかかって来た。
この場所から見る花火はどんな場所で見る花火よりも綺麗で大きく感じた。
最後に一番大きな花火が開いて消えていった。
「……凄かったな」
「だろう?ここからの眺めが一番いいんだ。昼に来てもいい景色が見られるぞ」
終わってしまった。
こういうのって終わってしまうと何処か寂しく感じるもんなんだよな。
「……帰るか」
「もう少しこのままで居させてくれ」
「……なんでだ」
「なんでだろうな……こう、輝義の傍にいると落ち着くんだ」
「……そうか」
ニコニコと嬉しそうに俺を見上げて言う。
こうなってはもう説得するのは無理そうだな。
満足するまでこのままでいよう。
「輝義は…その…重くないのか?」
「……何がだ?」
「うっ……その、私が座っていて重くないのか?迷惑じゃないのか?」
何を今更。
全然重くなんてないし全然軽い。
それに迷惑だったらこんな事はしないさ
「……重くも無いし迷惑でも無い。好きなだけそこに座っていてくれて構わない」
「そ、そうか……なら私が満足するまで頼んでもいいか?」
「……どんとこい」
空を見上げながら俺達はその場所で話を気が済むまでしていた。