GRIDMANORB   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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〝あの人〟はもうみんな知ってると思うのでバラしてます(無慈悲


覚醒 〜スペシウムゼペリオン〜 2

翌日

昨日のことなど何もなかったかのような朝日が部屋の中に入ってくる

紅衣甲斐はベッドでもぞもぞと動きながらゆっくりと布団を動かして上半身を起こした

寝ぼけ眼を擦りながら徐に甲斐はカーテンを開いて、改めて太陽の光を部屋に取り入れる

そしてあるものを確認した

 

「…もしかしたら朝起きたらなくなってっかなーって思ったけど、そんなことなかったか」

 

視線の先にいるのは昨日見た馬鹿でかい怪獣

動くでも、何かを破壊するでもなく、ソイツはただそこに立ったままで微動だにしない

何のためにそこにいるのかわからないし、そもそもアイツを視認できているのは今のところ自分と裕太の二人のみ

恐らく自分ら以外の人らには一切見えていないのだろう

 

「…ま、何か起こるというわけでもなし。朝飯食うか」

 

考えたところで何もわからないし、これ以上の思考は時間の無駄と判断した甲斐は寝間着から着替えると朝ごはんを用意しに下へと降りていく

とはいえ自分に料理スキルなどというものはなし、炊いてあった炊飯器から適当に米をお椀によそって冷蔵庫から納豆を一パック取り出すと慣れた手つきで納豆をかき混ぜて白米の上にそれをかけてご飯を書き込んだ

 

食事を終えて朝のラムネを一本冷蔵庫から取り出して、これまた慣れた手つきでビー玉を落とすとごくごくと飲み始める

この炭酸の刺激がいい感じに目覚ましになるのだ

 

「…さって、そろそろ行くとするか」

 

内海は裕太の所に行ってくれてるだろうか

まぁそんなことを今考えていても仕方がないので、いそいそと一旦部屋へ戻って自分が学校へと登校する準備をしていく

そこでふと、昨日机の上に置いたままのオーブリングが目に入った

本来なら持っていくべきではない、流石に学校にこんな玩具を持っていっては怒られてしまうだろう

だけどその時はなぜか、これを持っていく〝べき〟だと、頭の中の本能が囁いた

ほとんど無意識に近い感覚で甲斐はオーブリングを手に取るとそれをカバンの中に突っ込んで、最後に身支度を整えて家を出た

 

 

学校への道を真っ直ぐと歩いていく

時間としては少し早い、が早く学校につくのにデメリットなどない

始業の時間までのんびり読書か、ソーシャルゲームでもやって時間でも潰せばいいだろう

 

「甲斐さーん」

 

のんびり空を見上げながら歩いていると後ろの方から自分の名前を呼ぶ声が聞こえる

そちらの方へ振り向くと黒髪のツインテールが特徴的な女の子と、金髪でショートカットの女の子がこちらに向かって走ってきていた

二人は甲斐の近くまで走り寄ると足を止めながら息を整えるように軽く膝に手をついた

 

「おはようなのデース!」

「おはようございます、今日は珍しく早いんですね」

「開口一番失礼だな」

 

金髪ショートの子が暁切歌、そして黒髪ツインテールが月読調という名前である

彼女たちとはこの学校で入学してからの仲であり、別段親しい、というわけでもない

そして仲が悪い、というわけでもなく、そこそこ親しい女友達、っていうのが今の印象か

 

「いえいえ、甲斐さんがこの時間に学校への道を歩いてるのってなかなかレアデスよ?」

「マジで? そんなに俺遅いの?」

「遅いといっても、せいぜい五分くらいですけど。響さんよりはマシ」

「あー…アイツ人助けが趣味とか豪語してっからなー」

 

それゆえに彼女は定期的に遅刻する

まぁいつものこと、となってしまっているのでそれを気にしている様子はないし、甲斐も慣れてしまっていた

 

「…なぁ、切歌、調。…お前らって、あれ見えるか?」

 

徐に甲斐は件の怪獣がいる方向を指差す

今指さしている方向に、怪獣が甲斐の目には写っているのだが

 

「…? なんか珍しい雲でもあったんデス?」

「それっぽいのは見えないけど。何かあるの?」

「いや、あー…なんでもない」

 

デスヨネ

 

 

学校に到着すると切歌と調はは違うクラスなので下駄箱のところで一度別れる

そのまま真っ直ぐ自分のクラスに向かっていくと、道中の自販機で雑談でもしてたのか、立花と彼女の友人、なみことはっすとエンカウントした

三人はこちらに気づくと手を振りながら口々に挨拶してくる

 

「おはよ、紅衣くん」

「おはようさん、立花さんトリオ」

「ちょ、その売れないお笑い芸人みたいな名前やめてよね」

 

よく一緒にいるのを見かけているからうっかりそんなことを呟いてしまった

むすっとしている立花に軽く謝りを入れつつ、ついでに喉も乾いていたのでポケットから財布を取り出すと中を開いて小銭を投下する

 

「っていうか、三人揃って何してんの。もうすぐホームルームじゃん?」

「んー? アタシらは、ちょろっと立花に聞きたいことがあってねぇ? ねぇはっす」

「うんうん。こんなセキララなことは、ちょっと教室じゃ話しにくいからねぇ」

 

マスクをしているはっすが小さく笑んでいるような気がする

九段のセキララなこと、とは昨日裕太と一緒にいたことだろうか

 

「ってか、紅衣くんだって一緒にいたじゃん? よろしかったら詳しい話を聞きたいなっ」

「ちょ、いつ見てたんだよ。…油断できねぇな」

 

言われて思い出したがそういえば自分もそこにいたんだった

なんて言い訳をして乗り切ろうか、と考えているうちに、キーンコーンとチャイムが鳴る

これ幸いとばかりに甲斐は飲み物を自販機の受け取り口から取り出しつつ

 

「そ、そら! もうホームルーム始まんぞ」

「うわ、あからさまにそらした!」

「逆に気になる!」

「ほら、なみことはっすも行くよ」

 

一つ先を歩く甲斐を追っかけるように三人も歩き始める

終始、なみことはっすはジト目で甲斐を見ながらぶーぶー言っていたが

 

 

「あ、おはよー甲斐くんっ」

 

席につくとこの時間では珍しい人物を見た

名前を立花響、人助けが趣味と豪語する友達である

 

「…この時間からいるなんて珍しいな。明日は槍でも振りそうか?」

「ひど!? 甲斐くん私のこと普段どんな目で見てるの!?」

 

朝だというのに元気に表情が変わっていく我が友人

なんてことない、いつもどおりの日常でも、コロコロと表情が変わるその元気な姿は見ていて飽きない

 

「今日は何にもなかったから、そのまま私と登校したの。たまには、早い時間から学校いるのもいいでしょ?」

 

そう言いながら、響のとなりの席にいる小日向未来がこっちに振り向いてそう言ってくる

まぁ正直そんなことだろうと思っていた

この二人は家が隣同士なので家族ぐるみの付き合いをしている

時たま夜ふかしして朝起きれない響を起こす役割も担ってもいるのだ

 

「そうだな。朝早くいる響もちょっと新鮮…新鮮なのかこれ?」

「まぁ学校っていうのはホームルーム前にはいるものだからね」

「二人共朝からひどい!?」

 

こんなやり取りもいつものことだ

これからもこんな日常が、続いていくと、そう思っていた

 

 

午前の授業が終わり、昼食の時間がやってくる

ぎぎぎ、と徐に響は机を甲斐の机に隣接させると、机の上にお弁当を置いて

 

「あ、そういえば忘れてないよね、私と未来の三人で流れ星を見るっていう話」

「大丈夫大丈夫、昨日未来にも催促されたから。忘れてねぇよ」

「よかったぁ。私も未来も楽しみにしてるんだから、遅れないでよ?」

 

そう言って弁当箱の蓋を開けると箸を使って美味しそうに食べ始める響

相変わらず見てるこっちも笑顔になる食べっぷりだ

ちなみに未来は今ここにおらず、購買にパンを買いに行っている

なんでも今日はうっかり弁当を忘れてきてしまったらしい

なんの気無しに裕太の方をちらりと見やる

彼は隣の新条アカネと話しているみたいで、彼も弁当を忘れたのか彼女からスペシャルドッグを貰っていた

…あれは美味しいのだがカロリーが二千四百カロリーもするという女性にはかなり重めのパンである

 

「あぁ! ヤバイ!!」

 

不意に誰かのそんな声を聞いた

瞬間、どこからか降ってきたバレーボールがアカネの持っていたスペシャルドッグにクリーンヒット

バン! と結構いい音がしてしまっていたので、いい具合に潰れてしまったのだろう

 

「ごっ、ごめん! マジでごめんなさいっ!!」

「…問川ぁ、教室内でボール使うなっていつも言われてんだろ?」

「本当にごめんなさい!!」

 

甲斐がパンを貪りつつ、問川にそう注意する

元凶はバレーボールで遊んでいた問川さきるで、遊んでた時に力でも込めすぎたのか、バウンドしたボールがうまい具合に飛んでったのだろう

 

『問川そとでやれしー』

 

アカネと彼女の友達の女の子が口を揃えてそういった

 

「マジ反省してます! しました!」

「本当か?」

「マジだよ! ほら甲斐くん、私の目を見て!」

「ところで裕太、パンは大丈夫か?」

「スルー!?」

 

ギャーギャー喚く問川を軽くなだめつつ、甲斐は裕太のところへ歩いてく

 

「だ、大丈夫だよ。潰れただけだから、全然食えるし!」

 

そう言いながらスペシャルドッグを拾い上げ、包んでいたラップを手で破るとそのパンにかぶりついた

外見は確かにゆで卵が少し割れてしまっているが、あんまり中身には問題なさそうだ

これなら大丈夫そう、と判断し、ついでに近くの席によっかかってる内海にも声をかけておく

 

「あ、そうそう。昨日無茶聞いてくれてサンキューな」

「いいってことよ。その代わり、ウルトラシリーズのDVD一本、レンタル代奢れよ?」

「そういうことならお安い御用よ」

 

短く答えて甲斐は自分の席に戻っていく

戻るといつの間にか戻ってきていた未来が響と一緒に談笑していた

なぜか、未来は自分の席に座っていたが

 

「あ、おかえり。また問川さん?」

「察しいいな。まぁそうだよ。あとそこ俺の席な」

 

甲斐がそう注意するとぶー、などと言いながら椅子から立ち上がり、自分の席に戻っていった

すっかり二人はお昼を食べてしまったらしく、響に至っては眠そうである

甲斐は机の上に放置してあった食べかけのアンパンを改めて手に持つと、口を開けてそれを頬張り、缶ラムネでそれを流し込む

 

もう少しで今日の学校も終わりだし、頑張っていこうか

 

◇◇◇

 

時刻はすっかり夕方となってしまっていた

響と未来は今日はちょっと用事があるってことで、学校で一度別れている

部活になど入っていない甲斐はもれなく暇になり、いつものようにジャンクショップ巡りでもしようかなと考えていた

裕太のことも心配ではあるが、彼の隣には内海がいるし、まぁたぶん大丈夫だろうと結論づける

 

そんな訳で下駄箱へまっすぐ行くと、そこで調と切歌の二人と遭遇した

 

「あれ、今日は響さんいないの?」

「んあ? あぁ、用事があるみたいだからさ」

「そ、そうなのデスか」

 

甲斐の言葉を聞くと、切歌と調は少しだけ離れると、急に甲斐に背中を向けてヒソヒソ話を始めた

 

「―――調、これは好機デス。いつも甲斐さんの隣にいる強力なライバルたちが居ない今、一気に距離を縮めるチャンスなのデス!」

「―――うん、行こう切ちゃん、これはきっと運命が私たちに味方してくれてるんだよ」

 

何の話をしているのかさっぱりわからない

やがてヒソヒソ話は終わって、調と切歌は少し勢いよくこちらの方を振り向いた

 

「あー、えっと、デスね?」

「よ、よかったら、私たちと、一緒に帰りませんか?」

 

どことなく震えていた声色

本人たちはかなり勇気を出して己の言葉を吐き出したのではあるが、そんなの全く気づいていない甲斐は疑問符を頭に浮かべながらも

 

「あ? あぁ…いい、よ?」

 

甲斐としてはただの友人の提案に普通に乗っただけだろう

だけど二人からしたら、その承諾は何よりも嬉しいものだった

 

 

ガリガリ、とナイフが何かを削る音が部屋に響く

薄暗い部屋の中の唯一の光は、今のところはデスクに置いてあるパソコンのみ

パソコンの画面の中には、サングラスを思わせるような目と、歯のような電飾のモニターが覗かせる

 

<また怪獣かい? ―――アカネくん>

 

ガリガリガリ、とナイフを動かす手を止めず呼ばれた当人―――新条アカネはちらりとそちらに視線を覗かせて言葉を紡いだ

 

「うん。ウチのクラスの問川、殺そうかなって思ってさ」

<ほぉ? 何か嫌なことでもあったのかい?>

「いくら注意しても教室でボール遊びやめないからさ。今日、私が持ってきたスペシャルドッグがついに被害にあった」

<なるほど。それは頂けないねぇ>

 

パソコンの生き物はアカネの言葉に賛同し、歯の電飾モニターを光らせる

その間もアカネは慣れた手つきで針金で作った骨組みに怪獣の肉を与えていく

 

「甲斐くんが注意してたにも関わらず、さ。謝りはしてたけど、本心かどうかも怪しいし。もう消えた方がいいかなって」

<確かにねぇ。人というのは同じ過ちを繰り返すもの。その謝罪はその場限りとも言えるかも知れないし、二度繰り返す前に消えた方がいいかもしれないねぇ>

「アレクシスもそう思う? 消えた方がいいって>

<私はいつでもアカネくんの味方だよ。―――フフフ>

 

 

ツツジ台高校からの帰り道

いつもは朝の登校中くらいしか甲斐は切歌と調と行動しない

たまにお昼も一緒に食べるけど、それは響と未来とも一緒にだ

あんまり絡みは少ないが、この二人は響と未来ともそれなりに仲がいい

時折たまに火花みたいのが走ってたりするときもあったが―――まぁ、女で育む友情というやつもあるのだろうと甲斐は特に気にしていない

 

「あ、甲斐さんまたラムネ飲んでるデス」

 

そう思考している内に、自販機で買った缶ラムネに切歌が気づいた

学校から離れる時についでに自販機から購入したものだ

 

「甲斐さんって本当にラムネ好きだね」

「あぁ。ってか、一日に一本は飲まないとやってらんないぜ」

「それ最早中毒デス。アルコール中毒ならぬ、ラムネ中毒?」

 

自覚はしている

毎日そんなん飲んでるせいで、体調面も不安にはなるので、夜はいつも銭湯へと行く道すがら、ジョギングをしているのだ

流石に行きだけで、帰りはジョギングしていないけども

 

「甲斐さんの普段の食生活が心配。…普段何食べてるの? 全部レトルト食品とかじゃないよね?」

「…いや? そんなことはナイヨ?」

「あからさまデース。これは全部レトルト、あるいは冷凍食品デスね」

 

なぜバレた

だって最近のコンビニの冷凍食品の手軽さと美味しさには勝てないと甲斐は確信している

まぁ料理全然できないってのもあるのかもしれないけど

 

「…甲斐さん、よかったら、ご飯作ろっか?」

「え? いいのか」

 

調の言葉に甲斐が聞き返す

甲斐の言葉に調は僅かに頬を赤くしながらこくりと頷く

そんな調の周りを歩きながら切歌が

 

「調のご飯はとっても絶品なのデース! 一度喰らえば、まさしく虜になるデスよ?」

「そこまで言うのか。…ちょっと興味湧いてきたな」

 

甲斐がそんな言葉を発すると、一瞬調のツインテールがぴょこんと動く

 

「それじゃあ、今度時間を合わせて甲斐さんの家に言ってもいいデスか? 調と一緒に!」

「お前も来るのか?」

「当たり前デース! 私と調は一心同体…まぁ料理の腕は調には劣るデスが…私だってそこそこ出来るのデス!」

「ほっほぉ? いいぜ、そんなに言うなら、今度ご馳走になろっかな?」

「! 言質とったデスよ! 調!」

「うん。それじゃあ、今度材料持って甲斐さんの家に行く…だから、場所教えてもらえると嬉しい、な?」

「あ、そういえば二人俺の家しらないっけ。オッケー、とりあえず二人に携帯で住所でも―――」

 

 

ごとり、と完成した怪獣がアレクシスの前に置かれた

ずんぐりとした胴体から少し間延びした首が特徴的な怪獣だ

 

<いいねぇ…情動的なフォルムだ…。名前は?>

「うんと…ねぇ、グールギラス、なんてどうかな?」

<素晴らしい、いい名前だ。では動かそう―――インスタンス! アブリアクションッ!!>

 

アレクシスがそう叫ぶと、画面が一瞬光輝き―――そして―――

 

 

「!!」

 

ドクン! と甲斐は体の奥で何かが弾けるような感覚を感じた

なんだ、これは? と考える前にカバンの中に入れていたオーブリングが急激な光が放っている

急いで甲斐はカバンからオーブリングを取り出して見ると、輪の所がかなり眩しく―――例えるなら電池を買い換えて最大出力の懐中電灯のような光を放っている

 

「? 甲斐さん?」

「どうしたんデスか? 急に立ち止まって」

「い、いや…なんか、よくわかんないけど―――」

 

そう答えあぐねているとき、大地が揺れた

外にいるというのに、グラグラと地面が揺れて視界が僅かにぶれる

木々はガサガサと揺れ落ち葉を漏らし、古い枝がバキリと折れた

 

「うわわ!? なんデスか!?」

「じ、地震!?」

 

切歌と調は地面に屈んで体制を崩さないようにしている

その近くで甲斐も壁に手をつけながら同じように転ばないようにしているが、その時、耳に劈くような、怪獣の雄叫びのような声が聞こえてきた

 

「―――え?」

「―――な、なんデスかあのトンデモは…!?」

 

切歌と調にも見えたのだろう

街を闊歩している馬鹿でかい、怪獣のような何かが

 

「…夢、じゃないよね…ねぇ、甲斐さん」

「…甲斐さん?」

 

どしん、どしんと地面が揺れる

いつこっちにまで被害が来るかわからない

逃げなくては

逃げなくては、ならないのだけど

 

「…行かないと」

「え?」

「悪い、俺ちょっと行ってくるわ!」

 

そう言い残し甲斐はその怪獣のような奴がいる場所へ向かって甲斐は走り出す

 

「ちょ、甲斐さん!?」

「ど、どこ行くデスかー!?」

 

唐突に走り出した甲斐の背中を、切歌と調は追いかけた

本来なら、ここで彼を無視して身の安全を考えるのが最適解だろう

だけどなんでだろうか

今ここであの人を追いかけないと、どこか遠いところに行ってしまうような

そんな予感がしたのだ

 

◇◇◇

 

その怪獣の近くにたどり着く頃には、すっかり当たりの陽は落ちて夜になってしまっていた

まだ少し距離はあるが、怪獣の全体像を遠目からある程度見渡せるくらいには近くまで接近できている

もしかしたら―――もしかするのだろうか

左手で握っているオーブリングを見つめると、また夜空がぴかりと輝いた

 

緑色の光とともに、そこからもうひとり、巨人が降りてくる

青いラインに銀色のボディ、そう、それはまるで光の巨人のようだ

青い巨人は怪獣に向かって走り出していく

 

「ちょ!? またトンデモが来たデスよ!?」

「なにあれ、ウルトラマン!?」

 

背後から聞こえた調と切歌の声にハッと甲斐は我を取り戻す

思わず振り返って甲斐は叫んだ

 

「馬鹿、なんで追っかけてきた!?」

「甲斐さんほっといて逃げるなんてできないデス! 当たり前じゃないデスか!」

「そうだよ! 甲斐さんこそどうしてこっちに来たの!今ならまだ間に合うかもしれないから、一緒に逃げよう!」

 

そう言って調は思わず甲斐の手を握る

普段なら恥ずかしくてできないだろうが、状況が状況だ

そんなこと言っている場合ではない

だけどいくら引っ張っても彼はどういうわけか動いてくれない

 

「―――」

 

甲斐は何故かあの怪獣と巨人の戦いから目を逸らそうとしないのだ

巨人は長い首を掴んでそこに打撃や蹴りを叩き込んではいるが、大したダメージにはならず、それどころかお返しと言わんばかりに振り抜かれた長い首の一撃が巨人に直撃し、大きく巨人が吹き飛んだ

ガシャァン!! とかなり大きめな音と共に巨人がビルに叩きつけられ、倒壊した破片や割れたガラス片が地面へと飛散する

 

「…、」

 

不意に甲斐は左手に持っていたリングへと再度視線を向けた

未だにその輝きは衰えず、むしろさっきより増しているように見える

 

「甲斐さん、何やってるデスか!」

「早く逃げようよ! いつこっちに来るかわかんないから!」

 

切歌が服を、調が手をそれぞれ引っ張るが、甲斐は全く動こうとしない

それどころか、ゆっくりと切歌と調の手を離すと、ゆっくりと前に歩き出す

 

「…甲斐さん?」

「どうしたんデス…か?」

 

不安そうな声を出す二人の声を背後に、ゆっくりとオーブリングを見やる

相変わらず発光し続けており、その勢いはとどまるところを知らない

もしかしたら、もしかするのかもしれない

―――覚悟を決めろ、もしこのオーブリングが、本物なのだとしたら

 

「切歌、調。…隠れててくれ」

「え?」

「が、甲斐さん!? 何言ってるデスか!?」

 

二人の声を尻目に甲斐は少し前に出て、持っていたオーブリングを顔の前に持って行き、体を捻りながらそのリングを突き出した

直後、リングを中心にその光が増し、甲斐の身体を包み込んでいった

 

 

気づいた時には、甲斐はよくわからない異空間にいた

そして同時に持っていたカードケースを開くと、二枚のカードが光り輝いている

甲斐はその二枚のカードを取り出すと、ケースをしまう

 

「―――ウルトラマンさん!」

 

<ウルトラマン!>

 

まず一枚目のカードをリードする

するとカードが光の粒子となって自身の左側にウルトラマンの幻影が現れる

 

「―――ティガさん!」

 

<ウルトラマン ティガ!>

 

続いて二枚目のカードをリード

一枚目と同じようにカードが光の粒子となり、今度は自分の右側にティガの幻影が姿を現した

そして甲斐は叫ぶ

テレビの中のガイが叫んでいたように、二人の光をお借りするために

 

「―――光の力! お借りします!」

 

叫ぶと同時、左手に掴んでいたリングを上へと突き出し、スイッチを押すと翼状の装飾が展開され、甲斐の姿をウルトラマンへと変える

 

<フュージョン アップ! ウルトラマン オーブ! スペシウム ゼペリオン!>

 

 

 

ポワン、という音と共に地上から現れ出でるようにまた新たな巨人がその姿を現した

右手で拳を握り、天に突き出し、同じく左手も拳を作りそちらは肩辺りで止めている

 

「…調ぇ、私は夢でもみてるのデスか?」

「…うんうん、たぶん、夢じゃないよ…?」

 

目の前で紅衣甲斐がウルトラマンへ変身してしまった

思わず調と切歌はお互いの頬を引っ張り合ったが、痛みを感じたことで改めてこれが現実なのだと思い知る

なにが、どうなっているのだろう

 

 

変身したはいいとして、どう動けばいいのだろう

しかし今自分は本当にウルトラマンになっているのが、視線の高さから理解できる

内海辺りオーブの登場に今すごいことになってるのではないだろうか

とか、そんなことを考えている余裕はない、あの青い巨人を助けなければ

 

「シュウワァッ!!」

 

オーブはとりあえずその場から跳躍すると一回転しながら止めを刺さんと歩み寄っていた怪獣―――グールギラスの前に降り立ち、その怪獣に蹴りを叩き込んだ

雄叫びを上げながらグールギラスは後ろに大きく仰け反って、僅かにその行動を止める

その隙を見て、オーブは青い巨人へ駆け寄った

 

「<おい、動けるか!? 動けないなら無理すんな!>」

「<…う、が、甲斐?>」

「<は? 何言って…お前、もしかして裕太!?>」

 

最早意味がわからない

っていうかこの巨人よく見たら立花の家にあったジャンクに映ってたやつじゃんと今更ながら気づく

更に巨人の額―――セブンで言うところのビームランプっぽいのが明滅している

これはもうエネルギーが残り少ないということじゃあないのだろうか

 

「ガァァァァァォォォォォ!!」

 

グールギラスの雄叫びが聞こえる

振り向くとこちらに向かって火球を放ってきた

避けてしまうと裕太の巨人にあたってしまうし、かといって火球を弾いたとしても街に被害が出てしまう

オーブが選択した方法はあえて受けきることにした

 

「ぐ、グアァァァァッ!」

 

激しい痛みが体を襲う

申し訳程度に両腕を使って庇ってはいるが、効果はあまりなさそうだ

しかしこのままやられっぱなしというわけにも行かない

火球の途切れた隙を狙い、ハンドスラッシュをグールギラスに向かって打ち出す

だが牽制程度のこの技では、あまりダメージはなさそうだ

どうする、と思ったとき、背後の青い巨人から言葉が聞こえた

 

「<―――聞こえる>」

「<! 裕太!?>」

「<聞こえるんだ…立花と内海の―――言葉が!>」

 

全身に力は戻ったのか、身体に力を入れるようにゆっくりと巨人が再度立ち上がる

ビームランプは点滅したままだが、その姿には活力が戻っているようにも見え、先ほどまでの弱っていた姿とはまるで違う

 

「光の巨人よ! アイツの弱点は―――首だ!」

「<あいわかった! …え、誰アンタ!?>」

「私はハイパーエージェント、グリッドマン! よろしく頼む、光の巨人よ!」

「<お、おぉ!>」

 

裕太と声がちがくてびっくりしたが、もうそんなんで驚いてたら時間がもったいない

オーブは青い巨人の言葉を受けて両腕を胸の前に持って行き、一気に開いて右手に力を込める

込められた右手にはギザギザのカッターのような輪が形成され、オーブはそれを一度グールギラスの上辺りに投げつける

光輪がグールギラスの放った火球を斬り消しながら上辺りに向かったとき、オーブは借りている力の一つ、ティガのスカイタイプの力を発揮し、一瞬で距離を詰めると光輪を掴み直しその首に向かって振り下ろした

 

「ゥオォォリャァァ!!」

 

振り下ろされたスペリオン光輪は問題なくグールギラスの首を切り裂く

そのまま首はバウンドし、学校の校庭の方へ吹っ飛んでいった

 

(…! 学校が倒壊してる!? あの怪獣の仕業か!)

 

キッとオーブは残ってる胴体部分をその場で蹴っ飛ばした

そしてタイミングを見計らうかのようにオーブの背後から跳躍してきたグリッドマンが同じように伝導キックを打ち込んで大きく更に吹っ飛ばす

 

 

決めるなら、今しかない!

 

 

言葉を交わさずとも、オーブとグリッドマンの考えは同じだった

まずグリッドマンが大きく腕を回しながらそれを自分の前で交差させ、エネルギーをチャージする

 

「―――グリッドォォォォォ…!!」

 

その隣でオーブもまた右手を上に突き上げながら、体中のエネルギーを一点にかき集め、残った左手を胸の前に持っていき勢いよく開く

 

「スペリオン―――!!」

 

 

 

「ビィィィィム!!」「光ォォォ線ッ!!」

 

 

突き出されたグリッドマンの左手の甲から放たれるグリッドビームと、交差されたオーブの手から放たれるスペリオン光線の一斉射は、首のもげたグールギラスに直撃し、グールギラスの身体を爆発させる

オーブとグリッドマンの二人はただ静かにその様子を見ていた

ふと、自分の胸―――カラータイマーを見てみるといつの間にか点滅していた

もう三分経っていたのだろうか、それともガイアみたいに制限時間=自分の体力みたいな感じなのだろうか

 

「光の巨人よ」

「ヘアっ!?」

「ありがとう、貴方の助力がなければ、負けていたかもしれない」

「<あ、いや、いいってことよ。困ったときは助け合いだ>」

 

そうオーブが言うとグリッドマンはゆっくり頷いてそのまま消えてしまった

自分もそろそろ戻るとしよう

…思いっきり戻れって念じればいいだろうか

とりあえず切歌と調が不安だからその辺りを向きながら手を交差させる

すると自分の体が光り輝き、自分が先ほど変身した場所まで戻ってきていた

 

「…戻ってこれた」

 

ふと視線を向けると、そこには固まったままの調と切歌

まぶたをぱちくりと動かしながら、目は甲斐を見つめている

 

「…ただいま?」

 

戻ってきて第一声がそれなことに、切歌と調はちょっとキレた

こっちがどれだけ心配しているかわからんのだろうかこのラムネ野郎は

とりあえずそのお腹に一発、いや、二人合わせて合計二発パンチを叩き込んでおこうと心に決めた切歌と調であった

 

◇◇◇

 

ガツン!! と苛立ちを隠さないようにナイフを机に突き刺した

反動で机の上に乗っていたものが散らばる

 

「…なにあれ!? あんなの聞いてない!」

<どうやら、〝お客様〟が現れたようだねぇ>

「っていうか、ホントなに!? ウルトラマンってテレビの中の存在じゃないの!? あれは、あれは間違いなく…ウルトラマンオーブ…!!」

 

ギリ、と突き刺すナイフに力を込める

イライラは最高潮に達したが、ここで考えても無駄と判断し、アカネは軽く一眠りするためにベッドへその身を投げ出した

 

 

 

 

 

―――運命は、まだ始まったばかりだ




「切歌と!」「調の」

『ウルトラヒーロー! 大紹介ッ!』

「まず一枚目のウルトラヒーローはこの人デース!」

<ウルトラマン!>

「М78星雲から最初に地球にやってきた伝説のウルトラマンだね」
「その両手から繰り出されるスペシウム光線は、どんな怪獣もデストロイ! デース!」

「続いて二枚目のヒーローは、この人」

<ウルトラマン ティガ!>

「超古代の眠りから覚めた、平成最初のウルトラマン、だね」
「三つの姿を使い分け、オールマイティに戦えるウルトラマンデース!」

「次回もまたみてくださいね」
「それじゃあまた! なのデース!」

「ところでこのコーナー何デスか?」
「たぶん、本家のガイさんのオマージュ的な…」

―――――――――――――――

テーンテテテンテンテンテーン!(オーブ次回予告の時のイントロ

怪獣を倒して疲弊してる中、学校どうなってかなって行ってみると、どういうわけか学校が綺麗さっぱり直ってやがった!
そして同時に俺の耳に、残酷な真実が入ってくる
絶望に打ちひしがれる俺をあざ笑うかのように、また新たな怪獣が出てきやがった!
―――セブンさん、エースさん! 俺に勇気を貸してください!

次回、GRIDMANORB 「修復 スラッガーエース」!

切り裂け闇を、光と共に!
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