暗殺教室~君のために義を貫く~   作:緋色の焔

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弾籠め 序章の時間

 ──カンカンカンッ‼

 

 朝から耳を(つんざ)くようなけたたましい金属音が聞こえる。

 その音に驚いた俺、遠山(とおやま)キンジは寝ていたベッドから飛び起きて何事かと辺りを見渡すと、ベッド脇に白地に臙脂色(えんじいろ)カラーのセーラー服に身を包んだ、1人の少女がフライパンとお玉を手に持って立っていた。

 

「おはよう。キーちゃん、目、覚めた?」

 

 朗らかな笑顔を浮かべながら、特徴的なアニメ声でそう言った少女は雪村(ゆきむら)あかり。

 143㎝と小柄な身長と小ぶりな胸が相まって、よく小学生と間違われるがレッキとした中学2年生。

 緩やかにウェーブした烏の濡羽色のような艶のある長い黒髪。けぶるような長さの睫毛にパッチリ二重の瞼から覗く少し明るい栗茶色(マロンブラウン)の瞳、小さくて可愛らしいピンクの唇。見目麗しい顔立ちの美少女だ。

 そんな彼女は俺の幼馴染みである。

 

「……おはよう。で、それは何だ?」

 

 俺はあかりが持つフライパンとお玉に目を向ける。

 

「見て分からない? フライパンとお玉だよ」

「それは分かる。何でそれを持ってるかを聞いてるんだよ……」

「目覚ましの代わりだよ。私もお姉ちゃんにされた事あるから知ってるけど、ウルサイでしょ?」

「ああ、朝から最悪な気分だ」

「にゃはは、ゴメン。それでキーちゃん。朝ご飯出来てるから早く着替えて来てね」

 

 パチッとウィンクしてあかりは部屋──寝室を出ていった。

 それを見送った俺は溜息を吐いてベッドから出ると、壁に埋め込まれたクローゼットから白いワイシャツと制服のズボンを取り出して着替えた後、洗面所で顔を洗い歯磨きをした俺はダイニングへと向かった。

 テーブルについてトーストにイチゴジャムを塗っているあかりを見た俺は、いつも通りあかりと対面へと腰掛け、手を合わせてからバターをトーストに塗り頬張った。

 

「美味しい?」

「パンもバターも市販だろうが、まずいワケがない」

「そうなんだけど、いつもは私が作ってるから癖で」

「……それは感謝してる」

「別に良いよ。いつもの事だもん」

 

 そう言って頬を桜色に染めたあかりは恥ずかしそうにパンを頬張った。

 すると美味しそうに顔をふにゃっとさせた。

 本当に何を食っても美味そうに食べるヤツである。

 そんなあかりの表情を見ながら朝食を食べ終わり、食後のコーヒーを飲んでいると、同じく食後のイチゴ牛乳を飲んでいたあかりが口を開いた。

 

「あ、そろそろ登校時間だ」

 

 その言葉に腕時計へと目を向けて時間を確認していると、壁際に設置していたポールハンガーに掛けていたブレザーをあかりが持ってきた。

 

「はい。キーちゃん。()()()()

 

 それを受け取ってワイシャツの上から羽織っていると、あかりは棚まで歩いていき、そこに置いていた白銀と漆黒の()()を二丁手にすると、その二丁の拳銃の内マットブラックの拳銃──ベレッタ90-Tow──を自身のプリーツスカートの内側に巻かれたレッグホルスターに収めた。

 そのあと、俺の近くで両膝を突いたあかりはマットシルバーの拳銃──ベレッタM92F──を収めたホルスターごとベルトに装備した。

 日本では長らく、警察や自衛隊以外の人間が拳銃を所持する事は違法だったが、近年銃刀法が改正されたため、銃の管理を行う国家公安委員会が発行する、銃器検査登録制度──通称『銃検』に登録して帯銃許可証を取得すれば、日本でも民間人が拳銃を所持する事が許可されている。

 

「それじゃあキーちゃん。学校行こ?」

 

 そう言ったあかりは黒い学生鞄を手に持って、ウェーブした黒い長髪を靡かせながら振り返ると、ニコッ、可愛らしく微笑んだのであった。

 

 

 

 3月中旬でまだ肌寒い気候を感じながら、俺とあかりは寮(男子寮だが、なぜか俺と一緒に女子のあかりも暮らしている)から学校へ向けて通学路をチャリで疾走している。

 ちなみにペダルを踏んでいるのは俺で、あかりは俺の肩に手を置いて後輪のステップに立っている。所謂2人乗りだ。

 漫画などでは荷台に女の子が横座りするものだが、このチャリは荷台の無いクロスバイクだ。そのため後輪のステップに立つというスタイルである。

 チャリで風を切りつつしばらくの間疾走していると、やがて要塞にも秘密基地にも感じる建物が見えてきた。

 あれが、俺とあかりが通う武装探偵(Detective Armed)、通称『武偵』を育成する総合教育機関・神奈川武偵高附属中である。

 武偵とは凶悪化する犯罪に対抗して新設された国際資格の事で、武偵免許を所持する者は武装を許可され、逮捕権を有するなど警察に準じた活動が出来るのだ。

 但し、警察と違って武偵は金で動く、金さえ払えば武偵法の許す限りどんな荒事も解決する。つまり『便利屋』である。

 ちなみに附属中所属の生徒の拳銃所持は認可制のため、登録料を払わなければ拳銃を所持する事は認められないが、俺とあかりは登録料を払ってるため拳銃を所持していても構わないのだ。

 そんな事を思いながら、咲き始めるにはもう少し時間が掛かる桜並木の下をくぐり、校門を走り抜けた。

 

「運転、ご苦労」

 

 駐輪場でチャリを停めると、あかりは後輪のステップから跳び降りて(ねぎら)いの言葉をくれた。

 

「別に良い。毎日朝飯や晩飯を作って貰ってるからな」

「頼まれたから作ってるだけだよ」

「頼まれたって……誰にだよ」

「何となく分かるでしょ?」

 

 婆ちゃんか()()か姉さん辺りだろう。

 そんな事を考えながら俺はチャリを降りてチェーンロックを掛けた後、下駄箱へ向かい上履きに履き替えると、あかりと共に2年A組の教室へと向かった。

 その途中、視界の端に見覚えのある女子達が映ったため、俺は少し憂鬱な気分になる。

 

「どうしたのキーちゃん……って、またアイツらか」

 

 隣を歩いていたあかりは俺の様子が変化した事に気付くと、俺の視線を追って女子達の姿を見付けた途端、目付きを鋭くさせて睨み付けた。

 すると女子達は慌てて姿を消した。

 

「全くアイツらは……」

 

 そう言ったあかりは俺を見ると口を開いた。

 

「キーちゃん。()()呼び出されたらいつでも言ってね? すぐ駆け付けるから」

「ああ、助かる」

 

 俺は1年ほど前まで、一部の女子に体育館倉庫や理科準備室など、人目が付かない場所へ呼び出されてた事がある。

 理由は俺の家──遠山家に伝わる特異体質が原因だ。

 ヒステリア(Histera)サヴァン(Savant)シンドローム(Syndrome)、通称HSS。

 俺は『ヒステリアモード』と勝手に呼んでいる。

 この体質の人間が神経伝達物資の1種・恋愛時脳内物資(βエンドルフィン)を常人の約30倍の量分泌すると、それが大脳・小脳・脊髄など中枢神経系を媒介し、論理的思考力、判断力、反射神経が通常時の30倍に強化されるのだ。

 つまり、この特性を持つ人間が()()()()()()()()、一時的に人が変わったようなスーパーモードになれるワケである。

 そして、このヒステリアモードには『子孫を残す』という本能があり、ヒステリアモード時の俺は女子に対して不思議な心理状態になる欠点が存在するのだ。

 1つは女子を何がなんでも守りたくなり、困っている女子やピンチに陥ってる女子をこの力を使い助けてしまうこと。

 もう1つは『子孫を残す』という本能が働くらしく、女子にとって魅力的な男を演じて女から好かれようとすることである。

 で、この体質を知った一部の女子は、イジメの報復やセクハラ教師の制裁などに、俺を()()していたため、昔は苦手だった女が今ではすっかり嫌いになったワケなのだ。

 9歳から13歳まで役者業(子役)が忙しかったあかり──俺の体質を知ってるが私的に利用してこない女子──が事務所の意向で役者を休業したため、学校に通えるようになり俺が陥ってる状態を知った途端、あかりは女子達に特攻して話を着けた。

 そのため今では呼び出されるような事は無くなったが、一体あかりはどんな内容の話を女子達にしたんだろうか? 怖くて聞けない。

 

「……あー、あかり。その、色々とありがとな」

「私とキーちゃんの仲だから気にしないでよ。まあ、それでも私にお礼したいんだったら……今度一緒に映画でも……」

 

 その時──キンコーン──と、予鈴が鳴り響いた。

 

「予鈴の音でよく聞こえなかったんだが……お礼がしたいなら何だって?」

 

 言いながら振り返ると、そこでは真っ赤な表情で硬直するあかりがいた。

 

「……ううん。何でも無い」

 

 そう言ってあかりはトボトボと教室まで歩いていった。

 その様子に俺は首を傾げるしか出来なかった。

 

 

 

 午前の授業が全て終わり、あかりと学食で昼食を摂った後、俺は様々な依頼書が張り出されている掲示板を眺めている。

 理由はそろそろ俺が持つベレッタの銃検が切れるのだ。登録料を学校に払って認可させようと、銃検切れの銃をそのまま所持していたり使用したりすると、違反行為で処罰の対象にされてしまう。

 ただ、この銃検は意外とザルな法であり、国家公安委員会に『整備中』と申請すれば、金の掛かる法廷整備を通さずに拳銃を使用しても別に構わないのだ。

 しかし、いつまでもその方法は使えない上に、俺はその『整備中』で何四半期か通してしまっているのである。

 面倒でもそろそろ銃検に通さないとヤバい。だが、今の俺には法廷整備に出すための金が無い。

 その金の稼ぐために掲示板に有償の依頼を見に来たワケである。

 見習いの中学生は未熟なため、高額な依頼は基本的に受けられないが、俺はヒステリアモードのお陰で戦闘方面に於いて成績優秀な生徒──インターンに任命されており、何度か高1の授業を飛び級的に受けた事があるのだ。

 そのため、ある程度の高額な依頼を受ける事が可能なのである。

 

「さて、どの依頼を受けるか」

「そうだねぇ……」

 

 そう呟いたのは、同じくインターンに任命されているあかりだ。

 同じといっても、あかりの場合は俺と違って文武両道タイプの成績優秀者である。戦闘能力もヒスった俺と同レベルだしな。

 

「『迷子犬の捜索』、『宝石盗難事件の調査』、『強盗殺人犯の強襲』、『私立学校の潜入調査』、『大企業令嬢の護衛』……か。どれ受ける?」

 

 掲示板に張られた依頼書を見ながら隣のあかりに問い掛ける。

 

「う~ん。取り敢えず『大企業令嬢の護衛』は無いかな。その子が可愛かった場合、イタイケなご令嬢がキーちゃんの毒牙に掛かっちゃう」

「おい」

 

 と言う、俺のツッコミをあかりは無視して続ける。

 

「他にも『宝石盗難事件の調査』とか『私立学校の潜入調査』とかは、時間は掛かるし専門じゃないから難しいだろうね」

「じゃあ、『迷子犬の捜索』と『強盗殺人犯の強襲』か?」

「どっちもねぇ……前者は楽だけど報酬が少ない。後者は報酬が良いけど危険だしね」

「だよなぁ……」

「まあ、キーちゃんが……わ、私……で、ヒスるんだったら後者でも良いよ」

「ん? よく聞こえなかったけど、なんて言ったんだ?」

 

 と、なぜか赤面してるあかりに問い掛ける。

 

「な、何でも無い!」

 

 そう言ってあかりはそっぽを向いてしまった。

 そのあかりの様子を見ていると、元自衛官の教師が掲示板にコンバット・ナイフを使って依頼書を張り付けた。怖ッ!

 信じられない方法で張り付けられた新しい依頼書に目を通す。内容は研究機関の警備任務だ。

 人数は2名、日程は3月13日、場所は椚ヶ丘市・国際エネルギー研究機関。

 警備任務か……って、日程は今日じゃねぇか⁉

 しかもこの場所は。

 

「キーちゃん! この任務受けようよ!」

 

 突然、隣にいたあかりが新しい依頼書を指して言った。

 

「何となく分かるけど、理由は?」

「お姉ちゃんが手伝ってる研究所だから!」

「やはりか。言っとくがこれは任務だぞ」

「分かってるよ! 昨日の夜に電話でお姉ちゃんと会う約束したから、椚ヶ丘市で任務があるのは都合が良いんだ」

「任務がついでに聞こえるのだが……」

「私にとってはついで! それにこの任務はキーちゃんが真面目に銃検を通してたら受けなくて良い任務だったんだよ」

「うぐっ……⁉」

 

 紛れもなく正論である。反論の余地が少しも無い。

 その上、あかりは1度決めたら曲げないというか少し猪突猛進みたいな性格であるため、俺が何を言っても警備任務に行くだろう。

 反論するだけ時間と労力の無駄である。

 

「だからキーちゃんは任務を手伝う私に感謝こそすれ、お小言を言う権利は無いのだ」

「……仰る通りです。ただ、任務の方は……」

「うん! それはキーちゃんのパートナーとしてちゃんとやるから安心して! と言うワケでこの任務、受けてくるからね!」

 

 あかりは嬉しそうな表情でウィンクして、コンバット・ナイフから依頼書を剥がすと、教務科(マスターズ)へと警備任務を受注しに向かった。

 それを見送った俺は校門に移動してあかりが来るのを待っている最中、何が起こるか分からないため、一応ベレッタの残弾数を確認しておく事にした。

 

(武偵憲章7条『悲観論に備え、楽観論で行動せよ』)

 

 そんな事を思いながら残弾数を確かめ終えた時である。

 

「お待たせキーちゃん。それじゃ、行こっか?」

 

 笑顔で校門にやって来たあかりは自然と俺の手を握って歩き始めた。

 この愛らしい笑顔が数時間後には悲壮感漂う泣き顔に染まっているとは、この時の俺は想像もしていなかった……

 

 そしてこの日を最後に──

 俺、遠山キンジと雪村あかりの平穏な日常は、危険と隣合わせの非日常へと変化を遂げたのであった。

 

 

 




本日は雪村あかりちゃんの誕生日!
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