余談ですが弾籠めから11弾まで所々改訂してますので、気になる方はどうぞお確かめください。
5時限目の体育が終わり、6時限目の小テストを受けるために、教室へ戻っていると、あかりが囁くような小声で話し掛けてきた。
「さっき、磯貝君と前原君相手に
なぜあかりが遠山家の伝承技を知っているのか、それはあかりの事を気に入っている婆ちゃん──遠山家に嫁ぐ前から、どこかの戦闘的な一族の子孫だったらしく、遠山家の武術もかなりマスターしている──が教えたからだ。
これは昔爺ちゃんと父さんとの話を盗み聞きしたんだが、遠山家には100の伝承技があり、それら全てを会得していた父さんは兄弟それぞれの性格に応じて、攻撃寄りな48の技を兄さんに、防御・
その中であかりは攻撃寄りの技を25、防御・交叉法寄りの技を25、合わせて50の技を教わっている。
ちなみに姉さんも15ほど婆ちゃんに教わったらしい。
「分かるか?」
「まあね。でも、他の皆はキーちゃんが技を使った事に気付いて無いよ。岡野さんと速水さんはある程度気付いたみたい、詳しくは見抜けてないっぽいけどね」
「……そうか」
戦闘力が高い事は分かっていたが、冷静に場を視る眼も持ってたのか。今はまだ発展途上で精度は低いみたいだが。
そんな岡野と速水はまさしく戦闘の才能を持った原石の塊だな。もし2人が武偵高に進学して1年間鍛えればAランク、もしくはSランクに匹敵してたかも知れない。
まあ、それはあの2人が決める事だし、せっかくカタギの世界で生きてるんだから、わざわざアングラな世界に来なくて良い。
そんな事を考えていると矢田、速水、岡野、倉橋が声を掛けてきた。
「遠山君、さっきの体育カッコ良かったよ!」
「遠山、あれって忍術か何かなの?」
「私も頑張れば遠山と同じ事が出来るかな⁉」
「やっぱりとーくんならライオンを素手で捕まえられるよ!」
矢継ぎ早に掛けられた言葉に俺は叫ぶ。
「ええい! 一斉に話し掛けられても何言ってるか分かるか⁉」
そう
「まず矢田、誉めてくれたのは有り難いが俺はそこまでカッコ良くない。次に速水、あれは忍術じゃない。それから岡野、お前なら出来るかも知れないな。そして最後に倉橋、どう考えても無理! 烏間先生ならライオンどころかホッキョクグマも素手で捕まえられそうだが」
と、答えたところ。
「「「私達が何言ったのか分かってるじゃん‼」」」
矢田、速水、岡野の3人から同時にツッコまれた。が、倉橋は俺の言葉を聞いて烏間先生にキラキラした瞳を向けていた。
やった! 厄介な女を1人他人へと押し付ける事に成功したっぽい。
歓喜に打ち震えながら教室へ戻っていると、前方に椚ヶ丘中学の制服を着崩した、髪も瞳も血のような真紅の男が立っていた。
手にはあかりも好きないちごオレのパックが握られている。
ちなみに椚ヶ丘中学の制服は派手で無ければ着崩しても良いらしく、数人の女子はスカートの腰を折って、通常の膝丈から膝上のミニスカートにアレンジしていたりしている。あかり、矢田、速水、岡野はこのタイプだ。
お陰で常日頃から目のやり場に困っている。今は体操着だから大丈夫だが。
などと考えながら俺は前方に立つ男が誰なのか分からずにいると、あかりが矢田に問い掛けていた。
「矢田さん。あれって誰?」
「停学中の赤羽君だよ」
アイツが赤羽か。
ここにいるって事は今日が停学明けみたいだな、それにしては登校してくる時間が遅いが。
そう思っていると赤羽は渚と一言だけ言葉を交わした後、俺の方へ歩いてくると話し掛けてきた。
「転校生だよね? さっきの体育見てたけど最後はスゴかったよ。何か武術でもやってたの?」
「……一応」
「へぇ、そうなんだ……?」
俺の言葉を聞いた赤羽は何やら、値踏みするような目付きで俺を見ると口を開いた。
「……強いね」
赤羽の言葉に俺は目を見開く。転校してから見抜かれたのは初めてだ。
しかしヒステリアモードじゃない俺を強いと称するって事は、赤羽の実力も通常時の俺と大差無い程度だ。それでも相手の強さを見抜く眼を持ってる事には驚嘆に値するが。
「名前は? 俺は赤羽カルマね」
「遠山キンジだ」
「ふーん。遠山キンジ……ね。覚えたよ」
何やら含みを持った言い方の赤羽は、俺からあかりの方へと視線を向けた。
「矢田ちゃんの隣にいるチビッ子も転校生だよね?」
「誰がチビッ子だ‼」
「ゴメンゴメン。で、名前は?」
茶化すような赤羽の言葉にあかりはむすっとした表情で答える。
「……茅野カエデ」
「茅野ちゃんか。よろしくね。ついでに奥田ちゃんの隣にも転校生がいるよね? メガネのチビッ子」
「アイツは加納ユキって名前だ」
「そうなんだ。ありがとねー、キンジ君」
「いきなり名前呼びか」
「そうだよ。俺の事も気安くカルマって呼んで良いからねー。それにしても……」
人を食ったような表情で言った赤羽──カルマは殺せんせーに視線を向けると、楽しそうな表情を浮かべた。
「ホントにタコみたいじゃん。あれが例の殺せんせー?」
そう言いながらカルマは俺達の横を通り殺せんせーの方へと歩み寄っていく。
「赤羽カルマ君ですね? 確か今日が停学明けだったと思いますが……」
「生活リズムが戻らなくて遅刻しちゃったよ。明日から気を付けるから取り敢えずよろしく先生。あ、それと俺の事は下の名前で呼んで良いよ」
そう言ってカルマは右手で殺せんせーに握手を求めた。
「こちらこそよろしく。楽しい1年にして行きましょう。カルマ君」
握手に応じた殺せんせーがカルマの手を掴んだ瞬間、信じられない事に殺せんせーの触手がスライムのように、ドロォ、と溶けた。
恐らく手のひらに対先生ナイフを細かく切って貼り付けたのだろう。
それに殺せんせーが気付くや否やカルマは左手の袖口から、シャッ、仕込みナイフを飛び出させて突き刺しにいったが、既に殺せんせーはカルマから距離を取っていた。
その光景を目にしていた俺達は言葉を失う。
何しろ殺せんせーにダメージを与えたのが初めてだからだ。
「……へぇー、ホントに速いし、ホントに
そう言いながらカルマは自分の手のひらを殺せんせーに向ける。
「細かく切った対先生ナイフを貼り付けただけの単純な『手』なのに、何で先生引っ掛かちゃったの? それにちょっと触手が1本溶けただけなのに、そこまで飛び退くなんてビビり過ぎじゃね?」
カルマは触手を再生させる殺せんせーに向かって歩きながら言葉を紡ぐ。
「殺せないから『殺せんせー』だって聞いてたのに……もしかしてせんせーって大した事無くない?」
そう挑発しながらカルマは殺せんせーの顔を下から覗き込むと、殺せんせーは怒っているのか全身をプルプルと震えさせてる。
その様子を見ていたあかりが矢田に問い掛けた。
「矢田さん。カルマ君ってどんな人なの?」
「2年の時に暴力事件を起こして停学になったって事は知ってるけど、それ以上は知らないよ。同じクラスになったこと無いしね。でも、凛香ちゃんは去年同じクラスだったよね?」
「確かに同じクラスだったけど仲が良かったわけじゃないから、そこまで詳しく知らない」
速水の言葉を聞きながら俺はカルマを見ると、左前腕に装着したレールから外したナイフを手の中で回しながら腕を振った。
成る程、殺せんせーの触手を溶かした手段とあのナイフ捌きから考えると、騙し討ちと凶器の『基礎』は既に出来てるんだな。
5時限目の体育が終わり、体操着から制服に着替えた俺達は6時限目の小テストを受けているのだが、いまいち集中出来ない。
その理由は6時限目が始まった時から、ブニョンッ、ブニョンッ、と音を立てながら殺せんせーが壁を殴ってるからだ。
ただ、触手が柔くて壁にダメージは少しも入ってない。
それでも構わず殺せんせーが壁を殴り続けていると──
「もう! さっきからブニョンブニョンうるさい! 小テスト中なんだから静かにしてよ!」
「こ、これは失礼⁉」
我慢の限界を迎えたらしい岡野に叱られてた。
これで少しは静かになるかと思い小テストに集中して……3問ぐらい解いた辺りで──ドンッ!
寺坂が机を殴る音が聞こえてきた。
「ちびってねーよ! ケンカ売ってんのかテメェ‼」
「コラそこ‼ テスト中に大きな音立てない‼」
殺せんせー……叱るのは良いが、まずは自分の触手に言ってくれ。
そんな事を思ってるとカルマが口を開いた。
「ゴメンゴメン殺せんせー、俺はもう小テスト終わったからさ。ジェラート食って静かにしてるよ」
「授業中にそんなものを食べてはいけません。全くどこで買って……って! それは先生が昨日イタリアに行って買ったやつじゃないですか⁉」
お前のかよ‼
そう思った時、ふと何らかの視線を感じて周囲を見渡すと、あかりが『私も食べたいなぁ』的な視線を俺に向けていた。
成る程、後で買えって事ですね。
野口さん1人しかサイフの中には居ないのにどうしよう?
「あ、ごめーん。教員室の冷蔵庫に冷やしてあったからさ」
金が無いため、姉さんの会社が受注した依頼を受けないといけないな。と思っていた時、カルマがそんな事を言ってを殺せんせーに謝罪していた。
それに対して殺せんせーは許す気が無いのか反論する。
「ごめんじゃ済みません‼ せっかく溶けないように寒い成層圏を飛んで運んできたのに‼」
「へー、そうなんだ……じゃあ、どーすんの? 殴る?」
謝罪こそしたものの全く
「殴りません‼ 残りを先生が舐めるだけです‼」
な、なんて卑しい教師だ……
そう思いながら怒ってカルマに近付いていく殺せんせーを眺めてると、突然殺せんせーの足に当たる触手が弾けるように溶けた。
ああ、カルマのヤツ。対先生弾を床にバラ撒いてたのか。
それに気付いた殺せんせーが床に視線を向けた瞬間。
「アッハッ‼ まァーた引っ掛かった!」
考えた策に嵌まる殺せんせーを笑いながら、カルマはエアガンの銃口を向けて3連射した。
それを殺せんせーはすんでのところで避ける。
対先生弾を踏んだ触手以外無傷な殺せんせーを確認したカルマは、席を立ちながら口を開く。
「先に言っとくけど、俺は授業の邪魔とか関係無しに何度だって
言いながらカルマは手に持っていたジェラートを殺せんせーの服に押し付ける。
「その瞬間から誰もアンタの事を先生とは見てくれず、人殺しのモンスターと成り果てる。そうなればアンタの中に存在する『先生』は……俺に殺された事になる」
殺せんせーの中の『先生』を殺す……か。
それも一種の暗殺だな。
そう思っていると不意にカルマは殺せんせーにテストを提出した。
「はいテスト。多分全問正解」
そう言ったカルマは帰宅するのか教室の扉に向かい開けたところで──
「明日も遊ぼうね~、『先生』」
振り向いたカルマはそう言い残して帰っていった。
それを見届けた俺はようやくテストに集中出来ると思い、視線をテストに向けて残りの問題を解いていった。
6時限目の小テストが終わり、岡野と共に受けていた放課後の補習も終わったため、帰り支度をしていると窓枠に殺せんせーが移動していく事に気付いた。
「どっか行くのか?」
「カルマ君にジェラートをダメにされたのでね。イタリアまで買い直しに行くんです」
「また行くんだ……?」
「はい。そういうワケなので先生はもう行きます」
そう言って殺せんせーは窓を開けると──ドンッ!
空気が破裂したような音と共に殺せんせーはイタリアへと飛んでいった。
その際、殺せんせーが生じさせた突風が教室内に吹き荒れた事で、俺達の髪や制服の裾を揺らす中、岡野のスカートが風を孕んで、ふわっ、と持ち上がり下着が
スカートを押さえた岡野は頬を桜色に染めると、視線を俺に向けて恥ずかしそうに訊いてきた。
「見えた……?」
「見えてない」
岡野の言葉に即答してやったが、まだ疑わしく思ってるのか、訝しい目を向けて再度問い掛けてきた。
「本当に?」
「本当だ」
2度の問い掛けに俺が正直に答えたところ、岡野は俺の表情を見てウソは無いと判断したらしく、ホッと安堵してスカートから手を離した。
すると岡野はカバンを手に取ると俺の方を向いて、小さくて可愛らしいピンクの唇を開いた。
「帰るよ。遠山」
「ああ、分かった」
そうして教室を出た俺は岡野と並んで下駄箱に向かっていると、隣から不意に話し掛けられた。
「そういや最近、遠山って授業中に変な行動を起こさなくなったね」
「何だよ。変な行動って」
「やってたじゃん。授業中にいきなり銃抜いて構えたりとか?」
岡野に言われて記憶を探ると、すぐに思い出した。
あれだ。転校当初の俺はクラス内で聞こえた、かちんっ、という
岡野が言ってるのはその時の事だ。俺の事情を知らない人間からすると俺の行動は変な行動に見えるだろう。
「あー、あれはもう慣れた」
「慣れた……って、どういうこと?」
「あの頃は生活音全てが銃火器に関連した音に聞こえてたんだが、何日も通ってる内に生活音に慣れたって意味だよ」
「成る程。それにしても生活音が銃火器に関連した音に聞こえるって、もはや職業病だね」
岡野の言葉に俺は納得する。
もし俺が何らかの理由で武偵を辞めざるを得ない状況に陥った時、一般社会に順応していくのは難しいだろうな。
そんな事を思いながら下駄箱で靴に履き替え、正面玄関から外に出た時。
「2人共、補習お疲れ様」
そんな声が聞こえて視線を向けると、補習があって教えられないから自主的に射撃練習をしていた速水がいた。その後ろには速水に付き合って射撃練習をしていたあかりと矢田もいる。
それに気付いた俺は下校するため下山しながら速水に問い掛ける。
「よく補習が終わったって分かったな」
「殺せんせーが教室から飛び去っていくのが見えたからね」
「ああ、そういうことか。で、射撃の方はどうなんだ?」
「止まった的は外さなくなったかな」
「じゃあ、次は動く的だな」
「うん」
力強く頷いた速水を見たあと、あかりと矢田に視線を向ける。
「そっちの2人はどうなんだ。射撃の方」
あかりには本来聞かなくても良い事なんだが、正体を隠して潜入してる手前聞いておかないとダメだからな。
「凛香ちゃんほどではないけど、私もカエデちゃんも上達してきたよ。ね? カエデちゃん」
「うん。10発中1発ぐらいしか外さなくなったからね。もう少ししたら速水さんみたいに百発百中になるよ」
あかりから矢田の上達具合を聞いて驚いていると、岡野が溜息混じりに口を開いた。
「矢田っちも茅野っちも射撃が上手くて良いなぁ……」
「4月なんだし、そう悲観する事ないと思うよ。ひなたちゃん」
「そうは言ってもさぁ。もうすぐ4月が終わって5月になるんだよ。射撃練習を始めてから約1ヶ月経つのに全然狙った的に当たらないし」
そういや岡野の
「ねぇ遠山、どうしたら良いと思う?」
「拳銃が当たらないなら別の
「体を動かすのは好きだからね。でも、中距離の武器が有るのと無いのじゃ有る方が良くない?」
「確かにその2つなら有った方が良いな」
「でしょ⁉ でも私が拳銃を撃ったってそんなに当たらないし……ホントにどうしよう?」
「じゃあもう、数撃ちゃ当たる戦術で明日の昼休みに
俺がそう言ってみると岡野は少し考えたあと答えた。
「……そうだね。やってみる」
そんな会話を繰り広げてると本校舎へと辿り着いた。
本来なら自転車通学の岡野は自転車置場に向かうハズだが、今日はそのまま俺達に付いてくる。
ちなみに矢田と速水の家は椚ハイムがある方向と同じだ。
「あれ? 岡野さんって自転車通学なのに私達に付いてきて良いの」
「自転車がパンクしてたから今朝は徒歩で来たんだ。それよりも今日は復学早々赤羽が殺せんせーの触手を破壊して驚いた」
岡野の言葉に速水が応じる。
「そうね。殺せんせーの初ダメージだもん」
「私は遠山君が殺せんせーに初ダメージを与えると思ってたから少し残念なんだ」
「そう言うなよ矢田、俺には俺の速度があるんだ。それに
「そうだよ。それに渚が調べた殺せんせーの弱点だって弱点と呼べるような弱点じゃないし……確かその1が『カッコつけるとボロが出る』でその2が『テンパるのが意外と早い』、その3が『器が小さい』、その4が今日判明したばかりの『パンチがヤワい』だよ。これのどこが弱点なの⁉」
そう言ってあかりは憤慨した。
確かにどれもこれもお世辞には弱点とは言えないものばかりだ。
強いて言えば『テンパるのが意外と早い』が1番弱点らしい弱点と言える。
何しろこれだけは考え方の視点を変えると、殺せんせーは環境の変化に弱いって事になるからな。他の弱点は視点を変えても弱点になりそうに無いが。
そんな事を考えながら家路を辿っていると、矢田が呟いた。
「そういえば赤羽君が帰る時に言ってたけど、卑怯な手を使い続けるんだよね? 大丈夫かな」
「矢田、その大丈夫ってのは赤羽に対して? それとも殺せんせーに対して?」
「どっちもかな。遠山君はどう思う」
「大丈夫だろ。殺せんせーは生徒に危害を加えないって契約を政府と結んでるし、カルマの方だって今日の件で殺せんせーからはガチ警戒されてる。そんな状態でカルマがどんな暗殺を仕掛けようが通用しない。逆に手入れされて終わりだ」
この言葉通り、翌日カルマはありとあらゆる手を尽くして様々な方法で殺せんせーを殺そうとしたが、それらは全て失敗に終わるのであった。
カルマが初登場の話なのに後半全く出番無し。
それどころかカルマの暗殺はダイジェスト化(正直書いても原作通りでキンジがいる意味が無かったから、その辺は残念ながらカットです)