暗殺教室~君のために義を貫く~   作:緋色の焔

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2話目でございます。


1弾 異変の時間

 電車で約1時間掛けて神奈川から西東京の椚ヶ丘市にやって来た。

 椚ヶ丘駅からあかりの姉──雪村あぐりさんが手伝ってる研究所までは少し距離があるため、ここからはバスでの移動だ。

 駅前のバス停でバスを待っていると、制服の胸にコサージュを付けた生徒達が歩いているのを見付けた。

 

「あれって卒業式の帰りか?」

「多分そうだと思う。昨日お姉ちゃんが言ってたけど、今日って椚ヶ丘中学校の卒業式なんだって」

 

 成る程、道理で駅前に椚ヶ丘中学校の制服──灰色のブレザーに身を包んだ生徒達が大勢いると思った。

 その生徒の中にはコサージュが無い制服を着てる生徒もいる、恐らくコサージュを外した卒業生か、在校生だろう。

 ちなみに椚ヶ丘中学校とは創立10年しか経ってないのに、全国的に有名な進学校であり、あぐりさんが勤めている学校でもある。

 というのもあぐりさんは研究所を手伝ってこそいるが、研究者というワケではなく本業は京大卒の中学教師だ。

 そんなあぐりさんがなぜ研究所を手伝っているのか、それは研究所で主任を務めるあぐりさんの婚約者の意向によるものだ。

 確か去年の春頃から手伝わされている。

 聞いた話では午前6時から午後7時まで教師で、午後7時から午前2時まで研究所の手伝いらしい。

 普通ならぶっ倒れるのだが、化け物染みた体力を誇るあぐりさんはその激務を1年間続けている。

 ちなみにあぐりさんは頭も体力も優れた人なのだが欠点はある、それはファッションセンスが壊滅している事だ。どこで買ってくるのか知らないが、可笑しなデザインの服ばかり持ってるからな。

 

(外国人と違い、『八方美人』のプリントが入った服を着る()()()はあぐりさんぐらいだろうな)

 

 そんな事を思いながら卒業式終わりで下校している生徒達を眺めていると、カワイイ系やキレイ系の少女達がいる事に気付いた。

 

「キーちゃん、なんであの子達を見てるの?」

 

 少しイラッとした感じのあかりにそんな事を聞かれた。

 

「いや、偶然目に入っただけだ」

「ふーん……まあ、良いけど。ちなみにキーちゃんってあの子達の中ならどんな子がタイプなの?」

「……は? なんだその質問は」

「今後の参考にするの。だから教えてよ」

「質問の意図が分からないんだが……」

「それは気にしないように、で、どの子がタイプ? あの清楚系黒髪ロングの美少女? それとも黒髪ショートのボーイッシュな美少女? もしくはゆるふわなカワイイ系の美少女? はたまた金髪ロングのギャルっぽい美少女?」

「いや、誰でも無いし! ていうか、お前は俺が女嫌いなの知ってるだろ⁉」

「知ってるけど、好みの女の子のタイプはいると思ったんだ」

「なんだそれ……ちなみにもし居たとしたらどうしたんだよ?」

「さっき言ったでしょ? 参考にするだけだよ」

 

 よく分からない事を言ったあかりは、視線を下校している椚ヶ丘中の生徒の1人に向けて、ブツブツと呟き出した。

 

「それにしてもあのギャル、中学生の平均はBなのにちょっと大きく見える。ズルい……ッ‼」

 

 女子中学生の平均より胸が小さいらしいあかりは、平均より胸が大きいらしい女の子に向けて怨嗟の念を込めた視線で睨み付けた。

 その瞬間、胸の大きいギャルは悪寒がしたのか、ぶるりと体を震わすとキョロキョロ辺りを見渡して足早に去っていく。

 そんなギャルを睨み続けるあかりを俺は呆れた感じで見ていると、ようやくバスがやって来たのだ。

 

 

 

 研究所に着くまで、バスの中であかりと他愛も無い話をしていると、全面ガラス張りの建物が見えてきた。

 あれが目的地である依頼場所の研究所だ。

 近くのバス停で降りて、先程通り過ぎた研究所へと歩いて戻る。

 

「神奈川武偵高附属中より、2名、警備任務に着任しました」

 

 研究所の出入口にいた2人の警備員の前に立って、規則通りに敬礼して依頼を受けにきた事を告げる。

 

「ああ、君達が依頼を受けにきてくれた子達か。話は班長から聞いているよ」

 

 そう言った警備員はもう1人の警備員に視線を向けて口を開いた。

 

「2人を案内してくるから少しの間1人で頼むぞ」

 

 警備員が研究所内入ったため、その警備員の後ろを付いていく。

 研究所に入ってしばらく歩いていたら、あかりが口を開いた。

 

「1つ質問良いですか?」

「何かな?」

「ここってどんな研究をしてるんですか?」

「さあね。我々も警備してるだけだから分からない」

「そうですか」

 

 さすがに研究内容までは分からないか、そう思いつつ警備室と書かれたプレートが貼ってある部屋の前まで案内してもらった。

 

「さぁ、ここだ」

「「失礼します」」

 

 室内に入ると上司っぽい警備員から椅子に座るよう促されたため腰掛ける。

 

「いやぁ、依頼を受けてくれて悪いね。ここの警備は2人ずつ三交代でやるんだが、今日は4人しかいなくてね。どうしようか悩んでたんだ」

「そうですか。後の2人は?」

「病欠だよ。警備会社に連絡して代わりの人を寄越して貰おうとしたんだが、生憎今日は別の現場を警備してるため誰も捕まらなかったんだよ。だから急遽武偵さんに依頼したんだが、まさか君達のような子が来るとは正直思ってなかったよ」

「プロの武偵を期待していたならスミマセン」

「いや、きっちりやってくれるなら年齢は気にしないよ。それで業務の方だが後30分ぐらいしたら出入口の警備を代わって貰って良いかな」

「はい。分かりました。警備する時間は?」

「この後の2時から7時までの5時間で頼むね」

 

 警備時間を了承して他の注意事項を聞いた後、30分経ったため出入口の警備を代わり、1時間ほど警備していたが特に何も起きなかった。

 ちなみに俺達の恰好は学校の制服のままだ。通常の警備任務では警備服を着るのだが、突然の依頼という事もあり、服が用意されていないのだ。

 無理にサイズの違う服を着て、動きが制限されて万一の事が起きた場合、咄嗟に対応出来なくなっても困るしな。

 そのために仕方なく制服のまま警備してるワケである。

 それに制服の袖にはトゲトゲした目のようなマーク──武偵徽章(きしょう)が入ったワッペンがある。これだけでも犯罪の抑止力にはなるだろう。

 

「あかり⁉ それにキンジ君まで⁉ なんでいるの⁉」

 

 突然、警備してる俺達の名を困惑した感じで呼ぶ女性の声が聞こえた。

 声が聞こえた方向に振り向いてみると、そこには165㎝と俺とそんなに変わらない身長の黒髪ショートで胸の大きい女性が立っていた。

 

「あ、お姉ちゃん! やっはろー!」

 

 おい、何だその『やっはろー』ってのは? バカっぽいからやめないか。

 そんな事を思いつつ、俺は紺色の上着に膝丈のタイトスカート姿の女性──あぐりさんに軽く頭を下げる。

 今日は卒業式だからか、いつも着てるような可笑しな服装ではない。

 

「や、やっはろー……? あかり、それでなんで2人がいるの?」

「附属中に警備任務の依頼が着てたから受けたんだ」

「そうなの?」

「はい。あかりが行きたそうにしてたので……迷惑だったならスミマセン」

「ううん。迷惑じゃないわ。ちょっとビックリしただけ」

「イェーイ! サプライズ成功! まあ、それは良いとしてお姉ちゃん」

「何?」

「昨日電話で言ってた好きな人って誰?」

 

 あかりがそう言った瞬間、あぐりさんはボッと瞬時に頬を赤く染めた。

 

「も、もう⁉ あかり! 私は婚約中だって言ってるでしょ⁉」

「深夜まで研究所を手伝わせる婚約者とは別れなよ」

「……うぅぅ」

「いくらお姉ちゃんが体力お化けでもいつか倒れちゃうよ。それにこのままだと本業の教師を辞めろって言われるかも知れないよ」

 

 そこまであかりが言うとあぐりさんの表情は沈んだ。

 

「え? もしかしてもう言われてるの?」

「……うん。今受け持ってる子達が卒業するまで見守ってあげたいんだけどね。多分無理かなぁ」

 

 あぐりさんの言葉を聞いたあかりは出入口の方を向くと、中に入っていこうとしたため、俺は慌ててあかりの肩を掴んで止める。

 

「おい、あかり。お前何する気だ?」

「お姉ちゃんと別れてって言いに行く」

「さすがにそれはやめろ! あぐりさんに迷惑が掛かるかも知れないぞ」

「うぅ~~……お姉ちゃんッ‼」

「はひぃ⁉」

「好きな人ってどんな人⁉ 今日の任務が終わったら紹介して‼」

「エエッ⁉ ちょっと待って、本気なの⁉」

「うん‼ お姉ちゃんはやりたい事をやった方が良いよ。折角教師になったんだから‼ それにさっき言ってたけど担任を任されてるんでしょ‼」

「そ、そうだけど……でも……」

「言い訳無用‼ とにかくお姉ちゃんの好きな人紹介してね!」

「だから婚約中だって……」

「好きな人がいるのは否定しないんだ?」

「はうッ⁉」

 

 あかりの言葉を聞いたあぐりさんは体をビクッと震わす。

 誘導尋問だ。以前授業で習ったのを実の姉に試しやがったぞ。末恐ろしいヤツだ。

 あかりに尋問され、グルグルと思考が混乱した感じのあぐりさんは研究所内へと駆け込んでいった。

 

「逃げられたな」

「うん、ちょっと言い過ぎた。取り敢えず今日は時間が出来るみたいだし、その時に聞き出してやる」

「あんまりやり過ぎるなよ」

「分かってるよ……にしても私とお姉ちゃんは血が繋がった姉妹なのに、何でこんなに差が有るんだろう?」

 

 そう言ってあかりは自分のほぼ平坦な胸に視線を向けて、ペタペタと触ったあと「はあ……」と溜息を吐いて落ち込んだ。俺はそんなあかりから視線を逸らして周囲に不審人物がいないか見渡す事にした。

 何しろ今のあかりには何て声を掛ければ良いか分からないからな。

 

 

 

 それからは何事もなく時間は過ぎていき、交代の時間が来ると警備員がやって来た。

 

「急だったのに助かったよ。依頼料の方は後日振り込んでおくね」

「ありがとうございます」

「いや、こっちこそありがとう。それじゃあ時間も来たし、帰ってくれて良いよ」

「はい」

 

 返事をして帰ろうとした時、研究所内が騒がしい事に気付いたあかりが質問した。

 

「何かあったんですか?」

「ん? ああ、所員が言ってたが月がどうのって言ってたな」

「月……?」

 

 言われて空を見上げると、陽が落ちたからか白銀に輝く三日月が浮かんでいた。

 

「特に変わったところは無いような……?」

 

 そう俺がボヤくとあかりが目をまん丸に見開いている事に気付く。

 

「どうした?」

「おかしい……」

「どこがだ? なんの変わりも無い()()()だぞ」

「それが()()()()()()()。だって昨日見た時はキレイな()()だったもん」

「……は?」

 

 その言葉に唖然とした瞬間、ゾクリ、研究所内から()()()()()()()()()()()()()()()

 何だこれは……! 獣、いや違う、もっとおぞましい()()()だ。

 それは刻一刻と大きくなり、徐々に重厚で鋭利になっていく。

 まるで兄さんや父さんが本気でキレた時のように、人を超越した圧倒的な存在感だ。一体、何がこの研究所にはいるんだよッ‼

 

「お姉ちゃんッ‼」

 

 突然あかりがこのナニカの気配からあぐりさん助けに、研究所内へと駆け込んでいった。それに気付いた俺は警備員に一声掛けたあと、警備員室でカバンを回収してから急いであかりを追い掛けた。

 駆けながらこの気配の主について考える。コイツは明らかにヤバすぎる、もしコイツに見付かった場合、俺もあかりもあぐりさんも一瞬で殺られる。

 仮に俺がヒステリアモードだったとしてもその事実は変わらない。

 それぐらい、コイツはヤバいのだ。

 キョロキョロと辺りを見渡すあかりに追い付いた俺も、あぐりさん探すが姿は見えない。

 

(どこにいるんだよ⁉)

 

 見付からなくて内心焦っていた時、研究所内に僅かな微震が走った。

 この揺れは地震による震動じゃない、恐らく何かが爆発した時の震動だろう。それが奥の扉から感じた。

 早くあぐりさんを見付けないと手遅れになる。

 そう思ったのはあかりも同じなのか、闇雲に捜すよりも人に聞いた方が早いと、近くを通り掛かった研究員にあぐりさんの事を聞いていた。

 

「あの、お姉ちゃん……雪村あぐりはどこにいるでしょうか?」

「雪村……? ああ、実験体(モルモット)の見張りか」

 

 その言葉に俺は眉を寄せる。

 実験体……? それが気配の主の正体か? 気配からして簡単に捕まるようなヤツじゃないぞ。

 一体、どうやって捕まえたんだ?

 そんな事を考えていると、研究員はあかりの言葉を受けてあぐりさんを見掛けたらしい方向を指差した。

 

「ありがとうございます! 急ごうキーちゃん!」

「ああ」

 

 研究員が指差した方向のドアを開けると、一直線に伸びた長い廊下があり、その廊下の先には両開きの白い扉がある。

 

「あの扉の先に()()な。ヤツが……」

「うん。そして多分お姉ちゃんもいるよ」

 

 死地へ(おもむ)くような感覚を覚えたため、俺とあかりは示し合わせたように互いにホルスターからベレッタをすぐに抜けるよう手を添えると、顔を見合わせて軽く頷き合い廊下を進んでいく。

 少し足早に廊下を進んでいると、廊下の端にセンサーを取り付けた金属製の容器が置いてあるのが見えた。

 その容器を視界の端で捉えながら通り過ぎた瞬間、不意にピピッと電子音が聞こえたかと思えば、突然容器が開き、中から目にも留まらぬ速度で何かが飛来してきた。

 次の瞬間──ゴッッッ‼‼‼

 脇腹を貫かれたような衝撃に俺は壁に叩き付けられた。

 

「ぐあっ……⁉」

「キーちゃんッ⁉」

 

 壁に叩き付けられて、廊下に倒れた俺に気付いたあかりが視線を向けてくる。

 

「あ……かりィ! 伏せろぉ!」

 

 脇腹の激痛に顔を歪ませながら叫ぶ。

 その声にあかりは慌ててその場に伏せると近寄ってきた。

 

「大丈夫⁉」

「ああ……防弾制服じゃなけりゃ……脇腹にでかい風穴が空いてただろうがな」

 

 防弾制服には、銃弾など何かが高速で飛来した際に衝撃を分散する極微細な撥条(バネ)構造の、TNK(ツイステッドナノケブラー)ワイヤー繊維が使われているのだ。そのお陰で俺は助かったワケである。

 痛む脇腹を押さえながら容器に視線を向けていくと、脇腹と容器の直線上に吸盤の無いタコやイカの触手のような物体が、トカゲの尻尾みたいに床でピチピチと跳ねていた。

 何だあれは……?

 

「キーちゃん、何、あれ……?」

「分からん。だが、ヤバそうなのは確かだ」

 

 そう答えつつ廊下の先を見ると、金属製の容器が左右の壁際に設置してあった。

 

「あかり、廊下の壁際に金属製の容器が設置してあるのが見えるな」

「うん」

「その容器にセンサーみたいなのがあるだろ。あれを撃ち抜け」

「分かった」

 

 あかりは伏臥姿勢のまま、漆黒のベレッタを抜くと容器のセンサーに狙いを定めて引き金(トリガー)を引いた。

 

 ──ガウンッ!

 

 銃声と共に銃口から飛来した9㎜弾は正確にセンサーを撃ち抜いた。

 

「さすがだな。他の容器のセンサーも頼む」

「うん。あの尻尾みたいな物体はどうするの?」

「何か分からんから、取り敢えず放置だ」

 

 そう言いながら俺も銃を抜いて撃とうするが、脇腹の痛みが邪魔で上手く狙いが定まらない。

 痛む場所は脾臓・腎臓か、しばらくは血尿が続くな。

 

「立てる? キーちゃん」

 

 いつの間にか、視界に見える範囲の容器のセンサーを撃ち抜いていたあかりが手を差し出してきた。

 

「ああ、何とかな」

 

 その手を取って立ち上がると、あかりはそのまま俺と肩を組んで扉の方へ歩き出した。そのまま廊下を進んでいると次々に容器を見付けるが、あかりはそれを目にした瞬間から容器のセンサーを撃ち抜いて無効化していく。

 痛みで足取りは遅くなるが、それでも少しずつ廊下を進んでいると、扉の先から激しい轟音と震動がしてきた。

 

「急いだ方が良いな」

「うん」

 

 頷いたあかりと共に一歩踏み出した瞬間、壁に亀裂が入った。

 

(ヤバい、崩れる!)

 

 咄嗟に俺はあかりを守るように押し倒すと上に覆い被さった。

 次の瞬間──轟音を立てて建物は崩壊したのである。

 

 

 




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