暗殺教室~君のために義を貫く~   作:緋色の焔

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イリーナの育ちを改変したら色々変わった。


4弾 試験の時間

 椚ヶ丘中の転入試験を受ける事が決まって数日が経った。

 本格的な引っ越しは転入試験に合格してからと決めたため、それまでは姉さん宅の中で使ってない部屋を俺の自室として間借りしている。

 一応、姉さんが使っている寝室があるものの、そこにはキングサイズのベッド(以前はセミダブルのベッドだったが、少し前に買い換えた)が一つあるだけだ。

 いくら血の繋がりが無いとはいえ姉さんと俺は姉と弟、ヒステリアモードになるような行動は避けなければならないのだ。それにもし姉さんでヒスった日には爺ちゃんから勘当もんだぞ。

 バレなければ問題無いように思えるが俺が気にする。対して姉さんは全く気にしない、それどころか嬉々として俺をヒスらせようとしてくるのだ。なぜか昔からな。

 一般的な普通の男子中学生からすれば、姉さんのような美貌の女性が豊満な胸を押し当てて抱き着いてくるのは、この上無く嬉しい事かも知れないが、病気(ヒス)持ちの俺は全く嬉しくない。

 とにかく、俺はそんな理由で使ってない部屋を使う事にしたのだ。転入試験が終わるまでの間だけな。

 もちろん合格したら引き続き同じ部屋を使わせて貰うつもりだが。

 そんな事を思いつつ幾日かの日々を過ごす。その間に俺は転入試験に向けて外国産まれの姉さんに英語を、それ以外の教科をあかりに教わっている。

 ちなみにそのあかりが寝泊まりしているのは姉さんの寝室である。

 

「問題、原子番号1は?」

「水素。元素記号H。原子量1.00794。地球上に存在する気体の中で最も軽い。また原子番号8、原子量16.00。元素記号Oである酸素と水素が1対2の割合で結合する事により化合物・水になる。化学式はH2O」

 

 俺の回答にあかりはニンマリと笑顔で、

 

「──正解!」

 

 と、言った。

 うん。

 あかりのお陰で少しずつではあるが、成績が上がってきている事を実感するよ。

 

「良い? 理科は暗記だからね。ひたすら反復して覚えるのみだよ」

「ああ、分かった」

「じゃあ、次は……」

 

 教えるあかりも俺の成績が上がるのは嬉しいのか嬉々として教えてくる。

 それは別に良いが、そろそろ俺の方に限界が来た。

 

「あかり……今日はもうこれぐらいにしないか?」

 

 疲れた顔でそう言うとあかりは時間を確認する。

 

「エエ⁉ 1時間ぐらいしか勉強してないじゃん!」

「それはさっきの休憩からだろ⁉ 今日はもう5時間は勉強してんだぞ! これ以上は俺の集中力が続かん!」

「むぅ……椚ヶ丘中の偏差値とキーちゃんの成績から考えれば、合格ラインにはまだ足りないのに……何で普段から勉強しとかないの!」

「言っとくが学力最底辺の武偵高に通っている生徒の中で、お前みたいに勉強出来る方が少数派だからな!」

「言い訳しない! それに武偵高に比べると附属中や附属小はまだマシだよ!」

「うぐっ……⁉」

 

 武偵高は命懸けの任務に就くため、自然と訓練も厳しくなり普通の勉強が疎かになる。それに比べて附属中はインターンなど一部例外はあるものの、基本的に見習いだから本格的な訓練はしないし、附属小は銃器の安全講座がたまにあるだけで、他は普通の小学校と大差が無いのだ。

 

「まあ、キーちゃんの様子からすると、これ以上は勉強効率が落ちるかも知れないから、今日はこのぐらいにしようか」

「助かる……」

「でも、明日また勉強だからね」

「ああ、分かってる」

 

 と、返事した俺はダイニングのテーブルに突っ伏した。

 休憩を挟みながらとはいえ、さすがに5時間の勉強はキツい……

 そのまま項垂(うなだ)れていると、先ほど帰宅した姉さんが作っていた夕食をテーブルに置いた。

 

「毎日勉強ご苦労様。教える方のあかりも疲れるでしょ?」

「そうだけど……キーちゃんも一緒に椚ヶ丘中に来て貰わないと困るからね。さすがに私1人じゃお姉ちゃんの仇討ちは難しいよ……何しろ相手は未知で人外の触手生物だしね」

 

 まあ、その触手生物が本当にあぐりさんの仇がどうかはまだ分からんがな。

 

「そういや姉さん。柳沢の居場所と()()()、何か分かったか」

 

 数日前に判明した件を尋ねてみると、俺の目の前に座っていたあかりは真剣な顔になる。

 

「いえ……色々な機関の知り合いに調べて貰ったり、私個人でも調査したんだけど……何も分からなかったわ」

 

 申し訳なさそうな姉さんの報告を聞いて俺達は落胆する。

 色仕掛けを駆使して犯罪組織へ潜入する武偵(ハニートラッパー)として世界一と呼び声の高い姉さんは、武偵庁・警視庁・防衛省など諜報部を有した組織間で有名なのだ。

 そのため多数の機関に知り合いがいるのだが、その知り合いが調べても分からないと言う事は……柳沢の行方と例の件が判明するのはほとんど絶望的である。

 

「あかり。いざとなった時はオカルトに頼るしか無さそうだぞ」

 

 俺は()()()を着た少女の姿を脳内で思い浮かべた。

 

「……うん。その時は私が頼むよ。まあ、それよりも今は唯一の情報源である怪物が行くとされている、椚ヶ丘中の編入試験に合格しなきゃダメなんだけどね」

「が、頑張るよ」

 

 あかりの言葉に俺はあまり自信の無い返答しか出来なかった。

 

 

 

 姉さんの家に住み始めて2週間が経過した。

 本日は椚ヶ丘中学校の転入試験で、試験会場は椚ヶ丘中学校の会議室で行われる事になっている。

 朝食を摂った後、自室に使ってる部屋で防弾制服に着替えた俺は、必要な物を入れたカバンを手してリビングに向かった。

 そこには、いつも下ろしている髪をツーサイドアップに纏めたあかりがワンピースタイプの制服を着て立っていた。

 

「あれ? その制服って……あかりが以前潜入捜査(スリップ)したお嬢様学校の制服じゃなかったか?」

「そうだよ。武偵高附属中の生徒だってバレると怪物に警戒されるかも知れないから、椚ヶ丘中に提出する書類には違う学校の名前を書いておいたんだ」

「そんな事して大丈夫か?」

「平気。向こうの校長は私のファンだしね。転入の際に椚ヶ丘中学から事実確認の連絡にも話を合わせてくれるんだって」

「おいおい……いくらバレないためだからって、『磨瀬(ませ)榛名(はるな)』の名前と人気を使うなよ」

 

 磨瀬榛名とは子役時代のあかりの芸名である。

 お茶の間を席巻するほどの人気があり、5年間の活動でドラマ出演が13本、映画出演は7本で、それぞれの主演作品が3本と1本だ。

 これだけの出演本数の理由は……孤児、優等生、不良、幽霊……など、難しい役を完璧に演じられるからなのだ。

 

「これっきりにするから大丈夫。あ、そうだ! 忘れる前に伝えとくけど転入した時に『雪村あかり』って名前だと素性がバレるから、書類には昔私が演じた単発ドラマのボツ役『茅野(かやの)カエデ』って偽名を使ってるから、合格したらそっちの名前で呼んでね」

 

 何が、呼んでね、だ。明らかに犯罪だろうが!

 まあ、今日日違法行為を全くしていない身綺麗な武偵なんて少数派だけど。

 

「ああ、覚えとく……それにしても久々に磨瀬榛名の演技が見れるワケか」

「いやいや、私の演技なんて金一さんのヒステリアモードには遠く及ばないよ」

「あれは比べる相手が悪いと思うのだが……」

 

 兄さんのヒステリアモードは少々()()だからな。

 そんな事を思いながら玄関へ向かうと、そこには白いブラウスの上から黒いロングカーディガンを羽織り、デニムのショートパンツを穿いた姉さんがヒールのあるロングブーツを履いて立っていた。

 

「姉さんも出掛けるのか?」

「ええ、()()に向かうから、そのついでに試験会場まで送ってあげようと思って待ってたのよ」

「本当! ありがとうリナ姉!」

 

 そんなワケで撮影──仕事に向かう姉さんと共に部屋を出た俺達は、エレベーターに乗り駐車場があるB1のボタンを押した。

 数十秒ほどでエレベーターが地下駐車場に降りると扉が開いた。

 駐車場内は蛍光灯が点いているものの薄暗い。

 その空間を姉さんを先頭に歩いているとあかりが口を開いた。

 

「リナ姉の車ってどれ?」

「あれよ」

 

 そう言って姉さんが指さした先にはイタ車の最高峰、純白のフェラーリ・612スカリエッティが駐まっていた。

 

「あれ、この前忘年会で会った時は日産車のフェアレディZに乗ってなかったか? 確かZ33型で真紅のオープンカー(ロードスター)

「ああ、あれは車検に出してるのよ。だから今日乗る車は去年の誕生日に石油王からプレゼントされたフェラーリで行くわよ。まあ、フェアレディZがあっても2人乗り(ツーシーター)だから3人は乗れないけどね」

 

 そう言って軽く振り返った姉さんは、パチッとウィンクした。

 ただ、薄暗い駐車場内のため、よく見えなかったけどな。

 それよりも俺が気になるのはそこじゃない。

 

「……石油王にプレゼントされたって……どこでそんな人と知り合ったの? リナ姉……」

 

 俺が気になってた事と同じ事が気になってたらしいあかりが訊いた。

 

「以前仕事でイタリアに行った時、セレブが開催したパーティーに参加したんだけどね。その時に知り合ったのよ」

「……ああそう」

 

 姉さんの言葉に俺はそんな事しか言えない。

 本当に姉さんの交友関係は広い。

 武偵、刑事、防衛職員など武装職の人間以外にも馬主や弁護士、あとはヤクザと海外マフィアの知り合いもいたハズだ。

 そんな事を思ってると姉さんはフェラーリに向けて歩いていく。

 近寄って分かったが、フェラーリの窓ガラスやタイヤは防弾性だ。

 フェアレディZと違ってオープンカーにできないから銃撃戦には不向きだが、乗り込んでしまえば遮蔽物に囲まれる事になるため、防御・逃走用の車輌としては適してる。

 対してオープンカーにできるフェアレディZは銃撃戦に向いた車輌と言えるな。

 

「何ボーッと突っ立ってるの? 早く乗りなさい」

 

 そう言って姉さんはキーリモコンを取り出して鍵を開けると、左ハンドルの運転席に乗り込んだ。それに続いて俺達もフェラーリに乗り込む。

 後部座席にあかりが助手席に俺が乗ると、姉さんは甲高いエンジン音を駐車場内に響かせながら、フェラーリを颯爽と発進させた。

 

 

 

 法定速度ギリギリで道路を走るフェラーリに乗って、後方に流れていく景色を見ながら、何気無くグローブボックスを開けると、ヘッケラー&コッホ社の短機関銃(サブマシンガン)──MP5K(クルツ)が入っていた。

 

「姉さん。これ、銃検通してるよな?」

「当然でしょ」

「そう言うキーちゃんはベレッタの銃検通したの?」

「……軽く計算したけど、費用が足りない」

「その費用、私が立て替えても良いわよ」

「それは見返りが怖いから遠慮する」

「じゃあ、()()()()から幾つか依頼を見繕ってメールするから、それを受けて費用の足しにすれば良いわ」

 

 3年前、武偵高を卒業したばかりの姉さんは特殊捜査研究科(CVR)──色仕掛け(ハニートラップ)で犯罪者を籠絡(ろうらく)させる学科に所属していた友人達と共に武偵事務所を起業した。

 社長はCVRを首席で卒業した姉さんに任せた方が良いという事で、社名はそこから取って『遠山武偵事務所』と名付けていたが、後に自分も含めて会社に所属する武偵の全員がファッション雑誌に度々写真が掲載されていた事もあり、モデル業もいけるんじゃ無いかと思った姉さんは社名を『オフィス遠山』へと改めた。

 モデル業は雑誌の撮影や取材などが主な業務内容であり、武偵業は潜入と護衛が主な業務内容だ。

 潜入の方はCVRに所属している武偵ばかりを雇ってるため問題無い、護衛の方も戦闘力が無い武偵ばかりが所属しているCVRではあるが、中には戦闘特化の強襲科(アサルト)から転科してCVR所属になった武偵もいるため問題無いのだ。

 ちなみにオフィス遠山の護衛はデート形式である。警護対象者と腕を組んだ見目麗しい女性が武偵だとは誰も考えないのか、屈強な男が護衛の時と比べて襲撃者の質が下がるため容易に対処出来るのだ。

 そんなワケで姉さんが社長を務めるオフィス遠山は、本業と共に副業も盛況でかなり儲かっているらしい。

 姉さんはそんな会社から定期的に幾つかの依頼を紹介してくれるのだ。

 

「毎度助かる」

「このぐらい別に良いわよ」

「リナ姉、私も何か受けて良いよね?」

「ええ、構わないわよ」

 

 そんな会話をしていると、出発から10分も経たない内に試験会場の椚ヶ丘中学校に到着した。

 椚ハイムの部屋と同じでいいニオイがするフェラーリから降りると、車内にいた姉さんが声を掛けてきた。

 

「試験が終わる頃には撮影も終わってるハズだから連絡しなさい。迎えに来てあげるわ」

 

 そう言い残して姉さんはフェラーリのアクセルを踏み、V12の甲高いエンジンを響かせながら颯爽と去っていった。

 それを見届けた俺達は振り返り、壮麗な威容を誇る椚ヶ丘中学校の校舎を見上げて呟く。

 

「……書き置きによると、(くだん)の怪物は3年E組に現れるらしいが、どこが3年E組の教室だ?」

「昔お姉ちゃんに聞いた事があるけど、3年E組は成績不振者や素行不良の生徒ばかりを集めた特別強化クラスになるらしくてね。そこに落ちた生徒は勉強に集中するために()()()()()()()に在籍する事になるんだって」

「専用の隔離校舎って……まるで差別だな。で、その隔離校舎はどこにあるんだ?」

「あそこだよ」

 

 そう言ってあかりが指さしたのは山の上だ。

 視線を向ければそこには木造の校舎が見える。

 

「……少しばかりこの校舎から距離が有るぞ。ざっと見た感じ1㎞ぐらい離れてるような気がするんだが」

「そうだよ。元々は椚ヶ丘中学校の理事長が開いた私塾の校舎でね。そこを3年E組の校舎として再利用してるみたい」

 

 成る程、あの古い木造の建物は旧校舎になるワケか。

 受かったら通うのが大変だな。

 

「まあ、ここで話してても仕方ないし、さっさと編入試験でも受けに行くか。早くしないと何らかの数式を忘れそうだしな」

 

 そう言って俺はあかりを連れて校舎に入ると、受付で編入試験を受けに来た事を告げた。すると試験を行う教室まで案内してくれた。

 プレートに会議室と書かれた教室の扉を開けて、椅子に座り鞄から参考書を取り出してあかりに教わりながら最期の追い込みを掛ける。

 しばらくして教室に教師がやって来たため、参考書を鞄に入れて筆記用具を机に取り出した。

 

「試験監督をする大野だ」

 

 そう言って大野という教師から日程と試験に関する簡単な説明を受けた。

 それによると筆記試験は主要5科目で数学、英語、理科、社会、国語の順番で受けるらしく、それが終わった後に面接という流れだ。

 昼食も理科の試験が終わった後に各自で持参した弁当を食べる事になっている、そのため俺の鞄には姉さんが作ってくれた弁当が入っている。

 本当はあかりが作りたかったらしいが、試験を受けるあかりに作らせるワケにはいかないとかの理由で姉さんが作ったらしい。

 

「──よし、粗方の説明は終わったからな。これから試験だ。頑張れ」

 

 その言葉と共に大野は数学の試験を配った。

 さて、せっかくこの数日間、あかり先生とイリーナ先生に教わったんだ。ちゃんと受からないとな。

 そう思いながら俺は数学の試験に取り掛かった。

 

 

 

 試験と面接が受け終わったあと、俺達は椚ヶ丘中の校舎を出た。

 終わったら連絡しろと言われてたため、既に姉さんには連絡済みだ。

 その姉さんが来るまで、俺とあかりは椚ヶ丘中の校門前で会話をしながら待っている。

 

「キーちゃん。試験の手応えは?」

「面接以外は何とかなったと思う。解答用紙は全部埋めたしな」

「まあ、それが合ってるかどうかは別だけどね」

「不安になる事を言うな。お前に俺に受かって欲しいのか落ちて欲しいのかどっちだ」

「もちろん受かって欲しいよ。だけど同じ試験を受けて分かったんだ、キーちゃんが受かるかどうか微妙な事に……」

「やっぱりか……」

「でもまあ、キーちゃんが何とかなったって言うなら、その言葉を信じるのが幼馴染みの私の役目だもんね」

 

 そう言ってあかりは両手を胸の前で握り締めた。

 その時、校門前の道路脇に姉さんが運転するフェラーリが停まった。それに乗った俺とあかりは姉さんが夕飯は外食にするとの事で、夕暮れ時の椚ヶ丘市内へと向かうのだった。

 

 

 




捕捉ですがあかりがイリーナを呼ぶ時の『リナ姉』は、セツ婆ちゃんがイリーナを『リナ』と呼ぶところから来てます。
従ってあぐりさんはイリーナを『リナちゃん』と呼んでいます。
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