「ニーナの機体は⋯⋯ああ、あん派手な機体がそうだっちゃか」
「⋯⋯?」
え、派手?というか機体?
ニーナさんも知らないことなのか、首を傾げていると、突き当たりの扉で、ド・スさんは腕に付けていた装置を扉脇のスキャンに翳す。すると、扉は重い音を立てながら、横に開いていった。
「⋯⋯っ!」
「よう来た。ここが、わしらの職場テクノクラートのネクストガレージじゃ」
ニーナさんの息を呑む声が聞こえる。そこでは、作業着姿の人が数十人くらい忙しなく動き回っていた他、稼動している機械がいくつも視界に映り込んできた。
その中でも、一際目を引くのが、巨大な人型だ。
「整備長、わしのスタルカと、ニーナ⋯⋯この嬢ちゃんのネクスト、行けるか?」
「おお、ド・ス! 遅いじゃないか、待っていたぞ」
ド・スさんが、すまんすまんと詫びを入れると、作業着の人の中でも全く違う貫禄を纏った整備長と呼ばれた老年の男性は、ド・スさんの後ろで待つ俺を見て、次いで品定めするかのような視線を送ってくる。
「嬢ちゃんが、うちの新しいリンクスか。出来るんだろうな?」
「っ⋯⋯もちろん⋯⋯!」
ニーナさんの力強い肯定に、満足したのか、整備長さんはニーナさんに向けていた視線を、後ろの人型へと向けた。
そこには、丸みを帯びた独特な赤いマシン。そして、その隣には⋯⋯。
「あれが、嬢ちゃんのネクスト『プリンテッサ』だ。スパルタクの小僧がアーキテクトを務めているが、まあ、出来は保証する」
「⋯⋯プリンテッサ」
プリンテッサ、ピンクを下地に黒や黄色で塗装されたそのマシン。マシンにしてはかなり派手な塗装が施され、その姿は、まるで少女の描くような絵に登場するお姫様のようである。肩には、翼の生えたピンク色の猫と同色のベルのエンブレムが刻まれている。
噛み締めるかのようにその名前を呟く。唐突だが、俺はロシア語をかじっていたことがある。いや、若気の至り的な何かで取り憑かれたかのようにドイツ語やロシア語の単語を調べていたのだ。
俺の恐らく若かりし頃の遺産の中に、その単語の意味はあった。
「お姫様⋯⋯まあ、あいつらしいネーミングだ。嬢ちゃんの趣味に合うかは分からんがな」
「はよ乗らんかえ、敵はまっちゃくれん。うちが零細だからって好き勝手しおってからに⋯⋯」
ド・スさんの急かす声に押され、ニーナさんは、ガレージに併設されている昇降装置に飛び乗ると、手早くピンク色のその機体のコックピットに乗り込んだ。
プリンテッサはもう既に起動しており、あたかも、俺を、ニーナさんを待っていたかのようであった。
首元に植え付けられた装置にコックピットの背もたれから伸びるコードを指すと、ふわっとした感覚と、ナニカを介して私の意思がこの機体、プリンテッサに流れていくような錯覚に襲われる。
そして、プリンテッサのモニターに、リンクス照合完了、カラードランク34、ニーナ・A・レシャノフの文字が浮び上がる。なるほど、よく分からない。いや、恐らくこのカラードランクというのが、ニーナさんのリンクスとしての格付けのようなものなのだろう。34が、そのリンクスとして高いのか低いのかはさておき。
『ニーナ、行けるな?』
「⋯⋯はい、行けます」
『ニーナにとっての初陣じゃけんのう、力抜いてき。わしが前衛はっちゃるけえ』
ド・スさん、すげえいい人。なんだろう、くたびれた人特有の頼りになる感じ。すごい。俺には絶対にないものだ。まあ、そもそも俺がニーナさんの身体に、その行動や雰囲気に俺として干渉できるのか微妙なところだが。
『敵は、いつものでええんか?』
『ああ、いつものBFFの連中だ』
「BFF?」
おっと、知らない単語だったが、ニーナさんも知らなかったらしい。ド・スさんが説明を入れてくれる。
『BFF得意のノーマル部隊じゃ。わしら、ネクスト乗りからすれば大したことは無いんじゃが、如何せん、テクノクラートのノーマル部隊は練度が低い。奴らの方が圧倒的に強い⋯⋯ノーマルはな』
「⋯⋯それで、私達が排除をする、ということですね⋯⋯」
『そうじゃ。イクバー⋯⋯アルゼブラ、うちらテクノクラートの親会社じゃな。それと仲の悪いGA。その傘下のBFFのことじゃ、わしらんところにちょっかいかけて来よっても不思議じゃないけぇ』
なるほど。GAと仲の悪いアルゼブラ社の子会社的立ち位置であるこのテクノクラート社に、GA傘下のBFF社がちょっかいかけてきてるってことか。
なるほど、ドロドロとしているなぁ。いやまあ、企業間の争いには、何となく懐かしさを感じるから、俺の過去もそうなんだろう。きっと、企業の尖兵としてなにかしていたはずだ。おそらく、平和なことだろうけど。
「⋯⋯」
『怖いか? じゃが、それも直にのうなる。慣れっちゅうんは、恐ろしいもんじゃが、同時にありがたいもんじゃけぇのう』
黙ってしまったニーナさんに気が付き、すかさずフォローを入れるド・スさん、まじで先輩。モニターに移るニーナさんの表情が少しだけ明るくなったように感じる。
「頑張ります」
『おう。最悪、わし一人で終わらしちゃるけえ、ニーナは援護に徹してくれたらそれで構わん』
その言葉を聞き終わる頃には、プリンテッサとスタルカに装備が取り付けられていた。
――――――
「敵ネクストが出張ってくる前に撤退するぞ。分かったな」
『了解です』
視界を遮るほどの雪が降る中で、十にも登るであろう数の人型が雪の降り積もった台地を滑走していた。
前回の襲撃時は、急行してきたド・スにより、半数が撃墜された。しかし、こうして何度目かのテクノクラート本社へ襲撃を仕掛けているのは、何も徒に戦力を減らすためではない。
「地形把握の為とは言え、相手の独壇場で作業をするのは落ち着かん」
『それでも、地形を完全に把握出来さえすれば、奴らの本社襲撃にかなり役立つはずです』
分かってはいるが、納得は行かない。こうして、小さな作業をする中で、何人もの同胞が風穴を開けられているのだ。納得出来るわけもなかった。
そんなことを考えていたからであろうか。己の機体内でけたたましくなり始めたアラートに気が付くのが遅れ―――。
『隊長!!』
『───ハラショオ!!』
男は、間一髪のところで助かることが出来た。己を突き飛ばすことで助けた、まだ若い青年ノーマル乗りは、飛来したロケット弾の爆発に巻き込まれ爆散する機体と運命を共にすることとなった。掛け声を上げながら突撃してきたのは、赤いネクスト。
「くそ、全員撤退だ!」
『ですが!?』
『撤退させる思うちょるんか? だとしたら、うちも舐められたもんじゃのう』
撤退に否定的な隊員の声を遮り、男の声が無線に入る。
無線から聞こえるその声には、強い憎悪のような何かが篭もっている。仲間を殺した下手人は、まだまだ物足りないようであった。
「俺と数人は残れ。時間を稼ぐ」
『了解!』
隊長が、そう言うや否や、即座に残る判断を下した数機のノーマルが、右手に持った武装を構えて赤いネクスト、スタルカへと銃口を向ける。その判断の速さは、訓練されているだけあり流石と言える。
そして、引き金を引こうとしたその瞬間、数機のノーマルに弾丸の雨が降り注いだ。
「ぐぅっ!?」
『うわぁぁ!』
『良い判断じゃ、ニーナ』
そして、体制を崩した隊長機目掛けて、スタルカの右手に装備された突起のある特殊な形をした武器パイルバンカーが射出された。
『⋯⋯殺った』
パイルバンカーに貫かれる直前に見えたのは、今、己を殺そうとしている赤い機体と、その後ろで二丁のマシンガンを構えるピンク色の派手な機体であった。
――――――
「悪くない戦果じゃが、次は、もう少しニーナも働かんとなぁ」
「⋯⋯はい」
ド・スさんの指摘にしょんぼりとするニーナさん。まあ、ただ闇雲に撃ってただけだしなぁ。
だが、そんな様子のニーナさんを見兼ねたのか、その頭に、ポンポンと手が置かれる。
「じゃが、悪くない。わしなんて、直ぐに超えてける」
「⋯⋯頑張ります、おじさん」
その返事に、ド・スさんはニカッと笑った。
それにしても、アレ、給料は出るのだろうか。個人的に、ニーナさんにはもう少し知識面について探求して欲しい。主に俺の情報収集の為にも。
これまでで分かったことだが、やはりというか、足りない。情報が足りなさすぎる。そもそも、まだ何も試していないのでなんとも言えないのだが、俺とニーナさんの関係についても確かめたい。
そんなことを考えながら、俺はド・スさんと談笑するニーナさんについて思考を張りめぐらせるのであった。
やっぱり、長く空いた分、書くのが難しくなってる。
下記、ニーナの機体。作者はフロム脳という程では無い⋯⋯ですので、あまり詳しくはありませんが、雰囲気は出せてるんじゃないかなぁ⋯⋯とは。
ネクスト プリンテッサ
アーキテクト スパルタク・N(ニキーティチ)・フィロワ
テクノクラートのアーキテクト兼エンジニアであるスパルタクによって手掛けられた一機
その派手なピンク色の塗装は、否が応でも目を引く
マシンガン二丁にロケット、レーダー装備というバランスの良い構成をしており、格納武装であるハンドガンは余程のことがなければ、日の目を見ることは無いだろう
右腕 VANDA
左腕 CANTUTA
右肩 CP-51
左肩 RDF-O200
エクステ 無
右格 LARE
左格 LARE
頭部 EKHAZAR
コア SOLUH
腕部 EKHAZAR
脚部 SOLUH
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