ハラショー!   作:尺一啓司

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割りと早く書けたので直ぐに投稿。それにしても、独自解釈と独自設定のオンパレード。


ハラショーその3

「はぁ⋯⋯」

 

ため息をつきながら、ニーナさんは、自分に与えられた一室にある簡易ベッドに座って、天井を見上げた。

どうしたのだろうか。初陣もあの調子であったのだ。別段、悩むこともないだろう。それとも、今後についてだろうか?いや、押し寄せるかのごとく休み無しに色々あったから、単純に疲れただけというのもありえるが。

 

「⋯⋯どうしよう」

 

いや、何か悩みがあるらしい。だが、自分に何か出来ることはあるのか?いや、試してないから分からないが、俺には何が出来るんだ?

⋯⋯試すか。

俺は、そう考えると、いろいろなことを念じてみる。喋りかけたりするのは勿論、肩を揺らすイメージや乗り移るイメージなど、普通なら考えもしないだろうことを色々実践してみたのだが⋯⋯。

 

「取り敢えず、歩き回ってみよう⋯⋯晴れるかもしれない」

 

何も効果はなかった。もう一度言おう。何も効果はなかった。

あれ?俺の存在意義って何?実体無いけど、涙出そう。

ニーナさんは、まだ借りていた上着を着ると、ドアを開けてコンクリート張りの通路に出る。なんと言うか、この会社、本当に味気無い内装をしている。ともすれば、初見では会社とは思えない。どちらかと言えば、まるまるテナント募集中の窓のひとつもないビルと言った感じだ。いや、分かりにくいかこの例え。生憎と、語彙力はあまり無いようなそんな平凡以下な人間であったという覚えも、微かにだがある。出来ることなら、この微かにあるものを逐一メモしたいのだが、それは出来ない。

考えている俺を他所に、ニーナさんはスタスタと直進していく。この道は、ガレージの方だったか?さっきも通ったので、覚えていた。ニーナさんは、ガレージになんの用があるのだろうか?

 

「⋯⋯あ」

 

そして、ガレージへの扉の前で、正確にはスキャンの前で、呆然と立ち尽くすことになる。ああ、そうか。ニーナさん、持ってないのね、あのド・スさんが首からかけてたやつ。

立ったまま、どうしようかと考えるニーナさん。そんな時、後ろから声がかけられた。若い男の声だ。

 

「おや、キミは確か⋯⋯」

「⋯⋯私、ですか⋯⋯?」

 

向こうは覚えがあるらしいが、ニーナさんは欠片も知らないらしい。右手にアルミのカップを持って、作業着を着ているその姿は、整備長さんや他の作業員の人達と似た雰囲気だが、かなり爽やかであった。なんだろうか、言い表すならばイケメンと言うやつだな。端的に言えば。

その彼は、にこりと微笑みかけながら、ニーナさんの様子から事態を察する。

 

「なるほどね。まだ、これ配られてないんだ」

「⋯⋯はい」

 

そう言って、首からかけたカードをピラピラとさせる彼は、つかつかと質素なブーツを鳴らしながら、スキャンの前まで歩き、そのカードを照合した。扉は、ド・スさんの時と同じように簡単に開く。

 

「それで?ニーナちゃんは、なんの用事があったの?」

「⋯⋯ニーナちゃん⋯⋯」

「あれ? ニーナちゃんで合ってるよね? ニーナ・A・レシャノフちゃん。長いし、フルネームだと同じ職場で働く同僚にしては堅苦しいでしょ? うち、男世帯だしさ」

 

やけに馴れ馴れしいタイプだ。軽薄なタイプはあまり好きじゃない。それはニーナさんも同じであったようで、突然のちゃん付けに困惑、というか嫌悪感を隠せないらしい。

だが、そんな雰囲気も無視して、男性は話を続ける。

 

「僕はスパルタク、スパルタク・N(ニキーティチ)・フィロワだ。そうだね、スパルタクと気軽に呼んでくれ。それか、お兄さんでも良いよ」

「じゃあ、おじさ「スパルタクで」スパルタクさん⋯⋯」

 

彼は、己のことをスパルタク・N・フィロワと名乗った。フルネームはともかく、その名前には聞き覚えがある。整備長さんが言うには、ニーナさんの機体、プリンテッサのアーキテクト、設計者だったはずだ。それはニーナさんも覚えていたのか、律儀にも、彼女はぺこりと頭を下げる。

 

「礼はいいよ。僕だって、たまたま機体が流れてきたもんだから、ちょっと組んでみただけさ。まあ、天才だしね僕。あのアブなんちゃらには劣らないよ」

「はぁ⋯⋯」

 

そのアブなんちゃらさんについては知らないが、ライバル意識を持っているらしい。過去に何かあったのだろうか。口振りからするに、そのアブなんちゃらさんもアーキテクトのようだが。

まだ話し続けていた彼は、それが、と続けると、値踏みするような目でこちらを見てくる。ちょっと怖い。

 

「まさか、キミみたいな才能ある第四世代の子に使ってもらえるとは思わなかったよ。なんだかんだ言って、適正の高い子は珍しいしね。君のちょっと前にBFFに加わった⋯⋯マイソフォビアくん?だったかな。彼も適正はあるっぽいけど、がっつり敵だしさ。キミには感謝してるんだよ? プリンテッサも、日の目が見れて喜んでると思う」

「⋯⋯」

 

なるほど、色々あるのだな。アーキテクト、とりわけエンジニアとしては技術的にさらなる高みを目指したいものなのだろう。違うかもしれないが、自分の作ったものが日の目を見ることなく消え去っていくのは悲しいものがある。やっぱり、良い人じゃないかもしれないけど、悪い人でもなさそうだ。

 

「まあ、これからはキミの相棒だ。大切にしてやってくれ」

「わかりました」

 

それだけ言うと彼は、じゃあね、と言葉を残してニーナさんに背を向けて行った。後ろ手に手を振る姿は、確かに天才的だ。

 

「⋯⋯あ、おじさんの場所聞き忘れた」

 

なるほど。ニーナさんは、ド・スさんを探していたのか。いや、でも間違ってないけど本質的には違う気がする。

すると、今度は彼女の前を先程見た老年の男性、整備長さんが通り掛かる。彼は、ニーナさんを一瞥すると、直ぐに興味を失ったかのようにまた歩き出すが、ニーナさんが引き止めると立ち止まった。

 

「何だ、嬢ちゃん。ド・スの奴なら、今ここには居ねえぞ」

「⋯⋯あ、えっと⋯⋯」

 

よく分かったな。要件を言い当てられて困惑を隠せないニーナさんを無視して、彼は言葉を続ける。

 

「あいつなら、今頃は上にいるだろうさ。取り敢えず、エレベーターで一番上まで行ってみな」

「⋯⋯ありがとうございます⋯⋯!」

「気にすんじゃねえ。あいつもあいつで、後輩なんざできちまってよぉ。あいつなりに思うところがあるのさ」

 

そういうものなのか。俺にはわからないな。後輩なんて出来た試しも無いんだろう。どうにかして、記憶を取り戻したいのだが、現状では何をすれば良いのか、皆目見当もつかない。今出来ることはと言えば、こうしてニーナさんの内側で情報を集め考察し思考して施行することくらいしかない。

この不可思議な現状も、この俺からすれば謎多き世界も、何とかしてそれなりには把握しなければ。そして、俺が居る意義も。

そう考えていると、いつの間にかニーナさんはエレベーターに乗っていたらしく、そろそろ最上階、屋上に着くらしいことが分かった。

エレベーターが登り切ったことを示すガシャンという音と、到着を示す音が鳴るとゆっくりと扉が開き始める。そして、そこでニーナさんを待っていたのは、今まさにエレベーターを待っていた様子のド・スさんであった。

 

「⋯⋯おじさん」

「⋯⋯ニーナか。なんや、わしを探しとったんか?」

 

彼の問いにこくりと頷くと、ド・スさんは頭を後ろ手にひと掻きし、背を向けて歩き出す。それは、着いてこいということなのだろうか。ニーナさんは、置いてかれまいと、彼の背中を小走りに追いかけた。

彼が、扉を開くと、そこには一面ガラス張りの一室があった。

外からはガラスの壁へと吹雪が吹き付けているのが見えるが、中は不思議と快適な温度に保たれている。観葉植物があり、小さな水路に水が流れていた。数台設置されているベンチのひとつにでも座りながら、あれらを眺めれば、多少はこの雪景色を忘れられるかもしれない。

 

「ここは⋯⋯」

「ここは、わしがまだリンクスじゃなかった頃、ここでリンクスをしちょった男が大金叩いてうちの会社の上に無理言って作った場所じゃ」

「⋯⋯」

 

はぁ⋯⋯リンクスなら、こんなことが出来ても不思議じゃない⋯⋯のか?だが、大金を叩いて無理言ってまでこんな所を作るなんて、その人も物好きなんだな。

 

「あの人は、まあ変わっちょったが、人は良いし、今の時代にゃ珍しいくらいの祖国思いな人での。それは、それは大層祖国の為と言いながら身を粉にして働いちょった」

「⋯⋯」

 

祖国思い⋯⋯か。普通だと思う俺がおかしいのか、どうなのか。この世界じゃ、案外国はなかったりして⋯⋯な。まあ、そんなことは無いだろう。

だが、そういう話し抜きにしても、その人は高潔な人だったんだろう。だからか、変わっていたと言われようとも、俺はなぜだか尊敬したい気分に駆られた。

 

「その人は⋯⋯どうしたんですか⋯⋯?」

「⋯⋯まあ、わしらの運命っちゅうやつじゃ。アナトリアの傭兵。わしがまだまだ若かった頃、奴の名を聞かない日はなかった程の男。奴は強かった」

「アナトリアの⋯⋯傭兵」

 

アナトリアの傭兵。聞き覚えがある。だが、なんだったか⋯⋯駄目だ。思い出せない。だが、分かる。その人は、アナトリアの傭兵に討たれたのだろう。まだ、この世界について把握出来ていないが、リンクスは己より強いリンクスに討たれるのが運命みたいなものなのだろう。

ニーナさんは、その名前を忘れまいと何度か繰り返し呟いた。

 

「そんで? ニーナはわしになんの用だったか?」

「あの、これ」

「⋯⋯? ああ、上着か。忘れておった。戦いの後は、身体が熱くての。どうも、適性が低いとこうなるらしいのじゃが」

 

そこまで言うと、彼はニーナさんのおでこに手を当てた。熱い。すごい熱い。でこぼことした力強く大きな手は、まるで熱した鉄のごとく暖かかった。

 

「ニーナは⋯⋯冷たいのう。これが、適正、才能の差っちゅうやつか」

「⋯⋯」

 

彼は、徐ろに立ち上がるとその場を後にしていった。

あの言葉に、ニーナさんは何も返すことが出来なかった。

 

 




オリジナルリンクスについては、あまり出番はないです。それと、34が主人公、33、32、31にオリジナルリンクスが入る予定です。首輪付きさんのいない分の依頼を4人で分割しようかな⋯⋯と。いや、十中八九首輪付きさん出すんですけどね(殴
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