グラブルオルガ   作:ししゅう

2 / 2
トリプルゼロ300年前に終わってるんだが???


フェイトエピソード 光をもたらす者

「――紳士淑女の皆様! ご静粛に! 今宵お集まりいただいた皆様にご覧に入れますのは、かのおぞましき伝承――この空の底――『赤き地平』の真実の物語に、ございます……!」

 

 

 ある劇場の興業が評判を呼んでいると聞き、観劇に訪れたグランたち鉄華団。結果、青の少女・ルリアは恐怖のあまり表情をなくし、赤き子竜・ビィを抱き寄せている。劇の題材が『空の底』にまつわる言い伝えを題材にした、恐ろしいものであったからだ。

 

 

 ――曰く、空の底に踏み入り、生きて戻った者はいない。

 ――曰く、空の底にはこの世のものではない化け物が跋扈している。

 ――曰く、空の底の住人は空の世界を熟知している。

 ――曰く、彼らは悪しき人間を唆し、空の世界を掌握せんと企てている――

 

 

「はわわわわわ……! すすすすごかったですねねねね……!」

 

「ふ、ふん! あんなの子供だましじゃない! ぜ、全然、怖くなんか……!」

 

 魔法使いの少女イオは強気にふるまっているが、声は震えており、彼女もルリアと一緒になってビィを離さないのだった。二人に強く抱きしめられ、ついにビィは音を上げた。鉄華団団長の片割れ・オルガはそんなビィの身を案じる。誰かが死にそうになっていると、人事とは思えない男であった。操舵士兼"騎空挺グランサイファー"のオーナー・ラカムは少し振りの煙草に火をつけ、少女二人の様子をからかう。

 

「うぇえ……気持ちワリィ……! 二人とも、いいかげんオイラを離してくれよぉお……」

 

「勘弁してやれよ……」

 

「おーおーすっかりビビっちまって。お子様には、ちと刺激が強すぎたみてぇだな?」

 

「ミカ、お前はどう思う」

 

「別に。でも、俺達の邪魔をするなら全部潰す」

 

「ははは……ミカヅキは頼もしいなあ」

 

 オルガからの問いに()る気満々な答えを返す遊撃隊長・三日月に、グラン団長は苦笑した。ラカムはルリアやイオに言って聞かせるように続ける。

 

「ま、あり得ねぇだろ実際。例えば"誰も生きて戻らなかった"って話があったが、だったら何でこの下の世界がバケモンの巣窟だって分かんだよ?」

 

「あっ……!?」

 

「ガキのための寝物語みてぇなもんだろ。悪いことすっとバケモンが来るぞ~! ってな?」

 

 

 

「――それが、そうとも言い切れないのですよ」

 

「へ……?」

 

「は??」

 

 聞き慣れない(聞き覚えのある)声が、ラカムに異を唱えた。

 

「古より受け継がれし伝承は、必ず、真実を含むもの……」

「もっとも、未来を見通す力を持つのは人のうち、ごく限られた者に過ぎません」

「そして、僅かに断片を知りえたとしても人の一生では、その全容に迫ることなどとてもできはしない……」

「そのはずでした。これまでは……」

 

 声の主は、ぞっとするくらい顔立ちの整った青年だった。背中に一対の小さな翼の飾りを付けている。

 劇場の暗闇から現れた白髪の青年は、ゆっくりと、グランに歩み寄った。

 

「かつて、これほど核心に迫った物語が作られたためしはない……」

「この世界が生まれて、それだけの時が流れたということでしょう」

 

 憂いを帯びた顔で、青年はグランに手を差し伸べる――

 

「この世界に、危機が迫っている……」

「君が望むなら、私は、世界の真実を教えよう……グラン」

 

 ――人であふれるロビーに、静寂が満ちた。

 

「マクギリスじゃねぇか……」

 

「チョコの人か。なんで羽ついてんの?」

 

「な、なんだ、オルガ達の知り合いか? しかし見事なもんだな! 兄ちゃん、ここの役者か?」

 

「ほんと! まだお芝居が続いてるのかと思っちゃった!」

 

「芝居……? いえ私は……」

 

(この人、僕の名前を……)

 

 オルガや三日月は青年を知っているようだった。仲間の知り合いと知り、ラカムとイオは青年に歩み寄った。いきなり名を呼ばれ、訝しむグランだけが緊張を解かないでいた。グランは青年を問いただそうとするが、何か言う前にさらに何者達かに割り込まれた。

 

「――ちょっと待ちな! アンタ役者志願かい? アンタならすぐに打ちの花形になれるぜ……!」

 

「おい引っ込んでな! そいつはこっちが先に目をつけたんだ……!」

 

「何ぃ!?」

 

 

「なんて美しいお方……! お近づきの印しにぜひ、このお花を……!」

 

「いいえ、どうか、こちらの細工物をお取りになって? ……そんなもの押し付けようなんて厚かましい方ですこと……!」

 

「なんですって……!?」

 

 

 

「うわぁ……あっちこっちでつかみ合いが起こってるぜ……」

 

「ケンカか?」

 

 あっという間に、青年を中心に、劇団の座長たちが、観劇に来た娘たちが、人々が争いを始めた。呆然と見守るグランたち。しかし……

 

「――おやめください!」

 

「おい、兄ちゃん、まさかみんなを止める気かぁ?」

 

「いや、聞くわけねぇだろ。ありゃ全員、完全に頭に血が上っちまってんぞ……」

 

「ううん、見て! みんな、あの人の話すっごく真剣に聞いてる……!」

 

「「なんでだよ……」」

 

 ビィはこの混沌とした状況に口を挟む青年の度胸に面食らった。ラカムも無駄だと断ずるが、本当に再び静まり返る人々に、オルガとともにあきれ返るしかなかった。

 

「聞け! ギャラルホルンの諸君! 今、300年の眠りから、マクギリス・ファリドの下に……バエルは蘇った!!」

 

 

「……、ハァ……」

 

 いつの間にか顕現していたガンダム・フレームシリーズの一柱、ガンダム・バエル。唐突に始まった青年もといマクギリスの演説に、オルガはうんざりといった様子で額を押さえ、空を仰いだ。

 

「ギャラルホルンを名乗る身ならば、このモビルスーツがどのような意味を持つかは理解できるだろう」

「ギャラルホルンにおいて、バエルを操る者こそが、唯一絶対の力を持ち……その頂点に立つ!」

「席次も思想も関係なく……従わねばならないのだ! アグニカ・カイエルの魂に!」

 

 再び、静寂が落ちた。そして……

 

 

「……せぇいっ!」

 

「せぇいっ!」

 

「うう”っ」

 

 

「このっ! このっ!」

 

「きゃあっ! ……やったわね!?」

 

「うう゛う゛ぁァァァァ!!」

 

 

 何事もなかったように人々はまた争い始め、オルガは都合2回自動復活した。

 

「うわぁ……なんだよ、これぇ……」

 

「バエルを持つ私の言葉に背くとは」

 

 マクギリスはなぜバエルの威光が通用しないのか分からず、顔をしかめた。"ギャラルホルン"、"アグニカ・カイエル"、"バエル"――空の民にとって初めて聞く単語だらけゆえに、仕方のないことである。……先程までの神秘的な雰囲気はどこにやってしまったのだろうか。

 

「さて、と……帰るか」

 

「うん」

 

「えぇっ!? この人たちはどうするのよ!?」

 

「ほっとけほっとけ! 俺はオルガに賛成だ。巻き込まれるだけ損だぜ」

 

「俺は、もう巻き込まれたぞ……!」

 

 

 オルガの提案を受け、一行は未だ騒然としている劇場を後にする。

 そのときグランは、群衆の中からハッキリと、あの青年の声を聞いた。

 

「待つんだ! 君たちは、知らなければならない……!」

 

 

 

 

 

「アグニカ・カイエルの思そ――」

 

 ――聞こえなかったことにした。




「はーいそれじゃ定例MTG(ミーティング)始めちゃいまショータイム!」

「「ウェーイ!!」」

「つーわけで今回の議題はアレよ、グラサイメンバーの中でもとりわけ《濃い》3人の呼び方な」

「オルガダンチョはやっぱ"オルガダンチョ"だよなー!」

「つかつかぁ、は? ローアインおめ、ミカヅキさんを"ミカヅキさん"以外で呼べるんか? 最初から議論の余地ねーから」

「っせーわダボ! じゃ聞くけどトモちゃん? おめーバエル推しのあの人、なんて呼んでるよ?」

「「それな」」

「……定石どおりにいけば"マッキー"だべ?」

「なんの定石だバカ。つかマキラちゃんとダダかぶりしてっぞ」

「あーそーなんだよなー! "マーさん"ってのも考えたんだけどどっかシックリこねーし」

「っべーわこれデジャヴってんぞ……わーさん時もこんなことあったわDoすんだオイ!」

「……! おっおっお~? ピッカン来たわコレ!」

「「エルっち!?」」

「確かあの人、家名あったじゃん? ホラ演説してるときチラッと!」

「あー、そーいやあったわ。……なんだっけ」

「たしか……? マクギリス・"ファリド"……?」

「「「……」」」







「 「 「 フ ァ ー さ ん 」 」 」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。