「――紳士淑女の皆様! ご静粛に! 今宵お集まりいただいた皆様にご覧に入れますのは、かのおぞましき伝承――この空の底――『赤き地平』の真実の物語に、ございます……!」
◇
ある劇場の興業が評判を呼んでいると聞き、観劇に訪れたグランたち鉄華団。結果、青の少女・ルリアは恐怖のあまり表情をなくし、赤き子竜・ビィを抱き寄せている。劇の題材が『空の底』にまつわる言い伝えを題材にした、恐ろしいものであったからだ。
――曰く、空の底に踏み入り、生きて戻った者はいない。
――曰く、空の底にはこの世のものではない化け物が跋扈している。
――曰く、空の底の住人は空の世界を熟知している。
――曰く、彼らは悪しき人間を唆し、空の世界を掌握せんと企てている――
「はわわわわわ……! すすすすごかったですねねねね……!」
「ふ、ふん! あんなの子供だましじゃない! ぜ、全然、怖くなんか……!」
魔法使いの少女イオは強気にふるまっているが、声は震えており、彼女もルリアと一緒になってビィを離さないのだった。二人に強く抱きしめられ、ついにビィは音を上げた。鉄華団団長の片割れ・オルガはそんなビィの身を案じる。誰かが死にそうになっていると、人事とは思えない男であった。操舵士兼"騎空挺グランサイファー"のオーナー・ラカムは少し振りの煙草に火をつけ、少女二人の様子をからかう。
「うぇえ……気持ちワリィ……! 二人とも、いいかげんオイラを離してくれよぉお……」
「勘弁してやれよ……」
「おーおーすっかりビビっちまって。お子様には、ちと刺激が強すぎたみてぇだな?」
「ミカ、お前はどう思う」
「別に。でも、俺達の邪魔をするなら全部潰す」
「ははは……ミカヅキは頼もしいなあ」
オルガからの問いに
「ま、あり得ねぇだろ実際。例えば"誰も生きて戻らなかった"って話があったが、だったら何でこの下の世界がバケモンの巣窟だって分かんだよ?」
「あっ……!?」
「ガキのための寝物語みてぇなもんだろ。悪いことすっとバケモンが来るぞ~! ってな?」
「――それが、そうとも言い切れないのですよ」
「へ……?」
「は??」
「古より受け継がれし伝承は、必ず、真実を含むもの……」
「もっとも、未来を見通す力を持つのは人のうち、ごく限られた者に過ぎません」
「そして、僅かに断片を知りえたとしても人の一生では、その全容に迫ることなどとてもできはしない……」
「そのはずでした。これまでは……」
声の主は、ぞっとするくらい顔立ちの整った青年だった。背中に一対の小さな翼の飾りを付けている。
劇場の暗闇から現れた白髪の青年は、ゆっくりと、グランに歩み寄った。
「かつて、これほど核心に迫った物語が作られたためしはない……」
「この世界が生まれて、それだけの時が流れたということでしょう」
憂いを帯びた顔で、青年はグランに手を差し伸べる――
「この世界に、危機が迫っている……」
「君が望むなら、私は、世界の真実を教えよう……グラン」
――人であふれるロビーに、静寂が満ちた。
「マクギリスじゃねぇか……」
「チョコの人か。なんで羽ついてんの?」
「な、なんだ、オルガ達の知り合いか? しかし見事なもんだな! 兄ちゃん、ここの役者か?」
「ほんと! まだお芝居が続いてるのかと思っちゃった!」
「芝居……? いえ私は……」
(この人、僕の名前を……)
オルガや三日月は青年を知っているようだった。仲間の知り合いと知り、ラカムとイオは青年に歩み寄った。いきなり名を呼ばれ、訝しむグランだけが緊張を解かないでいた。グランは青年を問いただそうとするが、何か言う前にさらに何者達かに割り込まれた。
「――ちょっと待ちな! アンタ役者志願かい? アンタならすぐに打ちの花形になれるぜ……!」
「おい引っ込んでな! そいつはこっちが先に目をつけたんだ……!」
「何ぃ!?」
「なんて美しいお方……! お近づきの印しにぜひ、このお花を……!」
「いいえ、どうか、こちらの細工物をお取りになって? ……そんなもの押し付けようなんて厚かましい方ですこと……!」
「なんですって……!?」
「うわぁ……あっちこっちでつかみ合いが起こってるぜ……」
「ケンカか?」
あっという間に、青年を中心に、劇団の座長たちが、観劇に来た娘たちが、人々が争いを始めた。呆然と見守るグランたち。しかし……
「――おやめください!」
「おい、兄ちゃん、まさかみんなを止める気かぁ?」
「いや、聞くわけねぇだろ。ありゃ全員、完全に頭に血が上っちまってんぞ……」
「ううん、見て! みんな、あの人の話すっごく真剣に聞いてる……!」
「「なんでだよ……」」
ビィはこの混沌とした状況に口を挟む青年の度胸に面食らった。ラカムも無駄だと断ずるが、本当に再び静まり返る人々に、オルガとともにあきれ返るしかなかった。
「聞け! ギャラルホルンの諸君! 今、300年の眠りから、マクギリス・ファリドの下に……バエルは蘇った!!」
「……、ハァ……」
いつの間にか顕現していたガンダム・フレームシリーズの一柱、ガンダム・バエル。唐突に始まった青年もといマクギリスの演説に、オルガはうんざりといった様子で額を押さえ、空を仰いだ。
「ギャラルホルンを名乗る身ならば、このモビルスーツがどのような意味を持つかは理解できるだろう」
「ギャラルホルンにおいて、バエルを操る者こそが、唯一絶対の力を持ち……その頂点に立つ!」
「席次も思想も関係なく……従わねばならないのだ! アグニカ・カイエルの魂に!」
再び、静寂が落ちた。そして……
「……せぇいっ!」
「せぇいっ!」
「うう”っ」
「このっ! このっ!」
「きゃあっ! ……やったわね!?」
「うう゛う゛ぁァァァァ!!」
何事もなかったように人々はまた争い始め、オルガは都合2回自動復活した。
「うわぁ……なんだよ、これぇ……」
「バエルを持つ私の言葉に背くとは」
マクギリスはなぜバエルの威光が通用しないのか分からず、顔をしかめた。"ギャラルホルン"、"アグニカ・カイエル"、"バエル"――空の民にとって初めて聞く単語だらけゆえに、仕方のないことである。……先程までの神秘的な雰囲気はどこにやってしまったのだろうか。
「さて、と……帰るか」
「うん」
「えぇっ!? この人たちはどうするのよ!?」
「ほっとけほっとけ! 俺はオルガに賛成だ。巻き込まれるだけ損だぜ」
「俺は、もう巻き込まれたぞ……!」
オルガの提案を受け、一行は未だ騒然としている劇場を後にする。
そのときグランは、群衆の中からハッキリと、あの青年の声を聞いた。
「待つんだ! 君たちは、知らなければならない……!」
「アグニカ・カイエルの思そ――」
――聞こえなかったことにした。
「はーいそれじゃ定例
「「ウェーイ!!」」
「つーわけで今回の議題はアレよ、グラサイメンバーの中でもとりわけ《濃い》3人の呼び方な」
「オルガダンチョはやっぱ"オルガダンチョ"だよなー!」
「つかつかぁ、は? ローアインおめ、ミカヅキさんを"ミカヅキさん"以外で呼べるんか? 最初から議論の余地ねーから」
「っせーわダボ! じゃ聞くけどトモちゃん? おめーバエル推しのあの人、なんて呼んでるよ?」
「「それな」」
「……定石どおりにいけば"マッキー"だべ?」
「なんの定石だバカ。つかマキラちゃんとダダかぶりしてっぞ」
「あーそーなんだよなー! "マーさん"ってのも考えたんだけどどっかシックリこねーし」
「っべーわこれデジャヴってんぞ……わーさん時もこんなことあったわDoすんだオイ!」
「……! おっおっお~? ピッカン来たわコレ!」
「「エルっち!?」」
「確かあの人、家名あったじゃん? ホラ演説してるときチラッと!」
「あー、そーいやあったわ。……なんだっけ」
「たしか……? マクギリス・"ファリド"……?」
「「「……」」」
「 「 「 フ ァ ー さ ん 」 」 」