シナリオブレイカー  ~警視庁特殊事案未然防止局~   作:アンギュラ

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さぁ!


壮大な冒険が始ま―――


最終回宣告

   + + +

 

 

 

突然だが、この世界には莫大な物語が存在する。

 

 

 

悲劇や喜劇――

 

 

 

時には大勢の人が死に、街が破壊し尽くされ、果てには銀河が丸ごと吹っ飛ぶ事さえ有るのだ。

 

 

 

 

これは、それらと密かに戦う者達の物語である!!

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

そして今ここにも、壮大な物語が始まろうとしていた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ~!遅刻!遅刻っ!」

 

 

 

 

 

ピンク色のツインテールと、セーラー服の上からでも誇張される豊満な胸の膨らみを盛大に揺らしながら、【大桃アヤカ】はパンを口にくわえて高校への登校を急いでいた。

 

 

両親の都合で転校を余儀なくされた彼女は、引っ越し作業の遅延によって寝不足となり、見事登校初日に寝坊すると言う失態を演じる事と相成ったのである。

 

 

 

 

(こっちの方が近道なのかなぁ。ちょっと狭いけど急いでるから仕方ないよね……)

 

 

 

 

彼女は路地に駆け込んで行く。

 

 

 

一方、学校の近くにある大通りを、学ランと首にマフラーを巻き、見た目は中肉中背でどこにでもいる平凡な高校生【西條トモヤ】はゆっくりと歩いていた。

 

 

 

 

 

因みに、両親は長期の海外出張中で、基本的には一人暮らしである。

 

 

 

そう……彼こそがこの物語の主人こ――

 

 

 

 

「遅刻!遅刻ぅ~!」

 

 

 

 

路地向こうからパンをくわえたアヤカが猛烈な勢いで突進してくる。

 

 

 

その速度は、彼女の様な可愛い系の女子が出せる領域を遥かに凌駕していた。

 

 

 

だがどういう事だろう。

 

 

 

トモヤはあれほどの存在感を放って猛進してくるアヤカの存在にまるで気づいていなかったのである。

 

 

尤も、繰り返す様だが彼は平凡な高校生なのだ。

 

 

 

 

二人の距離はみるみる縮まり、そして――

 

 

 

 

「うわぁ!」

 

 

 

「きゃうん!」

 

 

 

アヤカは盛大にぶつかって道に尻餅を付く。

 

 

当然だが、脚をM字のように開脚してパンツが露見した事は言うまでもない。

 

 

 

「あっててぇ!だよぅ~」

 

 

 

思った以上の痛みに、彼女の表情が苦悶に満ちている。

 

 

しかしそれでも、パンを口にくわえたままなのはプロ根性と言わざるを得ない。

 

 

 

そこへ――

 

 

 

「あの~大丈夫ですか?」

 

 

 

そこに優しく手が差し伸べられる。

 

 

 

「へ?あ、ありがと――」

 

 

 

 

これが二人の運命的な出会いに――

 

 

 

 

「えぇっ!!?」

 

 

 

アヤカは思わず面食らってしまう。

 

 

 

目の前にいたのは友也ではなく、黒いスーツに反射する眼鏡、そしてバーコードの様なハゲ頭をした¨中年のオッサン¨だったのだから。

 

 

 

 

唖然とする彼女に対し、中年の彼は頬を上気させて彼女から視線を反らした。

 

 

 

「き、君……その、あの~スカートがだねぇ……」

 

 

 

「へ?……キャアアア!」

 

 

 

アヤカの絶叫が、周囲にこだまし、辺りがざわめき始めた事に漸く気付いた友也は悲鳴のする方角へと顔を向けた。

 

 

 

 

「あ、あれはっ……!」

 

 

 

 

見れば、股をおっ広げた美少女とバーコード頭のオッサンが居るではないか――

 

 

 

 

彼には特別な力が備わっている訳ではない。

 

 

だが、人並み位の正義感なら持ち合わせているのだ。

 

 

(助けなきゃ!)

 

 

 

思わず駆け出していた。

 

 

 

 

「アンタ!一体その子に何を――」

 

 

 

ピィ~!

 

 

「!!?」

 

 

 

突然の笛の音にトモヤは思わず足を止めてしまう。

 

 

 

警笛をならしたのは近くを通りかかった制服の警察官であった。

 

 

 

 

「ちょっとちょっとちょっとぉ!あのね……アンタいい歳何やってんの!?犯罪だからねこれ!」

 

 

 

「え!!?ち、違う!私は、転んだこの子を助けようと――」

 

 

 

「居るんだよね~自分のやった犯罪を正当化する人って……犯罪者にはよくある心理だよ」

 

 

 

「違う!本当に違うんだ!ねっ!?君も何か――」

 

 

 

「あ~ダメダメ!暴れないで!続きは署で聞くから……ね?解るねぇ~?現行犯だから」

 

 

 

 

「誤解だ!私には妻も子供も居る!本当に違うんだ!」

 

 

 

「え~7時48分……強制猥褻と強姦致傷で逮捕。はいっ!手出してぇ」

 

 

 

「や、やめろ!」

 

 

 

「あっ!公務執行妨害も追加ね」

 

 

 

 

カチャ……!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

警察官は彼に手錠を掛けると、有無を言わさず近くに停めてあったパトカーに連行して行く。

 

 

 

「や、やめてくれぇ!」

 

 

 

「暴行、脅迫、監禁、強盗傷害、放火も追加ね~。アンタこのままだと一生出て来れなくなるよ?」

 

 

 

 

「放火は違うだろ!」

 

 

 

 

「あなたには黙秘する権利があります。あっ、あと弁護士を付ける権利もね……」

 

 

 

「横暴だあぁぁ!」

 

 

 

オッサンは絶望の悲鳴を発しながらパトカーと共に消えて行く。

 

 

 

一連の様子を見ていたトモヤは我に返り、アヤカの方へ顔を向けた。

 

 

 

彼と同じく呆気に取られた彼女は、未だ尻餅を付いたまま公衆の面前で縞パンを披露している。

 

 

 

(せ、せめて立たせてあげた方が良いよね……?)

 

 

 

頬を染めながら彼は再び彼女の下へと駆けて行く。

 

 

 

そう、これが真の二人の出会――

 

 

 

 

「大丈夫!?ほらっ!立って!」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

近くを通りかかった、別の女子生徒がアヤカを助け起こす。

 

 

 

 

(もういいや……学校行こ)

 

 

 

 

トモヤはそのまま学校への登校を再開したのだった。

 

 

 

   + + +

 

 

パトカーの中でオッサンが呟く。

 

 

 

「竹山君、そろそろ良いだろう。手錠を外してくれんかね?」

 

 

 

 

「はっ!失礼致しました!」

 

 

 

先程、彼を逮捕した竹山と呼ばれる警察官が手錠を外す。

 

 

 

 

「ありがとうございます。まさか【局長】自ら事案に当たって頂けるとは……」

 

 

 

「大原君から連絡を貰ったんだ……まぁ良いんだよ。どうせ出勤の途中だったしね」

 

 

 

 

「事は上手く行きますでしょうか……」

 

 

 

「大原君なら間違いないだろう。【学園課】のエキスパートだからね」

 

 

 

 

 

「しかし、対象アルファには【主人公特性】が、対象ブラボーには【魔法少女適性】が、有るとの報告が入っており、既に【魔法少女課】からの要請で【異世界課】が動き出しています」

 

 

 

 

「なに?」

 

 

 

オッサンの表情が一気に険しくなり、車内の空気が一気に張り詰めた。

 

 

 

 

「やはり学園課は必須だったね。あの場所にはあらゆる【物語】の可能性が燻っている。ユルい事態ならいざ知らず、思わぬ可能性が派生しない様監視は必要だと言う事が君にも解っただろう?」

 

 

 

「はっ!勉強に成ります!」

 

 

 

「とにかく事態を見守ろう。だが念の為、【宇宙課 特定外来宇宙生物対策班】に連絡を取っておいてくれたまえ」

 

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

竹山は無線にて関係各位に連絡を繋いだ。

 

 

 

 

   + + +

 

 

登校初日から災難にあったアヤカは、助けてくれた同じ学校の女子生徒である鈴木ヨシコと共に学校の校門をくぐる。

 

 

 

 

「はぅ~酷い目に遭ったよぅ……」

 

 

 

「大丈夫だよ大桃さん!元気だして!こんなに可愛いだもん、直ぐに友達も出来て人気者になれるよ!」

 

 

 

「そうかなぁ~」

 

 

 

「うん!それにねっ!私が大桃さんの友達だ一号だよっ!」

 

 

 

 

「鈴木さん……あ、あのね?」

 

 

 

「ん?どうしたの大桃さん」

 

 

 

「アヤカって呼んで欲しいな……」

 

 

 

「うんっ!ありがとうアヤカ!私の事もヨシコって呼んで!」

 

 

 

二人は互いに、笑顔を向ける。

 

 

 

そしてヨシコは教室に向かい、アヤカは職員室へと向かう。

 

 

 

   + + +

 

 

トモヤは、教室でクラスメイト達と他愛ない談笑している。

 

 

そこへ――

 

 

 

 

「はい!ホームルームを始めます」

 

 

 

 

 

いつもより少し早めに担任である女性教師が入ってきた。

 

 

 

「起立!礼!」

 

 

 

「おはようございます!」

 

 

 

「はい、おはようございま~す。え~早速ですが皆に転校生を紹介したいと思います」

 

 

 

 

彼女の言葉に教室がざわめく。

 

 

 

 

 

「はいはい静かに~」

 

 

 

 

「ヨネ先生!転校生って女子なんですかー?」

 

 

 

「お前なにナンパしようとしてんだよ!」

 

 

 

 

アハハハッ!

 

 

 

男子生徒のやり取りに教室が笑いにつつまれる。

 

 

 

ヨネと言われた教師は、手を二回ほど叩いて生徒を落ち着かせると、転校生を仲へと招く。

 

 

 

 

「それじゃ入ってきて~」

 

 

 

 

「うぉ!」

 

 

「可愛い……」

 

 

入ってきたアヤカに対して男子生徒から羨望の眼差しが向けられ、そんな彼等に対して女子生徒からは軽蔑の眼差しが降り注ぐ。

 

 

 

 

(あ、あの子って今朝の……)

 

 

 

トモヤは意外な展開に目を丸くする。

 

 

 

 

 

「はい静かに~!」

 

 

 

ざわつく生徒達を尻目に、教師ヨネは坦々と話を進める。

 

 

 

「え~大桃さんは両親の都合で転校してきました。皆さん仲良くしてあげて下さい」

 

 

「「は~い!」」

 

 

 

 

 

「え~っと席は……あっ!西條君の隣の席が空いてるわね」

 

 

 

「え!?俺の隣?」

 

 

 

 

ヒュ~!

 

 

 

からかう男子生徒達の声等、トモヤの頭には既に入ってはいなかった。

 

 

 

無理もない。

 

 

とてつもなく愛らしい女の子が自分の隣の席に座わる事が決まったのだから……

 

 

 

 

アヤカはその豊満な胸を揺らし、有象無象の野郎共を完全に虜にしながらトモヤの元へと近付いて来る。

 

 

 

 

漸くといったところだが、これが二人の運命の出逢い―――

 

 

 

 

 

「先生~!私、今日の朝偶然アヤカちゃんと話したんです。皆ともまだ話しにくいと思うし、席は私の隣の方が良いと思いま~す!」

 

 

 

「そうなの?あ~じゃその方がいっか……うん!田中君、西條君の隣に移動してくれる?大桃さんは鈴木さんの席に座ってね」

 

 

 

「は、はい!」

 

 

 

顔馴染みと出逢えたこと事にアヤカの表情が明るくなる。

 

 

 

 

対するトモヤはというと――

 

 

 

 

「………」

 

 

 

最早沈黙するより他はない。

 

 

 

 

アヤカが隣にくる好機を逸したばかりか、相撲部であり学生相撲の大関とまで言われた巨体を持つ田中が隣に来た事で、彼女の姿が絶妙に死角になってしまったのだ。

 

 

 

 

その後、クラスでも知り合いが多いヨシコによって、無事に女子グループに馴染む事が出来たアヤカに男子が迂闊に介入出来る余地など皆無となり、その日の内にチアリーディング部に入部する事も決まった為か、帰宅部であるトモヤに彼女と話す切っ掛けは訪れる事は無かった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

その日の夕刻――

 

 

 

 

薄暗い部屋のなかで、眼鏡とバーコード頭を鈍く光らせた中年の男の前に、黒いスーツを着込んだ数人の人物が集まる。

 

 

 

 

「大島局長。今回の事案は無事解決致しました」

 

 

 

「ふむ……ご苦労だったね大原君」

 

 

 

話を切り出した大原と言われた女性は、トモヤの学校の担任である大原米子であった。

 

 

 

そして――

 

 

 

「君も突然の要請にも関わらず機敏な対応してもらったようだね鳥谷君」

 

 

 

 

「エヘヘ♪」

 

 

 

鳥谷と言われた少女は、なんとアヤカと真っ先に友人になった鈴木ヨシコ事、本名 鳥谷鈴音であった。

 

 

 

大島は、鳥谷に視線を外さず少し不機嫌ぎみに口を開く。

 

 

 

 

「鳥谷君、¨その姿¨はもういいよ。¨元の姿¨に戻ってくれたまえ」

 

 

 

 

「は~い♪」

 

 

 

 

鳥谷は、鞄の中からハートマークのついたピンク色のステッキを取り出して翳すと、一見茶髪で快活そうな少女から一瞬で黒い長髪を携え、髪の色と同化してしまいそうになる黒いセーラー服を着た落ち着いた少女へと変貌を遂げる。

 

 

 

「大原君の妨害で、取り敢えず西條トモヤの動きは封じたが、彼女の報告では大桃アヤカに魔法少女適性があると聞いた。その辺の対策はどうなのかね?」

 

 

 

 

「それは私からお繋ぎ致します」

 

 

 

「頼むよ、宇宙課 特定外来宇宙生物対策班 班長三枝君」

 

 

 

 

黒いスーツ姿に何故か黒い覆面を被った男、三枝一平が口を開いた。

 

 

 

 

「本日正午、大桃邸付近の下水道の中に潜伏して交尾をしていた特定外来宇宙生物をツガイで確保、此方になります」

 

 

 

 

三枝は、特殊な形状のゲージを大島の前に突き出す。

 

 

 

その中には――

 

 

 

「た、助けてミュル!僕たち何も悪い事してないミュル!」

 

 

 

「そうよミャル!」

 

 

 

白くてフワフワしたつぶらな瞳を持つ謎の生物が抗議の声を挙げていた。

 

 

 

「それよりもこの世界に危機が迫っているミュル!」

 

 

 

「早く魔法少女と契約して対抗しないと悪の組織によって大変な事になるミャル!」

 

 

 

 

「との事ですが――」

 

 

 

「早急に¨殺処分¨しろ」

 

 

 

「ミュル!」

「ミャル!?」

 

 

 

二体は驚愕の表情を見せるが、大島は飽くまで冷徹だった。

 

 

 

 

「残念だが、その悪の組織とやらとは【交渉課】が既に話をつけているんだよ。異世界課による新たな世界への転送、勿論彼等の希望に沿う形でプランを練らせて貰った上でね。だから魔法少女の出番など要らないのだよ」

 

 

 

「そんな……ミュル」

 

 

 

――いいかね?

 

 

 

大島は侮蔑を込めた眼差しを二体に向ける。

 

 

 

 

「君達外来宇宙生物――取り分け魔法少女と契約をしたがる連中の目的は既に解っている」

 

 

 

「……」

 

 

 

「魔法適性のある少女と契約して、その発現した魔力の源を糧に出産、増殖する生き物だ。そして出産を終えると、共存関係にある¨なんかウネウネした生物¨に彼女達を騙して引き渡し、快楽漬けにして使い捨てる。只でさえ年端も行かない少女に放送コードギリギリの際ど過ぎる服装させるだけでも遺憾だと言うのに、快楽漬けなどもっての他だ」

 

 

 

「ち、違うミュル!僕達はそんな事――」

 

 

 

「既にウラは取っている。君達の言う悪の組織とか言う連中は、皆それぞれの星に事情を抱えた者達が多い。しかもタチが悪い事に、ペットに怪獣を飼っている連中すらいるのだ」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

「そんな連中を引き連れて魔法少女や、どこぞに隠れて活動している正義面したヒーローテロ組織と街中で武力衝突など繰り広げてみろ、一瞬で平和な街が荒野と成り果てる。そんなものを見逃すと思うのかね?」

 

 

 

「ぐぬぬ!ミュル」

 

 

 

 

白い生物は悔しさを顔に滲ませた。

 

 

どうやら図星らしい。

 

 

 

 

大島は最大限の侮蔑を込めた眼差しを白い生物に向けた。

 

 

 

「つれて行け。直ぐさま異世界課に引き渡し、大魔法で原子レベルまで焼き尽くした後に灰を異世界の魔王が支配する誰も近付けない毒の瘴気地帯に投棄する」

 

 

 

「や、止めてミャル!せめてこの子だけは――」

 

 

「そうだミュル!動物愛護の精神は無いのかミュル!」

 

 

 

「黙れ……貴様ら地球外生命体に適応される法律や愛護団体などは無――え!?団体はあるの?まぁ法律に明記されていなければ問題ない」

 

 

 

 

「――!」

 

「ミャル!」

 

 

 

 

生命の危機を感じた二体は、本能的に子孫を残す為に交わり、悦楽の悲鳴を上げ始めた。

 

 

 

 

「いかん!コイツらまた交尾してやがる!」

 

 

 

「大魔法の準備だ急げ!」

 

 

 

狼狽する三枝に大島が罵声を浴びせ、二体は部屋から連れ出される。

 

 

 

「ミュル!ミュルミュルゥゥウ!」

 

 

 

「ミャ…ミャルゥゥウ♥」

 

 

 

 

見た目の愛らしさとはかけ離れた強烈な絶頂の断末魔を残して、ドアが閉じられる。

 

 

 

 

 

「アクロバティックでしたね……」

 

 

 

「そんな事はいいのだよ大原君。それよりも報告は以上かね?」

 

 

 

「はい。数日の経過観察を経て、現場から撤収します」

 

 

 

 

「宜しい。それでは解散してくれたまえ」

 

 

 

 

一同が部屋から出た後、大島は溜め息を着いて窓の外を見詰める。

 

 

 

 

そこに拡がるのは当たり前の風景と日常。

 

 

 

 

彼にとっては何よりも得難い財産であった。

 

 

 

 

 

カパッ……

 

 

 

 

窓から視線を外し、席に戻った彼は、おもむろに頭を触ると、トレードマークとも言えるバーコードが外れ、少し白髪の混じったオールバックの頭髪が現れる。

 

 

そして、縁のある地味な眼鏡を外して縁の無い細身の眼鏡を装着した。

 

 

 

その整った顔立ちは五十代前半にしては若く見える。

 

 

目付きは鋭い眼光が覗き、何者も近寄り難い雰囲気を秘めていた。

 

 

 

「……」

 

 

 

窓から入り込む光が、彼の机の前に置かれた表札を照らす。

 

 

 

そこには――

 

 

 

【警視庁 特殊事案未然防止局 局長 大島誠司】

 

 

 

の名前があった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

翌朝――

 

 

 

同じ失敗を流石に2度は繰り返さなかったアヤカは、パンをくわえる事なく普通の歩調で学校へ登校し、クラスメイトと挨拶を交わす。

 

 

 

 

そして、痴漢から自分を救ってくれた無二の友人にも笑顔で声を掛けるのだった。

 

 

 

「ヨシコちゃんおはよう!」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

「あれ?どうしたの?」

 

 

 

 

「てゆうか……あなた誰?」

 

 

 

「え!?大桃アヤカだよ!昨日転校してきて一緒に登校したよね?」

 

 

 

「私昨日体調が悪くて休みだったんだけど……」

 

 

 

 

「そんな……でも昨日――」

 

 

 

「は~い席に座って!」

 

 

 

 

突如入ってきた¨男性¨教諭にクラスがどよめく。

 

 

 

 

「せ、先生!ヨネ先生はどうしたの?」

 

 

 

 

「あ~彼女は、一身上の都合で退職されましたので、副担任の私が今日から皆さんの担任になります」

 

 

 

 

友人の記憶から自分が忘却されている事と担任の交代、転校二日目にして起きた内容にアヤカは呆然とするより他なかった。

 

 

 

   + + +

 

 

 

アニメや漫画で起きうる事は実際には【有る】。

 

 

 

だがもし、それらが当たり前のように繰り広げられたなら、一般の民衆の生活は瞬く間に瓦解してしまうだろう。

 

 

 

例えばだ――

 

 

 

 

善悪を問わず、彼等が市街地で何らかの武力を行使した場合――

 

 

建物の破壊

 

 

ライフラインの寸断

 

 

交通機関の麻痺

 

 

 

医療機関の混乱

 

 

 

など、様々な不都合が起こり得る。

 

 

 

これらが当然の如く発生すれば、その度に莫大な税金や労力を要して復旧させねばならず、経済における損失は計り知れない。

 

 

 

 

警視庁 特殊事案未然防止局

 

 

 

この組織は、それらアニメの中のような非常識な事態を未然に防止や抑止、進行中な事案に関しては介入して強制的に物語を終わらせ、当たり前の日常を保全する役割を担っているのだ。

 

 

 

 

 

そして、そこに所属する者達は男女や年齢を問わず、例外的に国家公務員の資格が与えられ、保全業務に当たる。

 

 

 

 

勿論、皆が知っているような【異能】やその道のプロの者達が……

 

 

 

 

大島は、只の人間で有りながらこれらのクセ者達をまとめ上げ、明日も平和な日常を護って行く。

 

 

 

 

断っておくが、彼は主人公ではなく、況して他の者にも主人公足り得る者は存在しない。

 

 

 

いや――

 

 

 

【在ってはならない】

 

 

 

 

何故なら、それらが日常に非日常を持ち込む【元凶】なのだから……

 

 

 

 

 

 

警視庁公安部から独立した彼等 【特殊事案未然防止局】を内部では密かにこう読んでいた。

 

 

 

 

《シナリオブレイカー》と……

 

 

 




りませんでした……
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