シナリオブレイカー  ~警視庁特殊事案未然防止局~   作:アンギュラ

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不可逆的ピリオド

   + + +

 

 

 

 

擬人課が到着したにも関わらず、竹山は未だに突入出来ずにいた。

 

 

 

話は難しくは無いのだ。

 

 

 

玄関から突入し、階段を上がって2階にいる大島を救助して指揮を委ねる。

 

 

ただそれだけなのだが、彼等は最初の段階から壁にぶち当たっていた。

 

 

 

 

「擬人課 シャムシェラ課長。これはつまり、ココが玄関だと言うのですか?」

 

 

 

「そう、間違いない!」

 

 

 

 

竹山がシャムシェラと読んだ黒髪の姫カットに猫耳と尻尾、そして過剰に面積の少ない黒い下着姿の幼女は得意気にほのかな胸を張る。

 

 

 

彼女は、擬人化現象の結果生まれた猫のシェラが擬人化した人物だ。

 

 

この格好は、全裸が基本の動物に衣服は窮屈な為の例外的措置である。

 

 

 

 

「軍艦の擬人化や刀剣、はてまた怪獣に至るまであらゆる擬人化を見て来たけど、皆見た目から大体判断できた。なのにこれは、擬人化と言うよりも少女化に近いニャ!……ニャなんて言ってない〃〃」

 

 

 

 

「しかし、家がメイドになるなんて……」

 

 

 

 

二人が見上げた先にちる巨大なメイド少女は、少し照れた様に微笑む。

 

 

 

「お、お客様?そんな所では休めませんよ?さ、さぁ!私のナカに……は、入って―――」

 

 

 

 

「際どいな……」

 

 

 

恥じらいながらスカートをたくし上げた大島の自宅に、竹山の眉間の皺が更に深くなる。

 

 

 

無理もない

 

 

 

つまり、彼女が身に付けているメイドブラと同様のデザインのメイドパンツの奥へと突入しなければならないと言う事なのだから。

 

 

 

 

「シャムシェラ課長、これはもう【アダルト課】の領域では?突入した時点でもうアウトですよ」

 

 

 

「心配ないよ。その為に局長は異世界課を頼んだのだから」

 

 

 

 

二人は隣にいるローブ姿の男に視線を送る。

 

 

 

 

「異世界課 ディミトリー・サザーランド課長、異世界への転送または召喚に関するプロであるあなたなら、私達を玄関を潜らずに屋内へ送る事も可能な筈、お願い出来ますか?」

 

 

 

「造作もないが、屋内の状況は以前未知数だ。相手が擬人とは言え少女であるなら、近親課 おねショタ班】の人員を最低一人は同行させる事を提案する。どうだろうかシャムシェラ課長」

 

 

 

 

「良いと思うニャ!……ニャなんて言ってない〃〃」

 

 

 

 

「それでは突入します。サザーランド課長、宜しくお願いします!」

 

 

 

 

サザーランドがなにらや呪文を唱えると、彼等の身体が光となって霧散した。

 

 

 

 

   + + +

 

 

以外な事に、大島の自宅の中は普通の外見だった。

 

 

 

「ふぅ……良かった。普通の屋内で本当に良かった!でなければ、君を送り返さねばならなくなるところだったよ翔太君」

 

 

 

 

「どうして?」

 

 

近親課の人員である少年 秋山翔太は竹山の言葉に首を傾げる。

 

 

 

 

「え!?それは……まぁとにかく局長を救出しよう」

 

 

 

 

「うん」

 

 

 

「皆さん、慎重に進みましょう。何が起きるか解らない」

 

 

 

 

四人はゆっくりと階段に向かって進む。

 

 

 

 

「あの……」

 

 

 

「どうした?翔太君」

 

 

 

「ボクトイレに行きたいです。緊急招集だったから時間がなくて……」

 

 

 

「しょうがないな……行っておいで。ここで待ってるよ」

 

 

 

「はい」

 

 

 

翔太はトイレを探して廊下の奥へと姿を消す。

 

 

 

 

 

「ねぇ竹山」

 

 

 

「なんです?シャムシェラ課長」

 

 

 

「翔太を一人で行かせて大丈夫なの?」

 

 

 

「あの位の歳なら一人でトイレくらいわけないですよ」

 

 

 

「そういう意味じゃない。擬人化とは言わば人の思念が固まって創られた異形にして異界なんだ。局長の言質からして、邸内のあらゆる物が美少女と化しているんだろ?もしトイレもその例に漏れないとすれば……」

 

 

 

「まさかっ!」

 

 

 

竹山は急いでトイレへと急行しようとするが、時は既に手遅れだった。

 

 

 

 

「❤❤❤❤」

 

 

「ひぃ~!」

 

 

ガタガタガタッ!ジャァ~!

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

廊下の奥からゲッソリした翔太が此方に向かってくる。

 

 

 

「だ、大丈夫なのか!?」

 

 

 

「はい……スッキリはしました」

 

 

 

「済まなかった!私が浅はかなばっかりに――」

 

 

 

「早く局長を救助しないと、ボク身が持たないです……」

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 

竹山は悔しさを滲ませながら先を急ぐ。

 

 

 

階段を駆け上がり、大島の部屋の前へと辿り着いた彼等の前にドアが立ちはだかった。

 

 

 

「キミ、そこを退いてくれ!」

 

 

 

「私ドアですからノブを捻って入ってください」

 

 

 

 

「ノブなんか無いじゃないか!」

 

 

 

「ココです」

 

 

 

「そこはチ……正気か君はっ!」

 

 

 

 

 

竹山が愕然とするなか、翔太が撃ってでる。

 

 

 

 

「ドアのお姉ちゃん、ボクこの中に用があるの。通して?」

 

 

 

 

キューン❤

 

 

 

 

見た目よりも幼く見える翔太の潤んだ眼差しにドアの心は一瞬怯んでしまう。

 

 

 

しかし、こんな事で折れるなら彼女はドアとは言えないだろう。

 

 

 

「ゴメンね……ここを捻らないと通してあげられないの」

 

 

 

 

「解ったよ。でもボク届かないんだ。もう少し屈んでくれないかな?」

 

 

 

「うん……いいよ❤」

 

 

ドアは屈んで豊満な胸元を翔太の顔の目の前へと突き出す。

 

 

 

(今です竹山さん!)

 

 

 

 

翔太の視線に竹山が動いた。

 

 

 

 

今ならドアを飛び越えて、ら向こうへ突入出来る。

 

 

完璧なタイミングだった。

 

 

 

 

しかし――

 

 

 

バジィッ!

 

 

 

 

「ぐあっ!」

 

 

 

ドアは有り得ない反応で立ち上がって平手打ちを食わせ、竹山は思いきり吹っ飛んだ。

 

 

 

 

「くそっ!もう少しで――」

 

 

 

 

 

「無駄だよ竹山」

 

 

 

「シャムシェラ課長!?」

 

 

 

「擬人化と言うのは言わば対象を¨容姿のみの変更¨する事象なんだ。つまり人間の容姿に変わっていたとしても、その本質は変更されない。軍艦は砲を放ち、刀剣が斬るのと同じさ。ドアは出入口であると同時に、部屋と廊下を隔てる仕切りの役割を担っているとするなら、彼女が言った様に所定の手順を踏まねば中に入る事は出来ない」

 

 

 

 

「ではサザーランド課長、あなたの能力で局長の部屋に転送を――」

 

 

 

「君は、異世界に関する転送の意味をテレポートと勘違いしているようだな」

 

 

 

――いいか?

 

 

 

 

サザーランドは、諭す様に竹山に向き合う。

 

 

 

 

「異世界における転送とは、つまり世界αから世界βへの移動を意味している。私がここへの転送を成功させたのは、ここが異界の一種と判断されたからだろう。だが、屋内全体が異界であるなら、世界βからβへの移動は転送ではなくテレポートの一種でなければならん。その得意分野はどちらかと言うと魔法少女課の鳥谷だろう」

 

 

 

「つまり、転送座標を初めから局長の自室に設定しなかった時点で失策だったと?くそっ!内部状況が解らないから慎重を喫して玄関を指定した事が裏目に出たかっ!」

 

 

 

 

「あの~ボクドアノブを捻ってみますよ」

 

 

 

「君が?止めろ!それは完全にアダルト課の管轄だ!もし迂闊に捻ったら大変な事になるぞっ!」

 

 

 

 

「大丈夫です。だってさっきトイレでトイレと――」

 

 

 

 

「止めてくれ……なぜ君ばかりが犠牲になる必要がある!」

 

 

 

 

「ボクだからこそですよ竹山特捜」

 

 

 

「君だから?」

 

 

 

「はい、近親課など局の複数の課は、場合によってアダルト課に出向する場合が有るんです。ボクも出向経験があり、許可申請も貰っています」

 

 

 

「君の様な子供が?」

 

 

 

「はい、家庭が色々と複雑なもので……」

 

 

 

「本当に良いんだね?」

 

 

 

「任せて下さい」

 

 

 

 

 

翔太は彼等に目と耳を塞ぐよう促すと、ドアに近付き――

 

 

「来て❤」

 

 

 

キュッ!

 

 

 

 

ドアノブを捻った。

 

 

 

「❤❤❤」

 

 

「!!?」

 

 

「―――!」

 

 

 

「……!」

 

 

 

 

ガタガタガタッ!

 

 

 

 

「❤❤❤❤!」

 

 

 

 

 

――え?長くね?ドアノブ捻るだけだよね?

 

 

 

 

竹山の心象を代弁するなら正にこうだろう。

 

 

 

 

 

 

会話の内容は聞き取れなかったが、どうやら不測の事態が巻き起こったらしい。

 

 

 

そしてその直後からの謎の振動と、耳を塞いでも漏れ聞こえてしまうドアの悦楽の叫び。

 

 

 

彼はどうしても状況が気になってしまい目を開こうとしたその時――

 

 

 

「フンニャ~!」

 

 

 

「痛ったー!」

 

 

 

 

シャムシェラに思いきり引っ掻かれた。

 

 

 

どうやらまだらしい。

 

 

というよりもシャムシェラがこの状況を観測してるっぽい方が気になる。

 

 

 

 

この地獄の様な状況から数分後――

 

 

 

 

「………」

 

 

「ハァ…ハァ……んっ❤」

 

 

 

脱け殻の様な翔太と頬を上気させて倒れ伏すドアの異様な光景が広がっている。

 

 

 

 

 

「一応聞くが、何があった?」

 

 

 

「局長、どうやら部屋に施錠を施していた様で……」

 

 

 

「成る程、解った」

 

 

 

 

「流石は翔太!あんな情熱的な開き方、私も経験した事が無いニャ!……ニャなんて言ってない〃〃」

 

 

 

「うむ、君に許可申請が降りたのも頷ける」

 

 

 

精神的疲労が限界に達した竹山に対し、二人の課長は涼しげな表情を浮かべていた。

 

 

 

(流石は課長……てか局長、玄関に施錠しないのに部屋には掛けるんだ。だが、玄関の鍵を解錠しなけばならなかったと考えるなら幸いか)

 

 

 

彼等は、よろめく身体にムチを打ちながら、大島の待つ自室へと突入した。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

突入してきた四人は唖然とした。

 

 

 

 

「きょ、局長!……ですよね?」

 

 

 

「君が言いたい事は理解している。これはカツラだ」

 

 

 

「えっ!?どう見ても地毛ですよね?それに隣にいる――」

 

 

 

「ダッフンd――」

 

 

 

「これ以上の詮索は減俸の覚悟を決めてからにしてもらうよ竹山君」

 

 

 

「申し訳ありません……」

 

 

 

「それよりも、秋山君を招集したのは懸命だった。まさか鍵を掛けていたのが裏目に出るとはね……」

 

 

 

 

「ええ……彼には辛い役目を押し付けてしまいました」

 

 

 

「うむ、ただ見事な腕前だった。それにもし私が鍵を開けていたら、私は妻になんと詫びてよいか分からなかったよ……」

 

 

 

「ありがとうございます。でもボクの母と姉、そして妹には内密にお願いします。でないとボクが干からびるまで――」

 

 

 

「勿論だ。君の損失は大きいからね。じゃあ早速脱出を――」

 

 

 

「ご主人っ!」

 

 

 

「むっ!」

 

 

 

シャムシェラは感極まった様に大島に抱き付き、頬を擦り付ける。

 

 

 

小さな耳と長い尻尾を立てる様は、彼女の感情がいかに昂っているかを物がっていた。

 

 

 

 

しかしながら、マイクロビキニの様な格好の幼女が、大の男に抱き付いて頬擦りする様子は中々な光景であるが、大島の表情は全く変わらない。

 

 

 

「心配したぞご主人!怪我はしてないか?」

 

 

 

「無論だ。それよりも心配を掛けて済まなかったねシャムシェラ君。今度極上の魚を奢るよ」

 

 

 

「本当か!?やったぁ~♪」

 

 

 

「それでは気を取り直して、サザーランド君に外へ転送して貰おう。良いかね?」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

 

サザーランドの転送魔方陣が展開し、一同は自宅からの脱出に成功した。

 

 

 

 

 

「局長!無事だったんです……ね!?」

 

 

 

「鳥谷君、そのやり取りは既に自室で済ませたからもういいよ。それよりシャムシェラ君、この事象に対する処置方はどうするべきかね?」

 

 

 

 

「擬人化の尤も有効な対処は対象の存在意味を失わせる事、すなわち破壊だ」

 

 

 

「ふむ……4年前の擬人化事案の際もそうだったしね。だけどここには家族の思い出が詰まったマイホームなんだ。ローンも残ってる。粉々にしてしまうのはちょっとねぇ~」

 

 

 

「ご主人ならそう言うと思った。事象が小規模だから、今回は魔法少女課長のM・Mに依頼する事にしたよ」

 

 

 

 

「具体的に聞こうじゃないか」

 

 

 

「生活保全課が、モニタリングした情報を元に思念の発生源を特定し、M・Mが記憶改竄魔法と忘却魔法を使用して思念の元を断つ。これなら実害は発生しないと思うよ。後はご主人の許可だけだ」

 

 

 

「許可しよう。直ぐに取り掛かってくれ給え」

 

 

 

 

「解ったニャ!……ニャなんて言ってない〃」

 

 

 

 

彼等の活躍によって、大島の自宅は完全に元通りなった。

 

 

 

 

「ふぅ……これでいつ妻と娘が帰ってきても安心だ。君達もご苦労だったね。報告書はあす目を通させて貰うよ」

 

 

 

 

「局長……」

 

 

 

「ん?どうしたね竹山君」

 

 

 

「いえ……この間の学園魔法少女事案は、予想よりも事が大きくなりましたので解るのですが、今回の事案は先の案件と比べると極めて小規模なものであり、班長や係長クラスでも対応は可能でした。ですが、課長補佐すら飛び越えて課長クラスが二人も事案対応に当たった意味をご教授願いたいのです」

 

 

 

 

「そうかぁ……君は一年前本庁から引き抜かれたばかりだから知らないだね?うむ、良い機会だから君にも話しておこう」

 

 

 

 

「お願いします!」

 

 

 

「擬人課と言う部署は、元々局には無かったんだ」

 

 

 

「え!?そうなのですか?」

 

 

 

「事は4年前――」

 

 

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

生活保全課のモニターに物語性事案を示す反応が現れて偵察班が向かったんだがね、そこで彼らが目にしたのは身体の一部に動物的特徴を残した人形の生物が多数確認された。

 

 

 

 

我々はそれが人間の獣人化と読んで彼等を保護、聞き取りを開始したのだがね、供述から推測するに彼等は元々動物である事が判明したのだよ。

 

 

 

勿論、異世界には獣人など珍しくはないから、異世界課を招集しての検証も行った。

 

 

 

ところがだ――

 

 

 

サザーランド君の話によれば、転送の際に観測される魔法や空間の歪みなどの因子が全く観測されておらず、彼等が異世界の住人である可能性は低いとの見解を示したんだよ。

 

 

 

だとすれば、残る可能性は突発的かつ破滅的事象を引き起こしかねない【登場人物具現化現象】を疑うより他はない。

 

 

 

 

我々は【具現課】に捜査を依頼して、莫大な物語の中から彼等の情報を探った。

 

 

もし、具現が本当なら捜査の網に引っ掛かる筈だからね。

 

 

 

しかし、我々はまた挫折を味わうことになる。

 

 

 

彼等の容姿をいくら照合しても一致する物語が存在しなかったんだ。

 

 

 

 

そこにだ――

 

 

途方にくれる私達の元に追い討ちを掛ける様に、次なる反応がモニターに観測された。

 

 

 

 

場所は北緯30度43分 東経128度04分、鹿児島県坊ノ岬沖水深345mの海底からだった。

 

 

 

 

ここまで言えば君にも解るね?

 

 

 

そう、現場に急行した我々の前には、少女の姿をとった¨戦艦大和¨がいたのだ。

 

 

 

彼女は速力約27.46ノットで沖縄方面に向かっていた。

 

 

 

 

これが沖縄特攻だと確信した我々は交渉課課長による説得を試みたが、彼女は頑なに応じず沖縄へと向かった。

 

 

 

 

同刻――

 

 

生活保全課のモニターに複数の反応が世界中で検知されたと報告が入った。

 

 

 

 

大和の事例から、我々は過去の対戦時に沈没した艦艇の位置情報を照合した結果、完全に一致した事が判明してね、その中には日本本土に対して攻撃意思を示す米国艦隊と、他国に対する攻撃の動きを見せている日本艦隊がいたんだ。

 

 

 

 

私はこれが、人民に多数の犠牲や日本に多大な損失をもたらす事案であると確信し、【第9号事案】即ち、【物語性事案による大惨事の回避を目的とした特殊事案未然防止局の¨特記戦力の招集¨並びに力の行使が火急的に必要な事案】であると判断した。

 

 

 

 

私は局長権限で、戦闘に特化した課の班長以上の全員と、普段は能力が危険過ぎて封印されている異世界課の【チート付与班】の人員約2割を招集して対処、少女化した軍艦を再び海に沈めた。

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上が4年前の真相だよ」

 

 

 

 

ゴクリ……

 

 

 

竹山は額に汗が滲み、口の中が乾くのを感じる。

 

 

 

もしその時、適切な対応が少しでも遅れていたなら――

 

 

 

日本国籍艦艇による他国襲撃と見なされ、諸外国からの報復措置や、最悪の場合――核を用いた世界大戦に発展する危険を孕んだ事態に発展しかねない状態にあったのだから。

 

 

 

 

「やりきれなかったよ。日常を護る。我々のその意思に揺らぎは微塵もなかった。でもね……」

 

 

 

 

大島の表情が非常に険しいものとなる。

 

 

 

 

「彼女達だってそうだったんだ。祖国を……家族を護る為に造られそれを果たせず散った無念と、あの時こうしていればまだ戦争を続けられたと願う人間のグロテスクな一面が彼女達を亡霊にしてしまったんだ。」

 

 

 

「……」

 

 

「忘れられないよ。蘇った彼女達をもう一度冷たい海底へと送る時の最期の悲鳴をさ……それからだ、擬人課を創設して対処にあたると決定したのは」

 

 

 

「そうだったのですか……ですが、シャムシェラ課長はどこで引き抜かれたのですか?」

 

 

 

「ふむ、擬人化事案が終息して間もない頃、雨の日の帰り道だったかな。見つけたんだよ、拾ってくださいと書かれた段ボールの中に彼女が震えて座っているのをね」

 

 

 

「え!?課長は捨て猫だったんですか?」

 

 

 

 

「そうだ。どうやら擬人化の中でも猫は特別らしいね。他の事案と比べて圧倒的に思念の密度が違うんだ。故に彼女は思念が薄まった現在に於いてもまだあの姿のままなんだよ」

 

 

 

「しかし……獣人と擬人化とは何が違うのでしょうか?」

 

 

 

飽くまで私見だがね――

 

 

 

大島は前置きした上で竹山に視線を向ける。

 

 

 

 

「獣人の場合は身体能力や食生活の違いはあれど、成長速度や倫理観が人間と非常に近しいんだ。故に見た目の年齢と身体的年齢も一致し、寿命も長い。対して擬人化の場合は本質は変更されないから、彼女は最低でも¨猫換算¨で4歳以上となる訳で、人の思念によって見た目はああだがれっきとした大人の猫なんだよ。本質は自由奔放であり、発情もする。獣人には発情が無いからね」

 

 

 

 

「そうなのですか……確かに年齢の割りには大人びた一面を見ることは有りますが」

 

 

 

「最初は本当に大変だったんだよ君。服を着せようとすると裸で逃げ回るわ、道行く男性に交尾をねだるわでね。まぁ、異世界課【獣人班】に暫く教育をして貰って漸く落ち着いたのだがね、発情期に入ると凄まじい声を上げるものだから、アダルト課で発散している間に長曽根虎鉄 課長補佐に業務の代行をして貰っているんだよ」

 

 

 

 

 

「課長も苦労されているのですね……」

 

 

 

「本人は楽しんでいるようだから良しとしようじゃないか。さぁ君もそろそろ戻りたまえ。鳥谷君が痺れを切らしてしまうよ」

 

 

 

「はい、ご教授ありがとうございます!」

 

 

 

 

鳥谷がステッキを振り、彼等の姿が霧散て消えたのを確認した大島はため息をつきながら元通りなった我が家を見上げ、家族の帰りを心待ちにしながら玄関の扉を潜るのだった。

 

 

 

 

 

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