いや、僕も早苗さんみたいな姉さん欲しい。
「…………女将さん」
「はい、どうされました?」
「あの、僕達二人で宿泊ですよ?」
「はい」
部屋に戻ると、そこには不自然な光景が飛び込んできていたので、通りかかった女将さんに問う。しかし、女将さんの返答は予想外のもので、僕も姉さんも戸惑っていた。
「え? 二人ですよ?」
「ええ、東風谷早苗様と有原梁様のお二人ですよね。間違いはありませんよ?」
「えっと、これみておかしくないんですか?」
「申し訳ありません。私の方では理解が及ばないようで……」
「なんで布団が一つしかないんですか!?」
ビッと指を指すその方向には、柔らかそうな布団が敷かれていた。お風呂に入っている間、女将さんが用意してくれたのだろう。そこら辺も、さすが高級旅館と言ったところか。
しかし、その布団は何故か一つしか敷かれていなかった。疑問に思う僕とその隣で焦る姉さん。
「あら、お二人はご姉弟とお聞きしましたが……」
「いや姉弟ですけど! だったら尚更…………」
「東風谷早苗様から御要望がありまして……」
「え、私?」
姉さんは突然言われたことに困惑しながらも、心当たりが無いわけでは無さそうだ。すると、女将さんは姉さんの隣で話し出した。
「ここの旅館にお越しいただいた際、東風谷早苗様から、「布団は一つでいい」という用件を承りまして……」
「姉さん…………?」
「あ、あれぇ? そんなこと言ったっけなぁ?」
どうやら、これは姉さんの仕業らしい。当の姉さんはあさっての方向を向いていた。
「…………姉さん……」
「あ、あはは……梁くんと二人きりって考えてたらさ、気分がこう…………上がっちゃって…………えへへ……」
「えへへって……」
毎回、姉さんのマイペースさというか、奔放さというか。振り回されている気もするが、実質悪い気はしないのだ。
「はぁ……もういいや。女将さん、ありがとうございます」
「いいえ、ごゆっくりどうぞ」
一礼した後、女将さんはこの部屋を後にした。一方、姉さんはと言うと……。
「ま、まさか本当に添い寝する日が来るなんて…………えへへぇ……」
体をくねくねさせて妄想を捗らせていた。正直何されるか分からないから怖い。自意識過剰なんて思われてもいいから、姉さんに手だけは出されたくない。
「……姉さん、僕は畳で寝るから、姉さんはそれ使っていいよ」
「え、ええっ!? せっかく一つしかないんだから一緒に寝よーよ」
「「せっかく」の使い方間違えてると思うよ姉さん」
姉さんは負けじと添い寝をするように言ってくるが、さすがに僕も添い寝だけはまずいと思っている。
「間違いでも起きたらどうするの?」
「え? 私と梁くんで間違いなんか起こるわけないじゃんっ」
何を根拠に。
「でも、もし「そんな事」があっても、それは間違いじゃないでしょ?」
「……どういうこと?」
「だから、私と梁くんが「そんな事」しちゃっても、それは間違いじゃなくて正解だよ?」
「そういう「間違い」じゃないよ……それよりも……」
にやりと口角を上げる。
今こそが、姉さんを戸惑わせるチャンスだ。姉さんだって女子だ、恥ずかしいことはしっかりある。それに、姉さんの部屋にある漫画を参考に出来る。
「姉さん、「そんな事」って何?」
よし、これで姉さんは赤面して慌てるはずだ。そこを一気に恥ずかしがらせてやる。
「え? エッチだけど」
「なんで普通に言っちゃうんだよっ!」
そうだった。この人は恥じらいを知らない人だった。今更、姉さんが他の女性と違う事を痛感させられる。
「梁くん、もしかして私が恥ずかしがると思ったぁ?」
「…………」
「ざーんねんっ、梁くんの前なら恥ずかしくないよーだ!」
くそっ、この人の事完全に舐めてた。もう諦めよう。そう思った僕は……。
「そっか、じゃあ僕は別部屋にいるね。じゃあ姉さん、おやすみ」
「えっ、ちょっ、ごめんって……」
襖を開けて、姉さんと距離をとった。そこまで必死になる姉さんを見ると、やっぱり許してしまうのが僕の悪い所なのかもしれない。
「もう分かったよ。じゃあ早く寝よ」
「え、ほんと? やったぁっ」
素直に喜ぶ姉さんを見て、微笑んでしまったのは隠すまでもない。家族の喜ぶ顔を見て、嬉しくないはずもない。まぁ、内容が内容だが……。
パチンと灯りのスイッチを消す。それと同時に、姉さんは布団の中で待機していた。
「さ、梁くんおいで?」
寝転がりながら、布団をペラっとめくり、僕を誘おうとする。その仕草が服装(浴衣)な事もあってか、とても艶やかで、僕みたいな子供には少し刺激が強すぎた。
「お、お邪魔します……」
そういう僕が何故か緊張してしまう。そうだ、目の前にいるのは姉さんだ。何を緊張しているのだ。
「……ふふっ、梁くん緊張してるの?」
姉さんの方から声がする。ちらりと目線をあげると、姉さんがニヤニヤと笑っていた。いつもの顔なのに、今日だけ何故か色っぽく見えてしまう。
耐えきれなくなった僕は
「う、うるさいな……」
「もーっ、そっち側向かないでよ」
くるりと身を翻し、姉さんから正面を180度変えた。これ以上、姉さんの姿を見ていたら、僕の方が先に壊れそうだ。
「えいっ」
ぽにゅ……。
柔らかい感触が背骨を中心に感じた。姉さんの右腕が僕の腰に回されていた。そして、僕の耳元に姉さんの口があった。
「ひっ、ね、姉さん……?」
「梁くん、どうしてそんなに緊張しているの?」
「そ、それは……」
姉さんの息が耳元にかかる。かかる度に体が震えそうになるが、我慢して口を開く。
「だっ、だって……女の人と寝るなんて初めてだし……」
「それが姉さんでも?」
「姉さんでもっ……お姉ちゃんとは違うんだから……」
「…………」
「姉さん?」
突然、声がしなくなった。それを不思議に思った僕は姉さんの方に振り向く。すると、姉さんは驚いた顔をして硬直していた。
「姉さん。どうしたの?」
「梁くん」
「は、はい」
突然、低めの声で呼ばれた。驚いた僕は思わず敬語で返事をしてしまった。
「私とお姉ちゃんは違うの?」
「……違う」
即答はできなかった。でも、言い切ることは出来る。それには、しっかりとした理由があるからだ。
「お姉ちゃん…………
「梁くん……」
「妖怪に殺されかけた恐怖も、家族を殺された悲しみも、いつまでも消すことが出来ないから。だから、姉さんは違う。全く別の新しい家族」
姉さんはしばらく黙りこくった。考えてなかったが、今のこの顔の距離はどう考えても近すぎた。お互いに気にしてなかったが、緑の髪がさっきから鼻に当たってムズムズしている。
「ね、姉さん?」
「…………」
応答がない。しかし、しばらくすると姉さんの目が潤い始めた。
「れい、……くんっ」
「えっ!? ちょっと、姉さん!?」
終いには、涙がこぼれ落ちて、表情を歪ませた。何が起こったのか分からない僕はその場で目を見開くことしかできなかった。
「な、なんで泣いてるの……?」
「ううんっ、何でもない…………」
泣いた理由は教えてくれなかった。本当に何か泣かせてしまったのだろうか。
しかし、次の瞬間、僕の頭は姉さんの胸の中に埋まっていた。それも、いつもより強く。
「!?」
「梁くん、やっぱり、私梁くんの事が好き」
真面目なトーンだった。ドキンと僕の心臓が跳ねる。石鹸の匂いが僕の鼻腔をくすぐる。
「家族として……梁くんのことが好き…………」
囁くように、姉さんは想いを伝えた。「家族として」。その言葉はいつもの姉さんの言葉以上の重みを感じた。
そして、その次の言葉は僕にも衝撃を与えた。
「多分きっと、男の人としても、梁くんのことが好きなんだと思う」
「えっ!?」
衝撃どころの話ではない。ただの子供好きだった姉さんが、本気で恋をしてしまう。そんなことがあっていいのだろうか。
「でも、今梁くんの答えは知りたくない。まだ、私を家族として見てくれているのなら、まだ言わないで欲しい」
今、姉さんの顔は見えない。でも、姉さんも赤面しているんだろう。僕は抱きしめられたまま、口を開く。
「わかった。姉さんが本気なのは伝わったよ」
「……ん」
「だからさ、また伝える時になったら、もう一度伝えてよ。その時に、僕は姉さんに気持ちを伝える」
「……わかった。ありがとう、梁くん」
そう言うと、姉さんは僕を離した。姉さんの目じりには涙が溜まっている。顔も赤い。でも、表情は柔らかくて、優しい微笑みを浮かべていた。
すると、そのまま不敵な笑みに表情を変え、白い歯を見せた。
「じゃあ、梁くん、キスしよっか」
「はぁ?」
何を言ってるんですかねぇこの現人神は。さっきまでの感動を返して欲しい。
「ちょっと、姉さん何言ってるの?」
「えっ? 梁くんはしたくないの?」
「したくないよ! 義弟に何しようとしてるの!?」
「だから言ったじゃん。私が恋してるのは梁くんなんだよ? 義弟でもあり、片想いの相手なんだよ?」
「まだ片想いじゃん! 一方的じゃん!」
今考えたら、義弟で、しかも好きな人ってよくよく考えたら少しおかしいのかもしれない。
「えぇーっ、じゃあ頬っぺにっ、ちょっとだけでいいから!」
「…………分かったよ。もう…………はい、お好きにどーぞっ」
投げやりになった僕は頬を姉さんに近づける。頬にキスをされるのはこれで二度目だ。緊張はするけど、減るもんじゃない。人里の友達に自慢したら、きっと恨まれそうだ。
「…………」
いつまで経っても姉さんがキスをしてこない。やっぱり恥ずかしかったのだろうか。30秒程経ってから、僕は姉さんの方を向いて……
「ほら! やっぱりやる気じゃなかったんじゃ……んむ!?」
途中、言葉が消えた。出せなかった。
それは何故か、僕の声が出る場所は完全に塞がれていたからだ。
「んっ!? んーっ! んーっ!」
息が出来なくて、苦しそうにする僕の目の前には、幸せそうに目を閉じてキスをしている姉さんの顔があった。
(うわっ、まつげ長……じゃなくて、息出来ないっ! 死ぬぅ…………)
「……ちゅ……」
最後、みずみずしい音を上げて、姉さんの唇が離れた。それと同時に僕は大きく息を吸って、肺に空気を送り込んだ。
「ぷはぁっ! ……はぁ……はぁ……」
「あ、あれ……?い、今……私…」
どうやら、僕よりも姉さんの方が驚いていた。自分からしておいて、何を驚いているのだろうか。それに、さっきよりも顔が赤い。
「姉さん! 頬っぺって言ったよねぇ!? なんで口にしてるんだよ!」
「……ご、ごめん」
「え?」
姉さんは素直に謝った。予想外の言葉に僕は少し戸惑う。
「ちょ、姉さん? いつもなら「あははっ、梁くんが可愛くて…………」とか言うのに……」
「えっ……えと……あの……」
僕の全く似ていない姉さんの真似にさえ突っ込まず、ただその場であたふたしていた。
「わ、わざとじゃないの……気づいたら……」
「へぇ……反射でキスしたって言うんだ」
「そ、そうなの! ……え、えと……」
さっきから姉さんが目を合わせてくれない。目を合わせようと目線を合わせても、顔を赤くして逸らしてしまう。
「ね、姉さん? どうしたのさ」
「ご、ごめんね梁くん! えと……」
やばい、姉さんが姉さんじゃない。キスをした後からかつてないくらいに顔を真っ赤に染め上げて、慌て出している。
「ど、どうしたんだよ………」
「な、な、なんでもないよ! ほら、早く寝よう!」
すると、姉さんは僕と反対側の方を向いてしまった。姉さんの耳は後ろからでも分かるくらい赤かった。
(…姉さんの唇…………柔らかかったな……)
僕は自分の唇を触りながら、先程のキスを感触を思い出す。姉さんの柔らかい唇が僕の口と触れた。
(………〜〜〜〜〜っ!?)
今更になって、僕も羞恥心が込み上げてくる。顔が燃えるように熱くなった僕も外側を向いて、目を閉じる。
(忘れろ忘れろ忘れろ忘れろっ!)
雑念を振り払うように同じ言葉を繰り返しても、忘れられるわけが無い。
この日、僕も姉さんも忘れようと頭を空っぽにしたのだが、この記憶が消えることは無かった。
ついについにキスさせちゃった。
どうしよう。
ごめんね午前中からとんでもないもの投稿しちゃった。
山吹色の夢さん、誤字報告ありがとうございます。
最終的には?
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早苗さんと幸せルート
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梁くん独り立ちルート
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早苗さんとイチャイチャルート
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もしかしたら鈴仙と幸せルート
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諏訪子、もしくは霊夢と幸せルート