「……」
「あ、梁さん! これすごく美味しいですよ!」
「でも、あんまりチョコレートは好きじゃないんですよね……」
「いえ、市販のものとは違いますよ。食べます?」
「じゃあ一口だけ」
鈴仙さんと出会って一軒目。
甘味処に来た私達は丸いテーブルを囲むように座っていた。
唯一安心できたのは四角いテーブルじゃなかったこと。どっちが梁くんの隣に座るかどうかという争奪戦が発生しなかったこと。
「じゃあ、口を開けてください」
「……」
「えっ、いやいいですよ。自分で食べますよ」
「そうですか……」
梁くんに断られた鈴仙さんは明らかに落ち込んでいた。というのも、うさ耳が垂れ下がっていたのが目に見えたからだ。
「私のチョコアイス……食べてくれないんですか……?」
「う……」
鈴仙さん! それはずるいよ! その可愛い上目遣いは私でも撃ち抜かれますよ!
「わ、分かりましたよ!」
「そうですか! はい、あーんっ」
食べてくれると知った途端、鈴仙さんは顔がぱあっと明るくなる。まるで子供だ。
「あ、あーん……」
「どうですか?」
「は、はい……美味しいです……」
梁くんの顔はもう味なんか分からないと語るほどに顔が赤くなっていた。青筋を浮かべた私はたまらなくなって大声で名前を呼んでしまった。
「梁くん!!」
「は、はいぃ……!」
「こっちも美味しいよ! 食べて! いや、食べなさい!」
「え……でも姉さん、まだ一口も食べてないのに……」
「いいから! 美味しいから! ほら、あーん!」
「ぐむっ!?」
無理やり梁くんの目の前にクリームを乗せたスプーンを押し付ける。そして、口の中に突っ込む。
「どう!? どうなの!? 梁くん!」
「あ……はい……美味しい、です」
「そう? 鈴仙さんとどっちが美味しい!?」
「えっ、どっちも美味しいよ……」
しかし、その答えでは納得できない。変に強気になった私は身を乗り出すようにして返答を求める。
「どっちかにして! 鈴仙さんのアイスと私のアイスどっちが美味しかった?」
「……え、えと……」
「……」
梁くんの目は完全に泳いでいた。
「ど、どっちも美味しかった……です」
「ちょ、何それ!」
「ま、まぁまぁ早苗さん落ち着いて」
誰のせいだと思ってるんだ! というのはさすがに言えないから口を噤んだ。「ぐぐぐ」と唸るだけの私に苦笑いをする鈴仙さん。その余裕をぶち壊してやりたい。
「ん? 梁くんのは?」
梁くんの目の前にあるのはいちご味のパフェ。梁くんにしては少し大人な味だろう。
(そういえば……梁くんの好物って私知らないな……)
料理してるのは梁くんだし、分からないのは仕方ない。それに、毎回リクエストは私や諏訪子様のを受け入れているから自分から「これ食べたい」と言ってきたことはなかった。
「あ、梁さんいちご好きですよね」
「?!」
「ああ、はい」
「永遠亭でもいつも美味しそうに食べてますもんね。師匠も喜んでますよ?」
私を置き去りにして二人で話が進む。
「あのいちごってどこで採れてるんですか?」
「あれは永遠亭の隣で姫様が栽培してるんですよ。ニート防止のために」
「へぇ……」
「良かったら、梁さんの所でも育ててみます? 守矢神社の環境なら育つと思いますが」
「いいんですか!?」
「……」
話に置き去りにされる私は黙って聞くしか無かった。しかし、お構い無しに二人は話を広げていく。
「はい、種はこちらで用意しますし、育て方も姫様に教えて貰ってください」
「ありがとうございます!」
笑顔で頭を下げると、梁くんは小さめな声で「やった……」と喜びをあらわにしていた。
喜ぶ梁くんもかわい…………じゃなくて!
「へ、へぇ……鈴仙さんって梁くんの好きな食べ物知ってるんですねぇ……」
「? はい、いつも美味しそうに食べてくれるので」
「……は、恥ずかしいです」
赤面して俯く梁くん。どうやらいちごが好きなのは明白だった。
何より悔しいのは私が梁くんの好きな食べ物を知らなくて鈴仙さんが知っているということだ。
「むぅ……」
悔しくて頬を膨らます。その瞬間、私が鈴仙さんを睨みつけたほんの瞬間のことだった。
ニヤリと鈴仙さんが私を嘲笑うかのような表情を向けた。
「っ!!」
負けた。なんだあの「私は梁さんの好きな物知ってますよ」の顔はッッ!!
甘味処を出て、一回背伸びをする。さっきからイライラが止まらないのは何故だろう。いや、明らかだ。
「梁さん、これからどうします?」
「そうですね……そういえば、この川を上流に登ると、景色が綺麗な場所があるらしいんですよ。そこに行きませんか?」
「あ、いいですね。行きたいです」
いつの間にか、梁くんも鈴仙さんとずっと話しているし、全然こっちを見てくれない。
昨日の告白を忘れたのだろうか、全く意識してくれない。
「じゃあ行きましょう。日が暮れる前にはここに戻りたいですし」
「そうですね。姉さんもそれでいい?」
「……」
「姉さん?」
「え? あ、うん。いいよ」
「……」
いけないいけない。梁くんと2人になりたいからってぼーっとしすぎた。
「梁さん、寒いんですか?」
「え?」
「ああいえ、さっきから手をさすってるので」
「え、ええ、まぁこの時期ですし……」
「私の手で温めますか?」
「えっ!?」
これには鈴仙さんもさすがに恥ずかしかったのか、頬が赤くなっていた。
まずいと思った私は即座に2人の間に割り込む。その時に鈴仙さんから「あっ」という声が漏れたが、気にせず梁くんの手を掴む。
「じ、じゃあ梁くん! 手繋ご!」
「え、な、なんで? ていうかもう繋いでるし……」
「寒いなら私の手であっためてあげる。私、自分の手暖かいってよく言われるし」
「え、でも恥ずかしいよ……」
「いいの! 黙って繋がれてて!」
半ば強制的に私は梁くんと手を繋いだ。とりあえず鈴仙さんと手を繋がれる事はなくなって一安心だ。
後ろで悔しそうに歯を食いしばる鈴仙さんの顔が見えたので、ニヤリと笑ってやった。
(へへん! 梁くんの隣は私のものですからね! 鈴仙さん!)
そこから、私は梁くんの指に自分の指を絡めていわゆる恋人繋ぎをした。
梁くんは顔を真っ赤にはするものの、何も言わず、黙って私の手を握った。
鈴仙さんは物理的な距離を縮めることは諦めたのか、梁くんに気さくに話しかけた。
「そういえば、義眼の方はどうです?」
「はい、永琳さんのおかげで取り外しも楽になりました」
「おお、それは良かったです。能力の方は?」
そういえば、気にならなかった。というより、梁くんが能力を使うところを私は見たことがなかった。
「一度も使っていないんです。なんか、能力を使ってしまったら自分が自分じゃなくなる気がして……」
「……そう、ですか」
「少し怖いんですよね。霊夢さんや姉さんのような人間になれるのなら嬉しいんですが、この能力を使ったらもしかしたら人間をやめてしまうんじゃないかって」
もちろんそんな例はない。能力を酷使したところで種族や血が変わるなんてことはない。
ただ、梁くんの気持ちは分かる。人里の人達と同じ人間のはずなのに、能力を使えるって分かると、一気に人間とは疎遠な存在になってしまうのではと不安に駆られるというのは昔私も悩んでいた。
「……未来予知なんて少し気味が悪くて……それに、何より人里の人達に嫌われるのが怖くて」
「そうですか……」
「まぁ、悩んでたって仕方ないよ。まだ梁くんは子供なんだし人里には君を心配してくれる人もいるでしょう?」
「うん……そうだね。ありがとうございます、2人とも」
梁くんが微笑む。その笑顔はやっぱり破壊力抜群だ。私も鈴仙さんもハートを撃ち抜かれたかのように顔を赤くする。
たまらなくなった私は繋いだ手を引き寄せて抱きしめる。
「うーんっ、自慢の弟っ! 姉さん誇らしいよっ!」
「ちょ、姉さん! 鈴仙さんもいるから!」
「いいよいいよ、見せつけてやろうよ」
「あの、早苗さん……周りにも人はいるので……」
「あ……」
我に返り周りを見ると、冷めた目で見る女性、顔を赤くして羨望の眼差しを送る男性がたくさんいた。
恥ずかしくなった私は梁くんを離し、すぐさま謝罪する。
「ご、ごめん梁くん」
「いや……」
私たちは気を取り直して、また道を歩く。少し森の中に入ると、色々と自然が見えるようになった。
守矢神社にはない珍しい木や鳥もいた。冬なのに鳥の群れが沢山あるのに私は驚いた。そして、一番驚いているのは私じゃなかった。
「あ、姉さん! 鈴仙さん! あれ、
「れ、梁さんも大人びてはいますが、やっぱりまだ子供ですね」
「あはは……まぁ、喜んでくれてますし、私はいいですけどね」
「というか……」
「「梁くん(さん)体力どうなってるの……」」
山道に入って、上り坂が続くので、私と鈴仙さんは息を切らしながらも梁くんについて行った。しかし、梁くんは普段見れない自然に興奮し、走り回ってしまっているのだ。
「梁くんがいるし飛ぶ訳にもいきませんしね」
「そうですね……」
そう話しているうちに梁くんはかなり遠くまで行ってしまった。一本道なので目視はできるが、声はもう届かないだろう。
私は今この時がチャンスだと思った。
「鈴仙さん」
「はい?」
「あなたは、梁くんが好きなんですか?」
「……ど、どうしてそう思ったんですか?」
「いえ、梁くんと話してる時は顔が赤いし、私が手を繋ぐと嫉妬するような目で見てきますし……」
鈴仙さんは図星だったようで、顔を赤くして恥ずかしそうに縮こまってしまった。それと同時にうさ耳も垂れ下がっている。いちいち仕草が可愛いのは、梁くんには毒だろう。
「そ、そんなに分かりやすかったですか」
「ええ、まぁ梁くん本人は気づいていないようでしたけど」
「うぅ……ええ、そうですよ。私は梁さんが好きですよ。前からね」
「子供に手を出すなってあんなに私に注意してたのに……」
挑発するように笑う私に鈴仙さんは負けじと食い下がる。
「彼はもう子供ではありません。年齢は低くとも態度も性格も、全て大人びています。まぁ……以前のように早苗さんに注意することは私も出来なくなりますが……」
「いえ、鈴仙さん、違いますよ」
「?」
今の鈴仙さんの言葉には語弊があった。私だけが分かる確かな事実を、彼女は知らなかった。
「梁くんはまだ子供です。態度も性格も」
「そう、ですか?」
「ええ、梁くんは家族を失ってから、大人であろうと必死になっています。いつまでも守られるままでは嫌だと、きっとそう思っています」
梁くんは霊夢さんとの稽古を必死にこなしていた。一人でも生きていけるようにもがいていた。
料理も勉強して、家事も一通りマスターした。それも、一人で生き延びて行けるようにするため。
「確かに子供のような無邪気さはありません、でもそれは大人よりも経験値が高いことの裏返しです。心はまだ子供だし、何より甘えることを知らないだけなんですよ」
「……」
「本当の家族が消え、甘えられて、心を許す人がいない。だからこそ、ああやって大人になろうとしてるんです」
私は、まだ梁くんに甘えられたことは無い。心も完全に許されていないんだ。自分が口にして、ようやく自覚することが出来た。
「それは……早苗さんにもですか?」
「はい。私もまた、梁くんに心を開いてもらっていません」
「…………」
「でも、私も今日初めて、梁くんがあんなにはしゃいでいるのを見ました。いちごが好きだなんて言うのも、まだまだ子供な感じがしますし」
自然と口角が上がる。当たり前だ、好きな人の意外な一面を知ることが出来たのだから。
「……私、早苗さんのこと、ただの狂気的なショタコンだと思っていました」
「狂気的って言葉、鈴仙さんが使うと本気にそう思っちゃうんでやめてください」
狂気を扱う彼女に「狂気的」なんて言われたら、本当に私がものすごい変態みたいに思えてきてしまうのでやめて欲しいものだ。
「でも、違いました。家族想いの、素敵な人です」
「ちょ、やめてください照れますから……」
「じゃあ、私が梁さんを貰っていきます」
さりげなく、梁くんを奪おうと宣言した鈴仙さんを見逃さなかった。私の顔から笑顔と赤みが消える。
「え? いやいや、梁くんは私のものですよ? 昨日告白もしましたし」
「えっ!? こ、告白っ!?」
「はい、私も梁くんのこと好きなので、男性として」
「え、えぇ…………」
「というわけなので、梁くんは私が貰います。というか、私のものです」
鈴仙さんはわなわなと震えているが、負けじと食い下がってきた。
「わ、私も近いうちに梁さんに告白します! 好感度上げて、梁さんの方から告白されるくらいに可愛くなってみせます」
「へぇ……頑張ってくださいね」
鈴仙さんは圧倒的に不利だ。住んでいる場所も違うし、何より親密度が私とは桁違いに低い。
でも、梁くんも鈴仙さんとは私の次くらいに仲がいいので、いつ追い抜かされてもおかしくない。
それに、ライバルがいる方が恋愛戦争は燃えるものだ。私はニヤリと笑って、鈴仙さんを見据える。
「ええ、望むところです。どっちが梁くんの恋人になるか……」
「いいでしょう! 受けて立ちます!」
「何が?」
「「うわぁっ!?」」
唐突に背後から梁くんに声がかけられ、私達は仰け反るように驚いた。そんな反応に梁くんも驚いたようだった。
「なんの勝負するの?」
「い、いえ! なんでもないんですよ梁さん」
「そうそう。女の子には秘密が付き物なの!」
「そ、そう……」
この話は梁くんに知られると少し警戒される気がしたので話さないことにした。それに、鈴仙さんの想いを私が勝手に伝える訳には行かない。正々堂々とした勝負故だ。
「そんなことより、早く行きましょう、梁さん!」
「わっ」
鈴仙さんは梁くんの手を握って引っ張った。色々吹っ切れたのか、鈴仙さんは早速仕掛けてきた。
「……むっ」
「負けませんよ! 早苗さん!」と言わんばかりの不敵な笑みを浮かべた鈴仙さんに私は笑って返す。
(絶対に……私に惚れさせてやる!)
そう誓って、2人を追いかけた。
鳥の名前はオリジナルです
最終的には?
-
早苗さんと幸せルート
-
梁くん独り立ちルート
-
早苗さんとイチャイチャルート
-
もしかしたら鈴仙と幸せルート
-
諏訪子、もしくは霊夢と幸せルート