今年も色々お願いしまぁーす!
「痛っ」
料理中、右の指に痛みが走る。少し身が動くくらいの小さな痛みだ。
しかし、家ではそれは大事なのだ。
「梁くん!? 大丈夫!?」
「ど、どうした! 梁!」
姉さんが絆創膏を持って泣きながら寄ってくる。それが呼応して、神奈子様が慌てて駆けつけてくる。
これを落ち着かせるのもなかなか面倒なもので、特に姉さんは一度泣き出すと止まらない。
「大丈夫ですって、神奈子様も姉さんも大げさすぎですよ」
「だっでぇぇ……」
だらしなく鼻水と涙を流す姉さん。僕は絆創膏をそこに巻いた後、抱きついてくる姉さんの頭を撫でながらため息をつく。
神奈子様も困ったように後頭部を掻いていた。
「早苗の反応がな、いつも大げさだから、梁に何かあったんじゃないかと心配になるんだ」
「心配してくれるのは嬉しいですけど、限度がありますよ。それに、あなた達はもっと凄い怪我を見たでしょう?」
「それはそうだが……」
こういった時の対処も心得ている。守矢神社に住まわせてもらってからもう3ヶ月以上経っているのだ。慣れない方がおかしい。
これだと何だか、姉さんをコントロールするのを慣れているみたいでむず痒いけど。
「姉さん、離れて」
「梁くぅーん……」
「……」
分かってる。姉さんはとんでもないショタコンだということを。人里に降りても「あ……あの子かわいい」って小さい男の子をガン見している。
別に人の好みをどうこういうつもりは無いが、年頃の女性として、子供にしか興味が無いのは、如何なものか、と毎回思ってしまう。
「よし、出来た」
僕は出来上がった料理を机に並べていく。ブリの照り焼き、ほうれん草のおひたし、わかめの味噌汁に白米。至って普通の晩御飯だ。
「姉さん。諏訪子様呼んできて」
「はいはーい」
落ち着きを取り戻した姉さんはスキップで鳥居にいる諏訪子様を呼びに行った。
「…………梁も、随分早苗の扱いになれたねぇ」
「扱いなんて人聞きの悪い…………うまく姉さんのめんどくささを躱すのに慣れたんです」
「……お前も大概だな」
「?」
神奈子様との何気ない会話も、なんだか前の家族に似ていた。諏訪子様はお母さん、神奈子様はお父さん、姉さんはお姉ちゃん…………こう考えると、どうして救えなかったのか、トラウマが蘇るだけだった。
「…………」
「梁?」
「は、はい。食べましょうか」
僕は無理やりその考えを剥がして、椅子に座った。
「さて、梁。明日はここに吸血鬼が来る」
「き、吸血鬼……ですか?」
神奈子様の切り出しに、梁くんは少し戸惑いを見せていた。私はブリをひょいひょいと口に入れながらその話を聞いていた。
「ああ、妖怪だ」
「っ!」
梁くんの体が強ばる。そして箸が止まった。
「しかし、心配するな、梁は自室にいるといい。流石にそこまでは来ないだろう。それに悪い奴じゃない」
「わ、分かりました」
「大丈夫? 梁くん、心配なら私も一緒にいるけど」
心配になった私は梁くんに優しく声をかける。梁くんの体からは少しずつ冷や汗が垂れているのは肉眼でも分かるほどだった。
「大丈夫」
梁くんが言う大丈夫はいつも信用できるものだが、今回ばかりは何故か腑に落ちない。それがどうしてかも分かるし、トラウマが掘り返されているのも伝わってくる。
「すまんな。吸血鬼が早苗と会いたいというのでな。仕方なく」
「そうそう、早苗と会わせたらすぐ帰って貰うからね」
諏訪子様も少しでも元気づけようと明るく振舞っていた。それでも梁くんの表情が変わることは無かった。
翌朝。境内の掃除をしていると梁くんが縁側から出てきた。
「おはよ、梁くん」
「お、おはよ……」
梁くんの顔色は明らかに悪かった。昨日はよく眠れなかったのだろうか、私は箒を下において、梁くんに駆け寄る。
「梁くん。今日は休んでていいよ。私がやっておく」
「い、いいよ。朝食だけでも作る」
「そ、そう……」
無理しているのは分かっているのに梁くんは私の手を振り払って台所へと向かった。
レミリアさんが来るのは正午だし、それまでに梁くんが自室に戻ればいいだけの話なので、一安心ではある。
「早苗、朝食ができたよ」
数分後、神奈子様が私を呼びに来た。掃除を一度中断して、私は中へと入る。
心配になった私は神奈子様に相談しようとした時だった
「あの──」
「ごめんください」
どこからか聞こえる少し大人びた声。
驚いた私は少しパニックになり、玄関へと走っていった。
「さ、咲夜さん!?」
「ごめんなさい。お嬢様がどうしても早苗と話がしたいって……」
「え、ええ……」
「悪かったわねわがままで!」
いじけたように頬を膨らます吸血鬼、レミリア・スカーレットがいた。
「少し長話になると思うのだけど……」
「あ……」
「ん? 何よ?」
「まだ朝食が済んでいなくて……」
私は少しでも梁くんが自室に避難する時間を稼ごうとした。しかし、レミリアさんの答えは即出された。
「あ〜、じゃあその時でいいわ、お邪魔するわね」
「あ、ちょっと!」
レミリアさんは躊躇なくズカズカと入ってくる。そしてそのまま台所へと向かってしまった。
やばいと思った頃にはもうレミリアさんは梁くんと対峙していた。
「…………神奈子、こいつは?」
「あ〜、レミリア、来るの早かったな。こいつは有原梁。守矢神社で倒れてたんだ」
「ひっ……」
梁くんの顔は怯えに怯えきっていた。そしてそのまま壁に背中をつけて、レミリアさんと距離を取ろうとしていた。
その行動が気に食わなかったのか、レミリアさんは梁くんを睨みつけ、近寄っていく。
「何よ? 人間? しかも子供ね」
「く、来るな!」
「お、おい梁……」
「梁くん、やめなよ!」
梁くんは包丁を突き出し、レミリアさんを威嚇する。しかし、最強の吸血鬼にとって包丁なんてただの玩具に過ぎないのだ。
「は……?」
「……っ!」
「何こいつ、ばっかみたい。早苗、どうしてこんなやつ飼ってるの?」
「か、飼っているわけじゃ……」
「ちっ、気に食わないのは私だけって事ね……」
咲夜さんが慌ててレミリアさんを止めようとするが、それを払って梁くんに近寄っていく。神奈子様も止めに行くがそれよりも先にレミリアさんが動いた。
ドゴッっ!!
「かっはっ……」
「あーあ、人間にここまでイラつかされるとはね……」
庭の方に梁くんを吹っ飛ばすように右足で鳩尾を蹴った。
「レミリア!!」
「何よ神奈子、やるの?」
「くっ……」
今のレミリアさんの目は「本気」だった。今まで人間はただの下等生物。私や霊夢さんだって眼中に無いほど彼女は強力なのだ。
それは神奈子様や諏訪子様などとも肩を並べるほど。
激昂した神奈子様を制するほどの威圧感を彼女は持ち合わせている。
「こいつは崇高なる吸血鬼の私に減らず口を叩いた。それだけの罰を与えるだけよ」
「梁くん!」
レミリアさんはツカツカと梁くんに近寄る。梁くんはどうやら木にもたれかかり、溜まった血を口から吐いていた。
「なら、これで最後。早苗に免じてこれで許して…………」
「…………」
梁くんはレミリアさんを睨みつけていた。その時、レミリアさんの動きが完全に止まった。
レミリアさんは梁くんを強く睨みつけた後、クルッと踵を返し、来た道を帰っていった。
「ちっ、帰るわよ、咲夜。早苗、邪魔して悪かったわね。後日、紅魔館に来てちょうだい」
「すいません、みなさん、失礼しました」
そう言って、レミリアさんと咲夜さんは飛んでいってしまった。私はそれを見た後、梁くんに駆け寄る。
「梁くん! 梁くん!」
「はぁ……大丈夫、姉さん」
「本当に大丈夫か!? 妖怪ならまだしも、あんな蹴り人間が食らったら一溜りもないはずなのに……」
「さぁ、あまり強く蹴っていなかったけど……けふっ」
「…………」
どうやら梁くんは軽傷で済んだみたいだ。レミリアさんが手加減してくれたのだと、そう思った。
「お嬢様、少しやりすぎでは?」
「…………」
「お嬢様?」
咲夜は飛びながらレミリアに話しかける。しかし、話しかけても一向に返事が返ってこない。
表情が見える位置まで移動し、レミリアの顔をのぞき込む。
「お嬢様! 聞いていらっしゃいますか?」
「…………っ」
「お嬢…………様?」
レミリアの顔を覗き込むと、この上ないくらいに、怯え、震えていた。
「お嬢様!? どうしたのです!?」
「何よ……あいつの目……」
「あいつ?」
「あの餓鬼の目よ……」
「ああ、梁さんという……オッドアイでしたね……」
「いえ……黄色の方はきっと義眼よ。そうじゃなくて、右目の方……肉眼の方の眼よ……」
「それが何か?」
レミリアは自分の腕を抱き、飛ぶスピードを遅めた。そしてとうとうその場で止まり、恐怖を言葉にした。
「あの餓鬼の眼……いや、あの餓鬼……誰よりも強い……」
「は?」
「…………ははっ、おかしな話よね。吸血鬼が人間の更に子供に怯えるなんて……」
「……」
「多分、私、負ける」
「っ!」
妖怪にも誰にも負ける気がないレミリアの口から初めて自分が負けることを自覚した。
それほど、あの少年の瑠璃色の目に何かが込められていると、レミリアは直感したのだ。
その言葉を聞いて、隣にいた咲夜でさえも恐怖を隠しきれなかった。
「…………」
一応、怪我の手当のため、今日1日は安静にするように私が梁くんに釘を指した。というのもどうせ抜け出して家事をするだろうから、私が隣で監視しているのだ。
「梁くん、怖かった?」
「……まぁ、そりゃ……ね」
「でもね、レミリアさん、本当はいい人なんだよ。ああ言いつつも、前の外界戦争で人里を守りきったんだから……」
「そう……なんだ……」
梁くんは俯きながら私の話を聞いていた。いや、聞いてはいないだろう。
私はそんなふうに落ち込む梁くんを見て少し魔が差した。
「あぁーん、可愛いっ! 梁くんったら、そんな顔しちゃってぇ!」
「やっ! ちょ、姉さん!!」
私は元気づけようと思い切り抱きつく。悲しい時は人肌に触れるのが一番効果的だと、諏訪子様に教わったからだ。
「…………元気……出た?」
「……出たから、早く出てって」
「やーだ! まだ元気出てないじゃん」
「出たから!」
梁くんは無理して叫ぶ。私はそんな梁くんを見て、まだまだ義姉として何も出来ていないんだと実感することが出来た。
「じゃあ、早く寝て、明日からバリバリ働いてもらうよ!」
「わ、分かったよ……」
今日は家事をすることを諦めたのか、大きくため息をついて、ベッドに横になった。
「じゃ、おまじないかけてあげる」
「おまじない?」
「そっ、おなじない」
「もうそんな年じゃ……」
チュッ……
私は静かに梁くんの頬に唇を当てた。
私の緑色の髪が梁くんの顔にかかる。
キスした本人の私が爆発するほど恥ずかしかったが、梁くんはそれ以上に顔を赤くしてこちらを見ていた。
「ね、ねねねねねねね姉さん!?」
「は、はい! 早く寝て!」
私は慌てる梁くんを制し、布団を被せた。
梁くんはしばらく寝れないだろうと、そう思った。
だって、私もその後の巫女の仕事、全然集中出来なかったのだから。
最終的には?
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早苗さんと幸せルート
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梁くん独り立ちルート
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早苗さんとイチャイチャルート
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もしかしたら鈴仙と幸せルート
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諏訪子、もしくは霊夢と幸せルート