※5/9、一部編集しました。
~ナザリック地下大墳墓・アインズの部屋~
陽光聖典を始末したステアー達は、ナザリックに帰還する。
帰還後ステアーはアルベドにミレアと
アインズの部屋に転移した後、ステアーは先に部屋に戻っていたアインズと向かい合うように座り、カルネ村でお互いが出会うまでの経緯を話し合った。
「それじゃ、まずは僕から話しますね」
「えぇ、お願いします」
そう言って、ステアーは今までの経緯を話した。
ユグドラシルのサービスが終了する直前まで仕事をしていた彼は、ギリギリの時間でユグドラシルにログインした。しかしログインした彼が次に目覚めたのは、いつも見るナザリックの光景ではなく、スレイン法国の近くの森だった。
疑問に思った彼は、あの手この手を使い異世界に転生してしまったことを理解した。そして自分が転生しているのなら、アインズも転生しているのでは、と推測した彼はシャルティアの眷属、ミレアとアウラの
一方彼はゲートで人がいるところへ転移したところ、スレイン法国の宝物庫にいる番外席次、もといアズリエル・フェイティと遭遇する。その後色々情報を聞き出した後、何故か彼女のことが気に入ったステアーは、
そして偶然にもミレアが通った道に転移した彼は一度彼女と合流しようと考えた時、ミレアが進む方向から妙な気配を感じ取った。気になって向かうと、カルネ村が兵士たちに襲撃されていたのが確認できた。その光景を見た彼はミレアに兵士たちを抹殺するよう指示し、エンリとネムを襲った兵士たちに制裁を加えたところで、ゲートを使ったアインズと出会った、と。
「成程………じゃあ次は俺ですね」
ステアーの経緯を聞くと、今度はアインズが話しはじめた。
アインズはユグドラシルのサービスが終了したあの日、最後の時間を玉座の間で過ごしていた。しかし時間を過ぎても現実に戻らず、疑問になったアインズがGMコンソールを使おうとしたが、表示されなかった。
ますます状況が分からなくなった時、突然NPCであるアルベドが喋り出した。その後色々試した結果、ゲームではなくなっていることを知ったアインズは、ナザリックを隠蔽し周囲の警戒を強めさせた。そしてアイテムの変化を確認するため
「成程…………そういえば、アインズさんは今アンデッドなんですよね。身体の方はどうなんですか?」
「感情が高ぶったり激しくなったりすると、強制的に抑制されるようになりましたね。あと、食欲とか睡眠欲もなくなりました。性欲は…………無くもない、って感じですね。ステアーさんの方は?」
「そうですね……生命の気配を感じ取れるぐらいに五感が鋭くなった気はします。食欲は今のところ無いですけど、食事できるかどうかはまだ確かめていません。ただ睡眠欲は普通にありますし、性欲もあるかないかでいえばある方です」
「へぇ、思ったより結構人間寄りなんですね」
「………………そうですね」
人間寄りと言われることに、ステアーは不思議と違和感を感じなかった。
これも種族の影響だろうか、とステアーは推測した。
「それでアインズさん、そろそろアルベドのあの熱い視線について教えていただけますか?」
「えーっと、その…………何といいますか………」
「…………そういえばアインズさん、さっき僕のこと“エスパー”って言ってましたよね?あれって、まさか…………」
「………………………はい、お察しの通りです」
「マジっすか」
思わぬ答えに、ステアーは天を仰いだ。今のステアーの心にあるのは、笑いたい気持ちではなく、やってしまったかという感情だった。
「はぁ…………まぁ設定はそうだとして、他に何か彼女にしていませんか?」
「っ…………い、いや、何も」
「何もしていないのなら、どうして視線を外すんですか?」
「ぐっ」
「ア・イ・ン・ズ・さ・ん?」
ステアーはジト目でアインズを見つめる。口元は少し笑っているように見える。これは“正直に言わないと、どうなるか知らないよ?”というステアーなりの警告だ。
何とか無言を突き通そうとしたが、彼のゴミを見るような視線に耐え兼ね、遂に白状した。
「……を……………た……」
「聞こえません、もう一度言ってください」
「……を、触りました………」
「何を触ったんですか?大人なんですからはっきりと」
「胸を触りました」
一瞬ステアーの思考が止まる。そして数秒後、ステアーは一言、
「…………上司が部下にセクハラですか?」
「ち、違います!そういう目的で触ったんじゃないんです!ユグドラシルの時に規制されていた18禁行為が消えているのか確認しようと思って…………」
「無意識に揉んだ、と?」
「……はい」
「ふーん………まぁ、タブラさんなら許してくれそうですけど。ちなみに、初めて女性の胸を触った感想は?」
「……最高」
「素直でよろしい」
ステアーの質問に正直に答えるアインズ。どうやら彼なりに罪悪感は持っているらしく、タブラのNPCを汚してしまったと後悔していた。
「責任、とりましょうね」
真剣な表情で、ステアーはアインズの肩に手を置き、そう言った。
「はい……………アルベドで思い出しましたけど、ステアーさんに一つ聞きたいことがあったんです」
「聞きたいこと?」
「指輪のことですよ。アルベドがステアーさんからもらったと言っていたので、ずっと気になりまして」
「指輪……あぁ、あのリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンのことですか」
左手人差し指にはめられた黄金の指輪を掲げて見つめる。
リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。
本来であれば特定箇所以外転移が不可能なナザリック内において、回数制限無く自由に部屋を転移できる特殊な指輪だ。
「何でアルベドにあげたんですか?それにあの指輪って確かステアーさんの……」
「………………アインズさんは、アイテムとは何のためにあるかって考えたことはありますか?」
「何のために…………ですか?」
「えぇ。これはあくまで僕の考え…………いや、
アイテムというのは、それぞれ何らかの役割を与えられて作り出されます。例えば、
そんな感じで、アイテムには必ず役割があるんです。ですが、その役割を果たすためには、その使い手が必要なんです。例えそれが
僕がアルベドにあの指輪を渡したのは、それと同じです。確かにあの指輪は大切な物ですけど、僕が持つより守護者統括である彼女が持っていたほうが、指輪も喜ぶと思ったんです」
「……それで、あの指輪を」
「…………まぁ、元々ナザリックのNPC全員に愛着があるから、っていうのもありますけどね」
真面目な話の後、少しふざけた言い方をして笑うステアー。それにつられ、アインズも笑い始める。
すると、アインズに
「………………………………うむ、わかった。今から向かい…………え?………そ、そうか………わかった、では私から直接伝えておく。お前はそのまま待機しろ」
どうやら相手はアルベドのようだ。
アルベドの説明を受け、一瞬驚いたような声を出すがすぐに魔王ロールでその場で待つよう命令し、アインズは
そして何故か手を顔に当て、ため息をついた。
「えーっと、ステアーさん。アルベドから二つ報告があります。まず一つ目は、第四階層守護者ガルガンチュア及び第八階層守護者ヴィクティムを除く全階層守護者と戦闘メイドプレアデスが揃ったようです」
「思ったより早いですね」
「えぇ、そしてもう一つ──────が、ステアーさんの部屋で待機しているそうです」
「……………は?」
~ステアーの部屋~
「……………遅いわね」
ステアーにこの部屋で待つように言われてから、かなりの時間が経つ。
その間、私はこの部屋にある様々な置物などを見たり触ったりした。黒いガラスのようなのが付けられ、横にはカチカチと音を鳴らせるボタンのようなものがある板とか、ピッピッピッと音を鳴らしながら数字…………なのかしら、が緑色に発光しながら次々に変化する箱とか。
そんなものを色々見てみたけど、正直飽きた。
確かに面白そうだとは思うけど、使い方がわからないし。
結局私は大人しく彼のものと思われるベッドに座り込み、待つことにした。
勿論その間私は一人だ。つまり、宝物庫に閉じ込められていた時とあまり変わらない状態だ。強いて違いを言うならば、宝物庫のように窮屈で暗い部屋ではなく、明るく広々とした部屋にいることぐらいだ。
そう、それだけの違いしかない。ないはずなのに……………
「(宝物庫にいた時よりも時間が長く感じる……………)」
思えば、彼と出会った時から私はおかしくなっている。悪い方向にではなく、おそらく良い方向に。
私は、スレイン法国の切り札とされた女性と、その女性を強姦したエルフの王の間に産まれた。そして産まれて間もない頃、私の母は法国から消えた。そのせいで私は宝物庫に閉じ込められ、つまらない日々を過ごす羽目になった。
産んでくれたこと自体は憎んでない。それは不可抗力のようなものだと、私はわかっている。性格が歪んだのも、エルフの王の性格が遺伝子的に継がれたものだとも思っている。だって自分より強い男との間に子供を産んで、その子供がどれほど強くなるのか気になる、なんてエルフの王とほぼ同じじゃない。
唯一私がその母親を恨んだことといえば、私にだけあんな窮屈な生活を送らせ、自分は逃げて自由に生きているということだ。何で自分だけこんな生活を送らないといけないのか、私には理解できなかった。もし今度会ったとしたらその首を斬り飛ばしてやる、とも思った。
けど、今は違う。ラグナレク・ステアー・テンペスト…………………かつて1500人の人間を相手に無双した伝説の魔王、
自分を守るために母は敢えて法国を逃げ出し、私を宝物庫という安全な場所に保護させたとか、彼と会わなかったら出来ない考えだった。
そして今もそうだ。今まで宝物庫で閉じ込められた期間に比べたら圧倒的に短い時間を、私はそれ以上に長く感じている。宝物庫にいた時は一切感じえなかった感覚だ。
「……フフフ」
思わず口が緩み、笑みが浮かぶ。
本当に私はおかしい。あの日からまだ一日ぐらいしか経っていないけど、私は彼と一緒にいることが楽しみで仕方がない。
これが俗に言う、恋心………………なのかしら。
「………………ところで、いつまで置物に化けているつもり?」
彼の机の上に置かれた獣の置物
すると獣は閉じていた瞳からパープルアイを覗かせ、視線を私に向けた。
『へぇ…………気づいてたんだ』
「見た目はそれっぽいけど、溢れた魔力までは隠せていないわよ」
『魔力……MPのことか。成程、それは迂闊だったよ』
「迂闊?それは嘘ね。さしずめ、ステアーが連れてきた人間がどれほどの存在かを確かめるためにわざと魔力を漏らし続けた…………違うかしら?」
『アハハ、面白いことを言うね、君は』
すると獣は机から飛び降り、視線を向けたまま私の前まで歩いてきた。
『君、名前は?』
「アズリエル・フェイティ…………といっても、ステアーにつけてもらった名前なんだけど」
『へぇ、
「貴方もステアーに名前を付けてもらったの?」
『うん、そうだよ』
そう言うと、その獣は黒い霧に包まれる。すると中から獣ではなく、人型の異形が現れた。
極限まで薄めた紫の髪にリボンを巻き付けたサイドテール。
透き通ったパープルアイに、中性的な顔つき。
頭からは猫のような耳に、腰からは巨大な尻尾が生えている。
身長は、子供より少し高いぐらいだ。
「自己紹介するよ。ナザリック地下大墳墓【