OVERLOAD 人類最終試練(凍結)   作:嵐川隼人

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何とか二日連続で投稿できました……目と腰が凄く痛い(・・;)

そして今回、物凄く文章が長いです。


楽園の扉(ゲート・オブ・エデン)

~ナザリック地下大墳墓 第五階層・氷結牢獄~

 

 

 

「────よし到着…って寒っ!!

 

 転移直後、凍えるような冷たい風に驚くステアー。

 しかしその感覚が走ったのは一瞬で、すぐに寒さを感じなくなった。

 

「あっぶね、氷結対策の指輪付けてたのが幸いしたか」

 

 右手の中指にはめた水色の指輪を見て、ほっと一安心する。

 ふと、自分の左腕が震えている感覚がはしる。目を向けると、余りの寒さに体を震わせるアズリエルの姿があった。

 

「アズリエル、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫……ただ、ちょっと寒い、だけ」

 

「全然大丈夫そうには見えないけどね!?」

 

 口では大丈夫と言っているが、身体の震えが全然止まりそうにない。

 それを見かねたステアーは、自分の堕天使の衣(アスタルテ・クロース)を脱ぎ、アズリエルの肩にかけた。

 

「……あら、さっきまで感じてた寒さが無くなった」

 

堕天使の衣(アスタルテ・クロース)は上位魔法・物理攻撃を完全に無効化する他に、一部状態異常を無効にする、フィールド効果を受け付けないという能力があるんだ。失われる世界(ロストワールド)の入り口まではこの寒さが続くと思うから、暫くはそれを着てて」

 

「貴方は大丈夫なの?腕が丸見えだけど」

 

「俺には氷結対策の指輪があるからな、服がなくても十分だ」

 

「そう……ありがとう

 

 アズリエルは自分で自分の言葉に少し驚いた。

 今私、()()()()()と言った?

 ありがとうなんて言葉、今まで一度も言ったことが無いのに……

 

「何か言ったか?」

 

「何でもないわ」

 

 どうやらステアーには聞こえていなかったらしく、無表情で済ました。

 

「?……まぁ、いいや。とりあえず、入るよ」

 

「入るって……この建物に?」

 

「そう」

 

 彼が指をさしたのは、見渡す限り氷で覆われた極寒の地で最も寒いと言われている場所───氷結牢獄。

 寒々しい氷の世界に異質な雰囲気を運ぶメルヘンチックな二階建ての洋館で、ナザリックに敵対したものがここに放り込まれる。

 先程ステアーが捕え、失われる世界(ロストワールド)に送った陽光聖典の隊員たちは、エリナとミーティアによりこの牢獄の一室である“真実の部屋”へ運ばれている。

 

「この氷結牢獄の中に、失われる世界(ロストワールド)への入り口を設置してあるんだ。さて、行こうか」

 

 ステアーは、ゆっくりと館の扉を開く。

 内部の廊下は全て青白い氷に覆われており、かなりの数の実体を持たないアンデッド(幽霊に近い)が屋敷内を徘徊していた。

 ステアーが一歩建物に足を踏み入れると、徘徊していたアンデッド達がステアーに向け一礼し始めた。

 

「御勤めご苦労様!……じゃあアズリエル、俺についてきて。大丈夫、俺がいる限り彼らは攻撃してこないから」

 

「えぇ」

 

 そう言って、出来る限り離れないようアズリエルをついてこさせる。

 おそらく彼女程の強者なら、ここの徘徊するアンデッドが襲ってきても倒せそうだが、争いは出来る限り避けたいというのが、ステアーの考えだ。

 

「ねえ、ステアー。あのアンデッドは一体何のためにここにいるの?」

 

「さっきも言ったように、この館は“氷結牢獄”っていう名前だ。つまり、ここはナザリックにおける牢獄だ。変に罠を仕掛けたり色々細工するより、彼等に任せた方が安心なんだ」

 

「へぇ、そうなの。というか、牢獄ってことはつまり」

 

「その通り、さっき俺が捕えた陽光聖典の隊員たちも、この氷結牢獄に送り込まれて……おや?」

 

 突然足を止めるステアー。

 どうしたのかアズリエルが聞こうとすると、静かにするようジェスチャーされる。

 音を立てずに耳を澄ませてみると、奥の方から何やら声が聞こえてきた。

 いや、声というよりは、悲鳴に近いだろうか。

 

「………どうやら、ニューロニストが陽光聖典の隊員たちに色々情報を聞き出してる真っ最中みたいだな。折角だ、ちょっとだけ挨拶しに寄り道するか」

 

 再びステアーが歩き始める。アズリエルもついて行くと、聞こえてきた悲鳴がさらに大きくなっていった。この世のものとは思えないような、断末魔に近い悲鳴だ。

 

 暫く歩くと、一つの扉にたどり着く。どうやらここから悲鳴が鳴っているようだ。

 

「ここが、特別情報収集官ニューロニスト・ペインキルが情報収集や拷問を行う“真実の部屋”だ。さて……」

 

 扉の前に立つと、ステアーは少し強めに扉をノックする。

 すると部屋の奥から、はーいという女性らしき口調のだみ声が返ってくる。

 そして突然悲鳴が聞こえなくなると、扉がゆっくりと開かれ、中からボンテージを着用した、膨れた体の半魚人のような謎の生き物が姿を現した。

 驚きなのは、その見た目に反し花のようないい香りが漂ってきたことだ。

 

「あら~、どなたかと思ったら、ステアー様じゃな~いですか〜。お会いできて光栄です~」

 

「久しぶりだな、()()()()()()。相変わらず肌綺麗だな」

 

「はい~。お肌の手入れは、乙女の命ですから~。そうおっしゃるステアー様も、今日は一段とイケメンに磨きがかかっておりますよ~」

 

「ハハハ、そうか。そういわれると嬉しいよ。ところで、さっきまでここで悲鳴が聞こえてたんだけど、もしかして仕事中だった?」

 

「えぇ~、ステアー様が送ってくださった人間の皆さんに~、色々聞いているところでした~。でも久しぶりの客人でしたので~、少~しだけの間眠ってもらいました~」

 

「成程ね。ちなみに、今の段階で分かったことってある?」

 

「1つだけあります~。といっても、ミーティアさんが調べてくださったんですけどね~。実はあの人たち、み~んな特殊な魔法がかけられてまして~、特定の質問を三回すると自動で発動して~、答えた人間を死なせる仕組みになっていたんですよ~」

 

「えっ、そうなの?よく気が付いたな、ミーティア」

 

「本当、助かりました~。ミーティアさんが居なかったら、私すぐに死なせてましたから~。ところで、ステアー様のとなりにいる人間は、一体どちら様~?」

 

「あぁ、紹介するよ。アズリエル・フェイティ。ニューちゃんが今拷問している陽光聖典が所属している国、スレイン法国の最重要秘匿機構にして、漆黒聖典の元番外席次だ。俺が見てきた人間の中じゃ、多分一番強いんじゃないかな」

 

「あら~、そうなんですか~。初めまして、ニューロニストよ~ん。ニューロニストちゃんって呼んでね~」

 

「え、えぇ……」

 

 言葉は返すものの、ちょっと引いてるように見える。

 流石にニューロニストは、アズリエルには少しきつかったか?

 

「あ〜ら、もうこんな時間。そろそろ魔法が切れますわ〜。ステアー様、私は仕事に戻ります~」

 

「そうか。すまないな、仕事中に邪魔してしまって」

 

「とんでもございませんわ!むしろ私なんぞの為に声をかけてくださり、ありがとうございます〜」

 

「ハハ、それじゃあ仕事頑張って」

 

「はい〜」

 

 そう言って、ニューロニストは部屋へ戻り、また悲鳴を響かせ始めた。中で一体どんなことが起きているのか気になるが、それは今度の機会にでも聞こうと考え、俺は再び目的地に向かって歩き始めた。

 

「アズリエル、ニューロニストに会ってみた感想を一言」

 

「…………ノーコメントでいいかしら」

 

「うん、何となくその答えは予想してた」

 

 俺も始めて会った時、アズリエルみたいな反応をしてた。

 まぁ中身は意外と乙女で、拷問の他に美容とかにも詳しいから、女性の味方であることは確かだと思う。

 

 

 

 

 それから暫く歩き、俺達は館の最奥地と思われる扉の前に着いた。

 

「さて……アズリエル、ちょっとそこの壁に手を出してみ」

 

「壁?こうかしら」

 

俺の指示通りにアズリエルが壁に手を出すと、壁から白く透明な手が現れ、何かを彼女に手渡す。タブラ・スマラグディナお手製、とても醜悪な造形で作られた赤ん坊っぽい人形、カリカチュアだ。

 

「………何これ」

 

「カリカチュア。俺の友人が作った人形でさ、この扉の先に進むのに必要なんだ。結構独特というか、不気味な造形だろ?」

 

「えぇ、そうね。でも、さっきの半魚人に比べればまだ可愛い方よ」

 

「そうか」

 

 普通なら初見でカリカチュアを見た時『ぎゃあ!』とか『ヒィッ』とか叫んで驚くのだが、ニューロニストのインパクトが強すぎたのか、アズリエルは特に驚くような表情もせず、真顔でステアーに人形を手渡した。

 

「それじゃ、入るか。その前に一つだけ注意しておく。この先ホラードッキリがあるけど、絶対に何があっても攻撃をしたり手を出してはだめだから」

 

「ほらーどっきり?」

 

 聞きなれない単語に首をかしげるアズリエルを他所に、ステアーは扉を開く、室内から何百もの赤ん坊の泣き声が輪唱する音が響き始める。しかしその泣き声の発端と思える生き物の姿はどこにも見当たらない。否、部屋の至るところから気配を感じるため、実際は見えないようになっている、が正しいか。

 

 特に音を気にすることなくスタスタと足を踏み入れるステアーに続いて、アズリエルも部屋に入る。すると部屋の中央と思われる場所に、揺りかごを揺らし続ける女性らしき人物が立っていた。

 長い黒髪に、真っ黒な服を着用している。顔は長い髪に隠れていて、はっきりとは見えない。

 ステアー達が入ってきたことに気づいていないのか、女性は顔を上げずひたすら揺りかごを揺らしている。

 

「ねぇ、気づいてないみたいだけど」

 

「仕方ないよ、だってあの子は恒例行事を終わらせない限りマトモに会話すらできないんだよ」

 

「恒例行事?」

 

「あぁ……………そろそろ来るぞ」

 

 何かを予兆し、ステアーは女性に目を向ける。すると急に揺りかごを揺らすのを止め、中に入っている赤ん坊……みたいな人形を取り出した。

 

 

 

「……ちがう……ちがう…ちがうちがうちがうちがうちがう!」

 

 

 

そう呟くと、彼女は手に持っていた人形を全力投球で壁に叩きつける。投げ飛ばされた人形は余りの威力に原型を保てず破壊される。

 

「私の子……私の子ぉ…私の子私のこわたしのコわたしノコワタシノコワタシノコォォ!!」

 

狂ったように叫びながら、歯をガチガチと鳴らし始めると、それが合図となったのか、不可視状態になっていた泣き声の発端であるレベル10後半のモンスター【腐肉赤子(キャリオン・ベイビー)】が大量に湧き始める。因みにこの腐肉赤子(キャリオン・ベイビー)は、全部タブラさんが自腹を切って大量購入し部屋の至るところに設置しまくったモンスターだ。

 

「うわぁ……相変わらずナイスピッチング」

 

「この状態で、そんなこと言えるの貴方ぐらいじゃないかしら」

 

「この状態で落ち着けてる君もおかしいけどな?」

 

「………お前達か」

 

「おっ、来るか?」

 

俺とアズリエルの気配を感知した彼女は、長い髪の奥から皮膚のない顔と子供を求める必死な目を俺たちに向け、何処からか巨大な鋏を取り出し構えた。

 

「お前達、お前達お前たちおまえたちおまえたち、こどもをこどもをこどもをこどもをさらったなさらったなさらっタなさらっタナサラッタナサラッタナァァ!!」

 

「ねぇ、あれ貴方に殺気を放ってるみたいだけど」

 

「大丈夫、あれは仕様だ。だから絶対に攻撃はするなよ」

 

アアアアァァァァァァァ!!

 

人間が究極まで発狂した時に叫びそうな絶叫を上げながら、彼女は一気にこちらに距離を詰めて来る。そして鋏を持った腕を大きく振りかぶって攻撃しようとし─────

 

 

 

 

俺に当たる直前で動きを停止した。

 

「……へぇ」

 

「(やっぱり、ユグドラシルでのシステム上の設定は残ったままだったか)ごめんね、ニグレド。君の子供はここにいるよ」

 

 動きが静止したニグレドに先程アズリエルから受け取った赤子のカリカチュアを差し出すと、ニグレドはその人形を我が子のようにゆっくりと受け取った。

 そして二度離さないと言わんばかりの抱き方で人形を揺りかごにそっと戻す。彼女が俺達に振りかえると……

 

「この度はナザリックへ帰還されたこと、心よりお喜び申し上げます、ステアー様」

 

 さっきまでの狂った性格はどこへやら、皮膚のない顔をこちらに向け、とても真面目な喋り方で俺に一礼する。

 これが彼女の()だ。

 

「…………もう、驚かないわよ」

 

 昨日今日と驚きの連続しかなかったアズリエルは、もうニグレドの性格が変わった程度では驚かなくなっていた。

 まぁ、流石にあれだけ色々知らないことが目の前で起きたら、そうなるよな。俺だって、なるよ。

 

「それで……アルベドが言っていた現地協力者というのは、そこのハーフエルフでございますか?」

 

「おっ、もう連絡来てたのか。その通り、彼女が現地協力者だ」

 

「そうでしたか……初めまして、ハーフエルフさん?私はニグレドよ、今後よろしくね」

 

「ふぅん。アズリエル・フェイティ、後さっきの吸血鬼に言うの忘れてたけどエルフっていうのやめて」

 

「あら、それは失礼。以後気をつけるわ」

 

 ニグレド。

 

 タブラさんが作ったアルベドを含む三姉妹の内の長女。

 魔法詠唱者であり、情報収集などの調査系に特化した職業構成になっている女性で、生物・無生物問わず目標を即座に発見することができる。

 黒の喪服を身に纏っており、長い黒髪に隠れた、表皮が無く筋肉のみで構成された顔が特徴だ。瞳や歯は部分的に見れば綺麗で美しいのだが、表皮がないために皮・唇・瞼が存在しないことから、全体としては気持ち悪いという印象を持ちやすい。

 また彼女は、

 

1.最初に揺りかごに入っている人形を投げ捨てる。

 

2.『自分の子を攫った』と目の前の相手に襲い掛かる。

 

3.入り口で手に入れた赤子のカリカチュアを相手から受け取る。

 

 この奇抜な寸劇を行ってからじゃないと会話を始めることが出来なくなっている。

 ちなみにカルマ値は覚えていないが、種族を問わず子供という存在に慈悲深いという設定がある。

 うん、何かセバスと似た優しさがあるみたいで、結構気に入っている。

 

「して……ステアー様がこの部屋に来られたということは、失われる世界(ロストワールド)に向かわれると考えてよろしいのでしょうか?」

 

「おっ、よく分かったな」

 

「つい先ほど、フィアから連絡が入ってきました。今夜は失われる世界(ロストワールド)で宴があり、今回初めてアインズ様をご案内するため、楽園の扉(ゲート・オブ・エデン)の準備をしてほしいと」

 

「成程、なら話は早い。今回俺も使うから、担当者の君に案内してほしい」

 

「承知いたしました」

 

 そう言って、ニグレドは揺りかごの下に足を忍ばせると、カチッというボタンを押す音が鳴る。

 すると、氷が張られている床の一部が動き出し、隠し通路らしきガラスの階段を出現させた。

 

「では、こちらへ」

 

 ニグレドが階段を下りていき、俺とアズリエルも彼女について行く。

 階段は螺旋状に続いており、一定の間隔で赤い松明と青い松明が交互に置かれている。

 この二つの松明は、失われる世界(ロストワールド)へ続く道として作成した俺とタブラさんをイメージして作ったものだ。赤が俺で、青がタブラさんだ。

 

 さてここで、何故ニグレドに失われる世界(ロストワールド)への入り口を担当させたかについて答えておこう。

 そもそも、失われる世界(ロストワールド)というのは、俺がまだソロだった頃に偶然手に入れた世界級(ワールド)アイテム、【永劫の蛇の腕輪(ウロボロス)】で作った俺の世界だ。

 永劫の蛇の腕輪(ウロボロス)とは、制作会社に幅広い範囲でシステム変更を要請できるアイテムで、わかりやすく言うと『ドラゴ〇ボールを七つ集めると願いが叶う』がこれ一個で出来るという代物だ。

 しかもソロプレイヤーでフレンドが一人もいなかったころに手に入れたため、誰からの目も気にせず自由に使うことが出来た…………おい、今ボッチって考えただろ。失礼な、フレンドがいないのはゲームの中だけで、現実では鈴木さんとか会社の友達が沢山いたから、ボッチじゃねぇぞ。

 

 それはさておき、偶然にも永劫の蛇の腕輪(ウロボロス)を手に入れてしまった俺は、ユグドラシルを始めた時からずっとやりたいと思っていたことを実行することにした。それは

 

 『特殊な扉でしか行くことのできない、自分だけの楽園をつくる』

 

 だって考えてもみろ、俺だけの楽園だぜ?いつかは作りたいと思うじゃないか………えっ、楽園を作りたいと考えた理由とかいらないから、さっさと失われる世界(ロストワールド)作った経緯教えろって?わかった、わかった。

 

 それで、だ。早速永劫の蛇の腕輪(ウロボロス)を使って運営に掛け合って見たところ、最初は渋ったが、世界級(ワールド)アイテムは世界そのものを作りかえるほどの力があるんじゃないかという結論に至り、更に俺が当時最強の職業人類最終試練(ラスト・エンブリオ)を取得していたことから、特別に東京都……よりは狭いが、それでも十分広大な世界を手に入れることに成功し、更に【楽園の扉(ゲート・オブ・エデン)】という、俺の世界に行くために必要なアイテムまで作成してくれた。運営様様だな。

 

 そんなわけで一つの世界(ちなみに当時はまだ名前を決めてなかった)を手に入れた俺は、その後まぁ色々なんやかんやあってギルド:アインズ・ウール・ゴウンのメンバーになり、その証として楽園の扉(ゲート・オブ・エデン)をナザリックに配置させることに決めたのだが、一体どこに置こうか悩んだ。最終的にメンバーの力を借りようと全員が集まった時に話したところ、設定魔のタブラさんが『どうせならナザリックの裏ルートでしか行けないシークレットエリアにしましょうよ』と提案してくれた。それは良い考えだ、と思った俺は、早速ナザリックのどこに裏ルートの入り口を作るか考えようとした時、いたずら好きのるし☆ふぁーさんが『牢獄の中に楽園があるって面白くない?』と半分冗談で言ったのだが、それが珍しく承諾され、流れで氷結牢獄の奥に配置することに決まった。その奥の部屋には、既にニグレドが配置されていたのだが、タブラさんは『楽園へのルートを守る存在としては最適じゃないか?』ということになり、それから今に至るという訳だ。

 つまり、ニグレドが担当者になったのは、ある意味偶然だったというわけだ。今思うと、ニグレドがいきなり襲ってくるような部屋の地下に楽園への道が存在するなんて、誰も思わないだろうな。

 因みに、失われる世界(ロストワールド)という名前はメンバー全員で決めた名前だ。結構カッコいいだろ?

 

 

 と、そんな説明していたら、いつのまにか階段の一番下にたどり着いた。

 

「到着いたしました、ステアー様」

 

「へぇ、牢獄の中にこんな大きな扉があったのね」

 

 ニグレドが到着を伝え、アズリエルは目の前の扉を上から下へ向かうように見つめた。

 

 高さは約40m、おそらくガルガンチュアよりも大きい扉。

 全体は白で統一されており、様々な種族を思わせる紋章がいくつも彫られている。

 これが楽園の扉(ゲート・オブ・エデン)だ。

 

「では、私はこれで失礼いたします」

 

「えっ、もう行っちゃうの?折角だし、君も入ればいいじゃん」

 

「至高の御方の御気遣い、感謝いたします。ですが、私はあの部屋から外に出ることは出来ないのです。ステアー様のご期待に応えられず、誠に申し訳ございません」

 

「そっかぁ…………わかった。ありがとう、ニグレド」

 

 そう言って、ニグレドは来た道を戻っていった。

 その様子を見た後、扉を開けようとした時、

 

「…………あれ、ステアーさん?まだ入ってなかったんですか?」

 

 突然後ろから声を掛けられ、振り向くとそこにはアインズさんとアルベド、階層守護者達、そして戦闘メイドプレアデスの面々が揃っていた。

 

「あ、アインズさん。えぇ、今から入るところなんです」

 

「そうなんですか………それで、この扉が例のやつですか?」

 

「はい。楽園の扉(ゲート・オブ・エデン)……失われる世界(ロストワールド)に続く、楽園への入り口です」

 

 目の前にそびえたつ巨大な扉に、NPC達は感嘆の声をあげた。

 ふと、そのメンバーの中に、フィアがいないことに気付いた。

 

「あれ、フィアはどうしたんですか?」

 

「彼なら先程、私達の代わりに階層守護者の疑似人形(レプリカ・ドール)を設置しに行ってくれました。ちなみにニークスはフィアに人形を渡した後、宴の料理の準備があると言って先に向かってました」

 

「あー、そうなんですか……まぁ、いいか。フィアとはこの後嫌でも会えるんだし」

 

「ですね」

 

「うし、そんじゃ早速……って、あれ?皆どうしたの?」

 

 早速扉を開けようと思ったら、NPC達が浮かない顔をしていることに気が付いた。

 あれ?俺なんか変なこと言ったか?

 

「……ステアー様、本当によろしいのですか?我々階層守護者、そして戦闘メイドプレアデスが、ステアー様がご創造されたという世界………失われる世界(ロストワールド)に入り、更にはステアー様を祝われるための宴に参加してもよろしいのでしょうか?」

 

「…………なんだ、デミウルゴス。そんなこと気にしてたのか?勿論、良いに決まってるだろ」

 

「デスガステアー様、我々ガ宴ニ参加スルノハ、余リニモ不自然デハナイカト…」

 

「何言ってるんだ、コキュートス。俺の宴に皆が参加する、どこも不自然じゃないだろ?」

 

「そうは仰られますが、我々は至高の存在に忠義を尽くす存在、従者の身分でございます。ステアー様の宴に我々が参加するのは、高貴な貴族のパーティーに一般人が参加するようなものでございます。やはり我々には…………」

 

「んもう、セバスも固いなぁ。というか、もしかして皆そんなこと考えてるの?」

 

 俺の言葉に、全員が頷く。いや俺どんだけ高貴な存在なんだよ。

 あまりの固い考え方に、俺は一回ため息を吐いた。

 

「はぁ………それじゃああれか、『お前ら全員宴に参加しろ』って命令されないと参加しないのか?違うだろ。宴っていうのは、主催者がいて、主役がいて、参加者がいて、皆で全力で楽しむもの、命令されてやるものじゃないだろ。一々細かいこと気にしてるようじゃ、楽しむ物も楽しめないだろ。それに、俺自身が『そうしていい』って言ってるんだ、それ以上の言葉は必要ないだろ」

 

「「「「「「「ッ?!」」」」」」」

 

 ヤバい、半分イライラした状態で説教みたいになっちまった。俺そういうの柄じゃないのに。

 俺どちらかというと、説教される側だぞ(主にエリナに)。

 

「………すまん、ちょっと柄でもないこと言ってしまったね。とにかく、君達には俺の宴に参加してほしいってわけ。宴ってのは、人数が多いほうが楽しいからな。それに、俺って君達が俺の世界に来てどんな反応を示してくれるのか結構楽しみなんだよな。まっ、そういう訳だから、自分達に参加資格があるのかどうかとか、そんな話はもう無しだ!わかったか?」

 

「「「「「「「はっ!」」」」」」」

 

「うし、いい返事だ。それじゃあ早速開けるよ……あ、その前に先に謝っときますね、アインズさん」

 

「えっ、俺?」

 

 そう言って、俺はアインズさんにニヤリとした表情を浮かべてから、扉に振り向いた。アインズさんは首を傾げたが、彼はこの後地獄を見ることになる。何故ならこの扉のパスワードは……

 

「スゥ……〈Wenn es meines Gottes Wille(我が神の望みとあらば)〉!」

 

「っ?!」

 

 そう、これアインズさんの黒歴史、パンドラズ・アクターの決め台詞がパスワードになってたんだよな~。

 

「(おいぃぃぃぃぃ、何で俺の黒歴史をパスワードにしてるんですか、ステアーさん!)」

 

「(本当にごめん!でもこれ僕が考えたわけじゃなくて、るし☆ふぁーさんが)」

 

「(あいつ、こんなところに爆弾しかけやがって!今度会ったらマジで許さん!ステアーさん、後で絶対、ぜーーーったいにパスワード変えてくださいね!頼みますよ!)」

 

「(わかってます!)」

 

 いや~、本当にごめんね、アインズさん。本当に後でちゃんと変えとくから。今回だけは許せ。

 

 そんなこんなで、パスワードが入力された楽園の扉(ゲート・オブ・エデン)は重厚な音を立ててゆっくりと開いていく。扉の隙間からは、光が差し込んできた。

 

 

 

「さて……待たせたな、皆。ようこそ、生きとし生けるもの全てを受け入れる俺の楽園────失われる世界(ロストワールド)へ!!」




作者は原作のオーバーロードをほとんど知りません。そのため、この回に登場したニューロニストとニグレドの性格等は、ハーメルンに投稿されている他作者様のオーバーロード二次作品を参考にさせてもらっております。

次回、やっと『失われる世界』に行けます……これの宴編が終わったら、オリキャラ等を纏めようかなって考えてます。

※『反転世界』の表記を『失われる世界』に変更しました。

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