OVERLOAD 人類最終試練(凍結)   作:嵐川隼人

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お久し振りでございます、皆様。
大変長らく投稿しておらず、申し訳ございませんでした……





失われる世界(ロストワールド)

──失われる世界(ロストワールド)

 

 ステアーさんが俺達のギルドに入った時、その証として設置してくれた楽園の扉(ゲート・オブ・エデン)から向かうことができる、彼の理想郷。

 

 単語自体は、度々ギルドメンバー同士の会話の話題として何度か出されたことがある。しかし、その世界に行ったことがあるメンバーはたったの3人、ブルー・プラネットさん、タブラ・スマラグディナさん、ヘロヘロさん(ヘロヘロさんは、ステアーさんに半ば強制的に連れていかれたらしい)だけ。無理もない、俺達のギルドのメンバーはみんな社会人、つまりユグドラシルの傍らブラック企業レベルの会社で必死に働いているから、時間が取れなかったんだ。無論、俺も同じ理由で行く機会が取れなかった。

だから、彼等が『行ったことがある』と話した時、メンバー全員で三人に質問攻めしたのを覚えている。そして、そんな俺達の質問に、三人は口を揃えてこう言った。

 

『『『ステアーさん、凝り性にも程がある!』』』

 

 ブルー・プラネットさんやヘロヘロさんならまだしも、まさか1番おまいうなギルド屈指の設定魔タブラさんでさえそう言うとは思わなかった。

 詳しく教えてもらおうとしたが、全員『見た方が早い』の一辺倒で全く教えてもらえなかった。

 結局俺はユグドラシルのサービスが終わる日になってもステアーさんの世界を見ることもなく、そのままで終わりを迎えるつもりでいた。そう考えると、アバターの姿でナザリックごとこの異世界に転移したのは、ある意味嬉しい事故なのかもしれない。

 

 そして今日、ステアーさんがナザリックに帰還したことを祝うための宴が『失われる世界』で催されることが、ステアーさんのNPC達の考えにより決まった。そのことをフィア・ジークフリートから説明された時、緊張すると同時にワクワクもした。ステアーさんのNPC達に、心の奥から親指を立てて賞賛を送りたくなった。

 

 

 

 それから暫く時間が経った現在、扉は開かれ、俺はその失われる世界に初めて足を踏み入れる。そして次の瞬間、一緒に進んだNPC達全員と口を揃えて叫んだ。

 

『暑っ?!!』

 

 目の前に広がる城下町のような風景とか、遠くに見える巨大な城とか、ナザリックのNPCの人口より遥かに多そうな住民らしきNPC達にもツッコミを入れたい、入れたいがそんな事言ってられないほど暑い。

 先程まで氷結牢獄にいたとは思えないほどの熱気だ。デミウルゴスが担当してる第七階層の溶岩とは違う、ジメジメとした暑さ、というか冗談抜きで暑いんだけど!何これ、バグが何かか?!

 

「このジメジメとした暑さ、季節的には梅雨明けの夏、時期的には7月前半あたりか。しくったな、シンとニークスに今の季節教えてもらっとけばよかった」

 

「ちょっと待ってください、ステアーさん。その言い方からすると、もしかしてこの暑さ、ステアーさんの仕様ですか?」

 

「はい、そうです。ついでに言うと、季節は今夏ですが、3ヶ月経つ毎に季節が春夏秋冬を循環する形でフィールド効果が大きく変化するんです。といっても、ネットの情報が元なので少し誇張気味なところもあるかな〜、とは思ってます。後季節に関係なく天候が快晴・晴れ・曇り・雨、それと冬限定で雪にランダムで変化するようになってます。更には気温も季節毎に変化する値の範囲が決まってて……」

 

 何の疑問もなくさらりととんでも無いことを熱く語り始めるステアーさん。内容が壮大すぎたのか、それとも暑さで少し思考が遅れてしまったか、NPC達は皆ポカーンとしていた。

 その様子を見て、あの三人の言葉の意味を理解した。成る程、これは確かに凝り性ってレベルじゃない。もはやユグドラシルを構成するプログラマー・クリエイターのレベルだ。設定が細かすぎて、既に何を言ってるのか全く理解できない。

 

 目は無いはずなのに、思わず眩しいと手を覆ってしまう太陽。

 時々吹いてくる風に規則性は感じず、またその強さもバラバラ。

 さらに、この妙にジメッとした熱を持つ気候。

 

 異世界に来たことで設定が反映されているこの現状で、ここまで現実感のある状況にするには、相当な細かい設定が必要なはずだ。一体どんだけ設定盛り込んだんだ、この人。

 

「(しかし、暑いな。指輪の効果でフィールド効果は受け付けないはずなんだけど……無効化されてるのか?それとも……ん?」

 

 そんな事を考えながら、視線をステアーさんに向けると、その後ろに()()がいた。

 何となく人型には見えるが、手のひらレベルの大きさだ。

 髪は黒く、三つ編みが2つ、後方で結ばれている。

 髪と同じ色のワンピースを着用しており、背中から四枚の半透明な羽が生えている。

 そして目元が真っ暗で見えないが、殺気のような怒りを感じる。

 恐る恐るステアーさんに知らせる。

 

「ステアーさん?ステアーさーん?」

 

「ん?どうしたんですか、アインズさん?ここからがいい所なのに」

 

「いや、あの、後r」

 

 

「こんな猛暑の日に宴を上げようとしている私達を放って何処ほっつき歩いてるかと思ってたら……入り口から入ってすぐの場所で、階層守護者と戦闘メイドプレアデスとアインズ様のみんなにこの世界について呑気にベラベラ話していたなんて、流石は副ギルドマスターにして、反転世界の創造者ね、お勤めご苦労様〜」

 

 

 刹那、湿った空気の暑さを忘れてしまうほどの冷たい空気が漂う。ステアーさんがビクッと肩を震わせ、顔色が青ざめゆっくりと後ろを振り返る。

 

「あ、え、えーっと……エリn」

 

「───とでもいうと思ったか、こんの馬鹿マスタァァァがぁぁぁぁぁーーッ!!」

 

「ぐべらッ!?」

 

 瞬間、怒りを露わにした小柄な少女の叫びと共に強烈な飛び蹴りがステアーさんの顔面にクリーンヒットする。受け身をとれず体勢を崩したステアーさんが地面に尻餅をつくと、少女が凄まじい剣幕でステアーさんに詰め寄る。

 

「あ・ん・た・ね・ぇ、来るなら来るで寄り道せず真っ直ぐ来なさいよ!何ここで無駄話を彼等に駄弁ってるのよ!そもそも、普通考えればこの暑さの真下で暑い服着させられたままベラベラ喋られたら、熱中症になるとか脱水症起こすとか思わないの!?話したいなら話したいなりに、夏服を着てもらうか、せめて薄着になってもらうとかしてもらいなさいよ!」

 

「あ、あはは、ごめんエリナ」

 

「世の中の全てごめんで済むなら、警察はいらないっつーの!何でもかんでも謝ればいいなんて思ったら大間違いよ!つーか、笑ってごまかすな!大体ね、昔から思ってたけど、マスターはいつも……」

 

 ガミガミとマシンガンの如く説教を始める少女。あまりの勢いに、本来なら『不敬です!』とか叫んで殺しにかかりそうなNPC達も介入出来なくなっている。

 

「止めなくていいの?」

 

「うーむ……まぁ、いいんじゃない、か?ステアーさん曰く、アレがステアーさんの望んた従者と主人の関係、らしいからな」

 

「従者と主人というより、上司と部下じゃないの?しかも立ち位置逆だし」

 

「それについては否定しない」

 

「ご心配はいりません。アレは、エリナちゃんなりのマスターに対する()()なのですから」

 

 彼の隣に立っていたアズリエル・フェイティの質問に答えるように、今度は右側から声が響く。

 

 背中を隠すほどにストレートに伸びた薄い黄緑色の髪。

 露出度がとても高く、腰の長いスカートがわりの布が棚引く奇抜な服。

 右足には膝を隠すほどの長いブーツ、左足にはくるぶしを隠す程度の短い靴下と革靴。

 アルベドの色違いの白い翼が腰から一対生えており、毛に覆われたエルフのような耳があった。

 

「本日は全域で晴れ、平均気温は33℃の記録的猛暑日となった真夏の失われる世界(ロストワールド)へようこそお越しくださいました。今回の宴につき、皆様の案内役を務める事になりました、ヴァルプルギス幹部が一人、ミーティア・デューク・レライエでございます。気楽にミーティアとお呼びください。さて、見ての通りエリナちゃんは一度説教を始めますと暫く止まりません。ですので、先に皆様を宴会場へとご案内いたします。どうぞ、こちらへ」

 

 

 

 

───30分後

 

「反省した?」

 

「本当、申し訳ございませんでした」

 

 目の前で腕を組んで、冷たい視線を向ける少女に、俺はただ正座して謝罪するしかなかった。

 

 エリナ・トレイニー・バルバトス。

 ヴァルプルギス幹部の一人で、とある漫画のキャラクターをモデルに俺が一から作成した精霊女王(ティターニア)

 身長わずか15cmという小柄な体の持ち主。前の伝言石(スマホ擬き)越しの話し方から大体予想できるだろうが、所謂ツンデレだ。しかし本当はお人好しな部分がある優しい性格で、何だかんだ周りのことを気にしてくれている。説教するのも、そこからきている……と信じたい。

 バリバリの魔法専門職で、回復魔法・攻撃魔法・強化魔法・弱体化魔法・即死魔法・召喚魔法等、ユグドラシルに存在するほぼ全ての第10位階魔法と一部の超位魔法を会得している、優秀な魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。

 しかし会得している魔法のほとんどが詠唱の長いものだったり、MPの消費が激しいものだったりとデメリットも多く、またそれらを優先してしまうが故に耐久力も低い。なので基本、攻撃よりも味方のバフと敵のデバフを優先して魔法を使わせる。

 それともう一つ、彼女が会得している超位魔法に【厄災の終日(エンドデイ・オブ・カオス)】という、エリナの最後の切り札と呼べる超多重状態異常付与攻撃魔法がある。これは、ユグドラシルに存在する全ての状態異常を範囲5m以内の敵全てに付与させるという迷惑極まりない魔法だ。昔、あるDQNギルドを攻略した際に一度だけ彼女に使用させたことがあるが、それはもうギルドに惨状に惨状といった大混乱を巻き起こし、運営から使用可能チャージ時間の修正が急遽行われたほどだ。

 

「全く……やっと話せると思ったのに、説教させないでよ

 

「今、なんて?」

 

「何でもないから!」

 

「んもう、素直じゃないですね〜、エリナちゃんは。そこが美徳でもあるのですが」

 

「あれが美徳なの?」

 

 説教が終わると、そこにニコニコしながら一人の女性が近づいてくる。その隣には、俺から借りた上着を脱ぎ、袖をまくって暑さをしのぐアズリエルもいた。

 

 ミーティア・デューク・レライエ。

 ヴァルプルギス幹部が一人で、こちらも同じくある小説のキャラクターをモデルに作成した人魚姫(セイレーン)だ。

 人魚姫なのに何故羽が?と思う人も多いので一つ解説しておくと、セイレーンとは元々ギリシャ神話に登場する半人半鳥の怪物、つまり魚とは何の関係もなかった。諸説はあるが、同じ半人半鳥のハーピーと区別するためにあえて人魚として伝えられたとか。しかしユグドラシルはその辺りに詳しいのかわからないが、人魚姫と称しながら、内容は鳥人と人魚の二つが統合進化した特殊な種族セイレーンとした。つまり、表記が人魚姫でも、セイレーンだから翼もある事になるというほぼゴリ押しな設定になった。お陰でミーティアに対応できないフィールドはほぼ存在しない。

 話を戻そう、彼女はエリナとほぼ同時期に作成したNPCで、エリナとは形式上姉妹のような関係を持つ。仲はまぁ、見ての通りだ、察してくれ。

 誰にでも敬語で話し、笑顔が絶えない好奇心旺盛な性格で、普段は大人しいが一度気になるものを見つけるととことん調べたがるのが癖。

 サブとして高度な鑑定スキルを持ち、世界級アイテムを除く全てのアイテムの名前と効果を看破する《真実の目》というスキル技を持つ。メインはエリナと真逆の近接型、より詳しく言えば彼女の職業ワールド・ライダー(ワールド・チャンピオンのライダーバージョンと思ってくれればいい)による騎乗スキルでの超高速攻撃を得意としており、エリナとの相性は抜群に高い。ミーティアが先陣を切り、エリナが後方支援する、戦闘においてほぼ確立した戦略だ。

 そのかわり、魔法がほとんど使えず、伝言も送れない。だからいつも、伝言石を携帯している。

 

「ミーティア!久し振りだな」

 

「マスタ~♪やっと面向かって会話することが出来るようになりましたね~♪これでもう、マスターと私達との会話という、傍から見てて悲しい一人芝居を見て精神が痛むこともなくなります~♪」

 

「ガフッ」

 

 後、彼女は心で思ったことをそのまま口に出してしまう正直者。その為、時々他人の心象を抉るようなことを言ってしまう。ちなみに今のセリフは、俺の精神に50のダメージを与えた。効果は抜群だ。

 

「何ダメージ受けてるのよ」

 

「あ、申し訳ございません!私ったらまた心で思ったことを…」

 

「い、いいんだミーティア、事実だから……コホン。ところで、アインズさん達は?」

 

「アインズ様方でございましたら、先程私が宴会場へご案内してきました。おそらく今頃は、この世界の住民及びヴァルプルギス幹部の皆様と交流を深めているかと」

 

「そうか。で、アズリエルはどうしてここに?」

 

「そこのミーティアって奴に、ステアーと一緒に行動して欲しいって言われたのよ。私一人だと、何をするか分からないからって」

 

「成る程、納得」

 

 何の疑問も持たずに肯定すると、アズリエルから無言の肘打ちを頭に食らわされる。結構痛い。

 

「あら、ごめんなさい。うっかり肘が滑ってしまったわ」

 

「うっかり肘が滑るってどういう事だよ」

 

「決して貴方の言葉にイラッてなってわざとやった訳じゃないから」

 

「(絶対わざとやったな、こいつ)」

 

「何漫才始めてんのよ……ほら、さっさと行くわよ。みんなマスターを待ってる」

 

 呆れたような声で、こっちよ、と手招きしながら進み出すエリナと、それに微笑みながら歩き出すミーティア。その後を追うように俺は立ち上がり、アズリエルもこの城下町を進む事にした。

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