資格試験が終わり、少し落ち着いてきたのでまた投稿再開しようと思います。
冒険者編はもう少し先かなぁ……
という訳で、宴会編(前編?)です。どうぞ。
宴会場に向かう途中、アズリエルは物珍しそうな目で城下町を見渡していた。
それは勿論、あの大墳墓の地下にこのような町が存在していたことへの驚きもある。この町が全てステアーによって作られたということも理由としてある。あるにはあるが、それらは彼女がこの町に興味を示した理由としてはほんの一部程度、些細なものである。
「すてあーさま!おかえりなさい!」
「ただいま。ちゃんと毛並みは綺麗にしてたかチコ?」
「うん!それとね、これすてあーさまにぷれぜんと!」
「ありがとう。これは、俺の絵か。チコが描いたのか?」
「そうなの!ちこ、しんおねえちゃんにおしえてもらって、がんばってかいたの!」
「おぉ、頑張ったな!凄く綺麗に描けてるぞ」
「えへへ。それじゃあ、おかあさんとおとうさんがまってるから、ちこ行くね!」
「怪我しないように気をつけて戻れよ~」
「はーい!すてあーさまもはやくきてね!」
ある時は獣の耳と尻尾を生やした5歳ぐらいの少女に、
「よぉ、我らが大将。やっとご到着ですかい?」
「
「それはマスターがダラダラアインズ様達に熱弁してたからでしょうが!私が悪いみたいに言わないでよね!」
「はっはっは!相変わらず仲がよろしいようで」
「全く……ところで、なんであんたがここにいるのよ。参加者だったはずでしょ?」
「それがですね、実はアマテラスからこの町に着いた後、
「そういえばあいつ、極度の方向音痴だったな……俺も手伝おうか?」
「気持ちはありがてぇが、大将はこの後忙しいでしょう?ここはあっしらに任せて、大将は気にせず先に宴会場にむかっててくださいや。見つけ次第、すぐ連れていきますんで」
「そうか、わかった。それじゃ、また後で」
「あいよ!」
ある時は額から大きな一本角を生やした、東洋の剣士を思わせる風貌の男に、
「あれ、ミーティア先輩に、ステアーの兄貴じゃないっすか?何してんすか、こんなところで?」
「やっほー後輩君。私達は今マスターとのハーレムデートを…」
「宴会場に向かう途中だよ、リュウセイ」
「むぅ、マスターは意地悪です。後輩君の前で冗談ぐらい言わせてください」
「ミーティアの冗談は誤解を生みやすいんだよ。そういうリュウセイこそ何やってるんだ?」
「自分は今、先輩に頼まれた荷物をアトランティスから宴会場に運んでいるところっす」
「荷物って、後ろの荷車に積んでるでっかい木箱のことか」
「はい。あ、中身については会場でのお楽しみっつうことになってるんで、よろしくっす」
「ふぅん。何をするのか楽しみだな」
「えぇ、楽しみしててくださいね。それでは後輩君、それお願いします」
「了解っす。んじゃ、また」
ある時は魚がそのまま人間の姿に進化したような見た目の青年に話しかけられ、それらすべてに丁寧に対応するステアー。その光景は、異世界の出身であるアズリエルにはとても珍しいものであった。
とにかく種族が多種多様なのだ。多すぎると言っても過言ではない。この世界にきて少ししか時間が経っていないのに既に獣人や魚人、更には見たこともない角の生えた種族と出会っている。正確には彼等がステアーに話しかけただけなので“見た”と言った方が正しいかもしれないが、一応出会ったと表現しておこう。
更にアズリエルが興味を引いたのは、見るからに住む環境が全く異なる異種族同士の彼等が、この町で特に目立った対立をすることなく平和に共存しているという光景である。それもそのはず、彼女が元々住んでいた法国は『人こそが神に選ばれた民であり、人以外の他種族は殲滅するべし』といった人間至上主義を掲げており、他の種族との共存など絶対に不可能と断言できるほどに他種族を嫌っている国である。つまり、法国に住む人々にとって、アズリエルが今見ているこの光景はありえないことなのである。まぁ、アズリエルはそもそも法国の理念などどうでもよいと考えているため、法国の考えを持つ人間であるかどうかは正直不明ではあるが。しかしそんな彼女でも、これだけ多様な種族同士が争いなく平和に暮らしていることがどれほど異様なものであるかは理解できる。
「どうしたアズリエル、物珍しそうな顔して……って、そうか。そういやアズリエルが元々住んでた国って、人間至上主義の宗教国家だったな」
「えぇ、そうよ。正直法国の考えなんて私にはどうでもよかったけど、それでもこんな多種多様な種族が共存している光景は見たことないわ」
「まぁ、誰でもこの街に来たらそんな顔するわよね。だってここ、他の都市と比べて種族の多様性が広すぎるもの。私みたいな妖精やあんたみたいなエルフ、シンみたいな獣人にニークスみたいな吸血鬼、ミーティアみたいな人魚にマスターみたいな天使。それだけでも十分すぎるのに加えて鬼人、悪魔、、機械人形、蟲人、鳥人、精霊、更には巨人、竜人まで」
「エリナちゃんが挙げた種族の他に、ゴブリンやドワーフ、オークにスライム、リザードマンにナーガにアストラルにスケルトンにゾンビ、更にはトレントとかドッペルゲンガーもいますね。流石に人間はまだ住んでいませんが」
「そう……人間がいないのは何となくわかるけど、そんなに沢山いたのね」
「えぇ、いるわ。だってここは
多種族交流都市ノア。
氷結牢獄地下に設置された楽園の扉から入ってすぐに訪れる、この城下町(正確には都市だが)の名前である。
名前の通り、そしてエリナとミーティアが話した通り、この町には本当に多種多様な種族、というかユグドラシルに存在するほぼ全ての種族がここに住んでおり、互いに助け合って生活している。
「因みにこの世界には全部で9つの都市があって、ノアはこの世界の中心に位置している。他の都市はノアから8方向に散開する形で存在しているんだ」
「へぇ……面白そうね」
「機会があったら案内するよ」
「はいはい、この世界について色々話したい気持ちが強いのはよくわかったから、続きはまた今度にしなさい────着いたわよ」
エリナとミーティアの足が止まり、それにつられてステアーとアズリエルも歩みを止める。いつの間にか太陽も地平線に沈みかけ、空は暗転しつつあった。
4人がたどり着いたのは、ノアの中心にそびえたつ城、その入り口となる巨大な門の前である。今日は宴会ということもあってか、扉は既に開放されていた。
「ヴァルプルギス本部“ヴァルハラ”、それがこの城の名前。宴会場はここの中央庭園よ」
「中央庭園が宴会場か。よしわかった、んじゃ行こう」
言葉は冷静そうだが、顔面には『もう楽しみすぎて待ちきれない』といった表情が全力で出ているステアーが早速会場に向かおうとする。
「そのままで行かせるかアホ!」
「ンガッ?!」
が、エリナにがっしりと襟を掴まれたことで、間抜けな声を上げながら尻もちをつく。
「あのねぇ、あんた何もしないでそのまま行くつもりだったの?」
「イテテ……なんか、変かな?」
「まずズボンの裾と靴!汚れまくってるじゃない!」
エリナに指摘された箇所に目を向ける。確かによく見ると砂やら泥やら色々とついてて、結構汚い。
「次に上の服!どうせさっき送ってきた人間相手に舐めプでもしてたんでしょ、穴空いてるじゃない!」
彼女の言う通り、何か細いもので貫かれたような小さな穴が開いていた。上位天使との戦闘で付いたものだろう。よく見るとこれにも泥がついている。野宿した時に付いたと思われる。
「最後にあんた、此処に来るまでに一度も風呂入ってないでしょ。せめてシャワーぐらい浴びてきなさい、宴会に参加してる子供達が真似したらどうするのよ!」
「それはもっともだ!」
宴会に参加しているのは大人だけではない。それは先程絵をプレゼントしてくれたチコの発言から理解できる。更に自分はこの世界の頂点に君臨する存在でもある。この世界の子供達が憧れない訳がない。そんな自分が風呂に入らず、着替えもせずに宴会場に参加したらどうなる?子供達も真似するに違いない。それは駄目だ、と強く納得する。
「まずシャワールームに行って体を洗ってきなさい。宴会用の服は別に用意しておくから」
「わかった。この服はどうしたらいい?」
「適当に籠に入れといて、後て回収するから。それと、アズリエルだったかしら。あんたも洗ってきなさい。使い方は私が教えるわ」
「では私も一緒に」
「あんたは宴会用の服取ってきなさい!」
「(´・ω・`)ショボン」
「了解。んじゃさっさと行くか」
「えぇ」
宴会場に向かう前に、城に入ってシャワールームを目指す。因みに余談だが、この城にはシャワールームの他に、スパリゾートナザリックに匹敵する大浴場エリアもあったりするのだが、それはまた今度の話である。
「そういえばアズリエルってさ、ずっと宝物庫の前にいたんだろ?体の汚れとか、どうしてたんだ?」
「偶に追手を撒きながら外に出かけた時に、服を脱いで川に飛び込んでたわ」
「どんな野性的な生活してたのよ。というかそれでよく変な臭いとかつかなかったわね」
「法国の近くの川は、人がそのままでも飲める程度には割と綺麗に整備されているのよ。後はそうね、これを使って洗ってるぐらいかしら」
そう言ってアズリエルが懐から取り出したのは、片手サイズの小さな箱。蓋を開けると、中から網に包まれた白い固形物が出てきた。ユグドラシルプレイヤーならどう見てもわかる、石鹸だ。
「原理はよく分からないけど、これから出てくる泡を使って洗うと体がかなり綺麗になるのよね」
「石鹸じゃねぇか。しかもそのパッケージ、俺が知ってるメーカーで結構高いやつ」
「マスターが知っているということは、この石鹸はユグドラシル産なんでしょうか」
「スレイン法国ね……プレイヤーが関わっていることはほぼ確実かしら。というか何で石鹼があるのよ」
「さぁ?暇つぶしに地下を散歩していたら偶然見つけたのよ」
偶然見つけたってなんだ、どんだけ雑に扱われていたんだ。というかスレイン法国最大の秘匿事項が当たり前のように宝物庫の外を出歩いてるんだが、あいつら大丈夫か?……と、割と本気でステアー達は心配した。
「……とかなんとか言ってたら着いたな。んじゃ俺はこっち入るから。アズリエルはエリナと一緒にそっちに入ってくれ。エリナ、アズリエルを頼んだ」
「任せなさい。それじゃあついてきて、色々説明するわ」
シャワールームにたどり着くと、ステアーは流れるように説明しながら左の男性用シャワールームに入る。それに気にすることなく返事を返し、エリナはアズリエルを連れて右の女性用シャワールームに入った。因みにミーティアは流れるように一緒に入ろうとするも、エリナの見事なボディブローが決まってぶっ飛ばされ、仕方なく服を取りに行った。
「……ねぇ、脱いだ服はどこに入れたらいいのかしら」
「そこら辺の空いてる籠にでも入れ……って、入り口で脱ごうとするなーー!」
どうやら宝物庫に閉じ込められた彼女は、羞恥心というものが無くなっていたようだ。そんなどこかずれた感覚を持つアズリエルに、こいつこの先大丈夫かと不安になるエリナであった。
すみません、アズリエルちゃんの風呂事情等ついては作者の偏見が含まれています。
だって異世界の人達のシャワー描写、見たことないんだもん……