皆さんお待たせいたしました。
シャワーシーンは省略します。
私の文章力ではセンシティブに引っかかりそうだったので……
──ヴァルハラ・シャワールーム更衣室──
「…………」
エリナの手解きによりシャワールームで体を洗い終えたアズリエルは、服の準備が整うまでの間簡単な浴衣姿で腰掛に座りボーっとしていた。川で簡単にしか洗わなかった体はボディソープによって艶々と輝き、ハリと潤いを取り戻す。濡らす以外何もしていなかった白黒の髪は、シャンプーにより数年分のこびりついた汚れが一気に取り除かれ、ドライヤーによって乾いたそれはコンディショナーによりサラサラとなびいていた。人生初のシャワーから放たれたお湯によって体は十分に温まり、少し湯気が出ていた。
向かいに立てかけられた鏡に目をやると、およそ自分とは思えない自分が写った。ここ数年全く切っていなかった髪は地面に届く程伸びており、それだけをみるとかつて自分が見た絵本に登場する塔の上のお姫様のようにさえ思えた。
「私が絵本のお姫様………なんて、変な気分ね」
正直言って、信じられない。
こんなお姫様みたいな髪を伸ばした女が私?片手で巨大な斧を振り回し、宝物庫に近づくやつらを悉く叩き潰し、更には種族を問わず自分より強い存在との間に子供を作り、更にその子供がどれだけ強くなるのかが気になる、なんて頭のおかしいことを言うあの女?自分で言うのも何だが、そんなこと言われるまで気付かないだろう。
「──
「えっ?」
そんなアズリエルの心を見透かしたかのように、エリナが髪飾りと服の入った籠をぶら下げた状態で現れる。体の大きさに反して意外と力持ちのようだ。
エリナは籠を床に置くと、髪飾りを持ってアズリエルの後ろに回り、ドライヤー等で髪をセットしながら話を続けた。
「わかるわ、その気持ち。何でか分からないけど、マスターと一緒にいると本来の自分が出てくるっていうか、どんな狂人でもまともな思考になってしまうというか。
あんたのことはマスターから聞いてるわよ。スレイン法国六色聖典が一つ、漆黒聖典の番外席次にして法国最強と呼ばれた女。エルフの王とかいうカスと元法国最強と呼ばれた女性の娘として生まれ、その存在の危険性から法国の宝物庫の番人と言う形でずっと閉じ込められていた人間。確か、自分より強い存在と戦うことで敗北を知り、更にその相手が男だったらそいつとの間に子供を作り、その子供の強さを知りたいというのが夢だったかしら?全く、どんな歪んだ性格してたのよ、あんた」
「だってそれ以外私には何もなかったもの。生まれた時からずっと薄暗い地下で引きこもらされて、ただひたすら侵入してきた雑魚を潰す毎日。話し相手も漆黒聖典の隊長さんが偶に覗きに来るぐらいだし、娯楽も六大神が残したルビクキューで一面を揃える、もしくは絵本とかを読むぐらいだったから」
「うわぁ……本当につまらない生活を送っていたのね。私なら多分国を滅ぼして飛び出してるわ。というか絵本なんて読むんだ」
「えぇ。六大神が残したものだから、文字は全く読めなかったのだけど。意外だったかしら?」
「意外と言えば意外ね。正直戦うことにしか興味がないと思っていたから。マスターについてきたのもそれが理由だと考えてるし」
「確かに彼の強さには興味がある。話を聞いたのなら知っていると思うけど、今まで俗にいう強い人とは何度もやり合ってきたわ。私が覚えている中で
「それ、周りが弱いんじゃなくて、あんたやその隊長さんが強すぎるだけなんじゃない?」
「……かもしれないわね。だって私は法国最強と呼ばれた女の娘であり、隊長さんは法国で三人しかいない神人だから」
「神人?」
「“六大神”の血を引く人間の中で、その力を覚醒させた人のことよ。力を覚醒した神人は、六大神が残した武具に身を包んだ場合、個人で大陸を滅ぼせるほどの能力を発揮する、って言われてるわ」
見たことはないから本当かどうかは知らないけど、と呆れた声でアズリエルは答える。
実際にその神人と呼ばれる隊長と戦い、普通に圧勝したアズリエルにとって、神人の能力が本物なのかどうか疑わしいものなのだろう。そもそも、そんなことができるのなら、どうして今敵対しているエルフの王国を手っ取り早く攻め滅ぼさないのか。その点でも、実力を疑うのは無理もない。
「まぁ、私に武器を使わせる程度には強いことは認めるけど、それでも敗北を教えてくれるほどではなかった。私が今まで見たことのある強い人はそれぐらいだった。だけどラグナレク・ステアー・テンペスト……彼は今まで会ったどの存在とも違うって、対峙した時に確信した」
「どうしてマスターが、普通とは違う存在だって確信できたの?」
「
「成程。んで、マスターはまさにその牙を隠す狼のような存在だと、そう考えてるのね」
「えぇ。だから私は彼の誘いに乗ったの。彼の本気にとても興味が沸いたし、彼なら私に敗北を教えてくれるとも思ったから…………それに」
「それに?」
「宝物庫にずっと閉じ込められるぐらいなら、彼と一緒にいた方が色々面白おかしいことがおきるんじゃないかと思って」
1500人もの人間を相手に勝利した、人類最終試練の名を持つ修羅の魔王。そんな存在と共に行動していて、何も起こらない訳がない。無味乾燥の人生をこの先続けるぐらいなら、かの魔王と行動を共にした方が楽しいだろう……そのような思考に至ったために、アズリエルは彼の誘いに答えることにしたのだった。
実際、その選択は正解だと彼女は考える。先の戦いで、アズリエルや漆黒聖典に比べれば弱いものの、それでも並大抵の力では倒せないほどの強さを持ってるはずの陽光聖典率いる
それに、自他共に認める戦闘狂で、しかも強い男と子供を作りたいなんて考えを持つ私を、性格を理解した上で仲間に引き入れようとするような男だ。面白くない訳がない。
「ふーん。ま、マスターに振り回されすぎて寝込んだりしないことを祈っておくわ──はい、出来たわよ。服の準備するから、鏡で自分の髪見てたら?」
髪の手入れが終了し、服の準備に取り掛かるエリナ。彼女の言葉に従うように、アズリエルは鏡で自分の髪を観察した。まず長い髪を止めていた自分の金属の髪飾り系統は全て外されている。後髪は金色の金具で一本結びの形に仕上がっている。前髪は白と黒で区別される形で、それぞれ反対の色のヘアクリップで留められており、顔がはっきりと覗けるように仕上がっている。髪の側面はドライヤーでふんわりと丸みを帯びた状態で整えられ、それが違和感なくアズリエルの耳が他人に見えないよう上手に隠していた。
「お待たせ。一応あんたと同じか少し大きいぐらいのサイズを選んだつもりだけど、もし合ってなかったら後で言って。調整するから」
ほんの数分程度で準備を終えたエリナが戻る。彼女の手には、黒を基調としたレースのパーティードレスと靴底が少し高いハイヒールがぶら下がっていた。
「ところで、ドレスの着方ぐらいはわかるわよね?」
「いいえ、全く」
「即答!?」
「だって興味なかったもの」
「大丈夫かしら、こいつ…………わかった。それじゃあ私が着替えるの手伝ってあげるから、ちゃんと覚えなさいよ?」
──────────
一方シャワールームの外では……
「遅いですね、エリナちゃん達」
「そうだな。ところで、なんでギャグマンガみたいなタンコブついてんだ?」
「先程服を持ってシャワールームに入ったら、エリナちゃんが目の前にいたので抱きつこうとした結果です」
「そうか」
どこぞの野猿令嬢の弟が着てそうなパーティー服に身を包んだステアーと、複数のタンコブタワーのついたミーティアが、アズリエルとエリナがシャワールームから出てくるのを待っていた。
「でっかい絆創膏でも貼ってやろうか?」
「いえ、お構いなく。時間が経てば自然治癒すると思いますので。マスターこそ、服に穴が開いていた部分は大丈夫でしたか?」
「おう、見ての通りだ。俺自身が強すぎるのも否定はしないが、あっちの世界の大天使は想像以上に弱すぎてな、なんかガラス細工でドッキリをかけられたような気分だったよ」
「無理もありません、マスターは異形種の中でも異質な強さをお持ちなのですから。むしろ、あの程度の強さでマスターの
「それもそうだな。ま、あの服は俺が持っている神器級装備品の中では
ステアーの言葉にミーティアは首を縦に振り肯定する。
少しメタい言い方になるが、あまりにもこの環境になれるのが早すぎではないだろうかこの男。
アインズでさえ、アルベドやデミウルゴス達からの信頼が大きすぎてかなり誇張した言動や魔王ロールをすることでなんとか部下たちとの会話が成立しているというのに。緊張するという感情がないのだろうか。
「あ、そういえば。服と共にこちらをマスターにお渡しするのを忘れていました」
そう言ってミーティアはポケットから何かを取り出し、ステアーに手渡した。
ミーティアが手を離すと、そこには金の指輪と銀の指輪がのせられていた。指輪はどちらも、アインズが複数装着しているような派手なものとは全く違い、小さなダイヤが1つだけはめ込まれているだけのシンプルなものだ。
「これ……そっか、確か『何かの拍子に失くした、なんてことになったら嫌だから』って理由で預けてたんだっけ」
「はい。本当はそのまま動かさず静置するのも考えられましたが、やはりマスターに渡すのが一番だと考えまして」
「成程な」
ミーティアに感謝しつつ、ステアーはその2つの指輪を両方とも左手の薬指に通す。指輪を天井のシャンデリアにかざすと、2つの宝石がとても明るく輝いているように見えた。
「少しシンプルにしすぎたかな」
「そうですね。しかしマスターはアインズ様のような魔法専門職という訳ではございませんので、機能性を考慮した場合むしろシンプルな方がよろしいのでは?」
「それもそうか」
「はい。それにもし、仮にその指輪のデザインが凝りすぎますと『こんな綺麗な指輪を装備しながら戦うなんて、もったいなさすぎて無理だよぉ!』と、約一名仰られる方が現れるかと」
「ハハハ、確かに言いそう───…持ってきてくれて、ありがとう」
「喜んでいただけで幸いです」
指輪から色々と話を膨らませる二人。
すると、シャワールームの扉が開かれる。奥から漂ってくる石鹸の香りと共に最初に出てきたのは、少し疲れた顔をしたエリナだった。
エリナが視界に入った途端、ずっと待ちかねていたミーティアは目にもとまらぬ速さでエリナに突進する。
「エリナちゃぁぁん!お疲れさまでぶへぇ?!」
「疲れているのがわかってるなら飛び込んでくるなっつーの!」
が、判断力は衰えていないようで、いつものようにミーティアの手をすり抜け、腹に見事なブローを放った。
「さ、流石はエリナちゃんです」
「本っ当飽きないわねあんた。一周回って尊敬すらしてきたわ」
「いやー、それほどでも♪」
「誉めてない!」
「あはは……お疲れ、エリナ。なんかすごい時間がかかってたけど、なんかあったのか?」
「えぇ、まぁ。マスターが連れてきたアズリエルって人、ドレスの着方を全く知らなかったのよ。それで教えてたら時間が遅れた」
「お、おう。本当にお疲れ様」
「全くよ。まぁ、おかげで───これ以上ない仕上がりになったわ。」
言葉に続けて、エリナは後ろを向く。
するとシャワールームから、エリナの手解きで完璧なイメチェンを果たしたアズリエルが現れる。あまりの変わりように、ステアーは一瞬たじろいだ。
「ちょっと、この服動き辛いんだけど」
「今度あんた専用のドレスを作るよう頼んであげるから、暫くはそれで我慢して」
「……ならいいけど。それにしても、人間用の服もあったのね。人間はいないって聞いたから、てっきり無いと思ったんだけど」
「色々と事情があるのよ。今は話せないけど」
「ふぅん。ところで、そんなにじっと見つめてどうしたのよ」
「あ、あぁ。なんか予想を遥かに超えるレベルで綺麗になってたからついね……」
「そう……惚れたのならいつでも伴侶になってあげるわよ?」
「よしてくれ、これでも既婚者なんだよ」
「あらそうだったの。なら重婚すればいいじゃない。子供が産めるなら愛人扱いでも構わないわ」
「思考回路前向きな上にとんでもないこと言うんだな、おい!中身が変わってないようで逆に安心したよ!」
見た目は変わっても中身は全然変化していない彼女に、逆に安心する。見た目はヒトを変えるとは言うが、どうやら例外は存在したようだ。
「重婚……」
「何か言ったかエリナ?」
「な、何でもないわよ!ほら、準備できたんならさっさと行くわよ!」
「おう、そうだな。アインズさん達も待ちくたびれているだろうし、何より」
グゥゥゥゥゥゥウウウウウウ……
「……俺めっちゃ腹が減った」
「奇遇ね、私もよ。さっさと行きましょう」
「最後までしまらないわねあんたたち……はいはい、じゃあこっちよ」
「はーい、それでは2名様ご案内です~♪」
廊下に響き渡る空腹音に呆れつつ、一行は改めて宴会場へと向かうのであった。
「……綺麗、か」
人知れず、容姿を認められたことに笑みがとまらない乙女の漏らした一言に気付かないまま……
番外席次の髪について、情報が少なかったのでもしかしたら原作とは異なる表現になっているかもしれません。オバマスの番外席次を観察したところ、ベースは白い髪で頭の左部分が黒くなってるように見えたので、今回のような表現になりました。
次回はいよいよ宴会編!そしてその後からはついに冒険者編(予定)!