DMMORPG“ユグドラシル”。
かつて人気を誇ったそのオンラインゲームには、ある伝説のプレイヤーがいた。
曰く、一人で多くの有名ギルドを壊滅させた。
曰く、一人でワールドアイテムを複数所持している。
曰く、一人で数多くの神器級アイテムを入手・作成した。
嘘のような事実を残したそのプレイヤーは、いつしか“ユグドラシル最強のソロプレイヤー”と呼ばれるようになった。
そんな彼が今どうしているかというと、
「……………ここ、どこ?」
迷っていた。
いや、正確には見知らぬ森にいきなり飛ばされてしまった、と言うのが正しいか。
背中から一対の大きな黒い翼を生やした金髪の青年は、辺りを見渡しながら状況を確認した。
「えーっと、確か今日はユグドラシルのサービス終了日だったから、俺はさっきまで残っていた仕事を急いで全部終わらせて、いつも通り“アインズ・ウール・ゴウン”のギルドに向かおうと時間ギリギリにログインしたらなぜか見たことないところにいて、しかもこんな風に口を動かして喋れていて……………」
自分の体をペタペタと触ってみる。
アバターの姿のはずなのに、脈が動いているのを感じる。
口に手を当てると、呼吸をしているのがわかる。
背中の翼に意識を送ってみると、ゲームにしてはあまりにもリアルな動きをしていて、しかも羽が落ちる。
何かの不具合かと思って手をかざすが、GMコンソールが出現しない。
夢かと思って手をつねってみると、痛覚を感じる。つねったという触覚もあった。
耳を澄ませると枝の葉が風で揺れる音が聞こえる。今更気付いたが、視覚もあった。
試しに自分に意識を向けてみる。するとステータスみたいなものが浮かび上がってきた。
『名前:ラグナレク・ステアー・テンペスト
種族:
職業:
属性:中立(カルマ値±0)
所属:アインズ・ウール・ゴウン(副ギルドマスター)』
ふーむ、なるほどなるほど……………
何ということでしょう!
さっきまではどこにでもいそうな普通の会社員だったのに(自称)、今ではこんなにイケメンで強そうなアニメの主人公みたいな姿に!
……………ってアホか、そう簡単に認められるかあぁぁぁぁ!
「……………でも、どこをどう見ても、アバターだよな、俺の」
全身をどの角度から見ても、俺のユグドラシルのアバターとしか見えない。
いや、別にこの姿が嫌いってわけじゃない。むしろこの姿になりたいと思ったこともあったよ?
でもさ、こんないきなりなれるものなのか?
だが疑う余地はない。
疑いようがない。
場所も場所だ。こんな場所見たことがない。
どうやら俺は、『異世界転生』というものをしてしまったらしい。それも、自分のアバターで、知らない世界に。
「……………モモンガさんもこの世界に転生してたりするのかな」
ふと浮かんだ疑問。
俺がユグドラシルにログインしたのは、サービスが終わる直前だ。
もしサービスが終わるまでモモンガさんがログインしていたとしたら……………
気になった俺は、耳に手を当てて『
頭の中で糸電話をしているような感覚だ。
しばらく待つが、応答がない。転生していないのか?それとも電波が悪いみたいな理由だったりして。
「ん?俺今どうやって
流れるように使ったが、今思うと不思議だ。
何で俺、
何となく体が動いて意識を飛ばしてみただけなんだが………
「もしかして……………」
試しにアイテム欄を開くイメージをしながら手を出してみると、異空間と繋がっていそうな穴が出現した。手を突っ込んで、頭の中でほしいものをイメージすると手に何かの感触が起き、引っ張ってみると召喚用の結晶が出てきた。
こいつはすごい。何となくだが、身体が魔法の使い方を理解しているようだ。
これはかなり助かる。
そして俺が今掴んだ結晶に意識を集中させると、結晶から煙が発生し始め、目の前に≪
この
ペロロンチーノさん曰く『よくシャルティアと一緒に
「お呼びでしょうか、ラグナレク・ステアー・テンペスト様」
いきなり口を開いて喋ったので内心驚いた。
でもすぐに理解した。
そうか、俺がアバターとして生きているのだから、NPCである彼女が口を動かして話すのは当たり前といえば当たり前か。
「あぁ。実はさ、ちょっとしたイレギュラーが発生してな。そこで、君にいくつか頼みたいことがあるんだが、いいか?」
「もちろんでございます!何なりとお申し付けください!至高の42人の御一人、ラグナレク・ステアー・テンペスト様のご命令、この身をかけてでも必ず完遂させる所存です!」
「お、おう、そうか」
何、この俺に対する異常な忠誠心は。
というか、至高の42人?
もしかして俺を含む“アインズ・ウール・ゴウン”のプレイヤー42人のことか?
それにこの子の瞳から注がれる尊敬の眼差し………冗談とは思えない。
「コホン。まず君に質問だ。この森に見覚えはあるか?」
「……………申し訳ございません、ラグナレク・ステアー・テンペスト様。知識の少ない私の記憶の中では、このような森を見たことは一度もございません。眷属でありながらお力添えすることすらできないというこの失態を挽回する機会を与えていただけるのであれば、これに勝る喜びはございません」
いや、天井突き破る勢いの忠誠心だぞ、これ。
これほどまでに強いと逆に俺が話しづらいな…………よし。
「何を言ってるんだ。君は俺の質問に正直に答えてくれたんだ。君に失態はない」
「ラグナレク・ステアー・テンペスト様……」
「それとさ、出来れば今後俺のことはステアーって呼んでくれ。フルネームで呼ばれると話しづらいんだ」
「も、申し訳ございませんラグナレ………いえ、ステアー様!」
「うん、それでいい。君の全てを許す。さて、君の返答のおかげで、この世界は俺達が知っている世界じゃない、つまり“異世界に転移してしまった”ことが確定したな」
「い、異世界⁈異世界なのですか⁈」
「そうだ。ペロロンチーノさんやシャルティアとよく一緒に外に出ていた君が言うんだ、間違いない。一体どうしてこんなことになってしまったのかはわからないが、少なくとも前の世界からこの世界に君と俺が転移したということに変わりはない。ただ、もしそうだとすれば、俺達は少し危機的状況にあると言える。
「さすがはステアー様、このような異常事態に対する冷静な判断、感服したしました」
「大げさだよ。そこでだ、君にはある重大な仕事をしてもらいたいんだ」
「わかりました。この世界について調査をするのですね」
「あー、それもあるんだが………それよりも重大なことだ」
調査よりも重大なことと言われ、彼女は首を傾げた。
俺は再び異空間に手を入れ、二枚の丸まった紙を取り出した。
予想通り、紙は真っ白だ。
二枚の紙に手をかざす。すると紙の一部に丸く色が付き始めた。
「これは俺が作ったマジックアイテム≪
「そんな!至高の御方であるステアー様の所有物を、私のような眷属風情が持つことなど!」
「いいんだ。俺が二つ持っていても意味はないしな。それに、君にこれを渡したのには理由があるんだ」
「理由………ですか?」
「あぁ。君は確か、シャルティア・ブラッドフォールンの眷属だったな。シャルティアが今どのあたりにいるとか、わかるか?」
「はい、何となくではございますが」
「ならばよし。君にはシャルティアを辿って、俺達の本拠地………ナザリック地下大墳墓がどこに転移したかを見つけてほしいんだ」
「⁈」
さっきから驚くか、感激するかしてないな。体持つのか?
まぁ、それはおいといて。
俺がなぜ彼女にナザリックを探させることにしたのか。そもそもどうしてナザリックがあると思っているのか。
理由は、彼女の存在が示してくれている。
「俺は最初、俺だけがこの世界に来たのだと思った。だが、君があの結晶から出てきてくれたことで、それは違うと分かった。なぜなら、君はあくまでシャルティアの眷属だ。主がいない世界で、眷属である君がこうやって
「そこで、シャルティア様の眷属である私なら、シャルティア様を辿ってナザリック地下大墳墓の居場所をすぐに発見できると踏んだ………素晴らしいですステアー様、私の存在だけでそこまでお考えになられていたとは!」
「君がいたから分かったことだ。礼を言わせてくれ」
「礼だなんてそんな!しかしこの
「ハハハ、それはよかった(ミレア?そんな名前つけてたんだ、ペロロンチーノさん)。それじゃあ、早速だけどこれに乗って」
さりげなく彼女の名前が発覚したところで、また結晶を一つ発動する。
今度は
普通の馬より一回りぐらい大きく、結構がっしりしている。
「この子はアウラから借りたんだ。足も速いし、一緒に行けば見つけやすいはず。見つけたら、地図に印を書いといて。それでわかるから」
「承知いたしました。このミレア、ステアー様のご命令、必ずや成し遂げて見せます!」
「うん、頼んだよミレア」
地図を受け取ったミレアは、
あの調子ならすぐに見つけてくれそうだな。
………ただ。
「あのミレアって子、
守るべきものから離れてどうするんだ。まぁ、命令したのは俺だからいいけどさ。
それにしても、凄い忠誠心だったな……
眷属であれってことは、守護者とかもっと凄いんだろうな……
もしかしたら今頃、モモンガさんも同じような状況になってるんじゃないか?
「……………考えても仕方ないか」
その辺は彼と出会ってから考えよう。
そう思いながら、俺は地図を広げた。
そしてびっくりした。
凄まじい速度で地図の色が塗られていってたのだ。
いや、飛ばしすぎだろ、大丈夫か?
まぁ、俺のために頑張ってくれてるんだし、余計な口出しはしない方が彼女の為か。
「んじゃ、俺も行くとしますか」
魔法で気配を完全にシャットアウトする。
そして大きく翼を広げ、上空に飛び出す。
空から見てみると、結構広そうな森だ。
とりあえず村か町を探すことを目標に、俺はその場を去った。
次回、ステアーさん誰かと会います。