OVERLOAD 人類最終試練(凍結)   作:嵐川隼人

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罪の代償

 ニグンは後悔した。

 目の前にいる青年の技量を測ろうともせず、ただの魔法詠唱者(マジック・キャスター)と考え挑んだ自分を恨んだ。

 

 彼は、母国であるスレイン法国からある任を受けていた。

 

 その任とは、『リ・エスティーゼ王国最強の戦士長、ガゼフ・ストロノーフの抹殺』。

 ニグンはガゼフを誘き出す為、致し方ない犠牲として王国付近の村々を襲撃した。

 

 暫くしてガゼフが姿を現す。ニグンはガゼフに対し、陽光聖典が召喚した天使の軍勢を使用して抹殺を測った。

 途中までは優勢だった。王国最強とはいえ、陽光聖典の凄まじい戦力には敵わなかった。

 

 最後のとどめを刺そうとした時、ガゼフはニグン達にこんな言葉を残した。

 

『馬鹿め、お前達はわかっていない。あの村には俺よりも強い御仁達がいる。お前達は………お前達は、ドラゴンの尾を踏んだのだ………』

 

 その時は、どうせ負け犬の遠吠えだと思い、気にもしなかった。そしてとどめを刺そうと思ったその瞬間、ガゼフの姿が突然消え、入れ替わるように不気味なローブを羽織った仮面の男と一人の青年が現れた。

 

『うわぁ、こうしてみると圧巻だな。流石はスレイン法国の陽光聖典、と言ったところか』

 

 思えば、この時から自分たちの敗北は決まっていたのかもしれないと、ニグンは思った。

 

 突然現れた二人の魔法詠唱者(マジック・キャスター)は、取引と言って自分の命を差し出せと要求した。

 この時ニグンは、自分達より上の魔法詠唱者(マジック・キャスター)など存在しないと考え、彼らの要求を拒否した。

 すると、ラグナレク・ステアー・テンペストと名乗った青年が自分達に近づいてきた。

 

 逃げずに向かってくる彼を、ニグンは嘲笑した。そして彼に死を与えようと天使達を仕向けさせたが、

 

『ん?何か当たったのか?後君達ちょっと邪魔』

 

 初めに二体の炎の上位天使(アークエンジェル・フレイム)が投げ飛ばされる。次に全天使を向かわせるが、

 

『数で攻めようとするのは、戦い方を知らない馬鹿の証拠だ』

 

 黒い光の衝撃波が放たれ、全滅する。予想外の出来事に困惑しだしたニグンは、自身の監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)を仕掛ける。

 

『はい、さようなら』

 

 が、これも失敗。監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)の攻撃をいとも容易く受け止め、逆に漆黒の炎で燃やし尽くされてしまった。

 遂には法国から渡された最後の切り札である最高位天使威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)を召喚し、第七位階魔法【善なる極撃(ホーリースマイト)】をぶつけさせたが、

 

『気は済んだ?もうこれいらないよね?』

 

 人間の限界である第六位階魔法を超えた究極の第七位階魔法を喰らってもなお平然としていた。

 そして自分達の希望だった主天使(ドミニオン)は、ステアーの放った小さな黒点に呆気なく吸いこまれ、消滅した。

 

 ありえない…………ガゼフでさえ苦戦した天使の軍勢を、更には魔神をも葬り去った最高位天使を、こんなにもあっさりと倒されるとは思わなかった。

 一体誰なんだ、ニグンがそう聞くと、青年は静かに背中から漆黒の翼を生やし、自身を名乗った。

 

 

『俺は堕天使(アスタロト)のラグナレク・ステアー・テンペスト。またの名を──────人類最終試練(ラスト・エンブリオ)

 

 

 人類最終試練(ラスト・エンブリオ)…………その言葉に、ニグンは思わず耳を疑った。

 

 実はスレイン法国を築き上げた六大神がユグドラシルで体験したことは、伝説や御伽噺として記録され後世に残っていた。

 その中で最も有名な御伽噺に登場するのが、伝説の魔王 人類最終試練(ラスト・エンブリオ)である。

 

『かつて六大神がいた世界で1500人の人間達が同盟を組み、魔物の国を滅ぼそうとした事件があった。

 そしていざ魔物の国を攻めようとした時、突如彼らの前に一人の堕天使が現れる。

 その堕天使は八人の従属神を従わせ人間に対抗したが、こちらは1500人。数では圧倒的に不利だと考えられたが、それは間違いであった。

 たった九人を相手にしているはずなのに、従属神一人一人がまるで国1つを滅ぼしかねない巨大な厄災。それがいくつも同時に襲い掛かってくるような気持ちにさせるほどの圧倒的強さ。

 そして、その従属神を容易く凌駕する一人の堕天使によって、人間は瞬く間に敗北した。

 人間は理解した。あれにだけは絶対に関わってはいけない、あれにだけは絶対怒りを感じさせてはいけないことを。

 名を、人類最終試練(ラスト・エンブリオ)。全ての種族を超えた、『修羅』の異名を持つ魔王である』

 

 六大神が最も恐れた伝説の魔王、人類最終試練(ラスト・エンブリオ)

 修羅の異名を持つ存在が今、自分の目の前にいる。

 なるほど、道理で勝てない訳だ、とニグンは自分を嘲笑し、膝から崩れ落ちた。

 

「どうやら、自分の立場を理解したみたいだな」

 

「……………………」

 

「寡黙は是なり、だ…………【冥府の門(タルタロス)】」

 

 ステアーが呪文を唱えると、彼の後ろに巨大な扉が出現する。鎖が大量に巻き付けられたその黒い扉から放たれる禍々しいオーラは凄まじい。

 指を鳴らすと、扉の鎖がジャラジャラと音を立てて外れていく。そして全て外れた扉は重々しい音をたてながら開かれた。

 

「君達の罪、存分に数えながら贖え」

 

 ステアーの言葉と共に、無数の不気味な手が飛び出し、陽光聖典の兵士たちを掴んだ。兵士たちは悲鳴を上げる間もなく、扉の中へと引きずり込まれる。

 そして最後の一人になってしまったニグンにも悪魔の手が伸びる。すると掴まれる直前、ステアーは彼の前に立った。

 

人類最終試練(ラスト・エンブリオ)よ…………私は…………間違っていたのだろうか…………国のためにしてきたこと、全て…………」

 

「…………君の祖国を思う気持ちは、人類最終試練(ラスト・エンブリオ)である俺が認める。ただ、君はやり方を間違えてしまった。それが君の罪だ」

 

 ステアーの最後の言葉を聞き、ニグンはそのまま扉へと引きずり込まれる。そして扉は再び重い音を立てて閉じ、鎖が巻き付いて消えた。

 

 

 

「終わりましたか」

 

「えぇ」

 

 アインズが近づくと、突然ガラスが割れたような音が響く。それを見上げると、空間にヒビが入っていた。

 

「どうやら誰かが見ていたみたいですね。私の情報系魔法に対する攻性防壁が発動したみたいです」

 

「みたいですね。とりあえず、向こうに僕達のことが知られる可能性は無いですし、このままミレア達を連れて帰りますか」

 

「そうですね。行きますか」

 

 すべてが終わったことを確認すると、ステアーはカルネ村でミレアと、ずっとどこにいたのだろうか、アウラの八足馬(スレイプニール)と合流した。ミレアに治療されたガゼフはステアー達に礼を言い、『この恩は必ず返す』と言って村を離れた。その後アインズとステアーも我が家に帰ろうと、満天の星空を見ながら歩いていた。

 

「それにしても、すごく綺麗な夜空ですね」

 

「そうですね。ブルー・プラネットさんにも見せたかったです」

 

「あー、自然が大好きでしたもんね、あの人…………ん?」

 

 途中、どこからか音が聞こえてくる。それに気が付いたステアーは空間から何か黒い板を取り出した。

 

「ステアーさん………何ですか、そのスマホみたいな黒い石板っぽいのは?」

 

伝言石(メッセージ・ストーン)。数に限りがありますが、伝言(メッセージ)を使えない戦士職の人とも伝言(メッセージ)が使えるマジックアイテムです。通話専用のスマホと思っていただければいいかと」

 

 話しながら伝言石(メッセージ・ストーン)のボタンを押す。そして耳に当て、もしもしと言った。

 

「もしもし、ステアーですk」

 

『もしもし、じゃないでしょ、この馬鹿マスタァァーー‼‼』

 

 開始早々聞こえたのは、少女の怒鳴り声。あまりの大きさに、アインズやアルベド、アズリエルにミレアまでも驚いていた。

 伝言石(メッセージ・ストーン)の相手は続ける。

 

『あんたねぇ、突然私達の前から消えといて勝手に人間を送ってくるんじゃないわよ!牢獄の中に送られてきたから良かったものの、そうじゃなかったらどうするつもりだったのよ!というか、何でニューロニストのところに送らないでこっちに送ったのよ⁈こういうのはあいつの仕事なの、知ってるでしょ!』

 

「ごめんごめん、()()()。送り先、【失われる世界(ロストワールド)】のままだったの、忘れてたよ」

 

『はぁ⁈あんた副ギルドマスターでしょ⁈もうちょっと自覚をもって行動を………』

 

『エ・リ・ナ・ちゃーん♡誰と話してるのですかぁ?』

 

『ちょっ、急に抱き着いてくるな変態!話しづらいでしょうが!』

 

『もうエリナちゃんったら照れちゃってぇ~、可愛いですねぇ♪』

 

『照れてない!』

 

 少女、エリナの声に被さるようにもう一人の女性の声が聞こえてくる。エリナより少しお姉さんっぽい声だ。

 

「その声………ミーティアか?」

 

『ん?この少年とも大人ともとれる声は………ご無事だったのですね、マスター!』

 

「あぁ。心配かけて、ごめんな」

 

『本当ですよ、マスター。マスターがいない間、失われる世界(ロストワールド)は所謂“お通夜状態”でございましたから。特にエリナちゃんは、マスターがいなくなった、とずっと泣いていて』

 

『ちょっ、何言ってるの!泣いたりしてないわよ!』

 

『先程なんて幽閉の扉(タルタロス)で牢獄に人間が送られてきた際、“マスターが生きてる!”と鼻水をたらして泣いていたんですよ~?』

 

「あのエリナが鼻水を?それ本当?」

 

『ンな訳無いでしょ‼勝手なこと言うな!マスターも真に受けないでよね!』

 

『あらあら、必死に隠そうとするエリナちゃんも可愛いですねぇ♪』

 

『あーもう、だから引っ付くな!ぶっ飛ばすわよ!』

 

「アハハ…………」

 

 電話越しで繰り広げられる光景を思い浮かべ、思わず苦笑いする。

 

『とにかく!こいつらは私達がニューロニストのところに送っとくから、早く帰ってきなさいよ。みんなマスターを待ってるんだから』

 

「わかった。それじゃあ、また」

 

『うん、じゃあね』

 

『きゃー♡ツンデレエリナちゃんがマスターに素直な反応を~♡』

 

『今すぐその減らず口縫い合わすわよ、ミーティア!』

 

 電話越しにガシャン、パリンと物が破壊される音が響く。

 後でちゃんと直しとけよ、とだけ言い、ステアーは電話……もとい伝言石(メッセージ・ストーン)の通話を切った。

 

「エリナとミーティアって確か、ステアーさんのN()P()C()、でしたよね?」

 

「えぇ、そうですよ。何か気になることでも?」

 

「いや、その、何と言うか………砕けてるなぁ、と思いまして」

 

「あぁ、そのことですか。確かにアルベドやミレアに比べたらかなり砕けた感じでしたね」

 

「ステアーさんはそれでいいんですか?何か馬鹿とか言われてましたけど」

 

「構いません。むしろあそこまでぶっちゃけてくれた方が話しやすくて助かります」

 

 ぶっちゃけすぎなのでは、とアインズはツッコミたかったが、本人が良しとしているならいいかと心に留めた。

 

「…………………さて、これから忙しくなりますね」

 

「そうですね。でも、ステアーさんがいてくれて本当に良かったです。ステアーさんがいてこその、アインズ・ウール・ゴウンですから」

 

「そんな大げさな。でもまぁ、やるからには全力を尽くしましょう」

 

「えぇ。その為にも、アインズ・ウール・ゴウンの名を」

 

「世界に轟かせましょう、アインズさん」

 

 ステアーとアインズは改めて決意する。

 この世界にいるかもしれない仲間たちが気付いてくれるよう、世界にアインズ・ウール・ゴウンの名を轟かせよう、と。

 

 

 

 

 

 

 

『…………………ところでアインズさん、ナザリックに着いた後でいいんですけど』

 

『何ですか、ステアーさん?』

 

『いや、そろそろアルベドに何をしたのか教えてもらいたくて?』

 

『うぐっ………忘れていてほしかった』

 

『甘いですね、アインズさん。僕がそんなこと忘れる訳無いでしょう?何ならアルベドに聞いても』

 

『わかりました、言います。言いますからそれだけはやめてください!』

 

 伝言(メッセージ)越しに不気味な笑顔を浮かべるステアー。その顔を見た瞬間、絶対に弄られる未来しか見えなかったアインズであった。

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