アポクリファ世界線での第四次聖杯戦争(妄想100%) 作:ゆきうさ
冬木の町を歩きながら、男は暗く澱んだ目を周囲に向ける。
平和な町だ。数週間後には魔術師が集まり戦争を始めるというのに、町そのものは平和の一言に尽きる。
今も、男のすぐ横を幸せそうな子連れの家族が笑い声を響かせながら通り過ぎていく。
だが、スーツ姿の男はそんなことは関係ないとばかりに歩みを緩めることはない。
「ねー、○○は将来はなにになりたいのー?」
「えー? ぼくはねー、××レンジャーになって、皆を守るヒーローになりたい!」
そんな声が聞こえてくるまでは。
その男ーーー衛宮切嗣は自嘲するように何かを呟いた。
少しばかりの憧憬と絶望にも似た諦観が含まれたその言葉は誰の耳に入ることなく、雑踏へと消えていった。
◆ ◆ ◆
この世界の衛宮切嗣は完成された殺人機械だ。
彼の隣に寄り添うはずだったはずの彼女は造られることもなく
彼の凍てついた心を溶かすはずの少女は生まれることもなく
彼の横に立つはずの女性も彼を守るために散っていってしまった。
だからこそ、彼は殺人機械として完成されている。大切なものがなく、彼の天秤には人の命という価値しか乗ることはない。
千を救うためなら百を切り捨て、万を救うために千を切り捨てる。あるいは、自らの命でもって多数の命を救えるのなら彼は進んで自らの命を差し出すのだろう。
だからこそ、聖杯戦争に参加した。六人の命を対価として数多の命を救うことができるこの戦争に参加した。
小聖杯ゆえに、全人類の恒久的平和という彼の目的が達せられることはないだろうと諦めはついているが、普段彼が殺人を以て救う以上の悲劇を救うことができると確信してこの争いに身を投じた。
しかし、アインツベルンと繋がりのない彼はエクスカリバーの鞘を手に入れることはない。すなわち、アーサー王を召喚することはできない。
加えて、彼の英雄嫌いはこの世界でも健在……むしろより強くなっている。
だから衛宮切嗣は英霊を召喚しても運用する気がほとんど無い。魔術師といえど、人間である以上銃弾を打ち込めば殺せるし、魔術的な防御に対しては無類の強さを誇る"起源弾"もある。
最悪、被害を考慮せずに町を丸ごと火の海にすることや、水道管に細工することで飲み水に毒を仕込むことも考慮している。
その細工をするために数週間から現地に潜入しているというわけだ。
もちろん、テロまがいな活動の準備だけでなく魔術師が潜伏しそうな場所を洗い出し、狙撃スポットを見つけることも忘れない。
一応ではあるが、町に被害を出すのは最終手段、できるだけ使いたくない手であるのは確かなのだ。追いつめられそうになれば使うことに躊躇いは無いとしても。
英霊なんてプライドの高い存在に、これらの裏工作を見られたくなかったため、英霊召喚は全ての準備が終わってからだった。
この時点で、セイバー、ランサー、ライダー、アサシンは埋まっており、残るクラスはアーチャー、キャスター、バーサーカーのみ。
かくして召喚の結果はーーー
「サーヴァント、アーチャー。召喚に応じ参上した。……すまない、どうやら記憶が曖昧なようでね。真名は自分自身でも分からない。」