たった一人のマスターへ   作:蟹のふんどし

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藤丸氏は聖人かつ超人すぎるから、身内にぐらいは人間らしくてもいいよね。


姉弟マスター

物心ついたころから変わらずあるのは姉さんの笑顔だった。

僕より2年早く生まれた姉さん。

姉さんはいつだって何事もそつなくこなして、最後にはとびっきりの笑顔でこう言うのだ。

 

「ね?なんとかなったでしょ」

 

姉さんは常に僕の前に立ち、いつだって気丈に進む。

 

それは僕らを取り巻く環境が変わっても、何も変わらなかった。

僕らを守ってくれる人が居なくなっても。僕らを利用しようとする人が何度現れても。

変わったのはただ僕の気持ちだけだ。

 

いつからだろうか。

 

僕を守るその背中が、はるか高くまでそびえ立つ壁に見えるようになってしまったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

「小賢しい」

 

神々しい声音で僕らを見下ろした彼女は、自身の持つ槍を高く掲げた。

 

「あの光は....!」

 

聖槍が強烈な光と共に膨大な魔力を感じさせ始めた。

左耳につけたインカムからドクターの声が響く。

 

「立花ちゃん!達海くん!魔力反応が不自然に増大してる!何が起こっているんだい⁉︎」

 

 

キンキンと耳に響くほどに声に対して、姉さんもまた大きな声で叫ぶ。

 

「獅子王の持ってる槍が光ってる!魔力も多分そこから!宝具かも...」

 

姉さんの声に食い気味にドクターは反応した。

 

「宝具だって⁉︎今打たれたら存在証明が.....レオナルド!」

 

「わかってるさ!今やってる!」

 

インカムの向こうからものすごいスピードでで機材の入力音が響いてくる。

 

「まずいぞ、まずいまずいまずい」

 

インカムから聞こえる焦った声につられたのか、僕の前で盾を構えているマシュが声を張り上げた。

 

「ドクター!何がまずいのか説明して下さい!」

 

「女神の持つ宝具なんて撃たれたら、周辺の数値変動が大きすぎる!君たちを見失う!」

 

確かに。

あんな物を最大出力で放たれたら観測機器に異常が出ることぐらいは僕でも分かる。

 

「ネロ!英雄王!」

 

姉さんの手の令呪が光り輝く。

どうやら自身のサーヴァントに魔力を譲渡したらしい。

 

「任せるが良い!」

「業腹だが仕方あるまい」

 

二騎のサーヴァントはそれぞれ宝具を起動する。

けど....

 

「抑えられるのか...?」

 

劣勢を理解しているのか姉さんも、ローマの皇帝もウルクの王も焦燥を顔に浮かべている。

これがもし抑えきれなければ...

 

いや、もしを考える意味なんてない。

抑えきれなければ人類が終わる、結果は常に一つだ。

だったら...

 

「マシュ!」

 

「はい!」

 

僕は右手の令呪を起動する。

 

「令呪をもって命ず。藤丸立花とその二騎のサーヴァントを宝具をもって守れ!」

 

「先輩⁉︎」

 

戸惑うマシュを尻目に走り出す。

なけなしでも魔力はあったほうがいいだろう。姉さんとそのサーヴァントさえ守れれば勝機はある。

そしてインカムに向けて叫ぶ。

 

「ドクター!この礼装のガンドは原理上いかなる存在でも通じるって言ってたよね!」

 

獅子王の宝具が魔力を放つためなのか暴風が待っていて、インカムが音を拾ってくれるか心配だったがその心配は杞憂なようだ。

僕の質問にドクターは戸惑った声で応じる。

 

「こんな時に何を...」

 

「いいから!」

 

ドクターの言葉に声を被せて確認を乞う。

確かに生死の間際にいるのに礼装がどうのなんて言われたら、そう反応するよなあ。

 

「そうだよ!その礼装に付与された魔術は根元事象への介入だ!だから英霊どころか神にだって防げない!レオナルドにも太鼓判を貰ってる!でもそんなこと....」

 

ドクターの声には若干の苛立ちがのっていたが予想通りの答えに安心する。

 

しかし恐ろしい。神にも有効な術式って。

一体どうやってそんな術式を組み上げたのか。

天才というのはいつだって僕に及びつかないところにいるらしい。

でも良かった。それだけ聞ければ後はどうにかなる。

僕らと共に戦う唯一の円卓の騎士に叫ぶ。

 

「ベディヴィエール!一瞬で良い!宝具の余波を相殺してくれ!」

 

彼の目を見る。

何も聞かずに指示に従ってくれ。

そう目でお願いする。

 

「....了解です、達海」

 

ありがとう。目で分かるのはやはり騎士ゆえか。

ああ、これからやろうとしてることを考えると気が滅入る。

 

視界の端で捉えた姉さんの顔に驚愕の色が写る。

 

「何をしてるの!下がりなさい!達海!」

 

姉の怒声が聞こえる。

彼女の言はおそらく正しいのだろう。実際僕が動いたところでこの状況を防ぎきることができるかは甚だ疑わしい。

 

だけれどもだからっていつも盾の後ろに立たされる僕の気持ちを分かってない。

 

そりゃ危険だろうけど、だからといって僕に何もさせないのは傲慢じゃないのか?

下がるも何もここで踏ん張らなきゃ僕らの旅は終わりじゃないか。

 

姉の声を聞いた途端、鈍かった足取りは怒りの燃焼とともに走り出した。

姉の声に何の反応もせず、右腕を構え、獅子王に向ける。

かの王は近づく僕に見向きもしない。

 

確かに蟻が近づいた時に一々反応する人間はいないか。

でもよ、その蟻が持っている毒は天才仕込みなんだぜ。

 

僕は右手で獅子王を見据えながら、高らかに叫んだ。

 

「ガンドッ‼︎」

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

 

 

「達海!あんたどういうつもりよっ!」

 

 

カルデアに戻ってきた僕に真っ先に突っかかってきたのはやはり姉だった。

予想はしていたが首元を掴むのはやめて欲しい。

 

「何が?」

 

襟を掴まれて、壁にぶつけられれば怒りぐらいは湧いてくる。

ポンコツにだって感情があるんだって事を姉は無視しすぎなのだ。

 

「分かってるでしょ!あんたがあんなことしなくたって勝てたわよッ!」

 

「勝てた?どうみても姉さんのサーヴァントより奴の宝具の発動の方が早かったじゃないか。誰かが奴を足止めしなかったら、僕らは負けていたよ」

 

結局僕が放ったガンドは獅子王の動きを封じることに成功した。

奴が怯んでいる間に、姉の2騎のサーヴァントが宝具で仕留めた。

完璧には程遠いが、勝ちは勝ちだ。

 

まあ、2騎の宝具の余波で右腕が折れて、右半身がすごい火傷を負ってるんだけど。

主戦力である姉さえ無事ならば勝利条件は満たすのだ。ならこれは誤差だ。

めっちゃ痛いけど。

 

「負けていた?マシュの宝具があれば獅子王の宝具を防ぐことはできたでしょ⁉︎」

 

「いいや。彼女の宝具を持ってしてもロンゴミニアドは防ぎきれなかった。姉さんのサーヴァントを負傷させたらそれこそこっちの勝機はゼロだ。」

 

ドクターがあそこまで慌てるぐらいの魔力規模だ。デミサーヴァントの宝具で防ぎきれるわけ無い。

 

「僕の行動はあの時可能な最善策だった筈だ。事実、僕らはこうして特異点の修正に成功した」

 

サーヴァントを一騎も失なわず、聖杯も回収した。

これ以上は望むべくもないだろう。

 

「そのざまで最善策ですって?全く笑えないわ」

 

しつこいな。

 

「何が言いたいんだよ」

 

姉さんはめんどくさそうな顔をする僕を睨むと、襟を掴んで僕の顔を引き寄せ、凄んだ声を出した。

 

「役割を考えろっていってんのよ。あんたはマシュのマスターでしょ?だったら敵に突っ込む事じゃなくてマシュのサポートがあんたのやるべき事でしょうがッ!」

 

「あ?」

 

言うに事欠いて僕がマスターだって?

召喚に失敗して、使い物にならなくて、ただのお情けで契約してもらっただけの僕を彼女のマスターだって?

 

「悪かったね。英霊にサポートしてもらわないとマスターもまともに務まらないポンコツ魔術師で」

 

いくら僕がポンコツでも、これくらいの嫌味ぐらい許されるだろう。

僕の嫌味を聞いた姉さんはなにかを言い返したそうだったが口を開く前に言ってやる。

 

 

「だけど、僕が動かなきゃ獅子王に宝具を撃たれていたことも、宝具を食らったら勝機が遠のいたであろう事も確実だった。役割を考えろっていってたよね?できてないのは姉さんの方じゃないのか?」

 

僕の言葉を聞いて姉さんの目の端が釣り上がる。

 

「何ですって?」

 

「僕らは最後のマスターなんだよ。人類史最後の。その役割を全く分かっていない」

 

「分かってるからこそ無駄なリスクを踏むなっていってるんじゃないの!」

 

「いいや。ああなったらリスクを踏んでも宝具を止めなきゃ僕らは負けていたかもしれない。」

 

「だから何よ!死んだら元も子もないでしょ⁉︎」

 

「一度負けたら全てが終わる。特異点の修正は全てが初めからラストチャンスだ。僕らが一度でも敗北したらその時点で人類が終わるんだよ。勝たなきゃ意味がないんだよッ!」

 

僕の襟を掴む姉さんの手を振り払い、言ってやった。

姉さんを睨みつけたその時、保管室の扉が開いた。

 

「はいはい、二人ともそこまで!帰ってきたらまずバイタルチェックって言ったよね⁉︎」

 

保管室に入ってきたのはドクターだった。

怒りを叩きつけようとした瞬間に止められて、僕はどうにも消化不良になる。

 

ドクターめ、ドアの前でタイミングを測ってたな。

 

「帰還後にコフィンで目覚めたら真っ先に医務室にきてって言ったじゃないか」

 

ドクターが呆れ顔で僕らを見る。

と思ったら僕を見て目を丸くした。

ん?

 

「達海くん!ひどい怪我じゃないかッ!報告と全然違うよ!」

 

あれ?少し怪我したってちゃんと言ったけど…

 

「いや怪我をしたって言ったじゃないですか」

 

「そういう怪我は大怪我って言うんだ!もうなんだって君はそうやっていつも....」

 

ドクターが額を手で押さえながらため息をこぼす。

いつも下手打ってばっかりで申し訳ない。

 

「達海くんは僕と一緒に治療室に来てくれ。立花ちゃんは医務室のスタッフにバイタルチェックをしてもらって」

 

僕の手首を掴んで引っ張るドクター。

いや、別に逃げたりしないんですが....

 

部屋を出る際にふと振り返って見たのは姉さんの悲しそうな顔だった。

 




たかがガンド、されどガンド
人と向き合うのに必要なのは感情ですが、素直になれない理由もまた感情というジレンマ。面倒ですよね。
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