たった一人のマスターへ   作:蟹のふんどし

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某油田イベやっていない方は意味不明だと思うので攻略後の閲覧をお勧めします。


再召喚

 

 

 

 

 

 

 

「やった…?」

 

アルトリアの放った宝具によっておこった砂煙が私の視界を塞ぐ。

土が焼けた匂いが辺りに充満している。

 

令呪3画を用いた現状最大出力の攻撃。

砂煙が晴れていくにつれ、彼女の宝具がいかに強力だったかを再認識させられる。

 

「谷だ.....」

 

彼女の正面は地が裂けて、浅い谷ができていた。

加減をしている場合じゃないと思って出力全開でやってもらったが、流石にやり過ぎただろうか?

よく結界が持ったものだ。

流石はエミヤだ。

宝具まで抜かりのない仕事である。

 

砂煙が晴れて、先が見えてきた。

私がその視界で真っ先に捉えたのは、エミヤの背中だった。

彼はなぜか空中で足を漕いでいる。

 

何をしているんだろう?

魔術?

やはりさっきの一撃が結界に綻びを生んだのだろうか?

 

その思考は彼の先に人影があることによって霧散した。

 

「エミヤ⁉︎」

 

彼は首を絞められていた。

あれは空中でもがいてただけだ。

 

「アルトリア!」

 

彼の姿を見て、私はとっさに叫んだ。

 

「分かっている!」

 

私の叫びを聞いて、まだ宝具の余韻を残した聖剣を携えて彼女は飛び出した。

その瞬間、彼女の体が横にぶれた。

 

「な⁉︎」

 

彼女の足に絡みついていたのは、あの魔神柱が生やしていた足だった。

 

「まだ生きてたの⁉︎」

 

その足は彼女の足を掴んだまま大きく振りかぶると、地面に叩きつけた。

 

「ぐはっ⁉︎」

 

「アルトリア⁉︎」

 

そのままの勢いで彼女を何度も地に叩きつける。

 

「このっ!」

 

彼女が足に絡んだ魔神柱の蔓を切ろうとするが、蔓から新たな蔓が伸びてきて右腕を固定した。

 

「イカもどき風情が!」

 

そして再び地に叩きつけた。

 

「がはっ⁉︎」

 

まずい。

彼女にはもうほとんど魔力が残っていない。

あのままじゃ嬲り殺しにされる。

でも私の礼装は再使用までの冷却時間がいる。

 

どうする⁉︎

何か手は⁉︎

 

「お止しなさいな」

 

私が焦っていると人影の方から声がした。

その声に反応して、魔神柱の足はアルトリアを叩きつけるのをやめた。

 

エミヤの首を握っていた謎の人物は、彼を足元に叩きつけると、右足で思いっきり踏んだ。

 

「がっ⁉︎」

 

耐えきれず彼の肺から空気が漏れた。

 

彼を地へと叩きつけた衝撃で風が吹き荒れる。

その風圧によってエミヤの周りの砂煙が晴れ、彼を叩きつけた人物の姿が私の目に入った。

 

「う?」

 

変な言葉が出た。

ふざけているわけではない。

 

その人物の姿があまりに突飛だったからだ。

 

───痴女だ

 

姿を捉えて、まず出てきた感想がそれだった。

再三に渡って言うがふざけているわけではない。

 

法衣、なのだろうか?

振袖のように袖丈がとても長く、褄下は地に引きずるほどに長い。

艶やかで、美しい長髪であるのに尼さんが被る帽子のようなものをかぶっている。

そしてその全てが金色の綿のごとく上品に織られたもので、これだけを見ればさぞや高貴な身の上なのかと思うかもしれない。

しかし問題はこれからだ。

 

肩から脇下までの袖付けが存在しておらず、首から腰までの露出が異様に激しい。

さらには首から胸元を通りへそ下あたりまでがスリットになっており、正面がもろに露出されている。

まるで局部以外は隠す必要がないと言っているかの如くだ。

僧侶や尼のように禁欲を代表する法衣を身に着けておきながら、それを態々色っぽく見えるように着ていることが彼女の艶やかさを余計に強調しているように思える。

 

なんだ、あの変態は。

 

私はあらたな悟りの境地のようなものを見せられて固まった。

 

「まったく。現界直後にこれとは、なんて熱烈な歓待なのでしょう」

 

そんな私の存在を無視して、変態はエミヤの胸を執拗に踵で踏んでいた。

 

「素晴らしいですわね?」

 

「どけっ‼」

 

エミヤは胸に乗った足を払おうと右手を伸ばしたが、彼を踏んでいるのとは反対の足で蹴られた。

そのまま体重を強くかけられて、彼はうめいた。

 

「く!?」

 

「それは無理な相談というものでございます」

 

変態は左足を地に下ろすと、右足で彼のみぞおちをぐりぐりと押し続ける。

 

()()()()()()()()()()()()からね。私怨は些か雅にかけますが、こう意趣返しができるというのは非常に気持ちが良いものです」

 

謎の変態はエミヤを踏みつけながら、頬を赤く染めていた。

シルクのように白く瑞々しい指を頬に添え、息を荒くしている。

 

エミヤが窮地だというのに体が動かない。

脳が本能的に、あの変態に接触を取るのを恐れていた。

 

「ねえ。そう思いませんこと?」

 

変態はエミヤを踏みつけながら彼に問うた。

 

「なんの、話だ?」

 

苦しげな表情をしながら彼は言った。

 

「あら?あなた……。随分とつまらない目をしていますわね」

 

彼女は高揚した表情から一転、水をかけられたかのように静まった。

 

「ああ。()()()()()()()()()ということですか」

 

大きくため息をついた。

 

「“私のような毒蛾に出会わずとも地獄に落ちる”。ほら、私の言った通りでしょう?」

 

そして頬に添えていた手をすっと伸ばすと手刀のようにたてて、エミヤの顔に向けた。

 

「“悪であれば何人も許せないその心”。結局のところ“鉄の心”など人が持つべきではないのですよ。……なんて平凡。なんて代わり映えのしない末路。興覚めです」

 

周りの空気が一瞬で冷えたかのように寒さを感じた。

鳥肌が立つ。

彼女の纏う空気にまがまがしさがにじみ出る。

そして今更気づく。

異様なのは彼女の服装だけでないことを。

頭からはおぞましい黒い角が左右に2本生えている。その表面には無数の目が張っており、さながら魔神柱だ。

そして胸部から下腹部までも気味の悪い目が血管のように並んでいた。

 

どうみても人間ではない。

この姿、まさか先ほどの魔神柱が呼び出した英霊なのか…?

 

私は彼女が今からしようとしていることにとてつもない不安に襲われ、たまらず叫んだ。

 

「ま、待って!」

 

私の叫び声が響き、エミヤを踏んでいた彼女はゆっくりとこちらを向いた。

そして私を見るとにっこりと微笑んだ。

 

「あらあら。お久しぶりです。お元気でしたか?」

 

久しぶり?

 

「私、地獄の窯の底、いえ、()()()()()()より舞い戻ってまいりました」

 

恍惚とした表情で彼女はそう言った。

 

電子の海?

彼女は一体何を言っている?

 

「あ、あなたは、誰?」

 

震える手を抑えながら私は声を絞り出す。

 

「まあ!あれだけ熱烈に交わったのにも関わらず私のことをお忘れで?なんてひどい。私、昂ってしまいます」

 

彼女は手を口元にかざし、上品に笑う。

 

「ま、まじわる?」

 

言ってることと、やってること、そして立ち姿。

全てがちぐはぐで混乱する。

 

「なにを言ってるの?」

 

私はひどく焦燥しながらも口を動かす。

 

「あなたは何?」

 

私の問いに彼女は首を傾げた。

 

「はて?記憶の書き換えと言うわけでもなさそうですが、とぼけているというわけでもなさそうですわね」

 

彼女がつぶやいたあと、大地が大きく揺れた。

 

≪────、────≫

 

またあの声だ。

心をかき乱す、異様な声。

 

その声に目の前の彼女が振り返った。

魔神柱はアルトリアの身動きを封じたまま、鳴いていた。

 

≪────、────≫

 

「あら?あなた、随分と可愛らしい姿に変わったのですね」

 

彼女は魔神柱の方へ視線を向け、何やら語りかけ始めた。

 

≪────≫

 

「まあ、どうもご丁寧に。私は…」

 

≪────、────≫

 

「そうですか。それは助かります」

 

≪────、────、────≫

 

「へえ。あの人間の…」

 

会話してる?

魔神柱の鳴き声と彼女の言葉の間はまるで会話の応酬のようであった。

 

なにがなんだかよく分からない。

ただあの魔神柱との意思疎通ができる可能性がある以上、先ほどの召喚で呼び出したのが彼女なのだろう。

 

召喚を阻止できなかった。

あの魔神柱までもピンピンしてる。

非常にまずい。

 

それにあの女、奥の魔神柱と同じような気配がする。

あの女に関わることを無意識に避けようとするのは、あの姿のせいと言うだけではない。

体がさっきからいうことを聞かないのだ。

 

≪────、────≫

 

「はあ。なんでしょうか?」

 

≪────、────≫

 

こちらの魔力はほぼゼロ。

礼装はまだしばらく使えない。

二人のサーヴァントは相手に拘束されている。

どう転んでもこちらの不利は変わらない。

どう切り抜ければ…

 

───マスター、聞こえるか?

 

エミヤ⁉

頭に彼の声が直接聞こえてくる。

何かの魔術か?

 

驚いて彼の方に視線を向けようとしたが彼に止められる。

 

───そのまま動くな。私が話しかけていると悟られるな。

 

その言葉に反射的に体を止める。

 

───そうだ。それでいい。

 

これ何?なんでエミヤの声が響いてくるの?

 

───初歩的な伝達の魔術だ。だが今はそんなことどうでもいい。

 

彼の声はとても焦っているように感じられる。

 

───時間がないから要点だけを言うぞ。

 

う、うん。

 

───君はマシュを連れてここから今すぐに撤退しろ。

 

え?

あ、マシュは⁉

 

───無事だ。だが意識を失っている。

 

私は急いで先ほど召喚陣があった方を見た。

そこには彼女がうつむけで倒れていた。

 

「マ…」

 

───落ち着け!彼女は無事だ。おそらくだが先ほどの召喚で魔力を取られたのだろう。魔力の消耗で一時的に気絶しているだけだ。大きな怪我もしていない。

 

彼女の上体は呼吸で上下に動いていた。

それを確認して私は安堵の息を漏らす。

良かった。

 

───安心してはいられないぞ。マスター。

 

彼の言葉を聞いて力を抜きかけた気を引き締める。

 

そうだった。

彼女の意識がないということは今動けるのは私だけということだ。

エミヤ、アルトリアは敵に拘束され、マシュは意識がない。

そして動ける私は魔術が使えないし、彼らに回す魔力もない。

 

───あの女は危険だ。

 

私は彼の言い方に違和感を覚えた。

 

あの人を知ってるの?

 

───いいや。だが胸騒ぎとでも言うか。あいつはとても危険な存在であると、私の霊基がそう言っている。

 

明確な論拠もなく話を進めるなんて。

至って冷静でリアリストな彼には珍しい。

状況は想像以上に追い込まれているのかもしれない。

 

───とにかく逃げろ。マシュを連れて管制室まで撤退しろ。あの女はヤバい。おそらく今までで一番狂っている。

 

彼の言い方には一刻の猶予も感じられなかった。

 

───目くらましに結界を崩す。その隙をついて君たちは離脱しろ。私とセイバーで時間を稼ぐ。

 

え⁉二人はどうするの⁉

 

───君たちが撤退したらすぐに追う。

 

嘘だ。

私は彼が過去何度も私に言っていたことを思いだす。

 

“君はサーヴァントを人として扱いすぎている。私たちは使い魔なのだ。いざとなったら使い捨てにする、それぐらいの腹積もりは持ちたまえ”

 

彼は自分たちを囮にして、私たちを逃がすつもりなのだ。

駄目だよ!そんなの!

 

───いくぞ!5数えたら彼女のもとへ走れ!

 

彼は一方的にそんな事を言った。

 

止めなければ。

そう思って制止しようとしたが、彼の行動を止めたのは私の言葉ではなく魔神柱と意思伝達のようなことをしていた彼女だった。

 

「まあ、なんてこと。図らずもとても都合の良い事態になったのですね」

 

そんな声を上げた彼女に私たちの視線が集中する。

 

「“星の数ほどの英霊に殺される”」

 

彼女は魔神柱から目を離し、こちらへと向き直った。

 

「ようやく欲を満たすことができそうです」

 

目が合った瞬間に冷や汗がどっと流れる。

なぜ彼女を見るだけでここまでおぞましく感じるのか。

分からない。

 

「そうでした。ごめんなさいね。()()()私をご存知ないということでした」

 

彼女はそう言って軽くお辞儀をした。

 

「改めて自己紹介を。私の名は殺生院キアラと申します」

 

「殺生院…キアラ…?」

 

「はい。そうでございます」

 

殺生院。

尼さん?

 

私はその名を反芻するが出てくる事柄はなかった。

元々、そこまで歴史に詳しくない私が考えてもしょうがない。

彼女は三蔵ちゃんのように高名な僧侶なのだろうか?

 

私は恐る恐るその疑問を口に出した。

 

「貴方は、魔神柱に召喚されたサーヴァント、なの?」

 

「サーヴァント?私が?」

 

私の疑問を聞いた彼女は目を丸くした。

そしてすぐに笑いだした。

 

「あははは!」

 

彼女は上品にだが豪胆に笑みを浮かべる。

 

「あのような蟻と人間(わたくし)を見違えるとは。なるほど確かに貴方はああ成長するのでしょうね」

 

その笑みが宿す瞳は、まごうことなく人を見下す目だった。

 

「私は魔性菩薩。大悟も解脱も随喜自在。アギトのごとき天井楽土。そして…」

 

彼女は両手を軽く上げ、袖丈を軽く浮かした。

 

「ビーストⅢ/ラプチャーでございます」

 

ビースト?それって…

 

「人類悪⁉」

 

「馬鹿な⁉ビーストだと⁉」

 

私と共にエミヤもまた荒げた声を上げた。

当たり前だ。

ビーストなんて。

 

驚愕した足元のエミヤに視線を向けた。

 

「何を驚いておいでで?」

 

「このカルデアにビーストなどっ!ありえん‼」

 

彼は絞り出すような声で言った。

 

「守護者のわりに随分とのんきなことを言うのですね。貴方と同じ()()()は、もう少し用心深かったですが。そも、この子も私と同類じゃございませんか」

 

彼女は後ろの魔神柱に目をやった。

 

「魔神柱はビーストの使い魔にすぎん!人類悪そのものがカルデアに顕現するなど!どうなっている⁉貴様は一体…⁉」

 

「この子が魔神柱?…ふふっ」

 

エミヤの言葉を聞いて彼女はまた笑う。

 

「まさか、気づいていらっしゃらないなんて!」

 

気づく?

私たちの反応を見て、彼女はまた笑った。

 

「いいですわ‼あなた達の無知!私にとって最高の快楽となりそうです!」

 

彼女は私たちの疑問に答えることはなく、ただそう言った。

その彼女の足元から無数の手が生えてきた。

 

それを見た瞬間に体ががたがたと震えだした。

な、なに?

 

急に胸の内からあふれ出す恐怖に戸惑う。

 

「それでは始めさせていただきましょう」

 

彼女はこちらに歩みを進める。

逃げなくては。

そう思うのだが。

 

力を入れようとするが、足が震える。

 

「貴方はマスターなんですよね?」

 

彼女は動けない私の目の前に来ると問いかけてきた。

答えようとするが口が動かない。

 

歯がガチガチと音を立てる。

どうにか震える顎と下を動かし、声を出す。

 

「そ、そう、で、す…」

 

「貴方を痛めつければ、星の数ほどの英霊が私を責めてくれるのですか?」

 

彼女は動物園の獣たちを観察するように私の目をのぞき込む。

その感情を感じさせない目が私の恐怖を増幅する。

震えが止まらない。

 

「あら?貴方…魔力が全くありませんね」

 

震える私をよそに、彼女は私の魔力回路の少なさを指摘した。

 

「なぜ?英霊を数多従えているのではなくて?」

 

私は無意識のうち彼女の背後の炉を見る。

彼女は目ざとく私の視線に気づき、そしてああと頷いた。

 

「なるほど。ここもSE.RA.PHと同じですか。確かに召喚システムの構築がすんでいるのなら魔力生成を外部に委託しても問題ありませんね」

 

この人は一体何がしたいの?

顎に手を当て、何かを考え込む彼女を前にそう思う。

だが口に出そうとしても体が動かない。

神経がすべて切れてしまったかのようだ。

 

「しかし、あの子が私をここに連れてきた以上、糧を奪うのはよろしくありません。さりとてそれでは貴方を使えません」

 

彼女はただ自分と会話しているかのようにつぶやく。

 

「貴方のような虫が這っているということは、SE.RA.PHのように何匹も使い潰せるマスターはここにはいないのでしょう?」

 

虫…私のこと…?

 

「ああ!別に貴方を使う必要なんて微塵もないではありませんか!」

 

顔を輝かせると私の右手に目を向けた。

 

「契約の証はその令呪。それをいただくとしましょうか」

 

彼女は私に手を差し出してきた。

その手は明らかに友好的なものではない。

 

「さあ、それを私に渡してください」

 

私と話していない。

彼女は話すのではなく、ペットに躾をする主のように命令口調でそう言った。

 

私は冷や汗を流し、震えるだけで動くことができなかった。

自身の言葉に反応しない私を見て、彼女は満面の笑みを浮かべる。

 

「許していただけます?あの場と違ってここは情報化されていないので、五感の感覚が違うのですよ。少々慣れるまで時間がかかりそうでして。」

 

許す?慣れる?

この恐怖は彼女の魔術…?

 

「だから貴方が自分で渡してくださいませんか?」

 

私がこれを渡す…?

頭がぼんやりしてくる。

 

「私が右腕をそのままちぎってもよろしいのですが、それはそれで後の楽しみが減ってしまうので」

 

彼女の笑みが恐ろしい。

あれは、なに?

 

「可哀想に。こんなに震えてしまって」

 

こわい。こわい。

 

「ほら、それを手放すだけで恐れはなくなります」

 

声が聞こえる。

お母さんみたいなこえ。

やさしくて、あまくて。

ほっとするような。

 

「さあ。こわかったでしょう?いたかったでしょう?私にすべてを委ねて…」

 

ああ、なんか、ここちいい。

もう、いいかな。

 

「マスター!」

 

声が聞こえる。

だれだったっけ?

まあいいや。

おかあさん。わたしつかれたからだっこして。

 

「そう。そうですよ。そうやって思考停止して全てを私に渡しなさい」

 

 

 

 

「『吼え立てよ、我が憤怒(ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン)』!!!!!!」

 

きゅうにめのまえがあかるくなった。

あかるい。

きれい。

 

だれかきた。

だれだっけ。

 

ひかりがとんでいった。

ながれぼしみたい。

 

「地獄に落ちろ。クソ女」

 

くろいひと。

 

「あんた、生きてるわよね?」

 

なにか言ってる。

 

「あんたに言ってんのよ!」

 

めのまえがあかるくなる。

あかるい。

あかるくて、ごうごうしてて、あつい。

あつい。あつっ。

熱い。

 

「熱っ⁉」

 

熱⁉

え⁉礼装燃えてる⁉

ちょ⁉え⁉なんで⁉

 

驚いた私の目の前を、旗のようなものが横切る。

 

ゴウッ!

 

大きな風が巻き起こり、耐え切れず目をつむる。

 

「なに⁉さっきからなに⁉」

 

腕に感じていた熱さが消える。

風が止み、目を開ける。

腕に目を向けると礼装の火が消えていた。

 

「え?」

 

「目が覚めましたか?お馬鹿さん」

 

前から聞き覚えのある声がした。

誰?

 

視線を上げる。

そこには黒い鎧と黒い槍を持った女性が立っていた。

 

よく見ると槍には帆のような布が巻き付けてある。

槍じゃなくて旗?

 

彼女は左手で旗をふるう。

ボッと音がして旗が広がる。

この旗は……救世の旗…

 

 

「ジャンヌ⁉」

 

なんで⁉

 

「私は聖女じゃないわよ」

 

私の声に黒い鎧を着た彼女はこちらを見た。

 

「竜の魔女って言えばわかるかしら」

 

「え?」

 

「アホ面ね。バッカみたい」

 

竜の魔女って。

フランスの特異点の、あの?

彼女が、いったいなんで?

 

状況が呑み込めず、混乱する。

 

「地獄に落ちろって。あの人、尼さんっぽくなかった?」

 

後ろで声がした。

 

「知らないわよ、そんなの」

 

「だとしたらすごい皮肉っぽいよ、さっきの」

 

後ろから人が歩いてくる音がする。

 

「褒めても何も出ないわよ」

 

「それにいきなり宝具撃つのもいいけど、魔力を回すこっちの身ももう少し考えてみません?」

 

「あら、甘ったれたこと言うのね?マスターちゃん?」

 

「戦略的な問題です」

 

この声は…。

 

「達海⁉」

 

私の目の前には、連絡がつかなかった弟がいた。

 

「遅れてごめん。姉さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想を下さった方、ありがとうございます。
詳しく返信するとネタバレになりそうなので、いい感じに区切りがついたところで返信しようと思います。



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