たった一人のマスターへ   作:蟹のふんどし

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素晴らしい感想を書いてくれた方、ありがとうございました。
登場する人物の視点に立って書かれていてとても嬉しかったです。


会合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉……さん……?」

 

ジャンヌの後方から砂煙を切りながら歩いてきたのは、紛れもなく僕の姉であった。

 

 

ただ、先ほどまでと纏う雰囲気が違う。

カルデア制服にどことなく似た黒い礼装を身にまとい、長くなっている赤茶色の髪を無造作に後ろ一本にまとめていた。

 

目の下には遠めから見てもわかるぐらいくっきりと隈が現れていて、何かを呪っているかのように鋭い目つきをしている。

 

 

姉さんは呆然と呟く僕を少しだけ見ると視線を僕の前にいるダ・ヴィンチさんとホームズさんに合わせた。

 

「二人がいるってことはみんなも来てるんでしょ?」

 

姉さんの声は年季が感じられるような重い声だったが、少なくない疲労を感じる声でもあった。

姉さんの問いにダ・ヴィンチが答えた。

 

「そうだよ。みんないる」

 

姉さんと違って、ダ・ヴィンチさんは心配そうに姉さんを見ていた。

 

「私たちはもちろんゴルドルフ君、ムニエル、カワタ、オクタヴィア、トマリン、チン、カヤン、エルロン、マーカス…」

 

彼女は右手を握り、自らの胸にあてた。

 

「みんな心配している。帰ろう、立花ちゃん」

 

そう声を絞り出す彼女はとても悲しそうだった。

 

そんな彼女の悲痛な叫びに姉さんはただ眉をピクリと動かした。

 

「……帰る?」

 

姉さんはそうつぶやくと、噴き出した。

そして暗い笑顔を作りながら、くつくつと笑い始めた。

 

「ふふ………帰る、なんておかしなこと言うね?」

 

そして姉さんは地面を指さした。

 

「ここが私の帰る場所だよ?」

 

そう言って地下室に暗い笑い声をこだまさせた。

 

その態度にダ・ヴィンチさんは一瞬だけ何かを言おうとした。

 

「っ…………」

 

彼女は振り返り、僕と手元にいるマシュをみる。

そして唇を噛む。

その表情は懺悔人のようで、目元には悔いとも、怒りとも、悲しみともとれる感情が寄っていた。

 

なんで、なんなんですか、その目は。

 

 

彼女は何かを喉の奥にしまいこもうとして目を閉じる。

眉間にしわを寄せ、呟く。

 

「君はっ……」

 

彼女は最後まで迷うかのように唇を震わせていたが、最後には口を開いた。

 

「君は何でこんなことをしたんだよっ⁉」

 

ダ・ヴィンチさんの叫びに隣のホームズは少し驚いたような顔をした。

 

「眠っていたマシュを無理矢理起こして、大令呪の欠片を集めて…挙句の果てに南極にこんな世界まで作って‼」

 

ダ・ヴィンチさんは姉さんを責めているのに、言い方が懺悔みたいだった。

 

「私たちの旅が一体何を犠牲にしてきたのかを忘れたのかい⁉」

 

彼女の叫びに姉さんの目つきが険しくなる。

 

「私たちがどれだけ理不尽に何の罪もない世界を踏みつぶしてきたのかわかっているだろうっ‼」

 

ダ・ヴィンチさんは激昂していた。

それは多分、信頼の証だったはずだ。

 

でも姉さんはその信頼を受け取らなかった。

 

「信頼していた人が犠牲になったら、私の弟はあんな最期を迎えてもいいんですか?」

 

「っ⁉」

 

その言葉にダ・ヴィンチさんは目を見開いた。

姉さんもまた、なぜだか怒りに震えていた。

 

「あるはずのない過去の異常をなかったことにしたら、私の後輩はあんな体になってもいいんですか?」

 

姉さんの目には涙が浮かんでいた。

 

「存在しないはずの世界を消し去ったら、かけがえのない人たちをぼろぼろにしてもいいんですかっ!!!!!!」

 

姉さんもまた怒ったまま、泣いていた。

 

「そうやって私の大切なものを全部捨てて、残ったのはあんな世界で……」

 

「私だって救われた世界の一部でしょうっ⁉」

 

「なのになんでこんなにはじき出されるのよっ!!!!!!」

 

彼女はそう吐き捨てると目元の涙を腕で拭った。

 

「だから私はっ!!!!!!」

 

『マイ・ロード』

 

直接頭に響くような声がした。

姉さんがハッとして口を止めた。

 

姉さんの隣にいるジャンヌは苦い表情を作った。

 

「君にはまだやるべきことが残っているだろう?」

 

声がする先を見る。

いつの間にか、姉さんの後ろに白いローブと大きな杖を持った男が立っていた。

 

この声、どこかで聞き覚えが…

 

「やはりか」

 

男を見て、ホームズさんはそうつぶやいた。

隣のダ・ヴィンチさんは親の仇を見るような目であの男を見ていた。

 

「出た。胡散臭男」

 

ジャンヌは嫌悪感を全く隠さずに言う。

その言葉に一切表情を崩さなかった男は姉さんの肩に手を置いて、優しく微笑んだ。

 

「ほら」

 

姉さんは肩に置かれた手をキッとにらむと右手で払いのけた。

 

「マーリン……いったいどういうつもりなの?」

 

男は姉さんの睨みをものともせず胡散臭い笑顔を浮かべ続ける。

 

「どういうつもりって?何がだい?」

 

その言葉に姉さんは目を吊り上げる。

 

「とぼけるのはやめなさい」

 

暗い目つきにこれ以上ないほどの険をもたせる。

 

「何で私の記憶に幻術をかけたのよ?それも態々わたしを昔の姿にしてまで下らない茶番をやらせて」

 

幻術?茶番?

 

「皮肉?それとも私を馬鹿にしているの?」

 

姉のあんな顔を見るのは初めてだった。

悲壮感と憤怒にまみれた顔だ。

 

白いローブの男はそんな表情を前にしても先ほどの微笑みを崩さなかった。

 

「そんなつもりは無い。私は君に休んでほしかった」

 

「休む?」

 

「あれから今まで、君はずっと一人で頑張ってきたんだ。それが泡沫の夢であったとしてもこの世界でまどろむくらいは許されるだろう」

 

姉さんは少しだけその目を見開いた。

面食らったかのようにも見えたがすぐに険を含んだ眼付に戻した。

 

「余計なお世話よ」

 

「そうかい?」

 

「ええ。私とあなたは利害が一致しただけの協力関係。私の面倒を頼んだ覚えはない」

 

「でもいい夢は見れたろう?」

 

そんな言葉に姉さんは泣きそうな顔をして一瞬だけ言葉を止めた。

だがすぐに口を開いた。

 

「……最悪な夢だった。自分を殴り飛ばせないことが不憫でしょうがなかった」

 

「それはすまなかったね」

 

「それに…」

 

姉さんはこちらを見た。

 

「いざというときの保険まで使ったのに、この状況よ」

 

保険?

 

「一歩間違えればすべてが終わっていたわ。次こんな真似をしたら貴方をこれで“無”に幽閉するわよ」

 

そう言って()()()甲を男に向けた。

姉の手はともに皮の手袋をしていてよく見えなかった。

 

それを見て男はおどけたように笑った。

 

「怖い怖い。次があったら気を付けるよ」

 

男のいいように姉さんはいい目を向けなかったが、舌打ちだけにとどめた。

 

「それで?どうするんです?」

 

言い合いをしていた彼らにジャンヌが言った。

 

「処分できたビーストはたったの1体、これ以上は増やせそうにありませんし面倒な奴らも来てしまいましたが」

 

その言葉でマーリンと呼ばれた白ローブと姉さんの二人は彼女に目を向けた。

ジャンヌはやる気なさげに肩をすくめる。

 

「まあ?仕事が未完遂の私にこんなことを言われるのも癪でしょうけどね」

 

そんな言葉に男はこう返す。

 

「いいや。とても助かったよ」

 

男はまた胡散臭い笑みを浮かべた。

 

「本来僕ら2人だけで進める必要があった計画だからね。君がいてくれて大分楽になった」

 

「……ありがとう。ジャンヌ。達海を守ってくれて」

 

二人は旧知の間柄であるかのように彼女に接していた。

そんな二人の言葉を聞いて彼女は苦々しい表情を作った。

 

「あんたらのためじゃないわよ。私は私の借りを返すためだけにここにいる」

 

その言葉に姉は静かにうなずいた。

 

「うん。わかってる」

 

彼女たちの会話を見ながらホームズさんは何かを考え、ぶつぶつとつぶやいていた。

 

「保険…ビーストの処分…増やす……………そうか!そういうことか!」

 

 

 

僕の両手の中で微かに振るえる2本の指。

耳を澄まさなければ聞こえないほどの微かな吐息とそれに混じる嗚咽。

周囲の会話は聞こえるし、理解できる。

なのにノイズみたいにうるさく感じる。

 

なんで?

そんな感情を幾度となくこの旅で持ってきた。

 

存在しないはずの悪、必要のない過去、無慈悲な征伐、世界は理不尽にあふれていて、そのたびに「なんで」と意味のない問いかけが胸中を渦巻いていた。

 

そして今はこれだ。

僕のそばで、僕を支えてくれた娘の未来はひび割れた炭への末路。

痛みに耐えながら、涙を流し、嗚咽を吐く。

 

そこまでしても我関せず、周りは勝手に話を進めていく。

 

誰もが彼女を痛ましい目で見るだけだ。

多分僕もその側に立っている。

 

なんだろうな。

遣る瀬無さって言えばいいんだろうか。

 

違うな。

これは多分“怒り”だ。

 

「……もういい加減にしてくれ」

 

知らないうちに言葉が出ていた。

 

「訳が分かんないよ」

 

言葉が震える。

彼女を前にして感情のままに吼えるなんてどうしようもない真似はしたくない。

でもこんな彼女を前にして怒らないことの方がどうしようもない人間のような気がした。

 

「どうしてマシュがこうなるんですか……説明してくださいよ。ダ・ヴィンチさん、ホームズさん」

 

僕の問いかけに二人の背中は反応しない。

 

「二人は未来から来たんでしょう?」

 

「……」

 

「……」

 

「何か言ってくれないと、分からないですよ……」

 

「……」

 

「黙ってないで!何とか言ってくださいよ!!!!!!」

 

「せ…ん……あい……」

 

僕の声に彼女は微かに声を出す。

無意識に彼女の手を握る両手に力が入る。

 

 

「……ほら、出番よ。お姉さん」

 

聞こえた声に顔を上げる。

声を出したジャンヌは姉に目を向けていた。

 

「あんたが言うべきでしょ」

 

そう言われる姉の目には微かに揺れていた。

 

「……」

 

「じゃあ、彼女に代わって私が……」

 

何かに迷っている姉さんを見て、口を開いた白いローブの男が何かを言おうとした。

ジャンヌはそんな男の首に旗の穂先を突き付けた。

 

「あんたは黙ってなさい」

 

男は笑って振り向く。

 

「なぜだい?」

 

ジャンヌはそんな男を睨む。

 

「いかれたあんたには分かんないだろうけど、こういうのはフェアじゃない。敬意がなければ大義もただの独裁よ」

 

「…」

 

「価値観の押し付けも結構ですが最後に決めるのは当人でしょう」

 

「…君は彼女の願いが壊れてもいいと?」

 

「私は借りを返すためにいる。そう言ったわ」

 

「…」

 

「いいから黙ってみてなさい」

 

白いローブの男は左手の杖を微かに上げた。

その動作にジャンヌも目つきを強める。

 

「マーリン」

 

だが姉さんの一言でその手は止まった。

 

「ジャンヌの言う通りよ。これは私がやるべきこと」

 

「…」

 

「だから貴方は何もしないで」

 

男はその言葉を聞くと杖を下げた。

杖の先が地に当たり、微かにカツンという音が聞こえた。

 

「仰せのままに。マイ・ロード」

 

姉さんは意を決したかのようにこちらを見た。

その目にはまだなにか迷いと恐怖が混在しているようだったが、それらを断ち切るように彼女はこちらに歩を進めた。

そしてジャンヌとマーリンと呼ばれた男の前に出ると止まった。

 

「達海」

 

「…姉さん」

 

「…」

 

「…」

 

「あなたがどこまで知っているか知らないけれど……」

 

「…」

 

「私はあなたが知る私より、少し先の未来の私なのよ」

 

…?

 

「姉さんは僕らと一緒に旅をしていたじゃないか」

 

「それは……」

 

姉は少し気まずそうに口をつぐんだ。

 

「故意じゃなかった。私もさっきまで気づかなかったのよ。でもごめんなさい」

 

そして謝った。

 

「あれはあなた達に対する最大の侮辱だった」

 

何を…言ってるんだ…?

会話が噛み合ってない。

 

「まさか姉さんも、今僕の目の前にいる姉さんも、もしかして未来から来たのか?」

 

そう言うことなのか?

だとしたらさっきまでいた姉さんはどこに…?

 

困惑していた僕の言葉に姉は大きく目を見開いた。

 

()()()()……()()……?」

 

そして僕の前のダ・ヴィンチさんとホームズさんを見た。

 

「……そう。そういうこと」

 

一瞬だけ迷いや恐怖とは違う感情が目に浮かんでいた。

しかしそうつぶやいてこちらに戻した視線の中に、それはなかった。

 

「2人を恨むのは筋違いね。すべては私が始めたことだから…」

 

そうして姉さんは両手の手袋を取った。

そして右手の甲をこちらに向けた。

そこには先ほど使って、うっすら見えるだけの令呪の跡。

 

「これはロールプレイの跡。昔の私が使った令呪」

 

そう言って右手を下げたあと、左手の甲をこちらに向けた。

 

「これが()()()()()()よ」

 

その左手の甲にはノイズが走ったかのように()()()()()()()()()()()()()()()()があった。

 

「達海。今からあなたにすべてを話すわ」

 

「私が経験してきたすべてを」

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァハァ」

 

廊下には荒い呼吸と複数人の足音が響く。

 

「クソッ。管制室までってこんなに長かったか⁉」

 

いつもは歩いててもすぐに着くのによ!

 

「口動かしたって距離は縮まりませんよ!動かすのは足です!足!」

 

後ろを追随するスタッフのトマリンに叫び返された。

 

「わーってるよ!」

 

 

階段を一段飛ばしで駆け上る。

流石に肺が悲鳴を上げてきた。

脇腹がいたくなり、口から洩れる息がひゅうひゅうと変な音を出し始めた。

 

歩きたい。

今すぐ膝に手をついて呼吸を整えたい。

 

心の中で芽生える気持ちを、走る足で蹴り飛ばす。

 

そんなくだらねえこと考える暇があったら走れ!

 

自分を叱責する。

 

今も立花たちが戦っている。

それをサポートするのが俺たちの仕事だ!

 

そんなムニエルの心の中の叫びに、後ろにいるスタッフたちも駆け足と荒い呼吸をもって賛同する。

 

 

「ハァハァハァ」

 

いつも見慣れた廊下を走る。

 

「ハァハァハァ」

 

いつも入っているトイレの入り口がそばを通り過ぎていくのを眺め、走る。

 

「ハァハァハァ」

 

アストルフォとデオンがよく通る廊下を走る。

あの二人がきゃっきゃっうふふしている虚像を見ながら走る。

 

「今!なんか!変な回想流れませんでしたか⁉」

 

後ろの一人がそんなことを言ってきた。

 

「ふざけたこと言ってないで走れ!あと変じゃねえ!」

 

「やっぱ流れたでしょ⁉」

 

走る。

足の痛覚が麻痺するぐらいに走る。

 

角を曲がり、合流通路にでる。

 

「見えた!」

 

俺たちの視線の先にひと際大きな扉が見える。

 

よし!

 

早く立花たちの状況を知らせなくては!

 

あと10歩。

5歩。

3歩。

1歩ッ!

 

扉が完全に開くのを待たず、体を無理矢理ねじ込んだ。

 

「炉心整備班!帰還しました!全員無事です!」

 

ムニエルはそう叫び、班全員が管制室に駆け込んだ。

 

「状況報告!いま立花たちが最下層で魔神柱と戦っています!通信がつながらないみたいで……………………って、え?」

 

駆け込むや否や、彼らの現状報告をしようとしたムニエルたちは動きを止めた。

あまりにも衝撃的な光景によって。

 

「あ!君たち!無事だったんだね!」

 

駆け込んできたムニエルたちを見て、管制室の端にいたドクター・ロマンが表情を明るくした。

 

「え?あ、はい。無事ですけど…え?」

 

彼のかけてくれた言葉も構わず班員全員が唖然としていた。

管制室の状況が理解できなかったからだ。

 

なんだ、この状況……?

 

 

管制室にいるカルデアメンバーは全員部屋の一端に固まっている。

 

そして彼らを守るようにして、天才かつ万能人のレオナルド・ダ・ヴィンチが前に立っていた。

彼女は管制室に入ってきた俺たちを見て、固い笑顔を浮かべた。

 

「君たちが無事でよかったよ」

 

彼女は視線だけをこちらに向け、向かい側の端に杖を構えている。

 

「さあ、早く私の背中に隠れてくれたまえ」

 

問題はダ・ヴィンチが杖を構える先だ。

カルデアのスタッフがいる壁とは反対側。そこにいたのは…

 

「俺?」

 

俺、だった。

いや、俺だけではない。

正確には太っちょのおっさんと、どこか見覚えのある奴らが管制室の反対側の端に固まっていた。

 

誰だ?こいつら?

 

小太りのおっさんは全員をかばうように前に出ている。

ぶるぶると震え顔が真っ青ではあるが。

 

「あ、ほら!俺じゃん!」

 

向こう側にいた俺とそっくりな男は俺を指さした。

 

「馬鹿者!勝手に私の脇から出るんじゃ…」

 

「な?俺たちの言った通りだろ⁉」

 

太っちょのおっさんが言うことには目もくれず、あっちにいる俺は必死な形相でダ・ヴィンチに言う。

ダ・ヴィンチは冷静にその言葉を肯定した。

 

「ああ。確かに彼らは無事帰ってきた。君たちの言うことにも今のところ矛盾はない」

 

「じゃあ、協力してくれ……」

 

だが彼女は鋭い目つきで彼らを見つめる。

 

「だがこの事実で改善した君たちへの信頼は1ナノメートルほどだ」

 

その冷たい言葉に太っちょのおっさんが怒ったように言った。

 

「ええい!技術顧問!一介の顧問の身でカルデアの所長たる私に対して何という態度を…」

 

その言葉にダ・ヴィンチの鋭い目つきが彼を射抜いた。

 

「誰が?カルデアの所長だって?」

 

彼女から凄い殺気が流れ出る。

 

「ひいいいい⁉」

 

その言葉に小太りのおっさんは身をすくませた。

弱っ!

 

いや、でも一行を背に隠したままってことは、胆力はあるのか?

 

「私はそういう冗談は嫌いでね。カルデアの前所長なら殉職したよ」

 

彼女の目つきにがたがた震えるおっさん。

 

「それと、私は君たちの技術顧問になった覚えもない」

 

「あ、今の所長代理は僕ね」

 

ダ・ヴィンチの後ろにいたドクターが今の空気に合わないぼけた声で言った。

ダ・ヴィンチが睨み、カルデアのみんなもジト目を彼に向ける。

 

ドクター…

 

これだからあんたは……

 

いつもの弛緩した雰囲気になっていた。

そんなとき予想外な方向からも声が飛んできた。

 

「相変わらずだな、ドクターは」

 

「まあ、あれこそがドクターだよな」

 

「そうね。ドクターと言えばあれよね」

 

それは太っちょのおっさんが後ろにかばっている一団から出た声だった。

 

「え、なんか僕、知らない人たちにまで残念な子扱いされてない⁉」

 

ん?なんだ?

あいつらはドクターの知り合いなのか?

 

「君たち⁉そんなこと言っている場合かね⁉」

 

なごむような空気になっていた後ろの一団に対して、焦ったようにおっさんが言った。

 

「大体話が違うではないか!経営顧問のやつめ!」

 

立派な髭をだらしなく垂らしながら青い顔でしゃべる。

 

「何が『ミスターの威厳があれば彼らも快く胸襟を開くでしょう』だ‼」

 

「落ち着けって、こんなことしてる場合じゃないだろ」

 

隣でなだめすかしているあちら側の俺の努力もむなしく一人で空回りしている。

 

「胸襟どころか死への扉が開いてしまいそうなんだが⁉」

 

そんなコントみたいなことをやっている彼らにさしものダ・ヴィンチも呆れ顔をし始めた。

 

「潜入者だとしたら随分と間抜けな……あっ」

 

ダ・ヴィンチが何か気づくとにやにやしだした。

 

「どれ……ちょっと試してみようか…」

 

ダ・ヴィンチは何やら呟きだすとポケットから何かを取り出した。

ん?

なんだ、あれ?

USB……?

 

「カルデアスタッフ諸君!ついでにそっちの不審団体御一行!これを見給え!」

 

彼女はそう言ってポケットから取り出した何かを右手につかみ、頭上に掲げた。

 

「ここにはカルデアのあるものが規約を違反し、集めたデータをコピーしたものがある!」

 

規約を違反……?

まさか立花たちの情報を盗み出した奴がいるのか⁉

 

敵⁉

 

そしたらあいつらはその仲間ってことか⁉

 

「今からこの中に入っている情報の一部を流す!」

 

ダ・ヴィンチはそう言って杖の中から接続端子を取り出すと、USBにつなげた。

 

あの杖、何でも入ってんな…

 

「もし君たちが、君たちの言う通りの一団だとするならば規約を違反した者が誰か分かるはずだ!」

 

読み込んでいるのか杖の上の結晶部分が回転しだした。

そしてその結晶のとがった先からモニターが映し出された。

 

あれは…動画か?

 

モニターに映っているのはスタートマークが画面中央に表示された画像。

あの右矢印を円で囲ったよく見かける奴だ。

 

ん?後ろの画像、なんか見覚えがあるような…

 

「君たちが我々の敵でないというのなら、その裏切り者をここで密告したまえ!」

 

ダ・ヴィンチが言い終えると動画が再生されだした。

 

いったいこれは何の動画だ…?

 

動画は何やら薄い煙が漂う部屋の中で始まった。

部屋の中には白いプラスティックの棒でできた棚があり、その中に藁でできた籠が何個も入っているのが見える。

 

ジャーっという水音のようなものが時折聞こえ、人の話し声のようなものもくぐもっているが聞こえる。

 

ここは……大浴場の脱衣所、だよな?

でもなんでこんな動画を?

 

サーヴァントの傷の位置でも知りたかったのか?

 

周りを見ると皆一様に首をかしげている。

 

「なんだ?この動画は?」

 

小太りのおっさんも頭にはてなを浮かべている。

 

不思議に思っていると動画からはっきりとした声が聞こえてきた。

 

『おっふろ~おっふろ~』

 

声とともに現れたのは桃色の髪をした天使……ではなく男。

 

『アストルフォ。走ってはいけないよ』

 

そしてもう一人は金色の髪をした天使……ではなく男…でもなく女でもない。

 

『デオンは気にしすぎだよ。大丈夫だって!』

 

そう。現れたのは現世に降臨した完全にして、耽美。美の女神よりも美を象徴するアイドル二人組。

アストルフォとシュヴァリエ・デオンだった。

 

 

ってだったじゃねえ!

 

この動画は俺の秘蔵コレクション『天使の遊戯3‐天使が生まれたままの姿になるとき‐』じゃねえか!

 

なんでダ・ヴィンチが持ってんだ!

 

みんなが動画に注目する中、俺は焦ってダ・ヴィンチに目を向ける。

ダ・ヴィンチの表情はまさに“てへぺろ!”という擬音が出てくるのに相応しいふざけた表情でこちらを見ていた。

 

あのじじいいい!

 

あ?

 

なんだあのフリップ?

 

俺が睨みつけているとどっから出したのかダ・ヴィンチは白いボードを取り出し何かを書き始めた。

そして書き終わるとそのフリップをこちらに見せた。

 

えーっと、『悪いとは思うけど、更衣室の盗撮って普通に犯罪だよね?公開処刑もやむなし』

 

ここにきて唯の正論ッ!

ぐうの音も出ねえ!

 

脂汗を流しつつ歯ぎしりをする。

 

まずい。

とにかく今はあのじじいを逆恨みしてる場合じゃない。

 

モニターに目を向けると彼女たち(?)はまだ棚の前で談笑していた。

まずいぞ…

 

額から顎にかけて汗がつうーっと流れる。

このままでは……

 

『背中の洗いっこしようよ!』

 

『それは構わないけれど、君の場合ほかの場所まで触ってきそうじゃないか』

 

『まっさか~』

 

『待て、なぜ目をそらすんだい』

 

二人は会話をしながら上着を脱いで、たたんでいる。

 

そう。

この動画はつまり彼女(?)たちが浴場に入るまで続く。

すなわちこのまま動画が続くと……

 

天使たちのキャストオフが始まってしまうのだ!

 

やばい。

それが流れた後に所持者がばれたら、俺が社会的に死んでしまうッ‼

 

そのとき、ふと俺の視界の端に一人の人間が映った。

そいつも俺と同じように動揺し、脂汗をだらだらと流していた。

そして、そいつも俺と同じように脂汗を流している俺を見つけていた。

 

お前はッ────

 

 

────もう一人の俺!

 

なぜか見覚えのある顔の連中ばかりの謎団体の中にいた、俺と同じ顔を持つ男。

普段なら彼らに対する不信感と違和感を持つような状況。

 

しかしそれ以上に迫る危機感を前に俺ともう一人の俺は心が通じ合った。

 

俺はあいつの目を見て頷く。

 

あいつもまた俺の目を見て無言で頷く。

 

俺たちが心の中で思ったことはただの一つ。

 

 

────天使たちの真の姿が開放されてしまう前に、動画を止める!

 

 

天使たちの姿は魔術の秘匿よりも秘匿されねばならない。

彼女ら(?)の御身には魔術ごときでは到達できない真なる神秘が隠されている。

 

既存の概念では価値など着けられないのだ。

だから何としても動画を止める。

決して自分の立場が危ないとかではない。

決してだ!

 

だが具体的にどうすればいい?

この状況ではコンソールには触れない。

そんなことをすればすぐに嫌疑がかけられてしまう。

だからモニターを外部からシャットアウトはできない。

 

いや、そもそもダ・ヴィンチのあの杖はシステムとして独立しているのだから外部からのコマンドは受け付けないだろう。

もし受けつけたとしても、天才のファイアウォールを抜けられると思うほど俺は自分を過信してはいない。

 

だとするならばここは上手く声を上げ、こんなくだらない鑑賞会をしている場合ではない的に場をうまく誘導するのが最適だ。

というかそれ以外に方法が思い浮かばないわ。

 

視線をもう一方の俺に向ける。

やつも俺を見ていた。

あっちの方も同じことを考えていたようだ。

 

流石俺。

思考回路が単純すぎる。

 

一瞬の視線の交錯がミッション開始の合図となった。

俺ともう一人の俺が一歩踏み出した、まさにその時

 

「何をやっている?」

 

管制室の入り口が開き、不機嫌そうな声が聞こえた。

 

その声にモニターを見ていた全員が振り返る。

そこにいたのは騎士王アルトリア・ペンドラゴンだった。

それもオルタの方だ。

 

あれ?

あいつ、立花と一緒に戦ってたよな。

何でここにいるんだ?

まさかもう戦闘が終わったのか?

 

「おおっ!ちょうどいいところに来た!バカ娘のサーヴァント!」

 

彼女を見ると小太りのおっさんは顔を輝かせた。

 

「貴様からあいつらに言ってくれ!我々は敵ではないと……」

 

「あ?」

 

「ひっ」

 

アルトリアはひと睨みしておっさんを黙らせた。

 

弱っ。

さっきからおっさん弱いぞ。

 

「私は、何をしている、と聞いたのだ。私の問いに答えろ」

 

彼女の言葉におっさんは反射的に口を開く。

 

「答えろ、だと?貴様!いったい何様のつもりいぃでございますか……」

 

最初は威勢が強かったのに彼女が再び睨みをきかせると語尾が小さくなって、敬語になった。

 

だから弱い。

弱いって。

 

「王様だが?」

 

ドヤ顔で返すアルトリア。

うざい。

だが事実だ。

 

一向に話が進まない彼らの会話にダ・ヴィンチはため息を漏らした。

 

「君も、どうやら我々の知る君ではなさそうだね」

 

「ほう?」

 

ダ・ヴィンチの言葉に面白いとでも言いたげな声を上げるアルトリア。

 

「君はあちら側に与していると考えていいのかな?」

 

腕を組んでいる彼女はまさに偉そうに返答した。

 

「だとしたら?」

 

「なら」

 

ダ・ヴィンチは後ろを指さした。

 

「この動画、誰がとったか分かるかい?」

 

その指が差す先をアルトリアは見た。

 

『ああもう!洗う前から体に触るんじゃない!』

 

『いいだろう!減るもんじゃないんだしさ!』

 

モニターには全裸になったアストルフォがデオンのズボンを脱がそうと走り回る姿が映っていた。

 

しまった!

彼女に気を引かれている間に天使の神秘が半分開放されてしまった!

 

焦る。

 

アルトリアを見ると呆れ顔だった。

 

ま、まあ、そうだよな。

状況説明もなしにそんなこと聞かれても何も答えられないよな…

 

彼女はため息を吐くとジト目でダ・ヴィンチを見た。

 

「こんなくだらない動画を撮る奴なんて一人しかおらんだろう。あいつの名前はたしか……ムニエ」

 

 

「「何がくだらない動画だあああああああああああ!!!!!!……………あっ」」

 

 

聞き捨てならない言葉に俺は声を張り上げてしまった。

 

しまった!

天使たちに対する俺の愛が強すぎて、こんなことに!

 

周りを見ると俺と、もう一人の俺が全員に見られていた。

 

もう一人の俺ッ!

お前もか!

 

くっ!

こうなってしまった以上弁解のしようもない。

殺せ!

 

俺は俺の愛を貫いた。

もはや一片の悔いもない!

 

「……」

 

荒れ果てた世界で覇王となった人間のような心持ちで目をつむる。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

あれ?

 

なんの返答も来ない。

はて?

 

不思議に思って目を開ける。

周りを見渡す。

 

「だろうな」

 

「いや、むしろ他に誰がいるんだよ」

 

「でもこれはちょっと引きます」

 

「いやドン引きでしょ」

 

「……俺、ちょっとわかるかも……」

 

周りの人間はこっち側、あっち側に関わらずみんな呆れ顔でそんなことをしゃべっていた。

 

え、ええぇ。

 

カルデアスタッフと同じような反応をする向こうの奴らを見てダ・ヴィンチはため息を吐いた。

 

「どうやら君たちの言っていたことは真実みたいだね」

 

あいつらが言ってたこと?

 

 

……ん?

いや、ちょっと待て。

おかしいだろ⁉

なんで動画の原因が俺ってわかったぐらいであいつらの信用度が上がるんだよ⁉

 

ていうかなんで全員犯人が俺ってわかってるわけ⁉

 

焦る俺の肩に後ろのトマリンがポンっと手を乗せた。

 

「日頃の行いってやつですね」

 

こ、この野郎……

 

「あと規約違反ですのであれは後日没収します」

 

こ、このヤロオオォォォォォォォォォ‼

 

 

パンッ!

 

甲高い音が鳴る。

ダ・ヴィンチが両手を叩いて鳴らしたようだ。

 

「さて、どうやら君たちは信頼できるみたいだし、話を聞かせてもらおうじゃないか」

 

その言葉に全員の顔が引きしまる。

 

「さっき言っていた異聞帯、ってやつの話」

 

異聞帯?

なんのことだ?

 

「私たちが()()()()()()()()、なんだっけ?」

 

俺たちが()()

 

「それ、すっごい興味ある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






皆さんこんにちは。

ジャンヌ・ダルクです。

あ、長女の方ですよ。

そしてこちらが……ほら、いいですよ。

ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィです!
あんな私が次女なんて認めていませんが、三女です!

ということで、今回は私たちで次回予告をしていきます。


とうとう現れた立花たち。

いったい彼らは何をしようとしているのか?

彼らの過去に何があったのか?

そしてムニエルはなぜあの性癖を持ってしまったのか?

次回、衝撃の事実が明かされる⁉…………これでいいんでしょうか?


流石、正しい成長を遂げた私です!原稿通りの素晴らしい予告です!

ありがとうございます。少し緊張しました。

不良になった私とは段違いの素晴らしさです。

こら。そう言うことは言っちゃいけませんよ。

で、でも……

それにあの子も今回頑張っていたじゃないですか。

……

他人を否定する言葉は自分をその3倍否定します。貴方は優しいんですから嘘でもそう言う言葉は言ってはいけません。

……はい。ごめんなさい。正しい成長をした私…

いい子ですね。自分の誤りが認められるなら大丈夫です。

!はい!頑張ります!

よしよし。

そう言えばこの原稿、誰が書いたのでしょう?とても支離滅裂な内容ですが。

そうですね...おそらく、ろくな人間ではないでしょう。

あ、あれ?私?

下品なピンク髪で、理性がなくて、虎視眈々とヒロインの座を狙ってくるようなそんなみっともない猿……

他人を否定する言葉は言っちゃいけないんじゃ…

あれは猿です。人ではありません。

え、ええぇ。

まったく。これだから油断も隙も出来ないんです。そもそも全裸で出てきて恥ずかしくないんですか!あのピンク髪!ただでさえ私の出番がないというのに…

え、えーっと!今回の次回予告はこれで終わります!
次回は、えっと、トナカイさんが頑張るみたいです!

見てくださいね!


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