たった一人のマスターへ   作:蟹のふんどし

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感想を書いてくれた方、本当にありがとうございました。
返信したいのです。
素晴らしい感想を書いてくださった皆さんに本当にお答えしたいのですが、多分ネタバレになってしまうのです。
こんな愚かな私を許してくれ。



泥海

 

 

 

 

 

 

 

 

 

耳元をひゅうひゅうと風のようなものが通り抜ける。

全身が下から持ち上げられているような感覚がある。

手先が妙に寒い。

 

なんだ?

いったい、これは………

 

妙な感覚を体にまといながら、だるい頭を押さえて目を開ける。

ここは…

 

私の目の前に広がるのは見る限り地平線まで続く真っ黒な大地と赤黒い空だった。

それ以外には何も見えない。

建物や道路のようなインフラ設備もない。

 

「へ?」

 

目の前に広がった光景にアホみたいな声を上げた。

なんだこれ………

ここが神代の世界、なの?

 

耳元のうるさい音は今もなお響いている。

さっきからなによ?この音…

 

「え、あれ、これ………落ちてる⁉」

 

下を見ると真っ黒な大地までにはとても大きな距離があった。

 

ちょ⁉これ上空⁉

私、空中に転移したの⁉

どうなってんの⁉

 

「ちょっと!ドクター⁉どうなってるの⁉これ⁉」

 

私はスカイダイビングしながら耳元のインカムに手を当てた。

 

転移の位置座標間違ったとかじゃないよね⁉

 

『………』

 

私の必死の呼びかけも虚しく、インカムから聞こえてくるのはノイズだけ。

返事が何一つ帰ってこない。

 

「無視⁉」

 

『………』

 

ちょいちょいちょい!

嘘でしょ⁉

こんな時に故障とかやめてよね⁉

 

下に見える黒い大地がどんどん近づいてくる。

やばい!やばい!やばい!

これ洒落にならない高さなんですけど⁉

 

「ちょっとアンタ!暴れない!」

 

後ろで声が聞こえた。

そして首元をつかまれたのかのように礼装が首に食い込んだ。

 

「うぐっ」

 

カエルのような声が出る。

く、苦しい…

咄嗟に首元に手を当てると頭上からお叱りの声が飛んできた。

 

「動くな!バカ!」

 

声のする方を見上げる。

 

「ジャンヌ!」

 

私の後ろには達海が召喚したサーヴァントがいた。

昨日、急遽変更するレイシフトメンバーに所長が推薦したサーヴァント。

マスターがいないサーヴァントをなぜ連れていくのか疑問だったけど、半ば強引にマシュの枠にねじ込んだようだ。

彼女も同じように上空に転移されたのだろうか。

 

って!そんなこと考えてる場合じゃない!

取り敢えずなんとかしないと!

 

彼女は冷や汗を流しながら下を睨んでいる。

そして地面が近くなると私に向かって叫んだ。

 

「着地するわ!放り出されんじゃなわよ!捕まってなさい!」

 

「どこに⁉」

 

「腕とか腰とかあるでしょ!」

 

「この状態で⁉」

 

私、親猫に首を噛まれて連れていかれる子猫みたいな状態ですけど⁉

 

「あー!もう!」

 

彼女は空中で落ちているのに器用に体勢を変え、私を肩に抱えた。

腰が固定され、きりもみ回転しかけていた体が安定する。

 

その直後、ドンッと体に衝撃が走った。

着地した地点がものすごい音を出してへこむ。

そしてバシャッと音がして着地点を中心として環状に大きな波が立った。

水しぶきが周りに跳ぶ。

 

波?

 

よく見てみると下にあるのは地面ではなかった。

真っ黒い液体だった。

そして黒い液体が彼女の下半身を濡らし、こちらにも波が飛んできた。

 

「ふんっ!」

 

ジャンヌは私を抱えたまま、いつの間にか持っていた右手の旗を払い、波をすべて吹き飛ばした。

私に飛んできた水しぶきはすべて旗に防がれる。

純白であった帆が真っ黒に染まる。

 

「あ、ありがとう」

 

濡れないように計らってくれたジャンヌにお礼を言う。

ジャンヌはお礼を聞くと目を吊り上げた。

 

「あんたねえ!私がいなかったらどうするつもりだったのよ!」

 

「え、どうしようもなかった………かな?」

 

「~~~~っ!!!」

 

彼女は私の返答を聞くと顔を真っ赤にした。

すわ大激怒かと私は身構えたが彼女は噴火することもなく、とても大きなため息を吐いた。

 

「はあぁ………そりゃあ、そうよね。どうしようもないわ」

 

そして右手で頭をガシガシ書いた。

 

「ったく、なんで私があんたのお守をやんなきゃいけないのよ」

 

彼女は心底嫌そうにそうつぶやいた。

 

「あははは………ごめんねぇ」

 

「私の管轄外だっつーの」

 

苦笑いするしかない。

私は米俵のように彼女に抱えられながら周りを見渡した。

 

「ジャンヌも、って事は英雄王も上空に転移したのかな?」

 

あのド派手な金ぴか鎧を探すが、それらしきものは見当たらない。

 

「知らないわよ。あんなの」

 

けッと舌打ちでもしそうな目つきで吐き捨てる。

 

「………少なくとも上空から見た限りじゃ、あいつはいなかったわよ」

 

そして嫌そうにしながらも彼女は割と正確な情報をくれた。

すごいな。

あんな状況で周りを冷静に観察できるとは。

流石サーヴァント。

 

「おかしいなあ。一緒に来てるはずなんだけど………」

 

来る直前にもいたし。

 

「この辺りにはいないかもしれないわね」

 

ジャンヌも周りを少し確認した後そういった。

 

「別々の場所に跳ばされたってこと?そんなこと今までなかったけど」

 

「あんたも私もあんな高さに転移したわけだし、あいつが辺鄙なところに飛ばされたって何の不思議もないでしょ」

 

確かに。それもそうだ。

 

「だとすると困ったなぁ。英雄王いないと何もわかんないよ」

 

現地の詳細な地理は彼頼みだったのに。

私の発言にジャンヌは苦み走った表情をする。

 

「悪かったわね。私だけで」

 

「そういうことじゃないよ!」

 

ジャンヌがいてくれなかったら今頃私肉塊になってぷかぷか浮いてたよ!

そう思ったのだが完全に拗ねてしまった。

 

この話はやめよう。

まあ、彼なら単独行動スキルもあるし、現地人だし、それでいて強いし。

大抵のことは一人でもなんとかなるだろう。

 

取り敢えず彼がいないなら私たちだけで現在地の把握ぐらいはしておかないと。

そう思って周りを見るが………

 

「ここ、どこ?」

 

先ほど上空で見えた黒い地面はどうやら黒い水のようだった。

ジャンヌの腰辺りまで水位がある真っ黒な水面がどこまでも広がっている。

 

どうやら水が濁ったというわけでもなさそうだ。

汚れと言うよりこの液体そのものが黒い。

 

「………本当にどこなんだろう?」

 

海、なのだろうか?

辺り一面がすべて水面であるからそうと言えなくもないけど、水位が腰のあたりと言うのは海と言うには随分低い。

 

周りには陸らしいものは何も見えないし………

 

バビロニアとはこういう場所なのだろうか?

それとも神代と言うのはこんな殺風景な世界なのか。

 

全然分からん。

 

私は先ほどのように耳のインカムのスイッチを押す。

 

「聞こえますかー?」

 

『………』

 

「もしもーし!」

 

『………』

 

聞こえてくるのはさっきと変わらずノイズだけだ。

 

完全に壊れたな…

おかしいな、来る直前に整備も動作確認もしてあるはずなんだけど。

 

と言うかあっちと連絡取れないってまずくないか?

バックアップがないとこちらの状況も分からないし…

ジャンヌの肩にのりながら腕の端末を起動する。

モニターが腕の上に表示される。

そこからアイコンを視線でスクロールし、非常用のマニュアルを確認する。

 

えーっと、こういう時は強制送還か…

といってもこっちの座標も分からずにレイシフトなんてできないだろう。

目印になりそうなものもないからこっちから位置座標を送るというのも無理だし………

 

できるとするとメールの送信くらいか。

私は現状を軽く要約し、通信機器の調整と指示の要求を書き留めたメールを送信した。

 

取り敢えず今あっちとの連携はこれぐらいが限界かな。

 

「さて…」

 

あちらからの指示が期待できないならこちらの独断で動くしかない。

どうするか………

 

私はあたりを見渡す。

本当に何にもない。

波打つ黒い水面と赤黒い空。

周りに広がっているのはそれだけだ。

 

そもそもこの黒い液体は何なのだろうか?

 

そう思った私がジャンヌの方から水面に手を付けようとした……

 

「触るな!!」

 

指先が水面に触れる直前、ジャンヌが怒鳴った。

 

「え?」

 

吃驚して彼女の顔を見た。

 

「これに絶対に触るんじゃないわよ」

 

彼女はいつにも増して険しい表情をしていた。

 

「この泥は強力な呪いよ。触れれば狂気に捕らわれる。そういう類のものだわ」

 

「呪い⁉」

 

「ええ」

 

こんな辺り一面に広がっているのに⁉

全部呪いなの⁉

一体どんな魔術を使えばこんなことができるのか。

それとも神代って言うのはこういうことが平気で起こるような世界なのか。

というかこれが呪いって言うなら…

 

「ジャンヌは大丈夫なの⁉下半身思いっきり黒い水につかっちゃってるけど⁉」

 

もしかして私をかばうために…

ジャンヌは私が慌てているのを見て、ため息を吐いた。

そして小さい声で何かを呟いた。

 

「私には意味ないわよ、こんな呪い。受けたところで変わらないもの」

 

「…?」

 

よく聞こえない。

怪訝な私の表情を見て、彼女はハッキリとした声でいった。

 

「私には効かないってことよ」

 

彼女はなんだか悲しそうだ。

その表情が妙に気にかかったのでもう少し聞いてみようと思ったが、私が口を開くより先に彼女がしゃべった。

 

「というか多分あんたも似たようなの見たことあるわよ、これ」

 

「へ?見たことがある?」

 

彼女の言葉に首をかしげる。

確かに今までの特異点でもただ生活しているだけでは見ることのできないような万国ビックリショーを何度か見てきたけれど………

見る限り一面が黒い海になっている場所なんてオケアノスでもなかった。

 

「あんたが呼び出したセイバー。あれもこの泥と似たようなものをかぶったんじゃない?」

 

「セイバーが?」

 

「同じようなにおいがするわ。世に名高い騎士様が馬鹿みたいに反転してるのもその影響でしょ…」

 

彼女が嫌そうな顔で吐き捨てるように言ったその時、私たちの数メートル先前方で気泡のようなものが水面に上がってきた。

 

「………」

 

「………」

 

私とジャンヌは無言で顔を見合わせる。

 

「………行ってみよう」

 

ここにきて初めて外部からアクションがあった。

何かがいるのかもしれない。

 

私の提案を聞くと彼女は無言で気泡が上がっていた場所を睨んだ。

そこからは2,3秒ほどの間隔で手のひら大の気泡が何度も上がってきている。

ジャンヌが右手で旗を強く握った。

そして左肩に私を抱えたまま、ゆっくりとそちらに近づいていく。

彼女に抱えられたまま気泡が上がってくる場所を睨む。

 

水の抵抗を押し返しながら、物音を立てないように彼女は進んだ。

そして1メートルほどまで近づいて立ち止まった。

 

「………」

 

気泡は段々と上がってくるスパンが短くなってきた。

目の前でボコボコと水面が沸騰しているかのように泡立っていく。

 

「っ!」

 

ジャンヌが旗棒を槍のように構えた。

 

バシャッ!

 

その音と共に水面から何かが飛び出した。

 

「………?」

 

出てきたのは黒紫色をした甲殻類の足のようなものだった。

先には鉤爪が付いており、まるで蟹の足みたいだが大きさが全く違う。

飛び出てきた足のようなもの一本で私の身長ぐらいある。

 

バシャッ!バシャッ!バシャッ!

 

観察していると水しぶきと共に同じ足が3本飛び出してきた。

そして飛び出てきた4本の足の中央からゆっくりと水面に顔を出すものがあった。

 

それを見た瞬間、全身に悪寒がめぐり鳥肌がたった。

 

「なに………あれ………」

 

私が見たものは奇妙な顔だった。

細長いヘチマのような形、色は足と同じく黒紫色だがその中央には縦に白く生えそろった歯だけがある。

人の口をちょうど90度回転させたらああなるだろう。

そしてその口は不気味な哄笑を浮かべている。

 

気持ち悪い。

それ以外に表現しようのない存在。

生理的嫌悪感だけが強く感じられる。

 

こちらを見ているのだろうか?

縦に生えそろった歯をこちらに見せながらじっとしている。

 

「ねえ、ジャンヌ……あれは………」

 

「黙りなさい」

 

今まで動かなかった気味の悪い存在が私たちの会話を皮切りに動き出した。

 

「カ………ギ………」

 

「……鍵?」

 

「tg@q@ tg@ nz:q!」

 

縦長の口から発された言葉は理解できない音だった。

ただ何らかの言葉を話しているようにも聞こえる。

分からない外国語を聞いているような。

 

「ffksb\i! ffksb\i mzwe:!!!」

 

もう一度縦長の口が何かを言った。

その直後、私たちの周りの水面からバシャッ!と言う音が何度もした。

周りには前方にいたのと同じ謎の生物が水面から上がってきて、私たちの周りを囲んでいた。

 

それぞれが四本の足で立ち上がっている。

首の下についているのは人と同じような体だ。

腕はなく、ところどころ歪だが胸、腰、足があり、人の腕を取って肩に四本脚をつけたようなシルエット。

 

ジャンヌが周りを見て舌打ちをする。

 

「ちっ、囲まれた」

 

1,2,3………8体⁉

私たちを中心に円状に8体の謎生物が私たちを見ている。

 

「b\p!!!」

 

「「「 b\p!!!」」」

 

最初に上がってきた謎生物はこちらに跳び、鉤爪を振り下ろしてきた。

 

「チッ!」

 

ジャンヌは迫ってくる鉤爪の横っ腹に旗棒を叩きつけた。

金属同士がぶつかるような甲高い音がした。

抱えられている私にまでびりびりとした衝撃が走る。

 

「重、い、のよ!」

 

競り合いになっている旗棒を鉤爪で削るようにスライドさせると手首を回転させ、石突で相手の頭部を狙う。

 

「ffz!」

 

謎の生物は何かを叫ぶと肩の後ろ側についている鉤爪で横から接近する石突を防いだ。

そしてもう一方の鉤爪でジャンヌの頭をついてきた。

 

「っ!」

 

ジャンヌが頭を左にそらす。

彼女の頬をかすり、鉤爪が通り過ぎる。

 

「いったいわね!」

 

ジャンヌの周りに仄かな魔力の流れを感じた。

 

彼女の周りに炎が吹き荒れ始めた。

火花が散るように一瞬光っては消える。

 

うおっ⁉

 

「ちょ⁉熱っ⁉」

 

ジャンヌさん⁉

 

「この炎、私には当たらないようにするとか調整できないの⁉」

 

耳元で叫ぶ私をジャンヌは煩わしそうに見る。

 

「そんな器用な真似を私ができるわけないでしょうが!」

 

「自信満々に言わないでよ⁉」

 

怒声を上げ、彼女が前方の謎生物を睨んだ。

彼女の視線が起爆剤になったかのように前方の敵、そして私たちの周りを囲んでいた敵も轟々と燃え始めた。

 

「ggggg!」

 

「::::::!」

 

謎の生物たちは何かを叫び、気味の悪い縦長の口から涎をまき散らしながら暴れていた。

炎に照らされて、暴れている彼らが作る影はさながら踊っているかのようだ。

 

本当に気持ち悪い…

 

「なんなの…この生き物は………?」

 

悪寒からつい口に出た。

 

「知らないわよ。魔獣かなんかでしょ」

 

「何か知らない言葉をしゃべってるようにも聞こえたけど………」

 

もし知性があるのなら、何か情報が得られるかもしれない。

無駄な戦闘を避けることも………

 

ジャンヌは横目で私を見てからため息をついた。

 

「さあね、仮にしゃべっていたとしても分からないんだから意思疎通なんてできないわよ」

 

「いや、でも………」

 

「面倒なことは考えないでよね」

 

「………ごめん」

 

彼女は視線を前に戻した。

燃えていた謎の生物の炎は消え、もはや原型が分からないような炭になっていた。

円状に並び立つ枯れ木のようだ。

 

「まあ、このキモイやつらが死ぬって事実は朗報ね」

 

ジャンヌはそんな死体を確認してから、こちらを見た。

 

「とにかく移動するわよ。こいつらが何かは知らないけど、これだけいるってことはここいらはこいつらの巣なのかもしれないわ」

 

「そうだね。足場も悪いし」

 

「ええ。あんたを抱えたままじゃ移動もままならないわ。むやみやたらに魔力を使う事は避けたいし、近くに岸があればいいのだけど」

 

彼女はそう言って辺りを見回した。

 

魔力………

ジャンヌのマスターは達海だからね。

 

────そうやって造られて生まれてきた奴がどんな思いで生きてるのかも知らねえで!

 

昨日、達海が激昂したことが頭をよぎった。

 

「ねえ、ジャンヌ」

 

「なによ」

 

ジャンヌは目を細めて遠くを見ることをやめず、言葉だけを返した。

 

「………………ジャンヌはさ…」

 

「………」

 

「………………」

 

「………」

 

「いや、やっぱりなんでもない」

 

「なによ。言いたいことがあるなら言いなさいよ」

 

途中で言葉を飲み込んだ私を見て、ジャンヌはこちらを睨む。

すごい睨んでくる…

 

「いや、たいしたことじゃないし…」

 

「だったらすぐ言えるでしょうが!」

 

ためらっていたら耳の横で怒られてしまった。

吃驚した。

急に怒鳴らないでよ。

 

その後も幾分かしどろもどろになっていたが、彼女に睨まれてあえなく言った。

 

「…ジャンヌは達海のサーヴァントじゃない?」

 

「そうですけど、それが?」

 

「魔力ってどうやって補給してるのかなーって」

 

手で頭の後ろを掻きながら目をそらす。

 

ジャンヌがジト目でこちらを見てくる。

まるで、あんたが聞きたかったことってそれじゃないでしょ、とでも言いたげな目線。

 

いや、実際これも気にはなっていたのだ。

 

「私は詳しくは分からないし、カルデアのみんなに任せちゃってるけど、サーヴァントって普通聖杯から魔力を受けて現界するんでしょ?」

 

「……ええ。そうね」

 

聖杯戦争の為にシステム化された英霊召喚。

それによるとマスターがサーヴァントに魔力を与える機会は戦闘や宝具など、こちらの意志によるアクションの時のみらしい。

現界などの英霊を維持するための必要最低限の魔力はすべて聖杯が肩代わりしてくれるとか。

おそらくある程度儀式としての形が伴わないと聖杯戦争そのものが進められないからだと思うけど……

 

「そのサポートがないと大半の魔術師じゃ現界すら難しいほどに膨大な魔力が必要だって聞いたからさ。私はカルデアの魔力炉がその役割を担ってるみたいだけど」

 

パスも十分につなげていないから私の場合、物理的な距離が英霊の力と比例してしまう。

近くにいなければ彼らの力を十全に引き出すことができない。

だが…

 

「達海の場合は、全部自分でやってるってことでしょ?」

 

これは聖杯戦争とは言えないし、達海によると座という英霊が記録されている場所から彼女を呼んだわけでもないらしい。

だとすると聖杯からの魔力供給はない。

弟はカルデアの炉からも魔力を受け取っていないから彼女の戦闘や宝具に必要な魔力だけでなく、現界することによって必要な魔力も全部達海が供給していることになる。

このことでドクターはとても驚いていた。

曰く、達海くんの魔力量は規格外だと。

 

それだけの魔力を消費してサーヴァントを維持しているのに、それに加えてレイシフト先に魔力供給する。

こんなことが可能なのか?

 

「達海は、大丈夫なの?」

 

昨日のあいつの顔を思い出す。

隈が濃く、憔悴していた顔。

今まで言われるがまま納得していたけど、幻霊召喚というのは何かとてつもなく歪なものなのではないだろうか?

もしかすると私は、何か重大なことを見落としているのではないのか?

 

「それは………」

 

「でも言わなくていい。これは私が知りたいだけだから」

 

私の言葉にジャンヌは驚いたような顔をした。

多分そうなのだ。

 

「もしかしたらあなた達には何か言えないことがあって、自分たちだけでやらなきゃいけないことがあるのかもしれない」

 

そしておそらく私にも伝えてはくれないのだろう。

昨日の件を私なりによく考えてみた。

答えは出なかったけれど、思うことはあった。

 

「もしもあなた達にそれが必要ならそれでいい。無理に嘘をつかなくてもただ黙っているだけでも私はいい」

 

「………」

 

「こんなことを自分で言うのは不甲斐ないけれど、私は何も知らないから目の前のことしかできない」

 

私に伝えたところで何も変わらない。

そう思っているからあいつは何も言わないのだろう。

それならそれもいい。

 

それは自分勝手や傲慢と言うものではない。

自分のことしか考えていない人間はあんな顔はできない。

 

だから何でもかんでも知ろうとするのはもうやめるべきだ。

私も不安を除くためでなく、弟の為になることをしたい。

 

「でも私は達海のことを信じたい。だからお願い。ジャンヌ、達海のことを守ってあげて」

 

今の私ではできなくても、それでも。

 

「あんた………」

 

彼女の顔は心底驚いているといった風だった。

目を真ん丸にして、こちらを見ている。

 

私も急に変なことを言いすぎたのかもしれない。

 

だから仕方のないことだったのだ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことも。

それに気づけなかったことも。

 

 

「gggggg!!!」

 

「ジャンヌ!!」

 

 

戦場で気を緩めるべきではない。

そんな単純な理を逸脱した罰を、私は文字通り身をもって償うことになる。

償いようのない罪を上塗りすることになる。

 

 

私が叫んだ直後、何かが水面に落ちる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつだって物事は、心構えができた頃には時すでに遅いのです。



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