たった一人のマスターへ   作:蟹のふんどし

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誰だって大なり小なり悩みを抱えていて、それを誰かに理解して欲しんですよね。でも簡単に理解して欲しいわけでもないんですよね。


カウンセリング・カルデア

「ふう、これで大丈夫だ」

 

ドクター.ロマンがほっと息を吐き出した。

その姿に僕も少し安堵の息をこぼした。

 

レイシフトからの帰還後、怪我を負った僕はドクターから治療を受けていた。

右腕は添え木で固定されて包帯が巻かれ、右半身の火傷の重傷部分に貼り薬をはってある。

見た目がえらく物々しい。

怪我を負った時はあんまり気にならないんだけど、こうやって冷静になると怖くなってくるんだよね、いつものことながら。

 

「それでは私はマスターのバイタルチェックを手伝ってきますので」

 

「助かりました。ミス.ナイチンゲール」

 

「礼には及びません。重傷の患者から治療するのは当たり前のことです。」

 

僕の治療の手伝いを終えるとナイチンゲールさんはすぐに治療室を出て行った。

 

優先順位を決めて、すぐ動く。

誰もがやっている事だけれど彼女は速度が尋常じゃない。

常にやるべき事を見据えているのだろう。

僕は彼女が仕事をしていない瞬間を見たことがない。

自分ではない誰かの為に動き続けることができる。これは一種の狂気ではなかろうか。

 

「ふう。彼女は優秀だけど、周りの空気が常に張り詰めるのは如何ともしがたいね」

 

治療器具をしまいながらドクターは苦笑気味に話す。

 

「優秀な人間は周りにも同じだけの才能を期待してしまう、というやつなんですかね?」

 

僕の言葉を聞いて、ドクターは顎に手を当てて少し考えた。

 

「うーん、彼女の場合は環境によるところが大きかったんじゃないかな。生前は看護師として医療現場で働いていたわけだから。特に戦場で医療に従事していたら時間も人手も足りないだろうからね」

 

布に薬、ハサミなどをテキパキとしまいながらドクターは言う。

 

「怪我人は多く、人も物資も足りない中、人命がかかっているからミスも許されない。そんな環境にいれば、誰だってああならざるを得ないと思うよ。それに耐えられる人間は誰でも、とはならないだろうけどね」

 

僕は自分が動き続けなければ目の前で人間が死に続ける状況を想像した。

 

「...僕には耐えられそうにないです。」

 

その場は乗り切れても後から心が壊れる気がする。

 

「誰だってそうさ。だから彼女は偉人と呼ばれているんだと思うよ」

 

器具しまい終えるとドクターは流しに向かっていった。

 

「達海くん、コーヒー飲むかい?インスタントだけど」

 

「あ、はい。頂きます。」

 

「了解」

 

カップに粉末を入れて、ポットからお湯を注ぐとドクターは「はいこれ」と渡してくれた。

猫舌なので息を吹きかけて湯気の出るコーヒーを冷ます。

 

「まあ、ミス.ナイチンゲールが現場で働いた期間自体は2年ぐらいらしいから、彼女の生来の気質って可能性もあるけどね」

 

彼はカップを持ちながらデスクに軽く腰掛ける。

 

「確かに、ピシっとしてないナイチンゲールさんって想像つきませんね。」

 

雰囲気がふんわりしているナイチンゲールさんを想像したら、いつのまにかマリー・アントワネットに人物が変わってしまう。

あんまりにイメージが固まっている彼女のアイデンティティについ笑みがこぼれる。

 

「何というかナイチンゲールさんはきっちりしすぎです」

 

ドクターはコーヒーを飲みながら同意する。

 

「確かに彼女は他人にも自分にも厳しいよね」

 

僕も貰ったコーヒーに口をつける。

 

「でも彼女は誰に対しても真摯に向かい合っているよ。それが自分の中の感情であってもね」

 

僕は顔を上げた。

彼の言葉の中にはくすぶっている僕に対して、遠回しに何かを言っているように聞こえたのだ。

 

「ごめん、ごめん。僕が悪かったからそんなに睨まないでくれよ」

 

彼が破顔した。

僕もハッとして顔の力を緩めた。

いつのまにか彼を睨んでいたようだった。

 

「お説教をするつもりじゃないんだ。今見る限りじゃ無意識にとはいえ、自覚しているようだから」

 

「それは僕の今日の行動について言っているんですか?」

 

自然と体を固くする。

 

「それもある。だけどそれ以外の事もだ。例えば君のお姉さんに対する態度とか」

 

「それは...問題がない、とは断言出来ませんが、特異点の修正には何ら関係がない事だと思います」

 

反射的に口から形式的な言葉が出てくる。

分かっているが他人にそれを触れられるとどうにも嫌なのだ。

ささくれのように厄介で、だけれど消えてくれない問題なのだ。

 

「関係ないとも言えない」

 

僕の願いも虚しく、ドクターは放っておいてくれないようだった。

彼は軽く息を吐くとコーヒーをデスクに置いて僕に向き直る。

 

「例えば今日、君がガンドを敵に放ってくれなければ僕らはサーヴァントを何基ばかりか失っていたかもしれない。それが綻びとなって僕らの旅が失敗に終わっている可能性もあった」

 

でもその可能性は僕が阻止したものだ。

 

「でもっ!」

 

「そう。君のおかげで危険は回避されて、僕らは無事今回の特異点を修復することができた。でもそれはただの結果論なんだよ」

 

「結果論...」

 

「うん、結果論。一歩間違えれば君はあそこで宝具に巻き込まれて命を失っていたかもしれない。下手すれば敵を足止めする事も叶わず、君だけが犬死ということすらあり得たわけだ」

 

ドクターの顔にはいつも浮かべている頼りなさげな笑顔はどこにもなかった。

 

「君はお姉さんさえいれば特異点の修正は可能だって思っているかもしれないけど、そうじゃないんだよ。お姉さんが持っている力は君がいて、君に支えてもらって初めて成り立つんだ」

 

「...」

 

「お姉さんが戦おうとしている理由は何だろうか?世界のため?人類のため?確かにそれも含まれるかもしれない。でも一番は身近な、守りたい家族の為に戦っているんじゃないかい?」

 

「それは...」

 

「君も分かっているんだろう?だったら君自身が何で戦っているかにもちゃんと目を向けてあげないと」

 

彼は座っている僕の目線に合わせて腰を落とす。

 

「自分に嘘をつき続けると、いつか自分自身を見失ってしまうよ」

 

僕が戦う理由。そんなもの無理やりここに連れてこられて、人理が消えて、しょうがなくやっているだけだ。

人がいないから、仕方なくマスターをやっているだけで他に理由なんてない。

元々ここに来るのは僕の意思ではないのだから、そこに理由なんて存在するはずもない。そのはずだ。

 

手元のコーヒーを無理やり喉に流し込む。

 

「...姉さんが僕の為にというなら、姉さんの動機にはなり続けます。でも僕に戦う理由なんてありません。コーヒーありがとうございました」

 

言うや否や僕は席を立ち、治療室を後にした。早くこの空間から逃げ出したかった。

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

廊下の方へ達海くんの足音が去っていく。

 

僕はため息をついてデスクの前の椅子に座った。

 

「難しいなあ」

 

何事も思い描いた通りにはならないもんだ。

黄昏そうになったとき、ノックする音が聞こえた。

 

「はーい、今開けるよー」

 

治療室は重症の怪我人に対する外科手術も施せるような作りになっていて、扉には内側からロックがかけられる。僕が今いる部屋は簡易治療室。奥には本格的な手術や魔術による治療ができる高度治療室がある。そこにもさらに鍵がかけられる。

僕は扉の横のパネルに手を置いて鍵を開ける。

 

「やあ、ロマニ」

 

「なんだ、レオナルドか」

 

万能人の姿を見て僕はため息を吐く。

 

「なんだとは失礼な。こんな美人を目の前にため息を吐く男がいるかい?もっとモジモジしたまえよ」

 

「モジモジって。君、男じゃないか」

 

僕は男性に性的欲求は持たない人間なんだ。

まあ、人間っていうには僕は少しばかり未熟かもしれないけど。

 

「ノン、体を見たまえよ。美しい女性だろう」

 

「僕が言っているのは心の問題だよ。というか近い、近いよ、レオナルド」

 

後頭部を手で押さえないでくれないか。怖いから。

 

「愛に性別は関係ないのさ」

 

顔を近づけないでくれ!

あ、ちょ、ま、アッーーーーーー!

 

「というのは冗談として」

 

舌を軽く出してウィンクするダヴィンチちゃん。

 

「怖いから、ほんと、こういうのやめて」

 

レオナルドには本気でやりかねない恐ろしさがあるから困る。

 

「どうだったんだい達海くんは...ってその様子を見る限りじゃ、あまり上手くいかなかったみたいだね」

 

「ははは...やっぱり難しいね、年頃の子は」

 

「おじさんみたいなこと言うなよ」

 

「年齢的には僕も十分おじさんさ」

 

「年は数えるものじゃない。重ねるものだぜ。君が積み重ねてきたものを思えば、人間関係ではまだまだ子供さ。少なくとも私から見たらね」

 

やはりこの万能人には敵わない。本当の天才ってのは本質を見抜く目が備わっているらしい。

 

「僕が息子や娘たちともっと触れ合えていたら、こんな気持ちになったんだろうか」

 

「むす、ぶっ!」

 

僕のつぶやきを聞いてレオナルドはお腹を抱えて大爆笑した。

ひどいなあ。

 

「そこまで笑うことはないだろう」

 

レオナルドは涙を拭い、つっかえながら返事を返した。

 

「い、いや、ごめん、ごめん。こんなときに父親面かと思うと面白くなっちゃってね」

 

父親面って...

まあ僕は子供達に父親らしいことはできなかったけど。

不甲斐なさが顔に出てしまったのか、レオナルドは思いっきり背中を叩いてきた。

 

「痛っ」

 

まだ残ってる笑い涙をぬぐいつつ彼女は言う。

 

「そんな顔するなよ。為政者の業ってやつだ。君が昔、父親らしいことができなかったのは君のせいじゃない。」

 

そして彼女は腕を僕の肩にかけて笑った。

 

「年は積み重ねるものって言ったろ。今から積み重ねればいい。何事も始めるのに遅いなんてことはないさ。あの姉弟のためにできることが父の役だとするなら、昔できなかった父を今から始めればいい」

 

彼女の美しい笑みには何事にも異才を持って結果を出してきた凄みがあった。

 

「レオナルド....」

 

「父親の気持ちが分かったロマニ君。今ならダビデとも一杯酒を酌み交わすなんて事も...」

 

「それはない」

 

それだけは未来永劫ありえないだろう。うん。

 

 

 

 

§

 

 

カルデア地下3階、発電室の隣にある空き部屋。元は冷却水のタンクを取り付ける予定だったらしい。ここがカルデアという事もあり、魔術による冷却で間に合った結果できた空白地帯。

 

ドクターに治療してもらい、逃げるようにして部屋を出た後ここへ来た。

一人になりたかったが、自室にこもると自分が逃げてることが妙に頭をよぎりそうで怖かった。

そういう時、ここは都合が良かった。

 

自分で持ってきた簡易イスに座り、ドクターの言っていた言葉を反芻する。

 

「自分自身に嘘をつくな、っていわれても」

 

僕はいったい何に嘘をついているんだろうか。

ドクターは姉さんは僕の為に戦っていると言った。

どうだろうか。

姉さんが僕の為に戦う理由なんてあるのだろうか。

僕は一体なんのために戦っているんだろうか?

姉さんのことを考えると頭が色んな感情にまみれてごちゃごちゃするのだ。まったく考えがまとまらない。

 

目を閉じて考えていると予想外の声が聞こえてきた。

 

「やっぱりここにいらっしゃったんですね、先輩」

 

「あれ?キリエライトさん」

 

振り向くとなぜかいつも僕を先輩と呼称する旅仲間がいた。

 

「えっと、何かありました?というか何でここが分かったんですか?」

 

部屋に入ってくるまで気づかなかったものだから、混乱して質問を2回もしてしまった。

僕の質問にキリエライトさんは微笑んで、腕に抱えてる子を見せてくれた。

 

「フォウさんが教えてくれました」

 

彼女の腕に抱かれたまま「フォウ」となく小動物。

 

「フォウくん...」

 

あの小動物はカルデアで変な気を使わずに僕に接してくれる数少ない存在で、僕が引け目を感じず接することができる唯一の存在でもあった。

たまに隠れてここで一緒にご飯を食べたりしていたから、覚えたのかな。

 

フォウくんはキリエライトさんの腕から降りると、テッテッテと音がなりそうな歩きで僕の足元まで来てから膝に飛び乗った。

そこで少しごそごそしてから、丸くなった。

 

「えーっと」

 

「フォウさんは先輩のお膝がお気に入り場所なんですね」

 

ここにいる時に何度もお腹に乗ろうとしてくるから、ふざけて膝で挟んだらそのまま居座るようになってしまったのだ。

って今はそうではなくて。

 

「それでキリエライトさんは?」

 

僕が彼女に視線を戻すとさっと逸らされてしまった。

カルデアに来てから大抵の職員は不出来な弟を腫れ物を扱いしてくるのでこういうのは慣れているのだが...

 

「えっと...」

 

彼女は目を合わせてくれていたのだ。

それが最近急によそよそしくなってしまった。

唯一のサーヴァントにまで腫れ物扱いされるのは少し悲しい。人に嫌われ始める最初はやはり慣れない。

 

「あ、いえ、違うんです!急に目を合わせてしまうとびっくりしてしまうと言いますか、恥ずかしいといいますか...」

 

顔に出ていたのだろうか。

彼女が気を使ってくれた。

まあでも、いつかはこうなることがわかっていたから彼女とも一定の距離を保っていたのだ。必要以上に悲しむ事もない。

 

彼女は短めの深呼吸をしてから目を開いた。

 

「先輩にお見舞いと謝罪がしたくてバイタルチェックが終わってすぐ治療室に向かったのですがドクターが先輩はもう帰ったと言っていたので、先輩の部屋を訪ねたんです。それでノックしたらですね、中からフォウさんが...」

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

気になる言葉が聞こえたが、あまりに早く喋るので少し落ち着いてもらいたかった。

僕の静止を受けて、キリエライトさんが手で口を押さえて少し赤くなる。

 

「あ、すいません。ちょっと今緊張しててですね」

 

「いや、ごめん。こっちも話遮っちゃって」

 

「い、いえ。大丈夫です」

 

「その、とりあえず座ったら?」

 

僕は膝の上で眠り始めたフォウくんを掲げあげて座っていた席を立ち、彼女に勧めた。

 

「いえ!先輩がお使い下さい!」

 

彼女は大仰に手を振って辞退した。

いや、女の子を立たせたまま、座って話を続けるなんて姉さんに知られたら間違いなく殴られる。

 

「使ってくれないと僕が死んじゃうんだよ...」

 

「そ、そうですね」

 

僕の一言で彼女も察したようだった。

と思ったらパッと顔を上げて謎の提案をしてきた。

 

「だったら先輩と私、2人で座ったらどうでしょう⁈これなら先輩は死にませんし、私も座れますし、ええっと、それに先輩と...」

 

目を回しながらアワアワしているキリエライトさん。

そんなに困ってるなら僕に気を使ってくれなくてもいいんだけどなあ。

 

「椅子は一つなんだけれど、どうやって?」

 

「椅子を半分ずつ使えばできるのではないでしょうかっ⁈」

 

無理しなくても2人とも立って話せばいいのではないだろうか。

 

「椅子はたたむから立って話せば...」

 

キリエライトさんは顔を近づけてきた。

 

「背もたれっ!ないですし!背を合わせれば座れます!ほら!座りましょう!」

 

「あ、うん」

 

すごい形相だ。そんなに座りたかったのか、彼女は。

彼女の剣幕に流されて、キリエライトさんと背を合わせるように僕も座ってしまった。

 

これ、どういう状況?

あ、フォウくん。

 

フォウくんは僕の腕から這い上がると、膝の上にポンッと着地し、また寝てしまった。

君はマイペースだね。

まあいっか。

 

「キリエライトさん?」

 

「は、はい!なんでしょうかっ!」

 

僕の手握ってるんだけど、気づいてないのだろうか。それとも何かあったらすぐに無力化するようにだろうか。まあいいや。

気を使ってくれている彼女にこれ以上恥をかかせるのも心苦しい。

指摘しないでおこう。

 

「これは事故です、そう事故なんですだから故意によるものではなくて」

 

小声で何か呟いてるキリエライトさんに話しかける。

 

「キリエライトさん」

 

「はいっ!」

 

彼女がピンッと背を張って、僕の背に少しぶつかる。

 

「さっきお見舞いと謝罪って言ってたけど」

 

「そ、そうでした」

 

彼女は軽く息を吐いてから、力を抜いたようだった。軽く背を曲げたからか、僕の背に軽く彼女の背が当たった。

 

「先輩、お体は大丈夫ですか?ロンゴミニアドの余波でお怪我をなさったので」

 

僕がガンドを放ったのは獅子王が宝具を放つ寸前だった。だから発動直前の魔力放出に巻き込まれて、右半身が焼けた。

さらに体を飛ばされたのに受け身をとれず、右手を骨折した。

振り返ってみると情けないほどボロボロだ。

 

「あー、うん。大丈夫。ドクターとナイチンゲールがすぐ手当てしてくれたから後遺症はほとんどないって。右腕の火傷痕は残るかもって言ってたけど、まあこの怪我でそれだけなら不幸中の幸いだよ」

 

「そう、ですか」

 

彼女の表情に影が落ちた。

責任感の強い彼女のことだから、少し責任みたいなものを感じているのかもしれない。

うーん、そんなもの感じなくてもいいんだけど。

 

彼女の暗さを飛ばそうと赤い声で話しかける。

 

「そんなことより、さっき言ってた謝罪って?今回のレイシフト、終始迷惑かけっぱなしだったのは僕で、キリエライトさんに謝られることなんて思いつかないんだ」

 

砂漠でスフィンクスに食べられそうになったりとか、円卓の一人を後ろからフライパンで殴ってしまったりとたくさんやらかして、その度に彼女にフォローして貰っていた。

 

「い、いえ、そんなことは」

 

僕の言葉に彼女は首を横に振った。

 

「今回も先輩には、スフィンクスから庇っていただいたり、ロクデナシにお灸を据えていただいたりと私こそお世話になりました。それなのに最終的に私は先輩をお守りできなくて。だから先輩に申し訳なくて...」

 

キリエライトさんの手が僕の手を少し強く握った

やっぱり彼女は責任感が強すぎる。

 

「それはキリエライトさんが気に病むことじゃない」

 

僕は彼女の手を軽く握り返す。

 

「そもそも最後に宝具を使って姉さんを守って貰ったのは僕の令呪のせいなわけで、今回の怪我は自業自得。完全に責任は僕にある。自分を責めるのは間違いだよ」

 

「それでも...私は先輩のサーヴァントなんです。どんな状況であっても先輩をお守りしたいんです。」

 

真面目すぎる。そこまでして職務をこなさなくてもいいよ。

守ることではなく、守る対象に目を向けてほしい。

この旅において、戦略的に価値がある人材は姉さんだ。ついで姉さんのサーヴァント。

僕を守るのはこの旅においてメリットが限りなくゼロに近い。

でも彼女の性格じゃこれを言っても納得しないだろうし。

 

僕はフォウくんを床に下ろすと、彼女の前に周り混んだ。

そして腰を下ろして、彼女の目を見た。

 

「ありがとう。キリエライトさんがそうやって僕を守ろうとしてくれるのはとても嬉しいし、僕もキリエライトさんに守ってもらえると安心できる。もしキリエライトさんが今回のことを気に病んでいるのなら、今から僕の心を守るために一緒に悩んでくれないかな?」

 

キリエライトさんは僕の話を聞いてキョトンととした。

 

「心を守る、ですか?」

 

「うん。実は悩んでいる事があって、これがずっと頭を痛めつけてくるんだ。だから出来ればキリエライトさんに相談して解決したいんだけど、手を貸してくれない?」

 

「私でいいんですか?」

 

「キリエライトさんだからいいんだよ。」

 

僕の言葉に彼女は顔を紅潮させ、僕の手を引き寄せた。

 

「やります!先輩の心、私に守らせてください!」

 

「そっか、ありがとう」

 

ここまで言っておけば彼女も負う必要のない責任を背負わずに済むだろう。

僕のせいで彼女のような優秀な人間に足枷が付けられるところなんて見たくない。

それに彼女ならもしかしたらドクターの言っていた言葉の意味がわかるかもしれない。

 

「さっきドクターに言われた事なんだけれども....

 

 




戦闘時だけ短いからという理由で後輩を名前呼びする達海くん。

みんなの悩みを聞く人がいてもいいと思うけど、色々な人が誰かに悩みを話して、誰かの悩みを聞いてって実際はそういうものなのではないでしょうか。
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