たった一人のマスターへ   作:蟹のふんどし

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窮鼠猫を嚙む。
決死の反撃に待つのは猫の死か、それとも鼠自身の死か。


特攻

 

 

 

 

 

 

全速力で廊下を走る。

共に走る数名の足音がこだまする。

 

あの化け物がいない……

所長の言った通り、彼女たちが引き付けているのか。

 

荒い息が何度も聞こえる。

ただ前を向いて走る。

進め、進め、進め!

1秒でも早く先へ!

 

背後で何度目かの大きな振動音がした。

壁が壊れる音が響き渡る。

廊下を伝って聞こえてくる。

照明が割れる音、人の怒号、そして………悲鳴も。

 

「うおおおおおおおおお!」

 

「進めぇ!」

 

「うわあ⁉」

 

「嫌だああ!」

 

一瞬振り返りそうになり、足が止まる。

顔を後ろに向けようとして、出発前の所長との会話を思い出した。

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

「所長!どういうことですか⁉」

 

所長の指示で動き出したみんなを尻目に私は彼女に問いただした。

 

「どういうこともなにも、全部言った通りよ」

 

彼女は全体の指示を出しながら、こちらに言った。

 

「船の航行に必要なメンバーだけをそちらに行かせる。舟に到着次第、潜航準備を進めなさい。霊基情報を抽出したらそっちに何人か派遣するから回収して出港よ」

 

彼女は指示を止めてこちらを見た。

 

「間違っても戻ってきたら駄目よ。怒号も崩落も、誰の悲鳴が聞こえようとも絶対に舟まで進みなさい」

 

「そういうことじゃありません!特攻だなんて、そんなことしなくても……!」

 

私の発言に、周りの人間が手を止めた。

一言では言い表せないような感情を伴った視線を感じる。

憎悪、嫉妬、羨望、安堵、期待。

そう言ったものが渦巻いていた。

 

今後の行動について異議を唱えようとした私だったが、目を見開いた所長に襟をつかまれて言葉を止めた。

 

「っ⁉︎」

 

「私の計画に異議を唱えていいものは、これから死にゆく者たちだけよ。生きていく人間が同情紛れに軽率に発言していいものではないわ」

 

「そんな、つもりは…」

 

「………」

 

「………」

 

彼女は視線をフッとやわらげ襟をつかんでいた手を離した。

 

「分かっているわよ」

 

「え………?」

 

「でもこれもわかって頂戴。私は彼らにとって死ねと命じた無能な指揮官で、憎むべき対象でなければならないのよ」

 

「っ………」

 

周りを見るといつの間にか形容しがたい視線は消えており、みんなが手を動かしてあわただしく作業していた。

 

「仲間の死に意味を与えるために、仲間を殺す無能な指揮官。彼らにとってはそれ以外に必要ない」

 

「………」

 

そんな言い方…。

彼女だって好きで殺しているわけじゃないはずだ。

自分よりも年上のスタッフをまとめ上げ、今までその命を背負ってきて最後は“無能な指揮官”だなんて………

 

そんなの酷すぎる。

 

私の顔を見て彼女は少し笑った。

 

「何よ、その顔」

 

「………」

 

そして彼女は私の頭を軽くはたいた。

 

「いいのよ。誰に何と思われようと…」

 

「なんで………そんなこと言えるんですか…」

 

これから死に行くのに。

 

「一人でも私のことを見ていてくれる人がいた。私を認めてくれた人がいた。その事実に気付いたから」

 

「あ………」

 

────彼女が現実から目を背けたことは一度だってなかった。彼女はどんな苦境に立たされても、指揮を放棄したことは一度だってなかった。

 

私も知っていた。

彼女のことをそう評していた奴がいた。

 

「私はそれでいいのよ。だから私は自分だけ救われて部下を殺す無能。彼らの恨みから逃げちゃいけない。敵でもない、災いでもない。他でもない私がみんなを殺す」

 

「っ………」

 

「あとは頼んだわ。リツカ」

 

そうして彼女は踵を返した。

 

「………ありがとう」

 

その言葉を残して離れていくオルガマリー・アニムスフィアの背中はとても大きかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

「止まるな!立花!走れ!」

 

横にいたムニエルさんがそう叫ぶ。

 

「立花ちゃん!」

 

ドクターも振り返って私の名を呼んだ。

 

「っ!」

 

私は拳に力を入れる。

振り返ってはいけない。

戻ってはいけない。

仲間の死を無駄にしてはいけない!

 

振り返りそうだった顔を前に向け、視線を固定する。

 

「はい!」

 

脚を上げる。

退路はもうない。

 

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

「うわあああぁぁぁぁ!」

 

「クリス⁉」

 

総務部の職員の名を呼ぶ声と悲鳴が聞こえた。

肉がつぶれるような音、そしてけたたましい笑い声。

 

「キキキキキキ!モロイ!モロイ!」

 

血のが飛び散る音だ。

これで何度目だ。

私の指示で何人部下が死んだ?

 

「構うな!敵は足だけを狙いなさい!足止めでいい!狙いは管制室よ!」

 

私は悲鳴も怒号にも振り向かず、前を走る。

前方の両扉から、ラフムが3体。

右に1!左に2!

 

「エイブラハム!あなたは右を!」

 

「っ!了解!」

 

後ろを走る総務部のスタッフに指示する。

彼の刻印の軌道を確認する。

 

私は回路を動かし、息を吸い込む。

 

「星よ!命脈の地!生よ!然らずんば死を!」

 

詠唱に従い、ラフムの足元に紋様が出現する。

 

「g⁉」

 

そして次の瞬間、2体のラフムの脚が鉤爪を含め6本すべてが消えた。

ラフムの胴と頭だけが転がる。

 

「ggggg⁉」

 

「モロッモロッ!」

 

それを確認した私は右前方を見る。

そこには障壁によって、手足を固定されたラフムがいた。

 

「いいわ!エイブラハム!そのまま…」

 

前方の敵の無力化に成功したことを確認し後ろを振り返った私は、また死を感じた。

 

「申し訳ありません、所長」

 

「っ⁉」

 

魔術をかけたエイブラハムは息が荒くなっていた。

顔には冷や汗が垂れている。

 

「魔力がもう………自分はここまでの様です」

 

「っ………」

 

「術を使える人間も減りました。技師なくしては霊基情報の抽出もままなりません。私はここで殿(しんがり)を。追ってくる敵を足止めします」

 

私は唇を噛み、一言だけ言った。

 

「………あとは任せなさい」

 

「ご武運を」

 

短い会話だけ交わし、私は彼の横を走り抜けた。

後ろに続く部下たちは涙をこらえ彼の横を走り抜ける。

 

しばらくして、後方では爆発音と絶叫が聞こえた。

 

「クソッ!」

 

「所長!このままでは!」

 

予想以上に敵の層が厚い。

部下の一人が私に叫んだ。

私は後ろを向かず叫び返す。

 

「あともう少しよ!踏ん張りなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

近づいてくる振動と怒号、そして悲鳴を聞いて男はため息をついた。

その仕草に宿る表情は憐憫だ。

 

「哀れだ。歴史を旅する彼らが、歴史から何も学んでいないとは」

 

≪────≫

 

物々しい気配と共に彼は入り口を見つめた。

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

「あと少しよ!」

 

半数以上の人間を減らしながら、それでも走り抜ける。

この廊下を超えた先、そこに管制室はある!

 

前方にはラフムがたむろしていた。

照明基盤に集まっている。

 

奴らは私たちが近づくとこちらに気付いた。

 

「………!」

 

「………!」

 

「………」

 

前二つの鉤爪を手を振るかのように回している。

嗤うわけでもない。

涎を垂らすわけでも、攻撃してくるでもない。

ただ黙って立っている敵と足を振る敵。

地上2階にたどり着いてから、ラフムは一切攻撃をしてこなくなった。

立つか、足を振るかするだけである。

 

例にもれず、前方にいるラフムたちもそうだった。

妙だ。

 

「コード・グラヴィタス!」

 

後ろで詠唱が聞こえた。

そして前方に固まっていたラフムたちが頭からつぶれた。

 

「あと少しです!早く!所長!」

 

「分かってる!」

 

思考を振り切って駆け出す。

余計なことを考えている暇はない。

前に進まなければ。

 

前方に大きな扉が見えてきた。

管制室の入り口だ。

 

管制室には必要な機材が多く、点検の度に部品を入れ替えたりするため、入り口は戦車が通れるくらいには大きい。

その大きな入り口には私たちに立ちふさがるようにラフムが並んでいた。

 

20………いや、少なくとも30はいる。

この量を足止めするにはそれなりの規模の術式がいる。

だったら!

 

「スターズ・コスモス・ゴッズ・アニムス………」

 

詠唱を開始する。

回路からごっそり魔力が減っていくのを感じる。

だが時間が惜しい。

一撃で決める。

 

「っ⁉」

 

並走していた職員は私の詠唱に驚愕し、すぐに後ろを振り返る。

そして追走してくるスタッフたちに叫んだ。

 

「全員!伏せろ!」

 

「………ホロウ・ヴォイド・アニマ・アニムスフィア──!」

 

詠唱の終了と同時に『星光の魔弾』が奴らに降り注いだ。

 

「ァァァァァァァァァァァ!」

 

「aaaaaaaaaaaaaaa!」

 

奴らの甲殻を突き破り、幾重もの光の槍がその生命を断つ。

 

「予備動作もなしでこんな大魔術⁉そもそもここは夜空の下でもないのに………⁉」

 

床に伏せて前方を見つめるスタッフの一人が激しい振動の中でそう叫ぶ。

 

「カルデアはアニムスフィア家が構えた拠点。ここすべてが私の工房といっても差し支えない」

 

自らの魔術工房でアドバンテージを持つのは当然だ。

術者の力がたとえ相手と比べて弱かろうとそこは問題ではない。

純粋な個の力比べなど実践では何の役にも立たない。

身一つでタイマンを張るのは野生動物のすることだ。

 

重要なのはいかにして自分に有利な環境を作り出すか。

拠点に責められてカルデアは瀕死の状況に追い込まれた。

多くの人間が命を落とし、多くの人間が今から命を落とす。

だとしてもそれは、私たちが一方的に殺されることを意味しない。

私たちは知恵を持つ人間なのだ。

 

槍に振られ、哀れに泣き叫ぶラフムを睨む。

 

星の槍に暴れる化け物たちにダメ押しの一擲を放つ。

 

「ここは、人理継続機関フィニス・カルデア!人の文明を観測するための地よ!お前たちのような化け物が足を踏み入れてよい場ではない!」

 

一層強まった星の槍は扉の前に広がる敵を一掃した。

管制室の入り口出会った場所には無数の瓦礫とボロボロになり、半分ほど開きかけた防壁だけが残っていた。

 

「す、すごい…」

 

後ろにいた誰かがそう言った。

 

すごいものか。

こんな力があったところで何もできないことは、この3年間で嫌というほど味わった。

 

「行くわよ」

 

開きかけた入り口に向け、私は歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

 

管制室へと入ったオルガマリーとその一行は部屋の半ばほどでその歩みを止めた。

彼女の視線は部屋の中央、レイシフトに使われたコフィンに注がれていた。

 

「これは…」

 

そのコフィンの中からは止めなく黒い液体が流れ出ていた。

彼女は周りを警戒しながら、ゆっくりとそのコフィンへと近づく。

 

「なによ……これ…」

 

コフィンは開きっぱなしになっており、中はどこまでも続いているような黒い空洞だった。

その空洞の中に一つだけ視認できるものがある。

 

「右手………?」

 

切り取られた人の右手がコフィンから湧き出る黒い液体の中に沈殿していた。

彼女はそれを手に取ろうと手を伸ばした。

 

「っ!」

 

どこからか手を叩く音が聞こえ、彼女ははじかれるように顔を上げる。

管制塔の方からコツコツと音を立て、こちらへと歩いてくる人物がいる。

見慣れた濃緑色のスーツとハット、深いブーツを履いた男はその両手で拍手をしながらゆっくりとこちらに近づいてきた。

 

「それには触らないでくれるかい?」

 

そうしゃべりかけてきた男を見て、オルガマリーは目を見開いた。

 

「レフ!」

 

彼女の後方にいたスタッフたちもみな瞠目する。

そんな彼らを前にして、彼は拍手を止めて笑いかけた。

 

「やあ、オルガ」

 

彼の笑いに彼女は表情を硬くする。

 

「無事、だったのね」

 

「ああ。無事だとも」

 

「…」

 

「…」

 

二人の間に沈黙が漂う。

その沈黙をこらえきれなかったスタッフの一人が教授に話しかけた。

 

「レフ教授!ご無事で!」

 

彼女は会議でもよく教授の太鼓持ちをしている一人だった。

彼女は後方から顔を輝かせて歩き出す。

 

「教授がいてくれるなら………」

 

「…」

 

「カルデアが窮地なんです!」

 

そのままオルガマリーの横を通り抜け、彼に近づこうとする。

 

「職員の半分以上が死んで、トリスメギストスもシバも止まっているんです!ご存知だと思いますがあの紫色の化け物がカルデア中を歩き回っているし…」

 

「………」

 

「それに、フジマルも令呪を奪われてしまいました…」

 

「………」

 

「でも!レフ教授がここにいるってことは、管制室を奪還したんですよね⁉」

 

「………」

 

「敵性サーヴァントもいるって言ってたのにどうやって………?」

 

ずっと話しかけているのに終始無言を貫く教授に疑問を抱いた彼女は目の前の教授を見上げた。

教授は冷たい目でこちらを見下ろしていた。

 

「っ⁉」

 

驚いたのもつかの間、彼女の視線がぶれた。

そしてわずかの間もなく轟音が響いた。

 

「え………?」

 

彼女は不意にぶれた視線に困惑する。

先ほどまで目の前にいた教授はいつの間にか彼女から離れていた。

そして気づく。

教授が立っている位置は変わっていない。私が離れたのだ、と。

 

彼女は呆然としたまま、見上げると所長がいた。

彼女はオルガマリーに抱えられていた。

 

オルガマリーは教授を睨みつけていた。

 

「ああ、奪還したとも。貴様らから令呪も、トリスメギストスもシバもな」

 

鳥肌が立つほどの冷え冷えとした声に彼女はオルガマリーに抱えられたままもう一度教授を見た。

 

教授の前にはフジマルのサーヴァントだったはずの武将、源頼光と童女、清姫がそれぞれ自らの獲物である刀と槍を振り下ろしていた。

其処は先ほどまで彼女がいたはずの場所だ。

 

そして自らの帽子をかぶりなおす教授の甲に見えたのは令呪だった。

 

「信じたくは、なかったわ…」

 

呆然とする彼女はその声にオルガマリーを見上げた。

所長は彼女を抱えた手に力を入れながら、教授を睨みつけている。

 

「あなたは不甲斐ない私をいつも支えてくれていたのに」

 

二人のサーヴァントは光のない瞳で佇み、刀と槍を上げる。

その後ろで教授は冷笑している。

 

「なぜ…こんなことをしたの」

 

教授は表情をすっと消した。

目の奥に闇を抱えたまま口を開く。

 

「それが貴様らへの罰だからだ」

 

「生命を弄ぶ貴様らが歩むべき、相応の道だ」

 

彼はおおきく舌打ちをした。

 

「態々自らの業を懺悔する道を与えてやったというのに…どいつもこいつも屑ばかりだな、人という野蛮な生物は!」

 

彼は激昂した。

その目を大きく見開き、憤怒をまき散らす。

 

「生きているだけで不合理をまき散らし、苦悩を生み出し、挙句の果てにその不条理を押し付けるために生命を弄ぶ!」

 

「そんな貴様らが生き続けていいはずがない!貴様らは自らが弄んだ生命の苦悩に蝕まれながら死ぬべきだ!」

 

オルガマリーは悲しそうに教授を見つめていた。

 

「レフ。貴方はそれがソロモン王の意志だと、そう言いたいの?」

 

「ソロモン王…?」

 

所長の言及に、教授は少しだけ口を止めた。

だが憐憫をかかえた嘲笑で、彼女の言葉を笑い飛ばした。

 

「はっ、あの哀れな王がそんなことを言うものか。我が王もまた、貴様ら人間の業によって生み出された苦悩する者にすぎん」

 

「哀れな、王………」

 

「あのような不条理を見て、なおも貴様らを救うつもりでいる」

 

「………」

 

「哀れだ。生み出された者たちの苦悩を聞いてなお、人間に安寧を与えるなど…」

 

「………」

 

「貴様らが生み出さなければ、苦しまずに済んだのだ。我が王も、我々も、無垢な少女も、紛い物の少年も…」

 

「少女…?少年…?」

 

「貴様らはなぜそうも平気な顔をしていられる?あれだけの地獄を彼らに与えて、なぜ被害者面のまま自由勝手にふるまえる?」

 

「貴方………何を言っているの………?」

 

 

自分に話しかけているように見える教授。

彼はしばらくの間、口を閉じていたが苦悶の表情を浮かべていた。

しかし再び冷徹な視線をオルガマリー達へと向けた。

 

「まあ、いい。貴様ら人間に話したところで到底理解できないだろう」

 

彼は右手を掲げる。

 

「貴様らが今すべきことは、ここで苦悩と絶望を抱えながら、痛みによって顔を歪めて死ぬことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁはぁ」

 

私たちは地下3階の廊下を走る。

もうすぐだ。

もうすぐ第3倉庫に着く。

 

「あった!」

 

廊下を走り抜けると私が付いたときに出てきた扉が見えてきた。

手動レバーで開けた半開き状態のままだ。

何かが破壊された形跡はない。

 

扉の前まで走り込み、半開きのドアに手をかける。

左手で引っ張るが、重い。

わずかにしか開かない。

 

「このっ!」

 

「立花ちゃん!どいて!」

 

「俺たちでやる!」

 

後ろでドクターとムニエルさんがそう言った。

そしてドクターが右の扉を、ムニエルさんが左の扉を両手で引っ張る。

 

「「~~~~~~!」」

 

二人で顔を真っ赤にして踏ん張ると扉が少しずつ動いていく。

 

「その意気っす!」

 

少しずつだが確かに開いていく扉にチンが声を上げる。

そのまま扉はゆっくりと開いていき、2人ほど通れるぐらいの幅が開いた。

 

「よし!」

 

そして私たちはそのまま第3倉庫に流れ込んだ。

中ほどまで走り込む。

あわただしく全員が入場する。

 

「どうだ………?」

 

「………」

 

「………」

 

全員が緊張した面持ちであたりを観察する。

書棚に無造作に置かれている書類の山。

廃棄された回路基板や端末群。

そして凹凸ばかりでもはや機能しないコンパスと舟の残骸。

 

私が訪れたときのままだ。

 

「………これは…」

 

「………ああ」

 

「…あいつらもいない」

 

あの化け物は影も形も見当たらない。

そして奥にあるのは………

 

「………無事っす……虚数潜航艇も、傷一つないっす!」

 

あの馬鹿でかいコンテナだ。

見たところ、あれも私が来た時のまま綺麗な形で残っていた。

 

全員が顔を見合わせる。

そして同時に安堵のため息をついた。

 

「良かった………本当に…」

 

これで、まだ、私たちは戦える。

カルデアの、みんなの行動に意味を持たせることができる。

 

安堵もつかの間ドクターは全員を見渡し、声を張り上げる。

 

「さあ!みんな!安心するのはもう少し後にしよう!」

 

その声に全員がドクターを見る。

 

「こうしている間にも彼らは戦っている。文字通り命を懸けて」

 

「………」

 

「だから確実に舟が出航できる状態に仕上げて…()()()()()彼らを待とう」

 

その言葉は願いだ。

彼の言わんとすることを全員が願っている。

皆力強く頷いた。

 

「イーハン!指示を出してくれ!僕は舟の設計に関わっていないから全体像が分からない。でも技巧部門の副部門長である君なら、舟の立ち上げに何が必要かよくわかるだろう」

 

ドクターは彼女の方を見て言う。

 

「技巧部門じゃない僕も、オクタヴィアも、トマリンも、ここにいるスタッフはカルデア内でも技術によく精通している人間だ。安心して使ってくれ」

 

チンはドクターを見て、目を見開いていた。

彼女は固まったまま、なにもせずに瞠目している。

 

「イーハン………?」

 

反応を返してこない彼女にドクターが不審がる。

ドクターの問いかけも彼女は返事をしない。

そして何を思ったか、ドクターを自分の後ろを振り返った。

 

「っ⁉」

 

ドクターもまたその先を見て、目を見開いた。

 

「ドクター………?」

 

なんだ。

彼まで固まってしまった。

一体どうしたのか。

 

私もまた二人が見ている先へ視線を向けた。

 

「………………………………………達海?」

 

私たちが視線を向ける先、コンテナの隣で座り込んでいたのは私の弟だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




仲間の死を無駄にしないため、仲間に死を求める。
死は目的か、手段か。

我々の歴史が記すところによれば、”死なばもろとも”と駆けていった者たちが戦況を変えた例は極めて稀だ。






ん?おかしい。次の話がないんだけど?おい、ふんどし。何してん?
と思って頂けた方は、ぜひとも下の欄から感想や評価をしてくださると非常に嬉しいです。
ふんどしですか?燃えます。







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