たった一人のマスターへ   作:蟹のふんどし

6 / 38
ギャグと言えばシリアスでもギャグなんだよ。
多分ギャグ回。


食堂前線(2)

 

 

 

 

 

「こちらの席でよろしいですか?達海」

 

ランスロットさんはトレーと米びつを両手に比較的空いている机まで来ると、振り返ってそう言った。

 

「あ、はい。構いません」

 

本当はもう少し奥の席まで行ってほしかったが、彼に食事まで持ってもらっている状態でそれを言える図々しさは持ち合わせていなかった。

 

彼は流れるような所作で僕の食事が載ったトレーを机に置くと、向かい側に米びつを置いた。

そしてまるでエスコートするウェイターのように椅子を引き、着席を促した。

 

「こちらにどうぞ」

 

「あ、すいません」

 

所作の一つ一つが洗練されていたので、ついつい見入ってしまった。

まるで一流のホテルマンみたいであった。

いけない、いけない。

騎士に召使の真似事をさせてしまうなんて。

 

恐縮しながら座る。

彼は向かい側に座った。

 

「食事、運んでくださってありがとうございました。右手がこの通りなので、助かりました」

 

「いえいえ、マスターの弟君なのですから。この程度、して当たり前です。」

 

すごい。これが本物の紳士というやつか。

 

「…」

 

「…」

 

そう言えばサーヴァントの人と一対一で食事をするって初めてだ。

何を話せばいいんだろう。

うーん、英霊も人だしここは無難にお互いの共有点とかを話す、なんてのでいいだろうか?

 

ふむ。

共有点、と考えて真っ先に出てきたのは彼の後頭部にフライパン片手に殴りかかった記憶であった。

 

この前はフライパンで殴りかかってごめんなさい、とかだろうか?

…どう考えても喧嘩売ってるようにしか聞こえない。

彼がいくら人格者であっても、失礼をしていい理由にはならない。

却下だ。

 

他に僕が分かることというと、キリエライトさんが彼を嫌っているということとかだろうか。

だとすると…

 

なんでキリエライトさんに嫌われているんですか?

 

ない。

開口一番に人に嫌われている理由を聞くやつがあるか。

どんな無神経だ、僕は。

 

困った。

食事の同席を承諾したのはいいけど、その先を全く考えていなかった。

話すことがない。王の話でもするかい。知らんけど。

 

席に着いてから黙り込んでしまったからか、はたまた肩の力が入っていたか、ランスロットさんは僕を見て苦笑した。

 

「そこまで固くならずとも大丈夫ですよ」

 

そう言って彼は米びつからしゃもじを使ってお赤飯をよそうと、僕に渡してくれた。

 

「あ、さっきからすいません」

 

少し慌てて受け取ってから頭を下げた。

さっきからやろうとしていることが先回りされてやられてしまう。

 

「流石に達海一人ではきびしいでしょうし、私もいただいてよろしいですか?」

 

よそった後に持ってきていたもう一個の茶碗を片手に、彼が言った。

 

「実は先ほど食事は頂いたのですが少々量が足らなくて。よろしければ私もご相伴にあずかりたいなと」

 

はい、もうわかります。

これ気を遣ってくれてるやつでしょ。

食事終わって帰ろうとしたら、僕がこの大量赤飯を前に困っていたから手伝いに来てくれたやつでしょ。

ほんとに なんなのこのイケメン。

ぱない。

 

ほとんど会話をしていないのに彼の人格に感動してしまった。

こんなにいい人なのにキリエライトさんはなぜあそこまで毛嫌いしているのだろうか。

 

「ええ、もちろん。むしろ食べていただいた方が助かります」

 

妙にテンションが高い内心はおくびにも出さずに、笑ってお赤飯を彼に勧めた。

 

ちょっと安心してしまった。

誰かと対面して食事なんて機会がめっきりなかったものだから意識してからは緊張してしまったが、ランスロットさんなら大丈夫そうだ。

よかった。

下手なことをしゃべって不快な思いをさせてしまったりしたら、申し訳ないから。

 

彼が茶碗によそい終わったのを見て、僕は「いただきます」と言った。

じゃあ、食べますか。

あ、どうしよ。右腕使えないから左手で食べるしかないのか。

左手で箸が持てるだろうか。

 

「ときに達海。あなたは今、おいくつですか?」

 

なんとか左手で箸を使おうとあくせくしている僕に、ランスロットさんはそんなことを聞いてきた。

歳?

 

「えっと、ここでの生活日数を含めると、17ですね」

 

人理が存在しないのに僕個人の歴史を数えるというのもおかしな話だが、ここに来る前は高校に通っているときだったから、そこから数えると17だ。

 

「そうですか」

 

彼はよそった赤飯には目もくれず、眉間にしわを寄せて目を閉じていた。

先ほどの笑顔とは打って変わった表情に少し戸惑う。

僕の歳に何かあっただろうか。

特に外見が幼いわけでも老けているわけでもないので、おおよそ予測できると思うのだけれど。

 

しばらくすると彼は目を閉じたまま、もう一度質問をした。

 

「達海はマスターと同じく極東の国である日本出身なのですよね?」

 

「え、ええ」

 

僕は姉さんの異父弟でも異母弟でもないし、帰化しているわけでもないので、出身も国籍も姉さんと同じ日本だ。

 

「それがどうかしましたか?」

 

なぜ急に歳や出身なんて。

今、僕の頭の上ではてなが3個ほど踊っている。

 

ランスロットさんは目を見開くと、そのはてなを吹き飛ばすかのごとき眼圧で僕を見た。

あ、あれ?何か気に障ることを言ってしまっただろうか。

 

「日本では男性が満18歳、女性が満16歳からでないと法律上、結婚ができないと聞きました」

 

「は、はい。そのはずです」

 

「ということはつまり……マシュとは結婚を前提としたお付き合いをしたいということですか⁉」

 

え?

 

「え?」

 

「とぼけなくてもよろしい。朝からカルデア中で噂に上がっていることなのです」

 

え?

 

「あなたがマシュに愛の告白をした事実は私も今朝聞きました」

 

え?僕聞いてない。当の本人が知らない。

 

「貴方も、マシュも、とても若い。だからそう言った気持ちをどなたかに抱くこともあるでしょう」

 

え?そうなの?

 

「ましてマスターとサーヴァントとして四六時中一緒にいれば否が応でも接する機会が増えますから、関係が発展することもあるかと存じます」

 

いや、え?発展するの?

 

「ですが!そう言ったことをするのならば!まずは!マシュの父である私に相談していただくというのが筋というものではありませんか!」

 

筋なの?

 

「確かに達海。あなたはかの騎士が認めるほどの人間です。あなたの何事も耐え抜く忍耐力

、その意志の力には目を見張るものがある。それは私も認めています」

 

忍耐力ないね。昨日崩壊したばかりだね。

 

「しかし!私があなたを認めていようと物事には順序というものがあるのです!すなわち今回の場合、マシュに愛をささやく前に!父である私にも一言伝えるといった…」

 

「ほう?」

 

横合いから挑発的な声が飛んできた。

今度はなんだよう。

もうお腹いっぱいだよお。

 

「面白いことを言う。貴公の名は何と言ったかな?」

 

あ、ペンドラゴンさんだ。黒い方の。

 

横にいたのはまがまがしき雰囲気を纏う黒いアルトリア・ペンドラゴンさんだった。

相変わらずの迫力。

そして左手にはハンバーガー。

相変わらずの暴食。

 

「⁉」

 

彼女を見て、今まさに僕を問い詰めていた彼がぴしりと固まった。

あー、そういえば生前の上司だっけ。

 

「その振る舞い、醸し出すオーラ、さぞや名高い騎士であろう」

 

「あ、あの…」

 

彼女を前に、ランスロットさんはなぜかたじたじになっている。

あ、あれ?

 

「もしや、円卓の騎士だったりしないだろうか?」

 

「い、いえ。私は、東洋の騎士でありまして、円卓の騎士など全く関係ありませんとも…」

 

「なるほど。貴公は東洋の騎士であったか」

 

ペンドラゴンさんはバーガーを一口で食べきると油の付いた指を舐め、包み紙を丸めた。

そして腰に下げた紙袋から新たなバーガーを取り出すとかぶりついた。

 

ハンバーガーって腰に装備できるものだったのか…

 

「つまり、私と面識はないというのだな?」

 

「ええ。私は剣に生きる身。あなたのような麗人にお会いする機会などありませんとも」

 

目が泳ぎまくっている。

修羅場?

 

「そうか、そうか。ところで貴公、先ほど何やら面白い話をしていたな」

 

バーガーをさらに一口かじる。

ゆっくりと咀嚼し、飲み込む。

たじろぐ相手を前に食べながら威圧、あっち系の人かな?

 

「確か、愛をささやく前に、私に一言…だったか」

 

「いえ、それは…」

 

「素晴らしいな、貴公は。そうだな。人間関係とは筋を通してこそだな」

 

「は、はい」

 

そしてもう一つのバーガーも食べきると、包み紙を丸めて彼の目の前でクシャっと潰した。

 

「ああ、そういえば私も過去に嫁を友に寝取られた、なんてことがあってな」

 

「……」

 

「こういう時は友である私に一言くらいほしいものだった」

 

「それが筋というものだと思うのだが、どう思う?貴公は」

 

「わ、私は…」

 

「ん?どうした?貴公。額の汗がすごいぞ」

 

「す、すこし暑いですかね」

 

彼女は冷や汗掻きまくりの最強の騎士の肩に手を置く。

そして底冷えする声を吐いた。

 

「……貴様、何スロットだ」

 

「ひ、達海」

 

彼が助けを懇願するような目で僕を見る。

いや、助けに入ることはやぶさかでないのだけれど。

今の話の流れを聞く限り、この人とってもすごいことをやらかしているようだ。

 

略奪愛という背徳に理解を示すのはいかがなものか。

っていうかランスロットさん、さっきまで追い詰めていた人間に助けを求めるって…

 

先ほどまで抱いていた彼へのイメージは跡形もなく崩れ去り、ダメ男にしか見えなくなってきた。

人間は、悲しい生き物だね…

 

「あ、あの、ペンドラゴンさ…」

 

僕はそれでもかわいそうな彼の為に声を上げようとした。

瞬間、ペンドラゴンさんの視線がこちらに向いてやめた。

 

え、怖い。

視線で穴開くよあれ。

 

ランスロットさん。僕ではどうしようもなかったよ。

許せ。

 

二人して黙り込んでしまった男を前に、彼女は腰に掛けた紙袋を目の前に置いた。

机に置かれた紙袋はカシュッと音を立てて潰れた。

 

「私の携帯バーガーがなくなってしまったのだが、誰かもらってきてくれるものはいないものか」

 

「はい!私にお任せください!」

 

ランスロットさんは目の前の紙袋をとるとライダーのごとき速さで厨房にすっ飛んでいった。

ええぇ。

ここに置いていかないで。

 

彼の敗走を目にしながら、ペンドラゴンさんはため息をついた。

 

「あやつも変わらんな。開き直って私に逆切れしてくるぐらいであれば、面白いのだが」

 

おそらくそれができる人間は騎士になれないのではなかろうか。

 

彼女はもう一度溜息を吐き、僕の向かいの席に座った。

 

「あ、ありがとうございます。でいいんですよね?」

 

状況を見るにランスロットさんに詰め寄られているのを見て、彼女は助けてくれたのだと思う。

多分、おそらく、割と。

 

…いや、だって最後の方、ただの意趣返しというか仕返しだったやん。

 

僕の言葉を聞くと、彼女は両足を机の上にのせてふんぞり返った。

 

「礼はいらん。私はランスロット卿を貴様から離して、厨房に連れてこいとあの赤いアーチャーに言われただけだ」

 

ああ。

エミヤさん気づいてくれてたのか。

ありがとう。説明してい置いてくれて。

 

「そういえば貴様、マシュと結婚するそうだな」

 

エミヤさん、そこは説明していないんですか。

しかもさっきよりも盛大な尾ひれがついているんですけど。

 

「ええっとエミヤさんは他に何か言ってませんでしたか?」

 

ほおがひくひくするのを感じながらペンドラゴンさんに聞く。

 

「知らん。貴様を助けてくれと言われて、すぐに来たからな」

 

そっかー。すぐ来てくれちゃったかー。

 

「すぐ行けばハンバーガーを大量に作るとあのアーチャーがほざくから来てやったのだ」

 

ああ。納得。

 

「えっと誤解なんですが、僕とキリエライトさんはそういう関係ではなくてですね」

 

「恥ずかしがるな。男なら堂々としろ」

 

「いえ、そういうわけではなく」

 

「だが女を娶ったのだ。ならば腹を決めて生涯愛せ。でなければ殺せ。異性関係はこじらすとろくなことにならん」

 

なんでみんな話を聞いてくれないのだろうか。

思い込み強くありませんか。英霊の皆さん。

 

「はあ」

 

僕がキリエライトさんに告白したってこと、カルデア中の噂になっているって言ってたよな。

 

まるで意味が分からない。

何がどうやったらそんな噂になるのか。

だけど、それを知ったうえで思い返してみると食堂に入ってからあった違和感が全部説明ついてしまう。なんてこったい。

 

どうしよう。

詰んでない?これ。

昨日あんなに迷惑をかけてしまったのに、今日になってこんなことになってしまうとは。

キリエライトさんに申し訳ない。

カルデアの噂とか解決しようがないよ。

 

「どうしよ」

 

頭を抱えて、溜息を吐く。

 

僕の頭にポンと何か当たった。

ん?

僕が顔を上げるとペンドラゴンさんがこっちを見ていた。

どうやら、ペンドラゴンさんは手に持っていたクシャクシャの包み紙を僕の頭に投げたらしい。

 

「なにをうじうじしているかは知らんが、貴様はもう少し胸を張れ」

 

そう言い放つ彼女の表情は、極めて不機嫌であることを示していた。

 

「周りをよく見ろ。貴様は客観的評価が下手すぎる」

 

客観的評価?

 

「自分で自分を駄目な奴と思うのは勝手だが、貴様を認める人間が少なからずいることを考えろ」

 

僕を認めている人間?

何を言っているんだ?彼女は。

 

「そんな人…」

 

「認めてない奴を夫にするほどマシュの目は曇っていないし、実力で人を判断できないマスターに仕えるほど私は愚かではない」

 

「だからそれは誤解で…って、マスター?」

 

「それに貴様はマスターを何度も守っている。確かにやり方は低レベルで、貴様自身は何度もけがを負っている。それにいちゃもんをつける輩もいるが…」

 

彼女は包帯の巻かれた僕の右腕を見た。

そして鼻を鳴らした。

 

「そんなことは知らん。魔術師らしさだの、自らの信念だの、そんなことは結果の前には粗末なことだ。結果こそがすべてだ。少なくとも私はそこに信を置く」

 

彼女は顎で僕の背をさした。

 

「私以外にも結果を見ている奴がいるみたいだぞ」

 

振り返ってみると、何人かの職員が心配そうにこちらを見ていた。

僕が見た瞬間、彼らは全員、顔を食事の方へ戻してしまった。

 

「まったく、私が貴様をいじめているみたいにみえるようだな。まあ、あながちまちがいでもないが」

 

彼女は僕の背から視線を戻した。

それにだ、と彼女は続ける。

 

「貴様はギャラハッドほどの騎士が認めた人間だ。貴様がマスターのように戦えずとも、貴様には貴様の戦い方がある」

 

彼女は僕に指をさす。

 

「例えば貴様の体に受け継がれた刻印」

 

僕は瞳孔が自然に広がっていくのを感じた。

 

「なんで…」

 

「確かに巧妙に隠蔽されている。おそらく魔術を極めたキャスタークラスですら見破れまい。だがどうも見覚えのあるやり方でな、ろくでなしのにおいがプンプンするのだ」

 

彼女は不機嫌そうにしかめながら指を下す。

 

「なぜ貴様がその魔術刻印を使わないのか、私にはわからんし、興味もないが」

 

「これは、諸悪の根源です。これさえなければ僕は、僕たちはこんなことにならなかった」

 

これさえなければ…

 

「……はっ。貴様にはそれが忌々しい過去の遺物に見えるようだな」

 

「ええ」

 

「だがな。そんなことを気にしている余裕があるのか?いつもはなりふり構わない貴様のそこだけが気に食わん」

 

彼女は腕を組んで、僕をにらむ。

 

これはもう使っていいものではない。

これは僕だけの問題じゃない。

 

僕の沈黙をどう受け取ったのか彼女はにらむのをやめた。

 

「まあいい。それを使わずともやっていけるのなら文句は言わん」

 

「そうですか」

 

ひそかに安堵の息を吐く。

 

「しかしな、自分の妄執にばかり固執して、周りの人間に目を向けなければ、いつか滅びを呼び込むぞ」

 

滅び…

そう言えばアーサー王伝説の最後は内部が分裂して、内戦で滅びを迎えると聞いたな。

 

「私と同じ轍は踏むな」

 

もしかしてこれは、彼女なりの励ましなのだろうか。

僕は高圧的な彼女の、憂いを帯びた視線を見てふとそう思った。

 

「…ありがとうございます。ペンドラゴンさん」

 

だからお礼を言った。

彼女は不機嫌そうにまた鼻を鳴らした。

 

「礼はいらんと言った」

 

 

周りの人間に目を向ける、僕は殻にこもりすぎているのだろうか。

…なんにせよ、このままではだめなのだ。

僕も変わらなければいけない。

 

 

「それはそれとして」

 

彼女は机から足を下すと、ちらちら横に目を向けた。

 

「はい、なんですか?」

 

何を見て…米びつ?

あっ。

 

「この赤飯は食べないのか?」

 

「…」

 

「どっちなんだ」

 

「食べます?」

 

僕は自分のお茶碗としゃもじを渡した。

 

彼女は黙って受け取るとしゃもじで食べ始めた。

 

 

 

 

 

§

 

 

 

 

 

朝、食堂でムニエルさんが「弟が革命を起こしたぞ!」なんて言うから、何事かと思ったが、まさか達海がマシュに告白するなんてね。

 

 

「マシュ、達海くんにはなんていわれたの?」

 

「い、いえ。ですからそういうわけではなくてですね…」

 

 

あの弟に告白するほどの甲斐性があるとは驚きである。

というかそもそも、マシュに惚れていたという事実が驚きである。

 

 

「じゃあ、発電室の隣で何してたの?」

 

「それは、その…」

 

 

しかし、あいつが彼女を作るとはねー。

……

 

「ほら、図星なんだろ。言っちゃえって。発電室の隣で何を発電してたんだ。なんて…」

 

「うわ。あんた最低ね」

 

「女の敵」

 

「下ネタ野郎」

 

「このムニエルがっ、ぺっ」

 

「いや!最後!俺の名前を罵倒として扱うのやめてくれませんっ⁉」

 

 

なんか悔しいぞ。

私はまだ彼氏いないのに。ぐぬぬぬ。

 

心の中にもやもやがふわふわ漂う。

くっ、帰れ。

彼氏できないミストどもめ!

納豆で成敗してくれるっ!

 

私は納豆をまぜまぜしながら、煩悩を退散させる。

 

 

「マシュは立花ちゃんのことお義姉さんって呼ばなきゃいけないね~」

 

「いや!ですから…」

 

 

お義姉ちゃん…おお、なんと甘美な響きよ。

脳内のマシュが私を「お義姉ちゃん」と呼んでくる。

羽をはやしながら、何人ものマシュが私にすり寄ってくる。

めっちゃ可愛い。

マシュ天使説、あるね。

 

はっ!我を失うな!わたし!

煩悩よ、去り給え。

 

くっ来るな。

あ、煩悩ずるいぞっ!

マシュの姿で近寄ってくるんじゃないっ!

振り払えないじゃないかっ!

 

くそう。

 

「で立花ちゃんとしてはどうなの?弟君とマシュが付き合うの?」

 

VRマシュ(脳内天使Ver)と戯れていたら、マシュの周りにたむろしていた職員の一人が私に聞いてきた。

まったく、朝にマシュと向かい合って朝食をとるのが私の癒しだというのに。

はしゃぐな、ものどもよ。

良いかね、きみたち。

マシュはね、誰にも邪魔されず、自由で、なんというか、救われてなきゃあ、ダメなんだ。

朝のマシュは拝むもの、異論は認める。

 

だがしかし、たしかにマシュの可愛さは一人で独占できるレベルを超えている。

ならば、皆がともにマシュを愛でられるよう、マシュ独占禁止法案を私は打ち出したい(錯乱)。

という考えを心に秘めて、私は答えるのである、まる。

 

「まあ、そうなったらおもしろいんですけどね~。おそらく何かの間違いでしょう。達海にそんな度胸ありませんよ」

 

苦笑しながら、彼女に返す。

色々盛り上がったが、実際のところ何かの間違いだろう。

 

達海は色恋沙汰に興味がないわけではないが、あいつの好きなタイプはもっとガンガン言ってくるタイプだった気がする。

あ、でもマシュが好奇心旺盛なときは意外と言ってくるし、ワンチャン有り得ないことでもないか。

 

しかし、この情報を持ってきたのがムニエルさんという事実。

これで、あ、(察し、状態にならぬものにマスターはできない。

 

他のみんなはあまり気づいてないかもしれないけど、レイシフト中彼の発言に振り回されてきたものならわかると思う。

彼の発言は話半分に聞いておかないと無駄に疲れると。

 

てな訳で私は皆さんのように振り回されない。

決して達海に先を越されたのが悔しくて認めないわけじゃないんだからねっ!(殺気)

 

とみんなして勝手に盛り上げっていると、マシュが「あっ」と声を出した。

そして頬が朱に染まる。

 

その反応を見て、みんなしてマシュの視線を追った。

グルっ!って効果音が鳴りそうなほど一斉にその方向を見た。

そこにいたのは案の定、呆けた顔をした我が弟、達海だった。

 

達海はみんなの視線が合った後、すぐに目をそらしカウンターの方へ歩いて行った。

 

馬鹿野郎!そんな軟弱でマシュが守れるかってんでえ!

俺の嫁に触れるんじゃねえ(キリッ)、ぐらいやってみせんかい!オラァ!

 

と私は思ったのだが、彼らにはどうやら違った様子。

目を一瞬合わせたあとに顔を赤らめてそらす。

そんな初々しい雰囲気を目の当たりにした職員たちはさらに盛り上がってしまった。

 

「今の見た?ポッと顔赤くして二人で見つめ合ってたわよ」

 

「見せつけてくれんな~」

 

「私も恋したくなってきたわ」

 

「俺もー」

 

「というか弟くん、意外と初心?」

 

「彼、貰っていいですか?お義姉さん!」

 

今の盛り上がりすぎじゃないですかねえ。

というか最後!誰がお義姉さんか!

私は年上の義妹なんて持ちたくないよ!

 

「駄目でーす」

 

「えー」

 

職員の一部が文句をぶーぶーたれる。

 

そんな周りを見てマシュは少し驚いているようだった。

 

「マシュ?どうかした?」

 

「い、いえ。皆さんが、その、先輩について話しているところはあまり見たことなかったので」

 

ああ、そっか。

そう言えばマシュはあまり技巧部に来たことがなかったっけ。

彼女はレイシフトに関してとバイタルチェックで忙しいからあまり彼らと接点がないのか。

 

「うーん、そうだなー」

 

なんていうべきか

悩んでいるとムニエルさんが聞いていたのか、マシュに話してくれた。

 

「うちでは達海、わりと受けいいよ」

 

「そうなんですか?」

 

マシュが驚く。

 

「で、ですが、冬木から帰ったころ、先輩と礼装の説明をしてもらいに来た時はあんまり良い空気ではなかった覚えがあります」

 

「あーあの頃はね」

 

ムニエルさんは頭をかきながら苦笑い。

 

「俺たちもさ、一応カルデアに選ばれた面子で仕事するって聞いたからここに来たわけで。最初は抵抗があった。立花の場合、わかりやすく活躍してきたからあまりそういうのはなかったんだけど」

 

確かに割とすぐ受け入れられた気がする。

 

「だけど達海のやつはさ、律義なんだよ。作った礼装の使い勝手とか、その改訂理論とかをわざわざ報告書べつにして俺たちに届けてくれるんだよ。立花は全くそういうのしてくれないからな」

 

「いや、だってそういうの分からないし」

 

ガンドがドンッって飛んだら相手がビリビリって痺れた、って報告書書いたらすごい怒られた。

分からないのに怒られてもなー。

納得いかんばい。

 

「俺たちも素人考えって思ったんだが、読んでみるとすげえんだよこれが。あいつの理論、面白いんだよ」

 

これを聞いたときは私もびっくりした。

でも家の達海の部屋に、難しい論文みたいなものが散乱していたのを思い出して納得した。

 

「それでさ、あいつと魔術理論を話してみるとこれまた面白い答えが返ってくるからさ。飽きないんだよな。愛想は相変わらず悪いけど」

 

マシュは心底驚いているようだった。

 

「先輩にそんな特技が…」

 

「あいつ自分から理論の話、絶対にしないからな。もったいないよなー。今からでも技巧部に来てくれないかなー」

 

ムニエルさんが嘆く。

 

「なんで人事変更とおして…」

 

ムニエルさんが何か言いかけたときだった。

 

「あれ、ランスロット卿じゃない?」

 

職員の一人がカウンターを指さしながらつぶやいた。

カウンターを見てみると、何やらあたふたしているエミヤとなぜか米びつを持っているランスロットが達海の前にいた。

あー、あれはあかんかも。

 

達海とランスロットは何やらつぶやくと、制止していそうなエミヤを背に歩いて行ってしまった。

 

「あの穀粒し…」

 

般若の形相でマシュが言いかけたとき、職員の一人が言った。

 

「あれ、まずくね?」

 

「いや、でもランスロット卿だし」

 

「何を話すか聞いてみたい」

 

「よし、弟君の周りの席に座って聞いてみましょ」

 

「いくか」

 

彼らはそんなことを話すと達海たちの後を追っていってしまった。

君たちは修学旅行中の学生か。

せわしなく去ってしまった彼らを見て、マシュは唖然としていた。

 

「まあ、そんなわけで技巧部ではあんな感じ、らしいよ?」

 

 




藤丸は姉も弟もわりとお花畑な頭してる。

あとちょっとだけ続きます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。