纏う彼女らと寄生する俺   作:相変わらずな僕ら

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先日、数々のヒーローを生み出した我らが巨匠、スタン・リー氏がご逝去されました、私は貴方の生み出したヒーローに心を励まされて日々を生きています、去年のコミコンで貴方に会い握手してもらった事は一生忘れません、次のアベンジャーズ4でのカメオ出演は撮影済みとの事ですが、まだ生きておられる内にスクリーンで会えたのは奇しくも二次創作を書かせて頂いてる『ヴェノム 』でした。私は自分のこの作品を応援してくれている方々と全てのアメリカンコミックに関わっている方、そして貴方に捧げます。

どうぞ安らかに眠ってください、スタンリー氏、お疲れ様でした。


pupa《蛹》

 

 

ガラガラガラ

 

 

「被験体No.2187 立花仁か…名前はどうでもいい、最近人間の材料が少なくて困ってたところなんだ感謝するよ、右腕が無いのは都合がいい、効果が分かりやすいからな。」

 

「…はいはい、ありがとうございます先生、…あんたイギリス人?」

「私はエイジャックス、このライフ財団日本支部で支部長をしている、まぁ少し前までアメリカに居たんだが前の研究所を燃やされてね、今は雇われの身というわけさ」

 

「エイジャックス…本名ですかそれ?」

 

「減らず口だな君は…アイツを思い出すよ」

 

 

ガラガラと音を立てて患者用の移動式ベットに革バンドで体を括り付けられている。

 

その横で患者に寄り添う医師のように並走する…恐らくイギリス系九厘刈りの男、もっとも今の状況は実験体と研究員の間柄だが。

 

 

何故こんな事になったか説明してなかった、昨日響を寝かしつけた後にライフ財団へ電話した俺はすぐに迎えが来た、黒塗りのセダンに乗せられた俺は車の中でこの治験について説明を受けた。

 

一つ、この治験は危険性は殆ど無い

一つ、数日帰れなくなるかもしれないが、ご了承すること

一つ、得られた成果は会社の財産として所有される

そして最後に報酬は莫大で蒸発した父親の年収なんぞよりも更に多くの金額を提示された俺はすぐに首を縦に振った。これで家族に金が入るなら安いもんだ。

 

 

「よし、ここだ、ここから君の新しい人生が始まる、大丈夫だ失敗はあまり無いのが私の良いところだ、装置に固定しろ。」

 

 

ガラス張りの実験室に入れられた俺にエイジャックスは笑いながら周りの研究員に指示して俺を実験用の椅子に固定した。

 

奴はパラパラと俺の資料らしき物をめくり、ぱんっと閉じると説明を始めた。

 

 

「まぁ…ここまで来てもらっといてなんだが、君が車の中で受けた説明は殆ど嘘だ。」

 

「はあ!?」

 

何言ってんだこいつはそれなら家族に金が行くという話も…

 

「あぁ、金云々は嘘じゃないよ、今頃君の親の口座に金が振り込まれてる所だ、そのほかは嘘だ。」

 

「一番の心配は解消されたけど、他が嘘だと?」

 

「そうとも、この治験に危険が無いというのは嘘だし、下手したら一生家には帰れないだろう、というがこんな怪しい治験で大金を得られるなんておかしいと思わなかったのか?まぁ、あの会場で君を誘ったのは私なんだが、君は相当追い詰められているのか本当のバカかどちらかだな」

 

 

あの時俺にライフ財団を紹介したのはこいつだったのか、じゃあここを紹介したのはやはり自分の実験の為…

家族が危機的状況とはいえもうちょっと考えとくんだった、クソ

 

 

「よし、前置きはこのくらいにして早速始めよう、用意しろ」

 

 

エイジャックスが指示すると俺のいるガラス張りの部屋の天井から大きなアームが、いやこれは注射器だ、でかい注射器が伸びてきた

 

 

「クソっ!」

 

なんとか拘束に対して抵抗するものの悲しいかな俺の腕力ではとても解けそうに無い

 

 

「一応説明しとこう、君に今から注射するのはある生物だ、そいつは地球の酸素条件下では少ししか生きていられない、だから宿主を選んで寄生する、君がそいつと適合すれば晴れて生きていれる、あとは死ぬか発狂するかだな」

 

 

天井の注射器がゆっくり俺に近づき、その切っ先を俺の心臓に向ける

 

 

「最後に言い残しておくことはあるか?」

「くたばれ、フランシス」

「っ!どこで私の本名を知ったのか知らないが……いい人生をな」

 

 

エイジャックスの言葉が終わると同時に注射器の刃先がゆっくりと心臓にめり込んでいき、中の黒い液体が注射される

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!ああああっ!」

「叫んでも痛みは変わらないぞ」

 

 

注射器が体に刺さるよりも液体を注入された時に凄まじい痛みが身体中に走った。

 

あまりの痛みによだれはもちろん失禁までしてしまい、続く痛みに耐えるしか無かった。

 

 

「よし、注射は完了、あとで様子を見に来る、それまでに死なないように頑張れ」

 

 

液体が全て注射され、エイジャックスの声が遠くに聞こえる…朦朧とした意識の中、あのエイジャックスもマーベルコミックにいた登場人物だと遅まきながら思い出していた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

仁がライフ財団の実験室で死にかけてる少し後、ある学園の地下で蒼い髪の少女が声を張り上げていた。

 

 

 

「まだ奏の居場所はわからないのですか!!」

 

 

特異災害対策機動部二課の司令部に大声が響く、国民的歌姫の風鳴 翼とその二課のトップである風鳴 弦十郎、そして聖遺物研究の第一人者かつ自称出来る女の櫻井了子とスタッフの多くがやりきれない気持ちを持て余していた。

 

 

 

「…今二課の全力を挙げて捜索中だ、翼」

「くっ…」

 

 

自分の上司であり叔父でもある絃十郎に宥められるも厳しい表情を隠さない翼、彼女は焦っていた、それは自分の片割れでありツヴァイウィングとしてのパートナー、天羽 奏のことである。

 

あの日、ツヴァイウィングのライブの裏で二人のフォニックゲインを使い聖遺物であるネフシュタンの鎧の起動実験が行われた日に事は起こった。

 

始めにノイズの襲撃、これによりライブに来ていた無実の人々が命を落としてしまった、己も天羽々斬を纏い、奏と共に戦ったが救えない命の方が多すぎた。

 

 

だがあの時ノイズと戦っていたのは自分たちだけでは無かった。

 

 

それが今司令部の大型ディスプレイに映し出されている存在、身長は2メートルを超え鉛色の肌に、こめかみまで裂けた凶暴な口、しまいには体をありとあらゆる武器に変え、次々とノイズを攻撃し捕食している。

 

 

「了子君、コイツが何なのか君の意見が聞きたい」

 

「ん〜、この前から考えているのだけど…やっぱり人工的な生物か…それとも地球外生命体か…どちらにしても判断材料が少なすぎるのよねぇ…」

 

ディスプレイの画面が変わり、ノイズが殲滅されて化け物が翼と奏に向かって来るところになる。

 

 

『AAAAAAAARRRRGG!!!』

 

 

二人の連携を物ともせず、その牙を剥いて吠えながらその攻撃を緩めない。

 

やがて二人は押し切られる、翼は油断したところを手が変形した槍に切り裂かれ、奏はキツイ拳を腹に叩き込まれそのまま締め上げられていた。

 

「…っ!!」

 

翼は拳を握りしめ目を伏せてしまった。

 

 

だがその化け物は何かに気づいたのか近場の瓦礫をこの映像を撮影しているドローンに投げて直撃したのを最後に映像は終わってしまった。

 

もっとも謎なのは化け物が翼にトドメをさせたはずなのにしなかったのか?、そして奏をどうしたのか?、事件の後に会場を隈なく探したが奏の遺体やそれに準ずる物は見つからなかったが、己の無力さを嘆き怪我もやっと回復した翼は苛立ちをかくせずにいた。

 

 

「可能性はいろいろあるけれど…攫われたっていうのが妥当よね…」

 

 

了子は腕を組んで興味深そうに真っ黒なディスプレイを見つめ、絃十郎は翼の肩に手を置いた。

 

 

「心配する気持ちは皆同じだ、翼、今は体を休めるんだ、いいな?」

「……はい」

 

 

拳を握ったまま翼は司令室を出ていった、今の翼の中には奏を失った悲しみ、だがそれよりも憎しみが己の心を占有していた。

 

 

 

奏を奪ったあの鉛色の化け物への、そして奏を守りきれなかった自分への…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このライブで死んだ人間と生き残ってしまった二人の兄妹の事など微塵も考えてはいなかった。

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

翼が退室した司令室、気が緩んだのか、絃十郎はため息をついてしまう。

 

「むう、いかんな俺がこんな弱気になってしまうのは、アイツの叔父だというのに情けない」

 

「仕方ないわよ絃十郎クン、あんなイレギュラーは想定しようがなかったのよ、奏ちゃんと翼ちゃんには気の毒だけど今私たちは手詰まりよ、あの怪物がまた動くのを待つしかないわ」

 

「ああ、奏の捜索は全力を注ぎつつ、あの怪物を探す…次は俺が出る、ノイズでなければ俺にも勝機はあるはずだ。」

 

 

目に闘志を宿した絃十郎は胸の前で拳を握りしめ決意を新たにする、それを見て了子は笑みをこぼしてしまう

 

 

「ん、なんだカッコ悪かったか?了子君」

 

「いえ…ふふっ、ごめんなさいね、やっぱり絃十郎クンは頼もしいなぁって思えて、…………ずっと貴方の元に居たいくらい…」

 

「?、すまん最後の方が聞こえなかったのだが…」

 

「…ふふっ、内緒よ♪、良い女ってのは秘密が多いものなの♪」

 

「む、むぅ、そうなのか…」

 

 

ピピピッピピピッ

 

 

良い雰囲気になりつつある二人だが突然部屋に鳴り響く外部からの通信に反応する。

 

 

「通信…何処からだ?」

 

「発信元は…Unknown!?ダメです、特定できません」

 

「…繋いでくれ」

 

 

オペレーターである藤堯は突然のことに慌てながら通信を繋ぐ、そうすると先ほどのディスプレイにある人物が映し出された。

 

 

 

 

 

 

『突然の連絡を済まない、特異災害対策機動部二課の諸君…私はニコラス・J・フューリー』

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

真っ暗だ…何処だここ?

 

 

地面に足がついているのは分かるし自分の体もくっきり見える、だけどそれ以外は真っ黒な闇が覆うばかりでなにもわからない…

最後に記憶にあるのは…確かクソライフ財団の治験でフランシスってイギリス人にぶっといの挿れられて、真っ黒い液体注入されて死にかけて…なるほど!

 

 

「ここが天国か」

 

『そうだったらどれだけ良かったか』

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!!!!」

 

 

なっ!なんだよ!訳の分からん悲鳴が出たわ!なんだ今の!

 

 

『何じゃなく、誰と言え』

 

 

暗闇から聞こえる声の主を探そうとあたりを見回すと…とても知っている顔を見つけた…ただし《前の世界》で見たことあるってことなんだが…

 

 

2メートルを超える巨躯に鋭い牙を収めた口はこめかみまで裂けて、全身は真っ黒な体表に覆われ、眼球の無い、ただただ白い眼は真っ直ぐに俺を捉えてる…こんなこと…

 

 

「ありえない、いるはずが無いんだお前は、空想上の生き物だろ?」

 

『言葉に気をつけろ《仁》、現実でお前が死ぬかどうかは俺様にかかっているんだぞ』

 

「でも…なんで…」

 

『俺を知ってるんだろう?俺もお前を知ってる、お前は前世の記憶を持っていて、その前世では俺たちシンビオートはコミックでの存在なんだろ?』

 

「なんで知って…」

 

『知ってるさ、お前の事はなんでも…お前に取り憑いた瞬間に記憶を覗かせてもらったが、ただお前の知ってるコミックとは少々違う感じだがな』

 

 

こいつは現実と言っている…だとするとここは俺の頭の中で、あのライフ財団の治験はこいつの…適合実験の為…

 

まさかシンビオートがこっちで実在するとは…ありとあらゆる生物に寄生し宿主に力を与える代わりに強烈な飢餓感を与え、宿主を凶暴にさせるエイリアン…それが俺の体に?

でももしそうなら…こいつは…

 

 

『ああ、そうだお前の考えてることはなんでも分かる…』

 

 

凶悪な笑みと舌なめずりをしながらコイツは言う

 

 

 

 

『俺はヴェノムだ』

 

 

 

ああ、ちくしょう。

 

 

『…自己紹介をありがとう、ヴェノムさん、で?アンタは何が望みなんだ?俺を食べるのか?』

 

『そうしたいが事情が変わった、俺はもう疲れたんだ』

 

『疲れた?』

 

 

何故だろう、らしくないな…ヴェノムといえば凶暴ながらも悪を許さないダークヒーローだったはずだ、なのに疲れた?生存本能の塊なシンビオートが何故…

 

 

『お前の疑問も最もだ、俺はライオットと引き分けにまで持ち込んで奴の野望を阻止したが、奴を殺すまでには至らなかった…』

 

『待って、戦ったって事は…前の宿主は…』

 

『…俺は…俺はエディを…アイツを守れなかった、アイツとなら負け犬の俺も変われると思ったが…最後の最後でアイツは俺を助けて自分が死ぬ道を選んだ、ライフ財団のトップのカールトン・ドレイクを道連れにな…だがその後に俺はライオットが操る新しい宿主に捕まった』

 

 

エディ・ブロック、彼は最もヴェノムとして生きたヒーローのはず、コミックではスパイダーマンとの確執があったものの、根は善良な人間だった筈だ、その彼が…

 

 

『ライオットに捕まった俺は散々実験材料に使われた、お陰で今でも意識が消えそうだ、だがそうなる前にせめて最期の宿主は生かしてやろうと思ってな…エディが俺にしたようにな…』

 

『…それってつまり…俺がヴェノムに?』

 

『お前が思うのと多少違う、お前が宿主になるんじゃない、お前はシンビオートになるんだ、俺の記憶と能力を受け継いでな』

 

『はあ!?』

 

『驚いてるが拒否したらお前は死ぬだけだ、今現実では死にかけてるお前を生かしてるのは俺だ、お前が拒否すればお前の身体から出た俺は自己崩壊し、お前も出血多量で死ぬ、今ここで決めろ、もう時間が無い』

 

 

冗談じゃない…と言いたいところだが、こっちにも選択肢が無いみたいだ、このままじゃ…まだ俺は…

 

 

 

 

家族のもとに帰りたい、妹との約束がある、こんなとこで死んじゃいられない。

 

 

『OK…やってくれ』

 

『…分かった、一つ忠告だ、……宿主は大事にしろ』

 

 

グアッ!!

 

 

ヴェノムは俺の両肩を掴み口を限界まで開ける、涎が滴り、今にも喰われそうだが俺は変に落ち着いていた、これからどうなるとかあまり考えないようにしながら俺は…

 

 

 

 

ガブリ

 

 

 

 

《ヴェノム》になった。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

二課 司令室

 

 

 

『突然の連絡を済まない、特異災害対策機動部二課の諸君…私はニコラス・J・フューリー』

 

「自己紹介痛み入る、俺は特異災害対策機動部二課の総司令官、風鳴絃十郎だ。」

 

 

先程突然通信を送ってきた人物の顔が画面に表示され、精悍な顔つきをした中年の黒人男性が映し出されていた、片目にアイパッチを付け、男らしいヒゲを蓄えている。

 

 

『もちろん知っている、君がとても強い事も、あの風鳴の人間という事も』

 

「俺をあまりあそこの連中と一緒にしないでくれ、それでフューリー氏、俺たちに何の用か?」

 

『まずは我々の組織の自己紹介を、我々はS.H.I.E.L.D.、国連所属の組織だ。』

 

「…なら、国連からの差し金というわけか、狙いは…」

 

『いや、聖遺物に兵器的な興味は無い、我々の目的は人類の恒久的な平和を影から支援するのが一つ、そして危険な兵器や装置を秘密裏に処理して、無駄な被害や死者を減らすのがS.H.I.E.L.D.だ、君も心当たりがあるんじゃないか』

 

 

そうフューリーに言われ絃十郎は少し言葉に詰まってしまう、なにはどうあれ先日のネフシュタンの鎧の起動実験を許可したのは自分で、仕方ないとはいえそこに多くの民間人をライブという名目で呼び寄せ、結果無実の人々が多く死んだ。

 

 

『君を責めているわけじゃ無い、君も良かれと思ってやった事だろう、…話が逸れたな、私は君たち二課と協力したい、そうすれば多くの人々を救えるはずだ』

 

「他国の…しかも国連管理下の組織を信用しろと?」

 

『その点は抜かりない、国連からの非難されるのは慣れているし、どうとでもなる』

 

「…」

 

『疑うのもわかる、そこで今日はある情報を持ってきた、この映像を見てほしい』

 

 

ピッ

 

フューリーが言うと二課のある端末にある映像が映し出された。

 

 

『これは先日のサンフランシスコ空港で撮られた写真だ』

 

「っ!これはっ!」

 

「間違いないわね、これは…」

 

 

フューリーから送られた写真に写っていたのは服装こそ変わっているが天羽 奏が画面に映し出されていた。

 

 

『彼女は数日前にアメリカで確認された、元々著名なアーティストであった彼女だ、特定は簡単だったが…』

 

「彼女に何かあったって事ね?」

 

『調査に向かい、彼女と接触したうちのエージェントが攻撃された、今もICUにいる』

 

「奏君が!?そんな馬鹿な!彼女は気が強い性格だとはいえ、そこまで人をいたぶる子では無い!」

 

『…次の映像を送ろう、これは負傷したエージェントが命からがら持ち帰った物だ…君には辛い事だろうが見てほしい』

 

 

そんな事ある訳が無い、と絃十郎は息巻き動画を再生する。了子も一緒に見る映像にはとんでもない光景が写っていた。

 

 

ーーーー再生ーーーー

 

バリバリッ ムシャムシャ ゴクンッ

 

 

おおよそこの辺りに似つかわしくない何かを食べる音が響き渡る、周りにはおびただしい量の血が飛び散り、手や足、ぐちゃぐちゃに歯型がついた臓器、バラバラ死体が転がっている。

 

 

場所は深夜の工事現場、月の光が明るくあたりを照らし出し、画面には奏と弓を持つブロンドの男性が向き合っている

 

 

『よう、君は天羽奏さんかい?』

 

『……』

 

『沈黙は肯定だな?俺はバートン、まぁ大雑把に言えば国連のエージェントだ、世界でそこにいるはずのない人間や、怪しい奴の調査が今の俺の任務だ』

 

『…』

 

『正直に話せ、お前サンフランシスコで何してる、この真夜中に、しかも口元は血で汚れてる、ナニか食った後みたいにな…日本の歌手のはずじゃなかったのか?それとも引退か?協力するんなら大人しくついてきてくれ、手荒なことはしたくない』

 

『……さい』

 

『……交渉決裂ってわけか…』

 

『…うるさい下等生物だ』

 

 

エージェントバートンは天羽奏から発せられる殺気にいち早く気づき、獲物のコンバットボウで鎮圧用の電気ショック矢を額に命中させる。

 

 

『ふん、こんなものでこの俺が止められると思うのか?』

 

『…おいおい冗談キツイぜ』

 

 

矢を引き剥がした天羽はバートンを睨み付けると前傾姿勢になり唸り始める。

 

『AAAAAAARRRRGGG!!』

 

 

奏の身体中から鉛色のドロっとした液体が噴出し、身体を包み込む、その姿は二課の人間には記憶に新しい憎むべき、あのライブに現れた敵の姿だった。

 

 

『…へぇ、そっちのが本体ってワケか、さっきのが可愛くて俺は好きなんだが』

 

『減らず口を、俺たちの食料の分際で、家畜は家畜らしく喰われろ!!』

 

『っ!!』

 

 

化け物は腕を鎌に変形させ横に一直線に薙ぐ、バートンは素早く身をかがめ距離をとり、殺傷用の装備に切り替え、タングステン製の矢をお見舞いする。

 

 

ガガッ!!

 

 

『フン、からかっているのか?』

 

『…キャプテンのシールドよりは柔らかいと思いたいね、クソが』

 

 

化け物は勢いよく心臓部に向かった矢を体で受け止め、更に攻撃を続ける、バートンも負けじとオリンピック選手顔負けの運動能力と弓術で対抗するが、無尽蔵のスタミナを誇る化け物に対してあくまで人間の、しかも弾数が限られている弓での戦い、次第に傷を負っていくバートンはついに化け物に捕らえられ、締め上げられてしまった。

 

 

『ふん、宿主としては悪くない出来だな、この出来損ないの女よりも屈強だ、喜べお前は俺の乗り物になる…』

 

『クソッ!!…はぁっ!…お前は一体なんなんだ…!!』

 

 

化け物はニヤリと口角を釣り上げ、おぞましい歯並びを見せつけながら言う

 

 

 

『私はライオットだ』

 

『っ!ぐあぁぁああ!!』

 

 

自己紹介を終えたライオットはバートンの首を掴み上げ、まるで乗り移るかのように身体を液体化させつつバートンの中に入っていく、映像を記録するカメラには満足そうなライオットの表情が映し出され、オペレーターは勿論、絃十郎でさえ恐怖を覚えた。

 

バートンの命もこれまでか、力の抜けた身体によりカメラは地面を向き、絶望しか映し出さなかったが、コロンと缶ジュースのような容器が転がってきた、が吹き出したのはジュースではなく凄まじい光と音をが飛び出し、次にカメラに映ったのは苦しむライオットと星条旗が描かれた円盤だった。

 

ガンッ!!

 

 

『AIEEEEEE!!』

 

『クリント!』

 

 

スタングレネードと円盤の連携に苦しむライオットを尻目にバートンのカメラに新しい人物が映る、身体をネイビーブルーに包み、心臓には星を描くコスチュームと側頭部に羽が書かれたヘルメットをつけた美しい青い目をした男性。

 

 

『こちらロジャース!クリントを見つけた!敵も一緒だ!至急医療班の手配を!』

 

 

インカムで素早く連絡すると同時に、ぽいっと、もう一つスタングレネードを投げ円盤もとい、シールドを回収した男はファイティングポーズをとる。

 

 

『お前は光か音が苦手らしいな!』

 

 

ガィィイイィィンッ!!

 

 

男は場所が工事現場なのを利用して、鉄骨に自分のシールドを叩きつける、ライオットは普通の人間よりもスタングレネードに大袈裟に苦しんでいた、ならば光か音どちらから試そうと、人間でも耳障りな音を叩き出した。

 

 

『AAAAAAAAA!!』

 

『苦手なのは音か!』

 

『クソ!未だ栄養が足りないか!人間!この借りは必ず返すぞ!』

 

 

戦況が不利と見たライオットは、化け物じみた脚力で工事現場を離脱、流石の男もあれは追えなかったようだ。

 

 

『クリント!クリントしっかりしろ!』

 

『…ああ、キャプテン…悪い、ドジ踏んじまった…』

 

『いいから喋るな、すぐ救援が来る』

 

『それよりもカメラのデータをフューリーに…』

 

『分かった、だが今は君が優先だ、踏ん張れクリント!』

 

 

ーーー再生終了ーーーー

 

 

映像が終わり、二階の面々は誰も口を開く事が出来なかった。

 

 

『…我々はこの人間を宿主にする生物を探している、君たちが接触したのはこの…ミス天羽が人間だった頃にライオットと戦ったと我々の資料にはある…』

 

 

ダンッ!!

 

 

無慈悲に伝えられた真実と己の無力さを噛み締めても、それでも自分が許せない絃十郎は思わず机を叩いてしまうらそんな事をしても天羽は帰ってこないというのに。

 

 

「…絃十郎クン」

 

「…すぅ、…ああ、ありがとう了子君…フューリー氏、我々二課はあなた方S.H.I.E.L.Dに協力しよう…」

 

『分かった、感謝する』

 

「だが!天羽奏の事は駆逐ではなく捕獲し、そのライオットを取り除く事を大前提として欲しい」

 

『…現状での方針はそうしよう、だがこれ以上死人と怪我人が出た場合は…』

 

「分かっている、こちらも覚悟を決める」

 

『ああ、こちらも常に監視を怠らない、何かあれば連絡をする、それでは』

 

『ああ、それではフューリー長官』

 

 

ブツン

 

 

再び黒くなったディスプレイを睨みつけながら絃十郎は息を吸い気合を入れた。

 

 

「至急、緒川を呼べ、それと藤堯はSHIELDについて調べろ、そして……この事は翼に伝えるな」

 

「!、良いの?絃十郎クン?」

 

「アイツに奏君の相手など出来るわけがない、幸いライオット相手ならノイズと違って俺にも勝ち目はある、いざという時は俺が…」

 

 

厳しい表情を浮かべる二課の面々、その中でも絃十郎は悲しそうな表情を浮かべるが、この二課のトップとして責任を己が両肩にかけて拳を握った。

 

 

 

 

 

 

「共生する寄生虫…中々厄介ね…あの子を使いましょうか…」

 

櫻井了子の独り言は絃十郎に届く事なく落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

エイジャックスは不機嫌だった。

 

 

今日はどうでもいい実験を一つ終わらせてノルマを達成し、とっととアメリカに帰れるはずだった、それなのにシンビオートの実験が入りその結果報告をしなければならないのだ。

 

 

ガシャン!!

 

 

「おい、結果はどうだ、奴は死んだか?」

 

 

先程、シンビオートの適合実験を行った強化ガラス張りの実験室に入り、あたりの研究員にぶっきらぼうに聞く

 

 

「ええと、なんと言ったらいいか…」

 

「なんだ?」

 

「本来シンビオートは適合する際に宿主を食べないはずなのですが…」

 

「なんだ?見せろ!」

 

 

無理矢理研究員のノートパソコンを奪い、実験記録を再生する。

 

 

映像はシンビオートを立花仁に注入したのちのものを流す

シンビオートを注入された立花はもがき苦しむがその後には頭から溶けるように黒いスライム、シンビオートに変化してしまったのだ。

 

 

「これは、シンビオートの新しい性質だと推測され、恐らく極限状態の自分のために宿主を餌に…」

 

「もういい黙れ、上には経過観察すると伝えろ、俺は自室に帰る」

「えっ、あ、はい…」

 

 

 

エイジャックスは研究室を出た後、ガラス張りの実験室の中には、黒いスライムが元気よく動き回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




奏生存ルートですね、間違っちゃいませんよね。

それと今回から後書きで小ネタの説明をばさせていただきます。
『わけがわからんぞ!』と思うところはどんどん質問してください。

・ニコラス・Jフューリー
shield長官でお馴染みのサミュエルLジャクソン氏が演じるニックフューリー長官ですね、胡散臭いことで有名な上司ナンバー1かと


・エージェント・バートン
本名クリント・バートン、いわゆるホークアイですね、超人的な弓術がウリのスーパーヒーローです。映画ではジェレミー・レナー氏が演じられてます。

・星条旗のシールドを持つ男
はい、キャプテンアメリカです以上!分からない?じゃあキャプテンアメリカファーストアベンジャーとキャプテンアメリカウィンターソルジャーとシビルウォーキャプテンアメリカとアベンジャーズとアベンジャーズエイジオブウルトロンとアベンジャーズインフィニティウォーを観ましょう。俳優はイケメンのクリス・エヴァンス氏が演じてますね。


それではまた次回



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