実力至上主義の教室に不登校経験者が出席する   作:イタチ丸

1 / 2
プロローグ

『人は平等であるか否か』

 

今、現実社会は男女の間は常に平等であると煩く主張し、子供たちに無理矢理叩き込ませる。

実際、それは本当に正しいことなのだろうか。

男と女は能力も違えば役割も違う。前までは男は仕事、女は家事と言われてきていたのだ。

障害者という言葉は差別用語であるとして障がい者に言葉を改めるように言われているが、そんなことをしたところで言葉の意味は変わらない、結局は『障害を持った人間』という意味なのだから。

 

俺がこの問題に答えるとするならば否であろう。人は自分勝手、平等なんてことは初めから思ってもいないのだ。

嘗て過去の偉人が、天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず、という言葉をこの世に生み出した。しかし、これは平等を主張した意味ではない。

有名すぎるこの一節には続きがある。それは、生まれた時は皆平等だが、身分や価値観に違いが出るのはどうしてなのか、と疑問を浮かべている。

そして、更にその続きには、差が生まれるのは学問に励んだのか励まなかったのか。そこに違いが生じてくる、と。

それが小学校の教科書にも載っている『学問のすゝめ』の一節の続きだ。

そして、その教えは今現在において何一つ事実として変わっていない。それどころかより複雑かつ深刻化している。

何が言いたいのか、兎にも角にも人間というものは意思を持つことの出来る生き物だ。平等でないからと言って不平等のまま生きていくことが正しいことだとは思わない。

つまり、我々の主張している平等は偽りのものだが、不平等もまた受け入れがたい事実であるということ。

今、我々は偽りのない平等を主張しなければならないという永久の課題を与えられているのかもしれない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四月。入学式。

バスの揺れというものは、何故人間を煽るように睡魔を与えるのだろうか。

特に座席に座った時、ぐらぐらと激しいものでもなく、逆に非常に大人しいものでもなく、揺り籠のようにゆらゆらと優しく揺らしてくる。人間を赤子扱いする揺れが何処か腹立たしい。

 

所で、何故バスの揺れの話題を出したか。単純に俺が学校に向かうバスの中で爆睡していたからだ。

とは言ってもせいぜい10分位の間だろうか。辺りが人が増えてきたのか随分と賑やかになっていたのと、頭部に硬いと柔らかいの中間という感触を得たため、ゆっくりと目を開ける。

俺が乗っていた時の倍くらい乗車数が増えていた。その殆どが高校の制服、それも俺が通う学校の制服を着ている人も少なからずいた。

 

そして、感触の主を探るべく起き上がり、振り向くと……

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

俺の隣には見る人の目を引き付けて止まない煌びやかな銀色の髪をした、俺と同じ学校の女子が本を読んでいた。

つまり、俺は爆睡中、彼女の肩を借りて寝込んでいたということになる……。

そう考えると、普段物事に感情を抱かない俺は、あまりの情けなさと恥ずかしさで顔を赤く染めているだろう。

この場合、どう対処すれば良いだろう。取り敢えず謝っておけば何とかなるだろうか。

 

「……あ、あの、すんませんした」

 

「いえいえ……ふふっ、気持ち良さそうに眠っていましたね」

 

「寝不足、なもんで……」

 

まさかそんな返しが来るとは思ってもいなかった。

女子に笑みを浮かべながら揶揄い交じりに言われるとなると先程の感情が更に増してくる。嫌なら嫌と素直に言って欲しいんだけどな。

 

それから彼女とは特に会話もなく車窓の景色を眺めていると背後から揉めている声が聞こえた。

 

「席を譲ってあげようって思わないの?」

 

OL風の女性が優先座席に堂々と座っている男に注意しているようだった。真横にはさっきの年老いた老婆がいた。

因みに、この男も俺と同じ学校制服を着ていた。

 

「そこの君、お婆さんが困っているのが見えないの?」

 

OL風の女性は、優先席を老婆に譲ってあげて欲しいと思っているようだった。

 

「実にクレイジーな質問だね、レディー。何故この私が、老婆に席を譲らなければならないんだい? どこにも理由はないが」

 

「君が座っている席は優先席よ。お年寄りに譲るのは当然でしょう?」

 

「理解できないねぇ。優先席は優先席であって、法的な義務はどこにも存在しない。この場を動くかどうか、それは今現在この席を有している私が判断することなのだよ。若者だから席を譲る? ははは、実にナンセンスな考え方だ」

 

何とも高校生らしくない喋り方だな。それに絡まれたらめんどくさそう。

 

「私は健康な若者だ。立つことに然程の苦は感じていない。だが、座っている時よりも無駄な体力を消耗するのは明らかだ。無意味で無益なことをするつもりにはなれないねぇ。それとも、チップを弾んでくれるとでも言うのかな?」

 

「それが目上の人に対する態度!?」

 

「目上?君や老婆が私よりも長い人生を送っていることは一目瞭然だ。目上とは年上ではなく、立場が上の者をさすのだよ。それに君も私の年上とはいえ、随分とふてぶてしい態度ではないか」

 

「なっ……あなたは高校生でしょう!?大人の言うことは素直に聞きなさい!」

 

「あ、あの、もういいですから……」

 

老婆もこれ以上大事にしたくないと思ったのか、女性を宥め始める。しかし、高校生に侮辱された女性は怒り心頭のようだ。

 

「どうやら君よりも老婆の方が物わかりが良いようだ。いやはや、まだまだ日本社会も捨てたものじゃないね。残りの余生を存分に謳歌したまえ」

 

無駄に爽やかなスマイルで言い放ち、少年はイヤホンをガンガンにして音楽を聞き始める。

まあ、少年の言っていることは道徳的な面を除けば強ち間違いではない。結局、老人に席を譲らなかったというのは少しモヤモヤするが、確かに席を譲る義務というものはどこにもない。

OLが必死に涙を堪えているとそこへ、思いがけない救いの手が差し伸べられた。

 

「あの……私も、お姉さんの言う通りだと思うな」

 

今度は女性の横に立っていた少女が勇気を出して少年へと話しかける。彼女も同じ高校らしい。

 

「レディーに続いてプリティーガールか。どうやら、今日の私には女性運があるらしい」

 

「おばあさん、さっきからずっと辛そうにしているみたいなの。席を譲ってもらえないかな?余計なお世話かもしれないけど、社会貢献にもなると思うの」

 

「……成る程、中々面白い意見だ。確かに年寄りに席を譲ることは、社会貢献の一環かも知れない。だが残念ながら私は社会貢献に興味がないんだ。私はただ自分が満足できればそれでいいと思っている。それともう一つ。このように混雑した車内で、優先席に座っている私を悪者にしているが、他の座席に座っている者はどうなんだい?お年寄りを大切に思う心があるのなら、優先席かそうでないかの違いは些細なものだと思うのだがね」

 

やはり少年の堂々とした態度は崩れることはなかった。

しかし、真っ向から立ち向かった少女も挫けることなく

 

「あの、どなたか席を譲ってあげて貰えないでしょうか?誰でもいいんです、お願いします!」

 

この一言を言い放つのに、どれだけの勇気と決断、思いやりがいることだろうか。少女のとる行動は決して簡単なものではない。乗客の1人は必ず「うっぜえなあ……」とか思ってる奴もいるだろう。しかし少女は、臆することなく真剣に乗客へと訴えかけた。

しかしながら、席を譲ってと言われて「はい譲ります」と言える人なんてほとんどいないだろう。逆にいたら口論の時間はなんだったんだってことになる。

俺も動こうとはしなかった。俺にとってはその行動は必要ない、デメリットでしかないと思ったからだ。

今の老人たちは、これまで日本を支えてきた紛れも無い功労者だろう。

しかし俺たち若者は、その国をこれから支える重要な人材だ。

年々進んでいく少子高齢化社会をよく考えれば、老人と若者、どちらが今必要とされているかは考えるまでもない。

それと日本関連でもう一つ意見を述べさせて欲しい。俺は日本人は積極性のない生き物だと思っている。

その理由は、『誰か』がしてくれるだろう、そんな風に日本人は考えてしまうからだ。

日本人は1人だけ違うことをすることに恐れや不安を感じることがある。

例えば多数決で決める時、『Aさんが良いと思う人は拍手をして下さい』と言われたとして、その瞬間、多数の人たちが拍手をしたとする。自分はBさんが良いと思ったから拍手をしなかった。だが、段々自分が間違っているという不安、「おい、何であいつだけ拍手してないんだよ」と軽蔑されるかもしれないという恐怖で後から自分も拍手をしてしまう。そんな経験をしたことはないだろうか?

例え間違えていても、多数が間違えているのだから仕方ない、そう言い訳をすることも出来る。そう考えてしまうのが日本人の特徴だと思っている。

今起こっている、席を譲るという場合でもそうだ。周囲が誰も譲らないという不安、「席譲るんだったら揉める前から譲ってやれよ」と言われるかもしれない恐怖で乗客全体が悪い空気を作っているのだ。

 

「あ、あの……この席、よければどうぞ」

 

 

やがて一人の女性が手を挙げて席を譲った。呼びかけていた女子生徒はお礼を言い、お婆さんをそこの席に座らせる。

華々しい高校デビューがこんなトラブルから始まるとは、この先ロクでもない1日を過ごしそうだな……。そんなことを考えながら、バスが目的地へと辿り着く。

混雑のせいで急いで降りようとする人も中にはいた。俺はそれを避けるために後から降りることにした。

 

「あ、あのっ……!」

 

不意に声をかけられた。声の主の方へと振り向くと隣に座っていた少女がこちらを見つめていた。

 

「貴方も新入生、ですよね?良ければ一緒に行きませんか?」

 

……え、マジで?まさかさっき迷惑かけちゃった奴に誘われるとは思わなかった。

だが、この先迷ったりする可能性があるので、一人で行くよりかは複数で行った方が安心感がある。結果、共に行くことにした。

 

「なあ、あんたはああいうトラブルとか気にしないのか?めっちゃ静かに本を読んでいたけど」

 

「……トラブル、ですか?そんなことありましたっけ?」

 

気づいてなかったらしい。集中力が高いのか天然なのか……どちらにしろ、この少女は独特の雰囲気を醸し出している。

最近の女子は色々と怖いのが多いと思っていたが、彼女に恐怖は全く感じられない。気軽に話せそうな子だ。

 

「あ、そういえば自己紹介するのを忘れていました。私は椎名ひよりと申します。クラスは1年C組です。これからよろしくお願いしますね」

 

「……成滝翔也。クラスは確か1年D組。よろしく」

 

他クラスではあるが、久々に友達作りをやって、成功した。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。