Fate/Apocrypha Nintulak En 作:メリー・プランクター
召喚まで後2週間といったある日の夕時、カウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニアは城壁の上に来ていた。
なんてことはない、ただの散歩。街一番の高台にあるこの城から眺められる景色をカウレスは自分でも意外なほど気にっていた。これからのことに対する逃避ではと言われては返すすべはないが気晴らしくらいは許してほしいというのがカウレスの思うところである。
そもそも、カウレスのすべき事は終わった。と言ってもやる事は触媒を用意するくらい。後は姉──フィオレの手伝いをするくらいのもの。それも大したものではない。
「ん?」
カウレスが景色を眺めながら歩いていると思わぬ人物が目に入った。ロシェ・フレイン・ユグドミレニア、先行して召喚したキャスターとランサーの内キャスターのマスターだ。自分と同じ様に散歩かなとは思ったがどうも違うらしい。頬を膨らませて仏頂面なそれはどう見ても景色を楽しんでいる様には見えない。
「よう」
ここでカウレスの好奇心が刺激された。カウレスの記憶が正しければフレイン家の人間は生涯工房に籠もっている事が多いはずだ。そうでなくともこのロシェという少年がゴーレム、自身の魔術の研鑽以外にさして興味がない事は定期的に開かれている会合の様子でわかっていた。
そんなロシェが(おそらく)嫌々ながらこんな所にいるのは不思議だったからだ。
「たしかフォルヴェッジ家の──」
「カウレスだ。一緒に戦う仲間なんだし覚えていてほしいな」
「ああ、そうだ。カウレス」
差し出した手は思ったより素直に取られた。元々期待してなかったが、多少覚束ない様子ではあった確かに握手を交わしたのは意外に思えた。
「それで、何の用?用がないなら──いや、いいや。僕も暇してたから丁度いい」
「暇ねえ、何でこんなところに居るんだ? いつも工房にいたと思っていたけど」
ロシェの顔がひどく歪む。やはりといったべきかここにいるのは本意ではなかったらしい。
「キャスターだよ。追い出された」
「ああ、なるほど」
カウレスは納得してしまった。なるほど確かにあのキャスターならしかねない、そういった確信に似た信頼のようなものをカウレスは抱いていたので疑問はスッ消え納得してしまった。
「『工房に籠もるな、外に出て行け』ってさ。魔術師に工房に籠もなっておかしくない? そのくせ自分は工房で作業しているんだから笑わせるよ。大体、僕はゴーレム作っているのが楽しいのに外に出て何しろっていうんだか。放り出すくせに何をしろともどこに行けって言わないからどうしていいのかも分からないし」
「ははは」
捲し立てる様は話す様子からしてロシェはかなりの鬱憤が溜まっていたらしい。これには苦笑しかない。きっとあのキャスターに直接言う勇気はないのだろう。カウレスもそんな勇気は持ち合わせていない。あの海色の瞳を直視して文句を言うなんて出来ない。
バーサーカーを呼び出す予定のカウレスとしてはあまり心配する様な問題ではないが、ランサーやキャスターといった我が強烈なサーヴァントを見ていると不安にならなくもない。
「キャスター、か。正直あんまりキャスターっぽくないよな。なんていうか踊り子か祈祷師みたいな見た目だし」
「本当に、僕としてはあんなの呼び出すつもり無かったんだけどね」
「え、そうなのか? 」
目を丸くして驚くカウレス。カウレスはてっきり自分で聖遺物を探し出して召喚したものだと思っていたが違うらしい。カウレスやフィオレは自力で聖遺物を探し出した。もちろん指定された条件はあったが、特にカウレスは急遽マスターとなったこともあって探し出すのに苦労した記憶があったので、探し出したのが自分ではないような口ぶりには心底驚いた。
「うん、本当はアヴィケブロンを召喚するつもりだったんだ」
「へえ」
なるほど、確かに道理だ。一般的な知名度はともかく、魔術師の間ではアヴィケブロンの知名度は言わずもがなだし、カバラ引いてはゴーレム造りの達人だ。ロシェが求めるのも分かる。
「けど、ダーニックがキャスターの聖遺物を渡してきたからそっちにしたんだ。別に興味なかったし。けど、今なら間違いなく断ってるだろうけど」
「だろうな」
その後も何でもない談笑をロシェ続ける。昨日の晩御飯がどうだったとか、取り留めのない話だ。
「今日もさ、果物が食べたいって言って果物の盛り合わせを取りに行かされたんだけど、ブドウがないって怒るんだ」
「それはたい、へんだった、あ」
ふとロシェの数歩後ろの床をカウレスが見ると見覚えのある顔が半分だけ見えた。
キャスターがいた。
キャスターは音も立てずゆっくりと波打つ床から出てきてそれに比例してカウレスの顔から血が引いていく。
白いビキニの様な簡素な服と腰布。その黄金比に近しい身体を際立たせる。また覆っている面積が少ないためラピスラズリの様な色の入れ墨が隠されることなく伺える。頭には葡萄の葉を模した黄金の髪飾り、ラピスラズリと金をネックレスや腕輪を身に着け着飾っている。そして、長い銀髪は風にたなびかせている。
もはや常人の域を超えた容姿。それも当然、かつて人々が神の元で育っていた頃に生まれ本物の神代の人間なのだから。そして、神々からの決別から初めて人の中から王になった人間、
しかし、その顔からは表情が消えて能面の様になっている。カウレスはこういった顔をよく知っている。小さい頃、姉を太ったんじゃないかとふざけてカラカッタ時、似たような表情をしていた。その後のことはカウレスのトラウマになったことからどれだけ恐怖を持ったか簡単に想像できる
「ん? どうかした? 」
「え!? いや、なんでもない。けどキャスターにも何か事情があるんじゃないのかな? 」
カウレス自分でも驚くほど震えた声だった。普通の人間ならすぐにおかしいと気がつくほどだがここでロシェの対人経験の薄さが災いした。
「ないよ。自分勝手なわがままなだけだよ」
「ハハハ」
終わった。もはや弁明できない。
「そうか、ではもっとわがままなサーヴァントに付き合ってもらおう」
「え? 」
その声にようやく振り向いて自身のサーヴァントを認識するロシェ。
「いや、その、僕は」
「私は怒っていない。ただ、少し私に対する認識を聞きただけだ」
キャスターは足払いでロシェの体を浮かすと小脇で抱え立ち去っていく。
「ふう」
自分が助かったという事実に安堵の息をつく。そして、抱えられたロシェを見送りながらカウレスは十字を切った。ロシェが喚いているが逃れることは叶わないだろう。
その様子を眺めながらふとカウレス思った。フレイン家はほとんど人かかわらない教育方法をしていると聞いたが、さっき話したロシェは大人びた風ではあったものの年相応の少年に思えたのだ。
◆◆◆
私が生まれた時代はまだ神々が闊歩し人が理不尽に死んでいく時代だった。そんな神代の末期、私はウルを収める王家に生まれた。当然、女である私が王位を継ぐことはないはずだった。そもそも先に生まれた兄もいた。なるならばナンナの巫女長がいいところ。しかし、
ただ、一人を除いては、
「ウルクのギルガメッシュ様に挨拶行くついてきなさい」
「はい、お父様」
10になる頃だろうか、父に言われウルクに出向くことになったのは。父、メスカラムドゥグが持っている王位はメーなき王位。いわば代理人に過ぎない。真の王位を持つのはウルク王 ギルガメッシュその人に他ならなかった。
「お父様、ギルガメッシュ様はどのようなお方なのですか? 」
「うむ、最後にあったのはニップル詣でだったか。そうだな、一言で言うなら素晴らしき方だ。幾人もの賢者と言われる者に会ったがギルガメッシュ様の前には敵わない。どこまでも先を見通し、どこまでも人を見抜く。その力を万民に雨の様に注ぐ賢王といえる」
「まあ、なんて素晴らしいお方なのかしら」
幼かった私はその言葉にはしゃいだ。神々が作られた人と神の間の子、我が個人神 アヌ、都市神 シンすら凌駕するのではないかと思った程だ。
「メスカラムドゥグ様、メスアンネパダ様、謁見の時間です」
「うむ、分かった」
「わかりました」
従者に導かれウルクの壮大なジグラットの奥に進む。その最深にして最上の人に傅く。チラリとみえた顔は逆光でよく見えなかったもののその黄金の髪はよく見えた。
「メスカラムドゥグでございます。この度は拝顔の許可、有り難く申し上げます」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。本当はもっと早く通すつもりだったのですが思いの外立て込みまして、そちらが貴方の? 」
「はい、アヌ神に私の後継に選ばれた娘のメスアンネパダです。ご挨拶にと」
「メスアンネパダです」
「へえ、女の子ですか。珍しいですね。顔を上げてもらっていいですか。よく見えないので」
「はっ」
ゆっくりと顔を上げた私に微笑んでいた優しい小さな王。まさかこの王がアレになるなんて思いもしなかった。
Qなんで女なの?
A名前が悪い