PERSONA5 ORIGINAL ~笑う骸と銀の蝶~ 作:ウィーン-MK-シンくん
「なるほど、ワガハイが居ない間にそんなことになっていたのか」
来栖暁にそう声を掛けたのは右肩にかかった学生鞄――ではなく、そこから首から上を出した黄色のスカーフが特徴の黒猫だった。いや、正確には猫とも違うのだが……今は置いておく。
彼の名はモルガナ。現在は鞄に身を潜め、共に暁の通う秀尽学園高校へと向かっている。
どう見ても猫にしか見えない彼だが、普通の猫とは大きく異なる点が一つあった。
なんと彼は人の言葉を話すのだ。「だからワガハイは人間だ」と彼は言うが、その彼がどんな言葉を使っていたとしても大多数の人間の目にはただ猫が鳴いているようにしか認識されない。
なぜならそれは、「猫が人間の言葉を使うことなどありえない」という大衆の認知が存在するためだ。
よって彼の言葉を認識するにはどうにかしてその認知を崩す必要があり、暁たちは認知世界で人語を使う彼の姿を認めたことで対話が可能となった経緯がある。
故に、今の暁はモルガナと話しているに過ぎない。別にただ延々と独り言を続けているわけではないのだ。
「ねえママ~、あのお兄ちゃん誰と話してるのかなぁ?」
「しっ! 見ちゃいけません!」
――閑話休題(それはともかく)。
今でこそ彼は怪盗団の仲間となっているが、もともとは無くしてしまった自身の記憶を探すために人々のパレスを渡り歩いていた。
と、このような理由により暁たちが心を盗む怪盗団として初めて改心させた悪人のパレスに運悪く囚われてしまっていたところを偶然迷い込んでいた暁と今この場には居ない仲間の坂本竜司に助け出されたというわけだ。
そこから紆余曲折あって、現在は暁たちと共に悪人を改心させながら無くした記憶を探している。
暁は先ほどそのモルガナに、彼を除く団のメンバーで話した【織田小雪】について伝えたところだった。
怪盗団が行う改心の対象は全会一致で決める、というのが団発足当初からのルール。なので仮にモルガナが今ここで反対していたら今度は彼を交えた全員で協議を交わす必要があった。――が、やはり彼も優しき団員の一人。
詳しい事情は未だ定かでないが、今も苦しんでいることは明らかである少女の話を聞いて「否」と言う筈もなかった。
「わかった、そういう事ならワガハイも賛成するぞ。っと、それならまず最初のアプローチの方法をどうするかだな……ん、どうした?」
モルガナはいつのまにか、暁が虚空を見つめていることに気づき声をかけた。
暁は何事かを考える時、いつもそのような動作をしていたので気になったのだ。
暁は先日の話し合いで気になっていた、竜司の様子について話した。
「フム……つまり竜司と織田小雪の間には何かがある、ということか」
――たぶん、と暁は付け加えるもその目は確信に満ちていた。
「わかった。ワガハイもそちらに合流した時は気にかけておこう」
――やっぱり、まだこっちには来れないか。
「ああ、すまんが合流はもう少し先になりそうだ。まだ経過を見ておきたいんだ」
――構わない……双葉が心配なのは皆一緒だ。
昨日とその前の日の幾日か、モルガナは怪盗団の活動からは離れていた。
その理由というのが今二人が話題にしている、佐倉双葉である。
双葉は先月の末に心の怪盗団が助けた少女であり、暁の住む喫茶店ルブランの店主(マスター)にして暁の現後見人の義娘にあたる。
彼女は6月の30日から眠り続けており、以降の様子をモルガナに見てきてもらっていた。
保護者(マスター)からは「偶にあることだから心配無い」と聞いてはいたがパレスから帰ってきて間も無かったため、双葉が家に一人になる時間だけでもと用心の意味で一番認知世界の知識があるモルガナがその後の様子見を買って出たのだ。
「そのことなんだが、実は良い報せがある。昨日、双葉の意識が回復した」
――次の作戦で、協力は得られないか?
「むむっ、確かに双葉の後方支援能力はズバ抜けてるが……厳しいと思うぞ。意識が戻ったとはいえ、まだ万全というには程遠い」
――そうか。
少し残念ではあるがちゃんと意識が戻っただけ良かった、と暁は思った。
「まあ心配だったパレス関連のことで体に変調をきたした感じは無かったが、ワガハイが様子を見に行くと決まって熱に浮かされたような顔色になるんだぜ? 無理はさせない方がいい」
――わかった。それならモルガナはしばらく双葉(そっち)を頼む。
「もともとそのつもりだ。お前らも、その小雪って娘をしっかり助けてやれよ」
――任せろ
◆◆
「それじゃあ今日はこれで終わります。日直さん、号令をお願い」
担任の川上貞代がそう声をかけて日直が締めると、ようやく生徒たちは肩の荷が下りたのか川上が教室を出るのと同時に常ある喧騒を取り戻し始めた。
この時点で早めに帰り支度をしていた者たちは既に廊下へ出ており、他は後で部活や委員会がある者がそれまでの時間を読書や友人との雑談に当てている。
そして後ろから二番目に位置する席では、暁がスマホのグループチャットでモルガナがしばらく来れないことを他のメンバーに連絡していた。
__
Akira
『――とのことだ』
Makoto
『そう…それは残念ね。でも良かった。双葉、ちゃんと目が覚めたんだ』
Yusuke
『だがこれでモルガナの言うとおり、ひとまずは安心だな』
Ann
『そうだね。それじゃあそっちはモルガナに任せて、ウチらは最初の作戦に入ろっ!』
Ryuuzi
『だな。暁も問題ねえよな?』
Akira
『問題無い』
Makoto
『そういえば、祐介の学校に行くのは初めてね』
Ann
『あー、確かに。あたしもまだ美術校って見たこと無いんだよね。どんな所なんだろう?』
Yuusuke
『どんな所、か。多少は変わった部分もあるが、普通の学校だぞ。校門で待ってる』
__
暁はチャットを閉じるとスマホはブレザーのポケットに仕舞い、今朝電車に乗る前(モルガナとはその時別れた)より随分と軽くなった鞄を右肩に預けて退室。祐介の待つ洸星高校へ向かうべく、秀尽学園を後にした。
◆◆
――17時より少し前。日が高くなっているこの季節の中では、夕暮れに差し掛かるこの時間帯こそが最も過ごしやすいと俺は思う。
「皆もそう思わないか?」
「いや知らねーし。てか、今はンなこと言ってる場合じゃねえだろっ」
これらの声は上が祐介、応じたのが竜司である。
場所はとある学校の正門、すぐ側にある壁には “洸星 美術高等学校”と刻まれた看板が取り付けられている。
ここまで見ればわかる通り、暁たち怪盗団は同じ団の仲間である祐介とターゲットの織田小雪が通う洸星高校に集まっていた。
その理由は勿論、今回の標的である織田小雪に接触するためだ。
「む、そうだったな。なら早速だが竜司、これを着てくれ」
「? あんだコレ?」
竜司は祐介からおそらく畳まれた衣服と思われる物を受け取ると、ちょうど両端にある袖口の辺りを持つように広げてみた。
それによって姿を現したのは、洸星高校で使われている指定体操服だった。
「先ほど保健室で借りてきたものだ。生憎一人分しか調達出来なかったが、暁には俺のものを貸し出そう」
竜司は暁と共にその場で着替えると、集合時からずっと気になっていたことを口にした。
「そういや、杏と真は?」
この疑問に答えたのは現地で待っていたことから連絡を受けていた祐介だった。
「そのことなら聞いている。お前たちが来る少し前に連絡があってな…なんでも自分の教室まで迎えに来た杏と学校を出ようとした矢先、生徒会へ急な仕事が入ったらしい。その場に居た杏も流れで手伝いに行ったとかで、到着は遅れるそうだ」
「はぁ? ったく、何だってんだよこんな時に。んで、俺たちはここの体操着なんて着てどうすりゃ良いんだ? こんなの着せられた時点で、もうだいたい予想はつくけどよ」
「ああ…。おそらくだが、お前たちの予想通りだ」
『――潜入か』
その暁の言に祐介は「そのとおりだ」、と一つ頷いて肯定する。
「でも、真の作戦にしちゃシンプル過ぎんじゃねえの?」
祐介はこのいつになく鋭い竜司に、少しだけ関心しながらその問いに答えた。
「そうだな。今回の作戦を考えたのは真じゃなくて、俺が考えたものだ」
「『?』」
この祐介の言葉に、暁と竜司は一度お互いの顔を見合わせた後に首を傾げる。
しかし、そうなるのも無理はない。
なんせ暁たち怪盗団の作戦は、先月より怪盗団のメンバーとして参加するようになった女子メンバーの新島真が、参謀役としてそれらを考えるようになっていたのだ。
…にも関わらず、何故その真ではなく祐介が今日の作戦を考えることになったのかを二人が疑問に思うのは当然の帰結である。
だが詳しく聞いてみると、どうやら祐介が作戦を考えたそのことからして真の思惑だったらしく何も心配は無いことが判った。
なんでも真は『これからの怪盗活動を考えるなら自分抜きでのことも想定して、皆も考える練習はしておいた方が良い』と言っていたそうだ。
確かに今日のような事もある以上、これからも不測の事態というのは十分に起こりうる。それを考えると真の言うとおり、作戦を考えられる者を増やしておくのは今後のために悪くないと言える。
「今回、真がの作戦立案を俺に任せたのは皆には無い地の利が在ったからだろう」
「けど、それを俺たちだけで進めんのか? 遅れてくるって言ってんだし、ここは待ってた方が良くね?」
「…いや、織田さんの状態を考えればあまり時間はかけられん。それに織田さんから話を聞かなければパレスを開くことも出来ないんだ。真たちがいつこっちに来られるのかもハッキリとしない以上、今回はここに居る俺たちで進めるしかあるまい」
実際、祐介の言葉は正しい。
時間をかければそれだけ織田小雪の精神は摩耗していくし、パレスの侵入に使う異世界ナビも実はその使用にはパレスを形作っている者の名と場所に加え、そこに対する本人の認知まで入力しなければならないという性質がある。
これらを考えると、確かに織田小雪との接触は急務であると言えよう。
「そう心配するな。大本は俺が考えたと言っても改良はしてもらっている」
「なら…良いけどよ」
「よし、では始めに今回の目標を確認するぞ」
と祐介が取り出したのは、洸星高校の見取り図だった。
「おまっ…こんなのいつ用意したんだよ!?」
「ついさっきだ。今どきの教育機関ならば校内パンフレットなど珍しくもないぞ…、ここだな」
祐介はその見取り図――洸星高校を紹介するパンフレットの案内図に自身の目と指を這わせながら、それらを竜司の疑問に応じつつ目標の場所で留めた。
「いいか? この正面玄関を抜けて突き当りのすぐ左に一学年の教室棟に続く階段がある。ここを上がってしばらく右に進むと空き教室が二つ並んでいるんだが、この内一つを素通りして反対の壁側に手を付いた所が実習棟への連絡通路に出る扉となっている。おそらく、織田さんはその実習棟の第四美術室だ」
「ならそこに今から行けば良いんだな?」
「まあそうだが、ここで真からのオーダーがある。今回の織田さんへの接触は、一名で行うようにとのことだ」
「それが、真の言ってた改良か?」
「ああ。接触役が一人なのは『残った二人にも別の役割があるから』だそうだ」
作戦としては以下のとおり。
1・まず一人が接触役として、織田小雪の居る第四美術室へ向かう。
2・残った二人はパレスの潜入時に効率良く現場に行くため、道順を調べる斥候役と周囲に怪しまれないよう織田小雪に関する情報を集める聞き込み役に別れ、それぞれの役割をこなす。
「そして最後に二つ、注意がある」
祐介はそこで一度言葉を止めて校門の少し先、校舎より手前にある窓が無い詰所のような建物を指さした。
「あそこには常に一人の警備員が立っている。幸い俺生徒を一人一人覚えているわけではないようだから、その体操服さえ着ていれば引き留められたりはしない筈だが」
問題なのは校舎だ、と警備員の居る詰所をさしていた指は、再びパンフレットの案内図に向けられる。
それは校舎の一階、次に注意しなければいけない入り口付近に置かれた。
「この昇降口から右手に職員室がある。言わずもがな、ここは一気に階段まで駆け抜けていくべきだろう」
故にターゲットとの接触役は職員室(ここ)を出入りする教師たちの隙を突いて迅速にここを突破できる者が望ましい、と祐介は考えていた。
流石に教員ともなると祐介たち生徒の顔もある程度は覚えているため、見つかると騒ぎになる危険があるのだ。ならば最速で二階を目指した方が危険も少ないというのが祐介の見立てだ。
「というわけで、接触役は暁に行ってもらうのが良いと俺は思うんだが」
『任せろ』
「なら、俺は周囲への聞き込み引き受けよう。竜司は斥候を――ブフォっ?!」
「『!?』」
頼む、と続けようとした祐介はその直前に遠目で視界に入ったある女生徒を見た驚愕で、つい吹き出してしまった。
だが暁と竜司からすればそれは脈絡も何も無い突然の出来事だったため、こちらのほうに驚いていた。
「おいおい、急にどうしたんだよお前っ」
「ゴッホ、ゴホ……お……さん……おっ……んがッ――ごっほごほっ!!!」
「だーもう、何言ってっかわかんねーって! オッサンがどうしたって?」
と竜司が咳込む祐介の言葉をどうにか聴き取ろうと四苦八苦している横で、暁は祐介が何を見て驚いていたのか先ほどの彼と同じように視線を動かすことで突き止めていた。
『竜司』
暁は二度ほど竜司の肩の上を右のひとさし指先で叩くと、それを校門の先の昇降口の方に向け直した。
竜司も「暁まで何だよ…――」とは言いつつ、素直に振り返って暁の指さす先をその目で追った。
そして、
「…え」
“――ドクン”
竜司の心臓が一つ大きく跳ねる。
しかしそれに続くようにして校舎裏辺りから響いてきた“ゴーン、ゴーン、ゴーン”という総合保管庫(時計塔)の鐘の音は、果たして偶然か。
暁が指し示した校門の向こうにある昇降口から、やや俯き気味にこちらへ歩いてきていたのは、今日彼らが目的としていた人物――織田小雪だった。
「――こっほ、こほ!! くっ、どうして織田さんがっ…想定より一時間早いぞ」
先ほどチャイムが鳴ったことからわかるとおり、今は17時を回ったばかり。
祐介は今日までに織田小雪が下校する最近の時間も調べており、それが完全下校時刻である18時だったことも把握している。
まさかそこから一時間も早く出てくるとは思っていなかったため、事前にそれを調べていた彼には余計衝撃が大きかった。
何にしても、不測の事態によって動揺している今の状況は立て直す必要があると祐介は考えた。
「……仕方ない、ここは一度離れて――、?」
「様子を見よう」、そう続けようとした祐介だったが、校門の先が俄かにざわつき始めたことに気づき、ほんの数瞬の間だけ咳込む祐介に気を取られていた暁と共に目を向けた。
するとそこには軽い人だかりが出来ており、騒動はその中心で起きていた。
「オイっ! しっかりしろよ小雪!!」
「あれは織田さんと……竜司!? いつの間に…いや、それよりも」
――何が起きている?
そこには先ほど対応の再考を決めたばかりの織田小雪と、ついさっきまで自分たちの傍らに居た筈の竜司も居て、祐介と暁は目を剥いた。
だがそれは自分たちが少し目を離している内に織田小雪へ接触しに行っていた竜司に対して、ではない。
驚いたのは、先ほどまでこちらに歩いてきていた織田小雪が竜司の腕の中でグッタリと身を預けるようにして気を失っていたからだ。
この短い間に何が起きたのか、今の段階では見当もつかなかった。
『――、(あれは……?)』
と、そうこうしている内に状況はまたも変化を見せる。
洸星高校の校舎内へと続く昇降口から、(距離があるため、まだ判別できないが)教員らしき一人の男が騒ぎを聞きつけて来たのだ。
「不味いぞ…竜司のやつ気づいてない」
祐介は一瞬自身の懐に意識をやって、そこに入っているスマホで竜司を呼び出そうかと考えるも、もう一度視線を前に戻してそれが間に合わないことを悟る。
見ると既に先程まで人だかりを作っていた生徒たちは皆、険しい顔で自分たちの方へ近づく教師に気づいたようで、一斉に左右へ別れる形で道を開けてしまっていた。
そしてやはりというか、中心に居た竜司は当然のごとくその乱入してきた教師に見とがめられている様子だった。
竜司と教師は数言ほどのやりとりを交わすと教師の方が自身の胸元についた無線機で校門前の警備を呼んでしまったようで、祐介たちの視界に入っていた一人の警備員が現場へ急行していくのが見えた。
「止むを得ん。俺たちも行くぞ!」
祐介と暁は急ぎその後を追って、どうにか気づかれることなく二人はそれまで聞き取れなかった竜司の声を拾える位置にまで辿り着くことが出来たのだった。
「クソ、放せよ!!」
「こらっ、大人しくしろ!!」
見ると既に竜司は先ほどの警備員に取り押さえられており、最早一刻の猶予も無いと考えた二人は一度お互いに目を合わせると暁が頷き、それに祐介が頭を抱えてから溜息混じりに応じる形で、現状の早期打開をすべく強硬策を打つことにした。
祐介は目立たぬようゆっくり人だかりへ近づき、暁も同じようにして祐介とは反対の人だかりの向こうへ回りこんだところで、祐介は大きく声を上げた。
「 見ろ!! 何だアレは!!? 」
突然だが、言葉を交わす生物には一つ、当たり前の共通点がある。
それは意識の外から来る刺激がそれまで認識していた刺激を上回ると、そちらに意識が逸れてしまうというもの。
例えば目覚まし時計。
あれは眠りについていた意識を聴覚への刺激によって覚醒させるものだが、ようはこれも半覚醒状態時などによく出る睡眠欲という刺激から、その意識を逸らしているのだ。
そしてこの現象は先ほど例に上げた睡眠時のような、ある意味一種の集中状態の時ほど起こりやすい。
つまりはこの手法こそ、皆が竜司たちに意識を向けている今の状況には打ってつけと言うわけだ。
「おいそこ!! 何を騒いでる!!?」
『(――ここだ!)』
暁は前もって準備して自身のポケットに忍ばせていた潜入道具【煙玉】を取り出すと、祐介が教師の気を引きつけた瞬間を狙って、勢いよく地面に打ち付けた。
そして、それは早くも効力を発揮して大量の白煙で辺りを包んだ。
「何だ、この煙は!? いったいどこから出てきた!!」
この突然の事態に只なんとなくで人だかりを作っていた生徒たちはもちろん職員も混乱したが、その一方で警備員は多少の混乱は見せたもののやはり学園の警備を担っている性質上それも一瞬のことだった。
しかし、暁にとってはその一瞬で十分(じゅうぶん)。
「ガっ…ハ」
暁は正にその一瞬で竜司を取り押さえていた警備員の背後を取って、首筋に手刀を叩きこんだのだ。
警備員はそのまま小さな呻き声と共に意識を落とし、“ドサリ”と地面に沈んだ。
『――? 行くぞ』
暁は何故か驚いている様子の竜司にそう促すと、尻餅をついていた竜司に手を差し出した。
「……おまえ、容赦ねえのな」
と竜司が一度暁から差し伸べられた手を取って腰を上げると、揃って校門に駆け出す。
そしていつのまにそこで待っていたのかという祐介とも合流する形で、慌ただしくもその場を後にした。
――その後、洸星高校では意識を失った警備員と女生徒が介抱されるのだった。
~続~