PERSONA5 ORIGINAL ~笑う骸と銀の蝶~   作:ウィーン-MK-シンくん

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7/4 驚愕の再会 part2

“ゴーン、ゴーン、ゴーン”

 

 時計塔のチャイムが鳴ると、午前最後の授業も終わりを告げる。

 そして皆が昼食をとるべく思い思いの場所や友人の元へ向かう中、私も自身のお弁当が入った桃色の巾着を持って、窓際の一番後ろの席に座して伏せるこの学校では一番と言って良い友だちに向かい、声をかけた。

 

「ユキ、もうお昼だよ。ご飯にしよ?」

 

「…ああ、もうそんな時間か。ありがとう、シホ(・・)」

 

 とユキは痛々しく包帯の巻かれた手で目元を擦りつつそう言って、机のフックに掛けられた袋から購買で買った焼きそばパンと150ミリの紙パック飲料(ドクダミ茶)を取り出し、同梱されていたストローを『▼飲み口』と書かれた紙パックの挿入口に取り付け、それを一口飲む。

 次にユキは焼きそばパンを食べようとサランラップの包みを解こうとするが、

 

「あれ…っかしいな。ンッッ!」

 

 「ぅ~っ!!!」とユキはどうにか包みを解こうとパンの腹辺りに来ていた先端へ指をかけようとするも、どうやら両手の包帯が妨げとなって上手くいかないようだった。

 そして、私がユキの一つ前の席についてから見守ること一分。

 焼きそばパンは未だ包みの中で、もうユキの目も潤みだしていた。

 

「えーっと…その、開けようか?」

 

 恐る恐る私がそう訊くと、ユキは少し顔を赤らめて「…オネガイシマス」――と、か細い声でラップに包まれたそのパンを両手で私に差し出した。

 そして(特に意味は無いが)私も同じようにそれを両手で受け取って、中の焼きそばが崩れぬよう持ち手の部分は残す形で包みを解いて、それを返した。

 

「クスン……ありがと」

 

 ユキはどうにか涙を収めると、さっそく包みの開け口から頭を出した焼きそばパンを先端から一口齧る。

 すると無意識なのかどうなのか、それを噛みしめる度に頬と目もとが若干緩んでくる。

 私はそんなユキの様子に安堵して、自身も昼食にありつくべくユキと同じ机に置いた巾着袋から二段に別れたお弁当を取り出し、手を合わせた。

 

「いただきます」

 

 私が取り出したのは洸星高校(ここ)の購買で特別に販売されている【無限のランチボックス(定価1800円)】だ。

 しかしこれは当たり前のことだけど“無限の”というのは別に「いくらでも詰め込める無限のスペースを持った五次元ボックス」なんて、魔法めいた意味じゃない。

 ようはお弁当の蓋の部分に好きなデザインを書き込める仕様になっていて、無限の可能性を秘めていることからそんな名前が付いたそうだ。

 あいにく私はまだそこに手を加えたことがないため、今はただ無地の蓋でしかないのだが、いつかは自分だけのお弁当箱に仕上げたい、と私は考えていた。

 

 ――閑話休題。

 

 

 洸星高校は最寄り駅の遠さから基本的に学生寮への入寮を推奨しているのだが、私は諸事情によりこの学校の生徒としては珍しい自宅通いをしている。

 そのためお弁当などはお母さんに用意してもらう方が多いのだが、今取り出したこれは珍しく私手ずから用意したものだった。

 上下に分けられたそれを左右に置いてそれぞれの蓋を開くと、まず目につくのは玉ねぎ、ピーマン、鶏肉をお米と炒め、最後にケチャップで味を付けたチキンライスで、これが正に赤く煌めくルビーのような存在感を主張する。

 そしてここまでくれば自ずともう一つの予想はつくであろう。

 左側がチキンライスとくればもう片方の右側はそう、云わずと知れた黄金色の一品だ。

 

 つまり、何が言いたいかといえば…

 

「オムライスこそ至高ッ!!」

「いや、それはおかしい」

 

 左手で握りこぶしを作りながら力説する私に、ユキは最もらしく返してくる。

 

「だいたい何でご飯のおかずが卵焼きだけなのよ、シホのお母さんってそんなに手抜きだったっけ?」

「ううん、今回は作ったの私だから。でも手を抜いたつもりは無いよ? バイト先で教わった看板レシピだもん」

 

 と私は得意げに右側の厚焼き玉子から一口分お箸で切り取って、それをもう片側のチキンライスに崩して食べる。うん、おいしい。

 

「看板レシピってアンタ……シホのバイト先ってお蕎麦屋さんじゃなかった? 何で蕎麦屋が……って、それ言ったらカレーもそうか」

 

 なぜ蕎麦屋にカレーがあるのか? これがわからない。

 

「シフトは今日も入ってるの?」

「うん、17時から」

「そう…」

「ユキは放課後どうするの?」

「そうだね…どうしようか。こんな手じゃ、部活にも行けないしね」

 

 とユキはそこで自身の手に巻かれた包帯に目を向けると、何故か暗い笑みを湛えてそう言った。

 私はそれを務めて気にしないようにしつつ、「それなら」と誘いの言葉を口にした。

 

「今日は、ユキもお店に来ない? オムライスぐらいならご馳走するよ」

 

 私の言葉に「んー」、とユキは虚空を見つめてしばし黙考するも、

 

「ごめん。やっぱり蕎麦屋でオムライスって変な感じだし、今日のところは…」

 

 「誘ってくれてありがとう」、と感謝を紡いだ。

 それに対して私が「…そっか」と言葉を返した所で『ゴーン、ゴーン、ゴーン』、と窓の外から昼休み終了を告げるチャイムが聞こえてくる。

 

「さて、と。午後も頑張るかなー」

 

 そしてユキはいつの間に食べ終えていたのか、そこぬけに明るい様子で身体を伸ばして自らの席へ戻っていった。

 

「(…ユキ)」

 

 私はそのとき見た親友の背中がどうしても気になって身が入らず、気づけば午後の授業も終わっていて親友の姿も教室内には見当たらなかった。

 

 

「(――…明日、話せばいいよね)」

 

 

 この後にバイトを控えていた私はそう考えて、自分も教室を後にした。

 織田小雪(ユキ)が倒れたのを知ったのは、この翌日のことだった。

 

 

◆◆

 

「――すまん小雪くん、今なんと?」

 

 学期末テストがもうすぐそこまで迫っていたこともあり、自身も教員側としてその準備を進めていた安西は、今しがた目の前の生徒から告げられた内容を最初は信じることが出来なかった。

 それはそうだろう。何せ今安西の前に立つ女生徒――織田小雪は、先日自分が褒めたばかりの作品をあろうことか、紛失してしまったと言うのだ。

 コンクールの締切は期末テストが終了した翌日であることを考えると、コンクールに出せるだけの作品を新たに作るにはあまりにも時間が足りなすぎる。

 故に“聞き間違いであってほしい”という思いから聞き返したのだが、小雪の返答はそんな安西にとって無常なものだった。

 

「ですから、コンクールに出す作品は無くなりましたので私は辞退させていただきます」

「グッ…紛失場所に心当たりはないのかね?」

 

 安西は怒鳴りたい気持ちを文字通り「グッ」と抑えた。きっと一番ツライのは無くした本人だろうからと。

 

「さあ、もしかして噂の怪盗団にでも盗まれたんじゃないですか?」

 

 だというのに、この言動である。これは安西からすれば自身の気づかいが無駄にされたようなもので、当然良い気はしない。

 それも、自分が目を付けていた作品に対して作者本人が無頓着(この調子)なのでは苛立つのも仕方のないことだった。

 

「…話はわかった。出ていきたまえ、私は忙しいんだ」

「…失礼しました」

 

 小雪は不機嫌そうに背を向けた安西にそう言って、一度丁寧に会釈をしてから廊下へと退出した。

 

 

 

 

「はぁ」

 

 そうして職員室を後にした私は、胸に手を当てて溜息をついていた。

 

「シホに、悪いことしたな」

 

 私は歩き出す。

 

 あの子(シホ)が私を気にかけてくれていたのには気づいていた。

 けど、今の私にはそれがどうしても苦しくて…声をかけることすらしないまま、つい教室を出てしまったのだ。

 

 

「(明日、ちゃんと話してみようか…――いや)」

 

 

 やっぱりダメだ、と私は自分の考えを正した。

 

 

「(話したら、私はきっと楽になる…――になってしまう)」

 

 

 “ソンナノ私にあっちゃいけない”

 

 

「(――甘えるな。助けを求めるな。私(おまえ)はもう逃げたんだ…)」

 

 

 “だったらこれ以上何かを望むなんてことしちゃいけない。そうでしょう?”

 

 そんな風に思考へ没頭していると、いつの間にか私は校門の在るすぐそこまで歩いて来ていた。

 

「(…そうよ。私に助けを求める資格なんて、もう無いんだから)」

 

 

 そう、思ってたのに……。

 

 

「なんで……」

 

 

 居る筈のない人が、

 

 

 

 

『『“ゼンブ――オマエノセイダ”』』

 

 

 

 

 そこに居た。

 

 

 

「小雪いいいいイイイイーーーーッッ!!!!!!!!」

 

 

 

 ブツン、とまるでテレビのスイッチが切れるかのように。

 私の意識は、そこで途切れた。

 

 

◆◆

 

「――“冥土(めいど)そば”?」

「違う、“冥土そば”ではない。“MEIDO蕎麦(メイド そば)”だ」

「は? どう違うんだよ、それ。てかどういう意味だよ」

「知らん。何せ俺も入ったことは無いからな」

「あんだよ?! 来たことあんじゃねーのかよお前!!」

「誰もそんなことは言っていないが? とにかく、真たちにこの座標を送るぞ」

 

 もう既に日が沈む中、暁たち怪盗団の男子三名は祐介が自身の学校から近かったこともあり目をつけていたという蕎麦屋の前に集まっていた。

 というのも、これから合流する同じ怪盗団の女子二人に暁たちによる洸星高校潜入の詳しい結果を何処かしらへ腰を落ち着けた状態で話したかったからなのだが…。

 

「こんなトコでまともなモンが食えんのかよ? 戸(この)向こうが全然想像出来ねえんだけど」

 

 珍しくもっともな感想を口にする竜司に対し、祐介は――

 

「? それが良いんじゃないか」

 

 と言いつつ、既に「M」、「E」、「I」、「D」、「O」、とそれぞれ一文字ずつ店名を入れられた暖簾に向けて、いつもの両手に窓を作るポーズで構図を取っていた。

 

「…暁(おまえ)はどう思う?」

 

 竜司は半ば助けを求める意味で、同じように店の看板を見上げていた暁に尋ねた。――が、

 

『ユニーク』

 

「マジかよ、おい」

 

 竜司はガクリ、と肩を落とす。味方は居なかった。

 そして三人がしばらくその店の前で待っていると、先ほど祐介のスマホから現地の座標を送っておいた女子二人が降車駅に着いたと残り二人のスマホにも合わせて返信が入る。

 

 それから更に5分待つと、遠目にだが連絡のあった女子二人の姿がようやく確認出来た。

 

――

 

 

 

「ごめんっ暁、待たせちゃった?」

 

 先んじたのは一人目の女子、高巻杏(たかまき あん)だった。

 暁が視界に移ってからは此処まで小走りで走ってきたため、両端に結ばれたツインテールがよく揺れて男子の目は自然とそこに引き付けられた。……約一名は別の所へ目が行っていたようだが、馬鹿は置いておく。

 

『いや、大丈夫』

「そっか! なら良かった。あ、二人もゴメンね」

「いやイイけど、なんかお前俺らの時と暁の扱い違わねーか?」

「え!? そ、そうかな~? 竜司の気のせいじゃなーい?」

 

 しかしこの馬鹿(りゅうじ)、運は良いらしい。

 当の杏がほぼ暁のことしか見えていなかったため、竜司の送っていた視線は気づかれていないようだった。

 

 と二人がそんなやりとりをしている間にも二人目の女子――新島真(にいじま まこと)が、今回自分の代役を任せた祐介に話の先を向けていた。

 

「――それでどうしたの? 何かトラブルが遭ったって聞いたけど」

「ああ、実は――「ああーー!!↑ ああー!!↓ お、おお、俺ハラ減っちまったなー?!! あとは中で話そうぜーー!」

 

 竜司はそれはもう判りやすく祐介の言葉を遮って、一人その“MEIDO蕎麦”に入って行ってしまった。

 

「ちょ、竜司ズルい!? 私もー!!」

 

 すると、つい先程まで竜司と話していた杏も思わずそれに続かん、と暖簾をくぐって行く。

 

「あ…ごめんね、私ったら。確かにお腹空くわよね。あとのことは中で話しましょうか」

 

 と真も店の向こうに消えていくと、残すは暁と祐介のみとなった。

 

「まったく、竜司の奴め。どうせもう逃げられんと言うのに…」

『はぁ』

 

 祐介は「やれやれ」と肩を竦め、暁は溜息を吐きながら続いた。

 

 

 

「? お前たち、まだ座ってなかったのか。心配せずとも5人も居るなら座敷も選べると思うぞ」

 

 祐介がそう声をかけるも、先に入っていた者たちは何故か全員固まっており聞こえていないようだった。

 その事に暁も初めは首を傾げていたが、皆の視線を追った次の瞬間から我に返るまでの間は、そこで固定されてしまうこととなる。

 

「……よく分からんが、ここは俺も皆に合わせて固まった方が良いのだろうか? とすると、ポージングは――コレだな」

 

 シュバッ! と祐介が荒ぶる鷹のようなポーズを決めた所で、ようやっと店員が暁たちの来店に気づいたらしい。

 そして、その黒とベージュが入り混じったやや特殊なメイド服を猫耳型のウィッグと合わせて纏った店員は、小走りで暁たちの元までやってくると両手を顔の前まで持って行き――

 

「い、いらっしゃいませ!」

 

 緊張からか目は殆ど閉じた状態で若干顔を赤らめながら震える声で、雇い主である店長(オーナー)に教えられた挨拶を始めた。

 

 

「ど、どうかワタシのことは……シホにゃんとぉ、お―― 『『『鈴井/志帆/鈴井さん/!?』』』 へ?」

 

「……む? 君は、確か」

 

 

 こうして、いまいち状況を飲み込めていない一同は、それぞれの再会を果たしたのだった。


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