フレンダ=セイヴェルン生存記   作:大牟田蓮斗

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いきなり生き残るところから始まるよ。つまり、フレンダちゃん(原作者が死んだ美少女と言った)が生きてる可能性が原作でもうまれるよ(無いよ)。


セイヴェルン、生存

(ああッ!! クソッ!! こんなところで死ねないって訳よ!!!)

 

 只管に細い路地を駆ける。あいつの声が聞こえてくる。嫌だ、死にたくない。まだ、死ねない。

 脳裏に浮かぶのは下らないこと。アジトに置いてきた私物のこと。大好きな鯖缶が余ってたこと。一緒にご飯を食べる約束をした友達のこと。世界中の友達のこと。皆へのプレゼントのこと。大切な妹のこと。

 このまま逃げたところで助かる可能性は殆ど無い。向こうには滝壺がいる。能力を使われたら太陽系内では彼女から逃れられない。

 

(なら、どうすればいい!?)

 

 その一、完全に裏切って殺しにいく。結果、返り討ち。ぶっちゃけ今の手負いの状況じゃ下手すれば浜面にも負けかねない。

 その二、土下座して謝る。結果、原子崩し(メルトダウナー)直撃。絶対に許してくれない。

 

(大体、私が喋っちゃうなんていつも通りって訳よ! 情報漏らされたくらいで負けて八つ当たりってざっけんな!!)

 

 いつもあれだけ自分の能力を評価しているのだから逆境くらい跳ね返しやがれ! などと思っても状況は改善しない訳で。

 

(……あーあ。こんなこと言ってても、帰りたいな……。結局、情が移っちゃってたって訳)

 

 帰るにしても、取り敢えずは今を乗り切らなければならない。時間を置いたら命は助かってる訳だし、許してくれる、……筈。

 

 カツッと音を立てて足を止める。

 目の前には壁。

 

(しくったッッ!!)

 

 慌てて旋回するも、其処には笑みを浮かべた超能力者。その笑みは獲物を追い詰めた肉食獣のようで、実際、獲物()は追い詰められていた。

 

「      」

 

 何か言われたみたいだが、頭が真っ白で言語を理解してない。

 強がって震えながら口角を上げる。

 捕食者の笑みが止まる。一瞬後、爆発した。

 

「死ッねェェェェェェェェェエエエエ!!!!!」

 

 なんとも直接的なことで。オブラートに包んだとしても滲み出る殺意。当てられてペタリと座り込む。……フリをする。今更殺意程度で腰を抜かす筈もない。しかし、超能力者は相手を見下している。演技に気付きはしないだろう。

 チャンスは一瞬。能力を使われる瞬間だけ。

 分の悪い賭け。でも、出来ると信じるしかない。

 右手に光を溜める報復者。右手を振り上げ、横薙ぎに振るった。視界が光で埋まる。能力を発動させた―――。

 

▽ ▽ ▽

 

 目を、開く。意識は、ある。胴体は、……繋がっている。

 

「っふぅぅ。―――ぅぐっ!?」

 

 大きく息を吐く。安堵すると同時に痛みが生まれ声が出る。

 恐る恐る脇腹に視線を向ける。

 右側、いつも通りだ。

 左側、…ゴッソリと肉が失くなっていた。

 麦野が右腕で薙いだからだろう。少し間に合わなかったか。いや、手応えを感じさせられたと思えば脇腹程度安い買い物か? ……この痛みからすれば割が良かったとしても、安かったとは思えない。

 血管だったりは焼き固められているから幸い出血多量ということはないだろう。肉が見えているのは中々にグロテスクなものだが、見慣れてはいるため動揺は少ない。

 さて、どうするべきか。

 ここは私の倉庫。アイテムの皆に場所を伝えている訳ではないけれど、物資の流れからこの場所を見つけることはできる。ならば、長いことここに留まるのは仕掛けがバレていた場合致命的だ。

 取り敢えずは体力をある程度回復させなくては、と能力を使おうとして余りの激痛に悶絶する。

 

「~~~~~~~~ッッ!!!」

 

 ちょっと無理し過ぎたかな……。

 私は意識を無くしていた。

 

 

 

「ハッ!」

 

 目覚めると同時に手元に服を呼び出そうとして、少し慣れた激痛に顔をしかめ、現状を思い出す。ここまで約一秒。

 大の字になって状況を整理する。

 

「まず、私は能力を使って無事に麦野から逃げ延びれた」

 

「逃げる直前に麦野に能力を使われて、負傷している」

 

「怪我の状況的にこのまま放置すれば死ぬ」

 

「ただ、死ぬまでに時間はあるだろうし、ちゃんと治療を受ければ学園都市の技術なら五体満足に戻れる可能性はある」

 

「脇腹が無くてバランスが取れないから、立って移動するのは厳しい。能力も使えないから、動かなければ怪我の前に脱水症状で死ぬ」

 

「……こんなときは結局友達を頼るしかないって訳よ」

 

 やはり持つべきものは(お願いを聞いてくれる)友達だ。

 私はいつものように携帯端末を取ろうとして、取れなくて、そして、ふとあの暗部組織に没収されていたことを思い出した。

 

「あー……。終わった、かな」

 

 自分は意外と諦めは早い方だったのかもしれない。いや、こんなところまで生き延びたのだから生き汚くはあるか。

 

「はは、は」

 

 口から漏れるのは乾いた笑いだけ。脳に溢れるのは痛みと喪失の情報だけ。打開策など、どこにも……。

 

ウィーーン。

 

「あった!」

 

 今のは自動清掃機械の音だ。この倉庫には基本的に普段使っている火薬やら爆弾やらを保管している。同じような倉庫は各学区に一つずつ程ある。当然、そんな数を一人で管理できる筈もないし、人に任せることもできないしで機械化したのだった。

 

「っし!」

「ふっ!」

「ほっ!」

 

 暫く(丸一日)かけて這いずって移動を続けた。腹? 無論痛い。これ放置したら感染症で死ぬ気がする。食? 取ってる訳がない。空腹は常に感じ続ければ慣れる。それよりも水の無い渇きが酷い。因みに糞尿は垂れ流した上に、そこを這っているので正直乙女としては死んだ方がましだ。死ぬのは嫌だから乙女であることを捨てたが。

 這う。痛くて悶える。飢えて吐き気がする。這う。転がる。吐く。胃液が無くて吐けなかった。水分も固形物もなくなった。これで乙女心をこれ以上捨てなくて済む。痛い。呻く。丸まる。痛い。唸りを噛み殺す。

 結局動いたのは五メートル。でも、それで十分だった。

 床がなくなる。そして今まで自分がいた高さから落ちる。自分が倉庫内のどこにいるかなんて考えずとも分かる。ならばこの高さは落ちても問題ない。―――平常なら。

 

「ぐっぎぎぎぎぎぎがああああああ!!!!!!!!」

 

 噛み殺せなかった痛みが口から飛び出る。同時に胃液と唾(別の何かかもしれない、とりあえず水分)を吐き出す。まだ水分が血以外に残っていたのだな。

 ゴロゴロと痛みを堪える為に転がり、痛みを感じ、でも止まっていられる程に落ち着けず、増幅した痛み、それが揺り返す前に新たな痛みが襲いかかってくる。

 痛い痛い痛い。痛い。痛覚がなぜ生きているのだろうか。人は危険を知る為に痛みを知る。ならば私にはもう痛みは必要ない。既に危険など踏み越えたのだから。なぜ、なぜ痛みが残っているのだ!

 

 痛みが私を気絶から目覚めさせた。

 もう、痛みと気絶の揺り返しは嫌だ。嫌だ厭だいやだ。でも、死にたくないぃぃぃ!!!

 

「ごふぅっ!!?」

 

 腹に冷たい感触。右脇腹で助かった。そしてその冷たさである程度意識を持ち直した。

 

『ピ、ピピ』

 

 私の腹にダイレクトアタックをかましたものは、この倉庫の管理システムの一端、清掃兼整頓ロボットだ。因みに数十万する。これのためにどれだけのボーナスを溶かしたことか。

 それでもその性能は確かだ。学園都市製のそれは自動プログラムによって倉庫内を常に同じ状態に保つ。在庫が減った際は自動発注までしてくれる(代金は私の口座から月末に引き落とされる)。まだ月を越えてはいないから倉庫内の在庫が減って発注されても生存はバレない。

 そしてこのロボットは無線操作や起動時のプログラム以外にも直接操作ができるものだ。私を異常物として排除しようと、ロボットが出したマニピュレータに私は掴まる。そして持ち上げられたタイミングで、体を捩じって金属腕を振り払ってロボットの上に乗る。痛い痛い痛い痛い。でも、気にしない! これを逃せば私に次のチャンスは巡ってこないかもしれない。

 ロボット上部の操作パネルに右手を押し付ける。掌紋認識が行われ、私にロボットの操作権限が付与されてロボットが待機状態に移行する。私は一つ目の難題をクリアして息を吐いた。

 

「ぐぬうううううううぬぬぬぬぬ!!!!!!」

 

 思い出したようにぶり返す痛み。もう嫌だ。でも、あとちょっと。あと、ちょっと……。

 操作パネルの上で指を躍らせてロボットを壁際へと寄せる。壁際にあるもの、それは……電話だ。

 

「xxx-xxxx-xxx」

 

 音声認識で電話を掛ける。ロボットの操作は根性で行ったが、このぼやけた視界ではまともにテンキーすら押せない。それに電話は立った状態で丁度良い高さに設置されている。いくらロボットに乗っていても手が届かなかった。

 電話の先はとある医師。私自身が掛かったことはないのだけれど、ちょっとヤバいことをしている友人のかかりつけ医だ。なんでも腕は確かで、闇医者でもなく、患者の事情は素知らぬ振りで機密保護が厳重らしい。本当にそんな医者が存在するのかは定かではないが、頼れるものはたとえ都市伝説でも頼ってしまおう。

 そんな一心で掛けた電話は確かに繋がった。

 

『はい、もしもし?』

「あんたが、医者って訳……?」

『ああ。確かに僕は医者だが、急患かい?』

「そう、って訳よ。……場所は第七学区の―――」

 

 倉庫の具体的な場所を伝える。もしやすれば最期の賭けなのだ。出し惜しみはできない。

 

『うん、分かった。すぐに迎えに行こう』

「―――あんたが来るって訳……?」

『ああ。君も何か事情があるのだろう? 僕なりのデリカシーさ』

 

 あの噂は事実かもしれない。

 さて、ひとまず電話は終え、もう一度ロボットを操作する。そして倉庫の唯一の出入口、搬入口へと向かう。

 この倉庫、特別製であり人間用の出入口は存在しない。外に荷物を置き、それを中からこのロボットがマニピュレータで受け取る。その為の搬入口があるのみだ。

 その搬入口まで向かう。このロボット、少しでも高いものを購入しておいて良かった。スムーズな動きは揺れが殆どない。脇腹に優しい駆動をしてくれる。

 搬入口までやってくる。このロボットがここから外に出ることは不可能だ。搬入口はこのロボットがギリギリ通らない。だが、私なら。身体を縮めれば通る程の隙間はある。

 

「ゴクッ」

 

 唾を飲む。これからのやる行動に付属する痛みはよく分かる。だが、やるしかないのだ!

 

「根性決めろッ! フレンダ=セイヴェルン!」

 

 自らに発破をかけ、ロボットに最後の指示を出す。その指示は、ロボットの真上に乗った荷物を外に出すこと。

 マニピュレータが私を掴む。脇腹を遠慮なく掴まれ頭に星が散る。

 

「あああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

 頭と脚を持たれ、搬入口を通るように丸められる。脇腹が歪み、最早声にならない空気だけが漏れる。

 

「クハッ」

 

 そのまま搬入口へと叩きつけられるように投げ込まれる。搬入口の角で額を切った。

 

「ツッ!」

 

 倉庫ではない地面に全身を叩き付ける。痛みが叫びとなって口から飛び出そうともがくが、ここは外。防音のされていた倉庫内とは違う。少しでも周りの注意を引く行為はできない。

 根性? 精神力? 意地? 何でもいい。私は口を堅く閉じ、飛び出しかけた叫びを体内に戻す。痛みの具現である叫びが体内を駆けずり回り、全身の痛覚神経を刺激する。

 なぜ口を閉じているのだったのだろうか。なぜこんなに痛いのだろうか。いや、そもそも痛みとは何だったか。

 

 私の意識は闇に落ちた。




つづく、かは知らない。取り敢えずむぎのんから逃げれたから目標は達成。

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