フレンダ=セイヴェルン生存記   作:大牟田蓮斗

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※過去捏造注意。矛盾は知らぬ。あっても許してくだせぇ。


成辺るん、危難

 地に墜ちる十一人のスキルアウト。光子たちに囲まれて慰められている涙子。彼女は強い女の子だ。今回の事件も、しばらくすれば笑い話にできるだろう。

 私も能力を使わなくては入れない自らの倉庫に入ることができた。今の能力の状況だと見えないところへの転移は厳しかったのだ。これは怪我の功名だろう。

 

 

 

 ああ、このまま終わればどれだけ良かっただろうか。

 

 

 

 私は自分の生存、というか『アイテム』からの逃走を諦めていた。だからこそ、『成辺るん』ではありえないような戦闘能力を見せた。既に手遅れな自分の命よりも涙子の命を取った。

 そして、その目論見は上手くいったように思えた。

 ああ、ここまで言えば分かるだろう。

 

 

 そう、上手くいかなかったのだ。

 

 

 私は大人しく両手を挙げる。

 私の背中、久し振りに感じる冷たい感触がそこにはあった。

 

「さて、雑魚どもはヤられちまったみてぇだが、これで形勢逆転だな」

 

 視界に映る友人たち。涙子、麦野、光子、絹旗、万彬、滝壺、絹保、浜面、御坂。全員が臨戦態勢だった。

 

(私なんて捨てて帰ればいいのに)

 

 仲間に対する裏切り? そもそも裏切った人間、嘘を吐いていた人間をどうしてそこまでして守らねばならない。彼女たちの今の行動がまるで理解できなかった。

 ……いや、それは嘘だ。

 私も、多少理解できる。理解してしまえる。

 たとえ、短い付き合いでも、嘘を吐かれていても、浅い付き合いでも、禍根を残していようとも、彼女たちにとって、私は()()なのだ。

 『友達』のために無謀だと思えても挑む。その精神性は、私にとって不要なものだった。持つべきでないものだった。だが、それが理解できる。そもそも私も、涙子を助けることを自分の命より重視した時点で同じ穴の狢か。

 臨戦態勢になった能力者たち。でも、私には後ろの男の狙いが分かっている。

 今まで見せた能力。水にさえ注意をすればいい能力と、残りは破壊力を伴った大規模な能力だ。そしてそれらは後ろの倉庫の爆発物を気にかければおいそれとは使えない。

 その隙に、この男は言うだろう。

 

『俺を殺したら後ろの倉庫が爆発するぞ』と。

 

「俺を殺したら後ろの倉庫は爆発する」

 

 ああ、やはり。

 その言葉に全員の顔が厳しくなる。一撃で男を潰さなければ、私は撃たれるだろう。だが一撃で動けなくすることは、殺すこととニアリーイコールだ。だから、これで確実に動きづらくなったことだろう。

 動きを制限した。次は、……私なら追加で制限を加える。

 

「この女はテメェらに返してやるよ」

 

 私は背中を思い切り蹴られる。前に転び出た瞬間に、ふくらはぎを撃ち抜かれた。……大丈夫、アキレス腱は切れていない。痛くて運動能力が落ちただけで喪失はしていない。

 私の体を受け止めるのは、攻撃力に劣る絹保、万彬、涙子。優しく受け止め心配気に見て、脚から止めどなく流れ出る血に顔を青褪めさせる。絹保が能力で取り敢えず流血を止めてくれた。便利な能力だ。

 多少の冷や汗は流しても、撃たれたのに大きく表情を変えない私は不気味だったのだろうか、万彬が少し名状しがたい顔をしている。

 涙子は、……何だろう、この顔は。

 考察する間もなく、男は次の手を打った。左手に持ったリモコンのスイッチを入れた。

 

キィィィィィィン!!!

 

 辺りに響く甲高い音。脳の中をかき回すような不快な音。

 それを聞き、光子と絹旗に滝壺が激しく苦しみ、麦野と御坂も頭を押さえている。万彬と絹保も必死に痛みを堪えている。私の脚から血が再び流れ出した。

 これは、……キャパシティダウンだ。

 一時期街のスキルアウトどもの間で流れたものを押さえたのだ。あれは何だったのだろうか。誰かが意図してばら撒いたように思えたのだが、今となっては分からない。

 本当にツいていない。キャパシティダウンは存在を知ってから、結局二台しか手に入れられなかったのだ。ここと、ここから三km離れた倉庫にしかない。それを引き当てられるとは。

 このキャパシティダウン、効果は主に高レベルの能力者に発揮される。しかし、レベル五までいくと逆に本人たちの馬鹿げた資質のせいで効かなくなる。それでも弱体化は激しいのだが。これで、こちらの主戦力たる能力者は封じられたようなものだ。御坂が出せるのは微々たる電流だけであろうし、麦野の能力はそもそもが莫大な演算を必要とする。まともに使えるわけがない。

 浜面と涙子と()は軽く顔を顰める。不快な音には違いないが、苦しむ音ではなかった。

 それは、私がもう高能力者でないということを示していた。

 

(なんで、かな……)

 

 脚の痛みで能力が使えないのではない。

 ましてやキャパシティダウンのせいでもない。

 ということは、帽子がないせいで欠けている演算能力が原因ではない。

 ならば、演算能力でないもう一つの能力の構成要素。すなわち、『自分だけの現実(パーソナルリアリティ)』が問題なのだろう。

 思わず、失笑する。

 今、私の能力が十全な状態であれば、武装をいくらでも手元に呼び出せ、男も近くに転移させてぶん殴れただろうに。必要なタイミングで失われている。ただでさえピーキーなのだから、タイミングくらい読んでほしい。

 男が、一人だけ反応が違かったからだろう、私に銃を向けた。

 

「何笑ってやがる。テメェ、いい度胸してんじゃねぇか。見たところ無能力者か、低能力者だが、テメェどこのどいつだ? あぁ?」

「な、成辺るん」

「はん。聞いたことねぇ名前だな」

 

 ああ。今更、自分を偽って何がある。でも、『アイテム』が見ている。

 他の能力者と違って、まだ多少の余裕がある御坂と麦野は隙を窺っている。浜面もだ。涙子は光子たちを慮るしかできない。キャパシティダウンの本体がどこにあるのか分からない以上、現状を打破するのは困難を極めた。

 こんな状況、いつかもなった気がする。

 あれはいつだったか―――

 

▼ ▼ ▼

 

 私は置き去り(チャイルドエラー)だ。微かに残る記憶と母語から考えて、外国から親が捨てにきたのだろう。

 その頃の記憶は、幼く物心もついていない妹を護らなければ、というものだけだ。

 しばらくして、私たちはある研究所に引き取られた。

 その研究所、所員は何人かいたが、中核を担うのは一組の老夫婦だった。その老夫婦はとても優しい人だった。引き取った孤児たちを贔屓せず、施設のように養育しながら無理のない実験だけを行っていたのだ。

 今思えば、怪しすぎる。学園都市に、そんなまともな研究者がいるのだろうか。いや、いたとしても自分の研究所を持てるのだろうか。今なら間違いなく、『裏』があると確信する。

 だけれども、そのときの自分は素直だった。同じ境遇の子供たちが他の研究所でどれほど悲惨な目に遭っているのかを知らされていたから(それも策の一つだったのだろう)、よくしてくれる老夫婦に何かを返そうと、能力開発も勉強も運動も、何もかも一生懸命にやった。

 そして私の能力は、メキメキと伸びていった。同期の中でも。

 珍しい転移系の能力。さらに言えば、一般的なものとは方式が違う特異例。能力強度は当時はレベル三だったが、それでもかなり高い出力を誇っていた。研究所の一番の期待株だった。

 だが、私はそんな生活を続けていたとき、たしか五年前だっただろうか、真実を知った。

 その頃の私の趣味はスパイごっこ。誰にも見つからないように所内を歩き回ることだった。そして、老夫婦が話しているのを聞いた。

 

『あの金髪のガキ、今度売り払うかい?』

『姉は優秀だったけどねぇ。妹は芽が出ないじゃないか。そろそろ一斉に処分するかね』

 

 私は驚きを抑え切れなかった。でも、見つかってはいけないと何とかその場を逃げ出した。なぜなら、妹を守らねばならないから。

 孤児の中で血縁がいるというのは珍しい。外国人を中心に置き去りを集めていたから所内に金髪は一定数いたが、姉妹なのは私たちだけだった。

 私は悟った。老夫婦は実際は優しくなどないのだと。全てが打算だったのだと。今、ここを妹と共に離れねば互いに離れ離れになってしまうと。

 そのとき、私の能力は変わった。

 以前は、手元の物体の入った空間と、遠くの空気だけの空間を入れ替えることができた。しかしそれ以降はそれができなくなった。老夫婦曰く、『内向的な性格の能力』になったそうだ。その分出力は上がってレベル四になったため満足気だったが。

 能力の変化は、私にとって大きなマイナスだった。自分の能力が以前のままであれば、脱走など非常に簡単だったのだ。一つの有効な手段が失われた。そこで私は所内の孤児たちを煽った。事実を伝え、逃げねばならぬと扇動した。

 脱走は何度も行われた。そして、そのほとんどが失敗した。

 一度目の脱走が失敗してから、研究所には警備員が配属された。それによって二度目からは無謀としか言えない試みになっていた。でも、私は孤児を脱走に走らせ続けた。そうすれば穴が見つかるだろうと思って。

 孤児のことを私は仲間と思っていなかった。ただの知り合い。よって鉄砲玉だった。

 また、孤児を実験台にして新しいことを知った。一度は失敗しても帰ってくるが、二度目に失敗した者は戻ってはこなかったのだ。それを知った私は、脱走の度に姿を変え、声を変え、仕草を変えた。私は最も多く脱走を試みた孤児で、唯一二度目以降の失敗で帰ってきた者だった。

 やがて、相次ぐ脱走により孤児の数が減った。私たち一人一人への監視が厳しくなり出した。そこで、私たち置き去り一同は、最後の大脱出を決行した。

 結果? 実に簡単なことだ。成功したのは私と妹だけ。他の者の末路は知りたくもない。

 私はその作戦を事前に老夫婦に告げていたのだ。内通、ということだ。そして脱出作戦の失敗に乗じて逃げ出した。やはり、姿を変えていたために脱走するような存在だとマークされていなかったのだろう。老夫婦を騙すのは容易かった。

 あの脱出のとき、数多の能力を持った置き去りたちが皆地に倒れていた。私もそこに紛れて。まるで知らん顔で、連れてこられてしまいました、という顔をして。

 老夫婦は私を立たせて言ったのだ。

 

『こいつらは、お前が責任を持って処理しなさい』

『そしたら、そうね、妹は生かしてあげる。それから研究チームにも所属させてあげるわね』

 

 ……。

 必死に練習していた格闘技で老夫婦の虚を突いて、倒れた置き去りを囮に私は妹と逃げ出したのだった。

 

 研究所を抜けて、結局『闇』に捕まって、妹には手を出さないという条件で研究され、暗部に入った。

 そして、今ここにいる。

 

▼ ▼ ▼

 

 遠い過去が流れる。暗部の戦いの中で擦り切れた記憶。

 今、それが再現された。

 

「おい、お前、その銃でお友達をぶっ飛ばせ。そしたら仲間にしてやる。強盗した分も、山分けにしてやろうじゃねぇか」

 

 私に向かって、拳銃が投げられた。




フレンダの能力の変化ですが、
以前
・自分側『空気だけ』相手側『空気だけ』
・自分側『空気だけ』相手側『物体イン』(アポート)
・自分側『物体イン』相手側『物体イン』(入れ替え)
・自分側『物体イン』相手側『空気だけ』(テレポート)
が可能だったのが、
以後
・自分側『空気だけ』相手側『物体イン』(アポート)
・自分側『物体イン』相手側『物体イン』(入れ替え)
だけになった感じです。
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