フレンダ=セイヴェルン生存記   作:大牟田蓮斗

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 先週は突然お休みしました、すみません。
 さて、突然ついでに、多分次話最終回です。


セイヴェルン、快復

「……ん。ぅ?」

 

 目を開く。まず目に入ったのは、空ではなく天井。でも、私の意識を持っていったのはカエルだった。

 

「おや? 目が覚めたね?」

「うげ、なんでアンタがここにいるって訳よ」

「ここは僕の病院だから僕がここにいるのは当たり前だね?」

 

 そこでようやく周りの光景を確認する。

 そこは個室の病室。自分が横たわっているのはリクライニング式の病人用のベッド。カエルが座っているのは簡素なパイプ椅子で、その手にあるのはクリップファイル。見なくともわかる。そこにある紙は私に関するカルテだろう。

 左を見れば、大きな窓。そこから覗く景色は確かに私がこのカエルに匿われていた病院近く。これは認めざるを得ないか。

 諦めて私はカエルを見る。視線に込めた思いはきちんと汲み取られたようだ。

 

「君がここに戻って来てから今日で三日目、まさか僕もこんなに早く再開することになるとは思わなかったね? 脚の治療と出血の対処は既に完了しているから、あとは君が目覚めるのを待つだけだった。ああ、気絶の原因は能力の暴走による過負荷。ただの演算過多みたいで影響はないから幸運だね?」

 

 ……汲み取られていなかった。別に私は治療の進行度を聞きたいのではない。この医者の異常な腕はとうに知っている。あの程度の怪我ならこの医者にとっては片手間だろう。

 それではない。私が知りたいのは―――

 

「ああ、そうだ。君を連れてきた娘たちから伝言があるね? 『フレンダ。アンタのおかげで武器を奪えたから問題なく制圧したわ。起きたらしっかり事情を訊くから大人しく待ってなさい』だそうだ」

 

 麦野の口調をカエルが喋っているのは中々キツい光景だった。

 

(そう、か)

 

 麦野のメッセージの内容的に、そこまで怒っているという訳ではなさそうだ。『おかげ』なんていう言葉を使うあたり、色々とお咎めなしの方向なのかもしれない。

 それから今の体調に関してカエルに幾つか尋ねられて、結果、今日のそれも今から退院することが決まった。

 退院にしても準備など何もない、そう思ってカエルが病室から出ていって、閉じたドアがすぐに開いた。

 

「フレンダ」

「む、麦野……」

 

 もう少し心の準備を!

 

▽ ▽ ▽

 

 久し振りの『アイテム』全員での会合。そこで、私は大量に情報を詰め込まれた。

 

「え!? 浜面が麦野に勝った!?」

「滝壺が倒れた!?」

「ロシアまで行った!?」

「浜面がまた勝った!?」

「てか、やっぱり第三次世界大戦って厄ネタばっかだったって訳!?」

「垣根帝督が復活!? しかも綺麗になった!?」

 

 それらは驚くことばかり。でも、やっぱり一番は。

 

 

 

「フレ、メア……」

「おねーちゃん……」

 

 

「フレメアぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

「おねーちゃぁぁぁぁん!!!!」

 

 

 私は、死んでも変えたくなかった同じ髪を持った大事な、大事な妹を抱き締めた。

 泣く。泣く。泣く。二度と会えないと思っていた。でも、会えた!

 喜びで前が見えない。折角会えたフレメアの顔が歪む。

 

「フレっ、メアぁぁぁ」

「おねぇちゃぁん」

 

 二人でわんわんと泣く。泣き声が共鳴する。反響する。

 しばらく皆の目を気にせずに泣き、

 

「あー、もう、うるさい」

 

 麦野に頭を叩かれた。

 

「痛いぃぃぃ。麦野、何するって訳よ!」

「泣くのはこれからいつでもできるでしょ。もっと建設的なことを話しましょ」

 

 ある意味、麦野の言う通りだろう。

 『成辺るん』と身を偽ったとき、『フレンダ』に繋がるからとフレメアに接触することは諦めた。だからこそ、偽らなくてよくなって会えるようになって、本当に嬉しいのだが。

 しかし、それとは別に話さなくてはならないことがある。

 

「……フレン「麦野!」

 

 これだけは、譲れない。先に言わなければ。

 

「私、……私のこと、許してくれる?」

 

 麦野の目が震える。絹旗や浜面が少し気不味そうな顔をする。滝壺は……分からない。

 

「それは、……そうね。正直なところ、まだ許せない部分はあるわ」

 

 一度瞑目してから、そう麦野は言い切った。

 自分の肩が張るのを自覚した。

 

「でも、もう私の報復は終わったわ。ダミーを掴まされた、ってのはある意味ムカつくけど、それだけ。それに私もアンタを殺しかけた。その事実はアンタが裏切ったことと同じで、生き返ろうが、無事に生きていようが変わらない。逆に聞くけど、フレンダは私のことを許せる?」

 

 麦野は、正直に今の気持ちを言葉にした……ように思える。今の麦野にはプライドはあっても虚飾はない、そんな気がする。超能力者らしくない。第四位らしくない。でも、それもやっぱり麦野らしい。

 

「……確かに、許せる部分もあるけど許せない部分もある訳よ。結局、私が裏切ったのがいけない訳だけど、殺されそうになったのは不服。……でも、どんなに許せないところがあっても、結局私は皆といたい」

 

 今の気持ちを言葉にする。まだ、足りない。

 

「やっぱり、その、私にとって『アイテム』は、大事な友達って訳よ!」

 

 最初は広く浅い友達の一端、そう思っていた。でも、一度裏切っても帰りたいと思うようになった。広い友達の、その中での深い友達になっていた。

 遠回りした。それがようやくここまで来た。

 

「…………」

 

 麦野は黙りこくる。私は唾を飲む。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「……「あー、もー! 二人とも、超雰囲気が重いんですよ!」

 

 今まで沈黙を保っていた(情報提供のときには喋っていた)絹旗が叫んだ。

 

「私は、結局全員生きてますし? 超全然構わないですけど?」

 

 そっぽ向いて頬を膨らませ、拗ねたように言う。

 その絹旗の様にぎょっとしつつも浜面と滝壺が続けた。

 

「そうだな。俺もそう思う。実質的に被害はゼロだ。別にいいんじゃねーか?」

 

 浜面も絹旗のように最後にかけて段々と顔を背ける。

 照れてるのか。超キモい。

 

「はまづらのおかげで、今全員の心が揃ったね。大丈夫、私はそんなはまづらも応援してる」

 

 滝壺の言葉の意味を理解していない浜面は、気持ちの悪い顔になる。

 

「……ぷっ。なんか、馬鹿らしくなってきたわ。―――フレンダ、私もできれば前みたいな関係に戻りたいわ」

 

 そう、笑顔で言いながら手を差し出してくる。本当に、麦野らしくない。

 私はその手に恐る恐る自分の手を重ねた。

 

「これで、本当に『アイテム』復活ね。これから、よ・ろ・し・く」

 

 『よ・ろ・し・く』が『夜・露・死・苦』に聞こえた気がしたが、気のせいということにする。

 

 それから、少し話して、すぐに麦野たちは立ち上がった。

 

「それじゃ、()()()。あと、次の見舞客がいるから頑張ることね」

 

 次の見舞客? 頑張る?

 首を傾げた私は、『アイテム』と入れ替わりに病室に入ってきた面子を見て納得する。

 

「フ、レ、ンダさーーーーん!!!!!」

「ぐふっ」

 

 腹部に直撃する衝撃、そして重み。同時に聞こえた名前を呼ぶ声は涙で濡れていた。

 

「ちょっ!? 涙子!?」

「ブレ゛ン゛ダざぁぁぁ゛ん!!!」

 

 私は自分の手元で泣いて蹲る涙子に手を焼いた。救いを求めるように、涙子と共に病室に入ってきた面々に視線を向ける。

 皆、顔を見合わせて呆れたような表情になる。

 

「佐天さん、ずっと心配してましたからね~」

 

 頭に花を生やした少女がそう言った。

 御坂もそれに頷きを返す。

 

「そうね。大体、アンタがあんな大規模な能力を使って倒れるからそんなことになるなじゃない。自業自得ね」

 

 そんな、無体な。というか、それより。

 

「……アンタたちは私のことに驚かないって訳?」

「驚くことなら、ねえ」

「この数日で済ませてしまいましたわ」

「ええ。そんな綺麗な御髪をお持ちでしたとは。わたくし驚きましたわ」

 

 いたずらっぽく光子、絹保、万彬が笑う。

 私は目を白黒させ続ける。あ、白黒と言えばバクも付いて来ていた。

 

「む。わたくし、何やらバカにされた気がしますの」

「結局、それって思い込み、自意識過剰って訳よ」

 

 むきー、とでも言いそうな雰囲気をバクは醸し出す。が、私と大した接触はないのでスルーする。

 

「……さっき、麦野たち、えーと、あのときの人たちだけど、とも話してたんだけど。結局、私のことをみんなは許してくれるって訳?」

 

 その言葉を聞いて、皆は視線を交差させる。

 

「昔のこと。あれは仕事だったみたいだから、発言は別として何も感じてないわよ。他は、何かあった?」

「わたくし、その輝く御髪を見せていただけなかったことは無念ですが、今、こうして見られていますので特に何も」

「わたくしも不都合も何もありませんでしたし」

「ええ。許さなければならないようなことはありませんでした」

 

 全員が真を置かずにそう応えた。

 いつの間にか泣き止んでいた涙子もそこに加える。

 

「私は、フレンダさんにまた会えたから、むしろ感謝です!」

 

 ひまわりのように笑う。その笑顔はとても綺麗だ。私の髪なんかよりもずっと。

 

「じゃ、じゃあ、私と友達でいてくれるって訳……?」

『当たり前(よ)(です)(ですわ)(ですの)!』

 

 また涙腺が緩む。瞳を潤ませて、視界を歪ませて、でも涙は我慢。

 涙子が時計を見て叫んだ。

 

「あっ、もうこんな時間! すみません、私たちは一旦行きますね。それでは、()()

 

 そう言うとそそくさと全員出て行った。まるで嵐のような数分間。

 私はホッと息を吐いた。

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