フレンダ=セイヴェルン生存記   作:大牟田蓮斗

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 ……いまだに、事件が思い付かない。頑張って次回までに決めなくちゃ……。とりあえず、どうぞ。


セイヴェルン、入居

「くっ、ここが……って、私何で気付かなかったのよ……」

 

 思わず口から苦い言葉が零れる。私の目の前には、暫くの宿になる建物。単純なよくある集合住宅だ。

 そして、私はこの建物に激しく見覚えがある。何を隠そう、ここは私の友達の一人が住んでいる場所だ。彼女の約束を果たせないままこんな状況になってしまったから、少し心苦しい。

 というか、精神的な話とは別に正体がバレてしまう可能性が捨て切れない。それだけかつての知り合いは脅威だ。

 結局、私はあのカエルの整形手術を受けなかった。たとえこれが原因で死ぬことになろうとも、生き別れた妹との最後の繋がりであるこの顔はなくせない。

 その為、私は変装をしているだけである。茶髪の滑らかなストレートのカツラをつけて、角ばったフレームの大きな黒縁眼鏡をかけた。これと、あとは言動の矯正だけでも大抵の人にはバレないものだ。

 

 誰にも会わないまま、自分の部屋へと向かう。周りに気を配ってから、中に入った。そして、鍵を閉める。

 

「すぅ、ふぅぅぅ」

 

 しばらく振りに心が落ち着いた。治療を受けているからと言って、知らない場所――実際は第七学区にある実に真っ当な病院だった――に監禁されているのは不愉快なものだ。

 大きく背伸びをする。まだまだ生活感の無いこの部屋も、あの真っ白な病室に比べれば断然マシである。

 殆ど存在しない荷物を広げ、……広げる必要も無かった。備え付けのベッドに座る。柔らかかったからそのまま上体を倒す。部屋の天井を見つめながら、気ままに脳を回す。この乱雑に散った集中と思考。それを無意識に接続し、乖離させる。この絶妙なバランスと散り具合が一番心地よく、上手く考えが纏まる。……時間はかかるが。

 

「私は、今度の年明けから常盤台生になる新入生。この間学園都市に来たばっかり。常盤台に入るまではこのアパートで学園都市に慣れようと思っている。能力は、この間発現したレベル三の《引寄転送(アポート)》。ただ、能力にはまだ慣れていなく、人として堕落しない為にあまり能力を使わない」

 

 これがこれからの設定だ。今までのフレンダ=セイヴェルンとは全くの別人となる。

 

(てことは、『結局』と『訳』ともお別れ、ね)

 

 あれは所詮はフレンダとしての役作りだ。実際に裏社会において口癖を作るなど馬鹿でしかないだろう。なぜ、態々個人を特定できる情報を増やす。絹旗などは恐らく何も考えず、能力への自信から何も考えなくて済む為に、『超』などという口癖をしているのだろうが。

 私が口癖を付けていたのは、足を洗うときの為だ。特徴的な口癖の人を探すとき、どうしてもその口癖には敏感になる。その分、そうでない者へのチェックは甘くなるというものだ。結局、外したときのギャップを演出するための道具に過ぎなかったという訳。

 

(あ、いけね)

 

 使ってはいけないと意識すると使ってしまうものだ。注意しなくてはならない。

 

「あ、そういえば、常盤台のスタンダードってお嬢様口調?」

 

 あの《超電磁砲(レールガン)》はそんな口調ではなかったが、その後輩の女は『ですわ』なんていう語尾だった筈だ。

 さて、どちらが一般から外れているのだろうか。

 超電磁砲はレベル五の余裕、というか自分の能力に自信を持っている者程周りと違いを付けたくなるものだ。先程の口癖と同じだ。その点、第三位は油断に事欠かない。

 一方、あの後輩だが、明らかに血縁関係にない超電磁砲のことを『お姉さま』と呼び、どう見ても性的に見ていた。あれは頭がおかしい可能性がある。

 いや、少し性癖が異常でも他の部分までおかしい訳ではないか。ならば、第三位がマイノリティと見るべきか。ま、そもそも両方存在する可能性があるのだが。

 ならば、私は普通の口調でいこうか。

 そもそも『外』から来た人間がお嬢様口調なのは妙だ。それに、普通の口調の人がお嬢様口調にしようと背伸びする様は見ていて微笑ましいかもしれないが、その逆は『上から歩み寄ってやっている』感触を与えてしまうかもしれない。敵を作りたくはないのだから、お嬢様口調でない方が良いだろう。

 

「さて、買い物に行こっかな」

 

 私は反動をつけて身体を起こし、立ち上がる。ベレー帽を被ろうとして、無いことに気付いた。

 

「チッ」

 

 思わず舌打ちしてしまう。いけない。常盤台に入るのだからお淑やかにならなければ。

 私の能力は演算負荷が大きい。その為、ベレー帽に偽装してある演算補助器が不可欠なのだが、それは失われてしまった。どうやら、あの地獄のような三日間の間に倉庫内で紛失したようだ。あれが無いときの私は本当に打つ手が少ない。思えばレベル五と対峙したときは最終的にいつも落としていたような気がする。もう少し別の形を模索するべきか。

 何にせよ、今ベレー帽は無い。能力の使用は、恐ろしくてできていない。ただ感触的に言えば、半径一〇〇メートルくらいならば能力を使えそうである。……可視範囲に限るが。

 部屋を出て鍵をかける。

 少し内股を意識しつつ、ショッピングモールに向けて歩き出した。

 

 諸々の生活用品を買い、全て部屋に発送して、やって来たのはスーパーマーケット。少なくとも今日の分の食料を確保しなくては。

 因みに、金の方はあのカエルが工面してくれた。驚きである。何でも、患者の為なら何でも用意するんだとか。ま、身分偽造のような真似までしているのだから、口座を作って金を振り込むくらいならどうということはないのかもしれない。

 

(でも、少しは節約するべきよね)

 

 余り借りを作るようなことはしない方がよい。といっても、バイトでもしない限り口座の金に頼ることになるのだが。

 自分の自炊の能力を久し振りに試さなければならない。アイテム時代はファミレスに入り浸っていた所為で腕を振るっていなかった。多分、何とかなる筈。

 

 ……癖とは恐ろしいものだ。気付いたら鯖缶を手に取っていた。おかしい。このスーパーには来たことがないのだから鯖缶の場所など分からない筈なのに。

 

(あ)

 

 いや、一度来たことはあった。あのときは確か、美容効果がテレビで紹介されただかで鯖缶が一気に品薄になったときだ。鯖缶を求めてこんなところまで来たんだった。そこで、

 

「あ、すみません」

 

 そう、こんな感じで友達に会ったんだった。

 グルン、と思わず二度見しかけて、あちらからすれば初対面であることに気付いて押し留める。

 

「ん?」

 

 しくった。少し疑問に思われたようだ。顔を見られている。

 

「あなたも鯖缶好きなんですか?」

「え、ええ」

「へぇ、奇遇ですね! 私も好きなんですよ。流石に常に食べたい訳じゃないんですけど、こう、ふっと偶に食べたくなるんですよねぇ」

 

 どうやらバレていないようだ。というか初対面の人にここまで親し気に話すか? いや、この子はそういう子だった。

 

「そうですね。懐かしい味のような気がします」

「ですねぇ。それじゃ」

 

 適当な相槌を打ったら、向こうから話を切り上げて行ってくれた。ボロは出さない気だが、顔立ちが変わっていない為に知り合いに長く接しているとバレてしまうかもしれない。

 手に取った鯖缶を眺める。元々は、これもキャラ付けの為だった。アイテムに入ってから食べ始めたもの。麦野が鮭弁が好き、絹旗は『超』にB級映画、滝壺は滝壺。アイテムは個性の殴り合いだった。そこで生き残る為に食べ始めたのだ。

 初めは別に好きじゃなかった。嫌いではなかったが、脂っこい部分もあって食べ続けるのは厳しく思っていた。

 暫くすると、いくつでも食べられるようになっていた。アイテムのメンバーといない、たった一人のプライベートでも食べるようになった。

 この間までは、毎日、下手すると毎食、いや間食もしていたか。鯖缶は私にとってアイテムと同じくらいの付き合いだったのだ。

 少し悩んで、鯖缶を買い物かごに入れた。

 

 

(どないしよう)

 

 口調が崩れても仕方ないだろう。

 ここは私の部屋ではない。かつても訪れた友達の部屋。

 

「いやぁ、鯖缶料理って意外とイケるんですよ?」

 

 知るか。というか、初対面の人間をそう簡単に家に上げるな、おい。

 部屋の前に発送していた日用品が山になっており、それを必死に片付けていたら、同じ集合住宅に住む、というか二つ隣の友達が手伝ってくれた。

 そしてそのままこうして友達の部屋で、以前食べられなかった鯖缶料理を食べようとしているのである。

 

(いや、いずれはこうなっていたんだ。うん。早めにこのイベントを消化できて良かったんだ、そう思おう)

 

 思い込み切れないのは許して欲しい。

 

▽ ▽ ▽

 

「ん? 浜面、超何やってんですか」

 

 茶髪の少女は段ボール箱を抱えた青年に声を掛ける。

 青年はそれに軽い調子で応えた。

 

「んあ? ああ、これはフレンダの私物だよ」

「へぇ、フレンダの。フレンダの!?」

「うっさい、絹旗」

 

 青年の回答に驚愕した少女を、後ろからスタイルの良い女が肘で小突いた。その女も段ボールを、こちらは二つ抱えている。

 

「ちょ、麦野まで。何でフレンダのが今更?」

「昔のアジトを漁ったのよ。あの抗争のときからほったらかしだったでしょ。そこから回収しただけ。アンタのもあるから取りに来なさい」

 

 この女、今はかなり機嫌が良いらしい。実に穏やかな語調で少女に入ってきた入口の方を指した。

 その入口を抜ければ、トラックが横付けされていて、荷台にはいくつもの段ボール箱があった。そしてその一つ一つに『ム』『キ』『タ』『フ』『ハ』というラベルが貼ってあった。

 

 数十分後、先程の青年、少女、女に加えてもう一人ジャージ姿の少女が集まっていた。彼女達の前にあるのは、『フ』というラベルが張られた段ボールの山だった。

 

「これ、超どうするんですか?」

「取り敢えずは置いておきましょう。他にどうしようもないし」

「……ふれんだの荷物って、これだけ?」

 

 ジャージ姿の少女が段ボール箱を一つずつ開けながら疑問を発する。それに対して応えたのは、どこか釈然としていない顔をする青年だった。

 

「それだけだったんだよ。あんなに持ってた爆弾やら何やらが一切なくてな」

 

 頭を掻き、首を傾げた青年。それを聞いて、女がポンと手を打った。

 

「あ、そういえば、フレンダ昔倉庫使ってるって言ってたわ。そっちも確認しましょうか」

 

 フレンダという人物の私物から倉庫の数を確認して四人が驚愕するまで、あと十分。




 今話では、誰もその名前を明らかにしていません。いや、全員明らかなのですが。隠す必要性も無いのですが。というか、そこに伏線を仕込める程ストーリーが決まっていないのですが。見切り発車って怖いですね。
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