フレンダ=セイヴェルン生存記   作:大牟田蓮斗

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とりあえずの箸休め回。フレンダの能力を超捏造しました。どうぞ。


セイヴェルン、能力

 現在の拠点としているところに戻った麦野たちは、ジャージを着た少女――滝壺を含めて四人となって額を突き合わせていた。フレンダの妹であるフレメアは既に就寝している。そして、これは旧『アイテム』の話だ。もう一人の仲間は、言い方は悪いが関係がなかった。

 

「それで、フレンダの能力って超何だったんですか?」

 

 まず口火を切ったのは絹旗だ。そして、その絹旗と同じような怪訝な顔をした浜面も口を開く。

 

「そもそも、フレンダって能力者だったのか? あいつが能力使ってるとこ見たことないぞ」

 

 浜面の記憶に残るフレンダの姿。常にぐーたらとしていて、メルヘンな脳をしていて、善悪のスイッチが壊れているような、そんな姿。戦っているときも、真剣なのかふざけているのか分からなかった。だが、絹旗のように銃弾を受け止めることも、剛力を発揮することも、滝壺のように体晶を使用することも、特別な何かを隠しているようなことも、麦野のようにビームを発することも、明晰な頭脳を見せることも、そのどれもなかった。

 

「はまづら。はまづらの能力者に対するイメージは間違っているような気がする」

 

 滝壺の突っ込みに浜面がにへらと笑う。麦野は浜面に呆れた目線を向けた。

 

「浜面。あれだけの量の爆弾使ってて能力って疑わなかったの?」

「い、いや、ほら、あのスカートの中に入っているのかなぁ、と」

「んなわけないでしょ。スカートの中に物入れるとか痴女かってーの」

 

 麦野がかつて敵対視していた第三位などは(短パンは履いているが)スカートの中から武器であるコインを取り出すのだが、麦野が言っていることは実際、実に正論である。

 

「……フレンダは、空間移動系の能力者。それもレベル四だった」

 

 麦野は絞り出すようにその言葉を発した。それは、当然このあとの展開を予想しているからであって。

 

「ええー!? フレンダってレベル四だったんですか!?」

 

 絹旗は身を乗り出し派手に驚く。麦野は時計を示して絹旗を黙らせる。

 

「しかも、空間移動系だと!? ……改めて、『アイテム』ってすげーヤツばっかだったんだな」

 

 騒いだ浜面に、麦野はフレンダの妹が寝ている部屋を指し示す。浜面は声量を落とした。

 そんな二人を尻目に、滝壺は小首を傾げる。

 

「でも、ふれんだのAIM拡散力場って空間移動系とちょっと違かった気がするよ」

「フレンダの能力は他の空間移動系とは仕組みが違うのよ。大方、その違いがAIM拡散力場に出たんでしょう」

 

 学園都市に空間移動系能力者はたったの五十八人しかいない。そして、それらの能力も安定性が低く、まともに行使できる能力者はそれだけでとても有力であることの証左になる。

 その有力な、つまり演算能力の高い能力者であるフレンダ。その想像は浜面に強い違和感を覚えさせた。あの、憶えるのが面倒だからとロックナンバーを同じ文字列にするフレンダが、大事なところでいつも失態を犯していたフレンダが、そんな空間移動系のレベル四だとは到底信じられなかった。

 麦野は頭を振りながら言った。

 

「フレンダも、結局は私らに心を許してなかったってことよ。あの倉庫のロボットの操作権のロック、ナンバーロックだったけどフレンダがいつも使ってた数列じゃなかった。……ドジなのは元からかもしれないけど、フレンダのあのだらしない姿は擬装だったかもしれないわね」

「な……」

 

 浜面はその言葉に眉を激しく動かす。

 動揺する浜面を捨て置き、絹旗が人差し指を頬につけて不思議そうに尋ねた。

 

「あれ、でもそれ超おかしくないですか? 私たちの能力の情報、その全てを麦野が把握していることは分かりますが、だとしたらなんで麦野はフレンダを確実に殺したと思ってたんですか?」

 

 空間転移系の能力者がレベル四と認められる条件は、自分以上の質量の転送が可能であること。他の条件もあるが、それを踏まえればそれを知っている麦野が、フレンダが逃げていないことにどうやって確信を持ったのかが疑問に残る。

 実際は死体があったからなのだが、絹旗はその死体を実際に見てはいない。だからこそ思い浮かべられた謎である。

 苦々し気に麦野は答えた。

 

「……あんな状態で能力を使えるとは思わなかったのよ。全身、欠けてはいなかったけど傷だらけで、出血もしてた。普段被ってたベレー帽に偽装した演算補助器もしてなかったし、それにすごい……怯えてたから」

 

 今度はその言葉の意を受けて今度は浜面に疑問が生まれた。

 

「待て待て。麦野、お前あのときフレンダの死体を持ってただろ。というか、俺が処理したし。なんでそれを言えばいいのに、わざわざ能力が使えないと思ったって言ったんだ? フレンダの能力は別に自分のコピーを作るわけじゃなくて空間移動系なんだろ? あの死体はどうやって説明するんだ」

 

 麦野が答える前に、絹旗がその質問には割り込んだ。

 

「やっぱ浜面は超バカですね。フレンダの戦闘スタイルから考えて、フレンダの能力はどう考えてもアポートです。その死体、多分超精巧に作った偽物でしょうが、それを持ってきたってだけでしょう」

「あ、アポートもレベル四になれるのか?」

「うん。アポートでも飛ばせる質量があればレベル四認定は問題ない。ただアポートだと他の条件がクリアしにくいだけ」

 

 浜面の純粋な疑問には、だんまりだった滝壺が応えた。そして顔を麦野の方に向けた。

 

「でも、ふれんだの能力はアポートじゃないんでしょ? それなら、同じような電波を感じられる」

「……ええ」

 

 先程から歯切れの悪い麦野に、浜面がやや苛立つ。

 

「で、結局、フレンダの能力は何なんだよ。はぐらかさないで、正直に教えてくれ」

「……フレンダの能力は、『空間交換(チェンジスペース)』」

「『空間交換』ぅ?」

 

 高位能力者になればなるほど、能力のワンオフ率が上がってくる。無論、低能力者でも特異な能力は、おかしな言い方だがありふれている。フレンダの妹などがその代表例だろう。

 しかし、余りにも常人の想像の域を超えていない限り、能力名からある程度の推測は立てられる。

 絹旗がその推測を口にした。

 

「たしか、学園都市最高の転移系能力者って『座標移動(ムーブポイント)』でしたよね。座標よりも空間の方が超範囲は広いです。それに、ただの移動じゃなくて交換ですか。なんか、名前から超ピーキー臭がするんですけど!」

 

 そう目を輝かせる絹旗。その独特な趣味は他の追随を許さない。

 麦野はそれを肯定した。

 

「確かに、ピーキーといえばピーキーね。フレンダにできるのは、『物体』を動かすことじゃなくて、『空間』を交換することだった。つまり、コップを動かしたいとき、普通の能力者なら直接コップを動かすのに、フレンダはコップを含んだ空間を動かさなきゃならないってこと」

 

 テーブルに乗っていたコップを弄びながら麦野は続ける。

 

「他にも、普通の能力者が直接影響を与えるのは動かした先だけ。元々あった場所には一瞬の『無』が生まれて、すぐに埋められる。でもフレンダは違う。空間を『入れ替える』ことが能力の本質だから、―――そうね、例えばコップの中の水を違うコップの中のお茶に転移させたとするわ。普通の能力者なら、水を動かした先にあったお茶は水に押し出されて消失する。で、水が入っていたコップの中には周りから空気が入ってきて埋められる。フレンダの能力でやった場合は、お茶が入っていたコップには水が入るのは当然だけど、水が動いた先にあったお茶は、元々動かした水があったコップの中に動く。つまり、コップの中身が入れ替わるのよ」

 

 麦野は一度コップを大きく揺すると、口を潤すためか一息で飲み干した。

 一瞬、浜面の「あ、それ俺の」というセリフとか、滝壺の殺気とかがあったような気もしたが、気のせいだと絹旗は思った。

 なおも、麦野は続ける。

 

「フレンダの能力は使い勝手が悪いわ。大きく空間を区切れば、一度の演算で大量の転移が可能だけど、転移前と転移先に同じだけの空間を確保しなくちゃいけない。それに、交換する空間からはみ出た場合、そこは即座に斬り落とされることになるわ。少しのミスが命取りね」

「そんなことしてたのか……」

 

 剽軽な言動からは想像もできないその繊細な能力。戦闘中のあの激しい動きの中でそれを実行していたことは、フレンダの能力の高さを如実に示していた。

 

「それに、フレンダの能力は一端が自分の周囲の……たしか三十㎝くらいに固定されているから、能力としてのランクは『座標移動』よりも低いんだけど、その出力は圧倒的なのよ。演算能力とか集中力、自分だけの現実(パーソナルリアリティ)といってもいいかもしれないわね。……能力の有効範囲は大体半径三.四km。これは『座標移動』の約四倍の距離よ。それに転移の限界質量も『座標移動』とほぼ同値の五t弱。演算補助器があるとしても、これは異常よ」

 

 その圧倒的な数値に場の空気が凍る。ある程度能力に精通している絹旗ははっきりとその能力の高さを認識した。浜面は能力的にではなく、その効果範囲を想定して脅威を感じていた。

 

「おい……。半径三.四kmって、本当か……?」

「ええ。私に渡された資料ではそうなっていたわ。個人的に確認したけれど、情報の齟齬はなかったから」

 

 浜面の問い掛けに麦野が頷く。

 さて、唐突だが、この学園都市は東京都の面積の約三分の一を占めているという。東京都の面積は二一八八㎢だ。すなわち、学園都市の面積は約七三〇㎢ということだ。

 また、半径三.四kmの円の面積は約三六㎢である。はたして、学園都市はこの円がたったの二十一個あるだけで収まってしまうということになる。

 そして、フレンダの倉庫は学園都市の全域に、計二十三個存在している。つまり、フレンダは、常に自分の能力圏内のどこかに自らの倉庫を捕捉していたのだ。

 

「さて、浜面。これでもあんたはまだフレンダがただのアホだって思うの?」

 

 麦野は、倉庫が二十三個あるという時点で薄々察していたのだろう。そうして、倉庫内が銃火器でと爆発物で満たされていたことで確信を持ったのだろう。

 フレンダは、()()()()()()()()()()()()()()と。その上での、最初の言葉だったのだろう。

 

「むぎの。明日、ふれんだを探す」

 

 滝壺が覚悟を決めたような顔で口を開いた。

 浜面が慌てて牽制する。

 

「おい、「分かってる。大丈夫だよ、はまつら。無理はしない。でも、フレンダのAIM拡散力場は独特だからちゃんと意識すれば探せると思う」

 

 滝壺は、やや怒っていた。フレンダに。自分たちに一切気を許してくれていなかったフレンダに、大きな不満を感じていた。

 聞けば、血痕のあった倉庫は、麦野がフレンダを追い詰めたところから約三kmほどの距離にあったそうだ。フレンダは、倉庫に忍ばせてあった精巧な自分の人形と自分とを極限の状態で入れ替えたのだ。しかし、フレンダが無事でなかったことは倉庫の状況からよく分かる。

 しかし、なぜ。その思いは強かった。

 倉庫には通話端末があったという。更に言えばそれは使用済みだったらしい。『アイテム』の誰も知らない番号に。

 端末を使用し、外に出た。この時点でフレンダの生存はかなり期待できる。だが、誰もそのことを知らなかった。私物を漁ってようやく欠片を掴んだのだ。

 自分たちに伝える時間はいくらでもあったはず。いくら直前まで敵対したとはいえ、普段親しんだ仲間ならば何かしらないものか。それに、麦野の激情はそのときに唐突に始まったものでもないし、他のメンバーがそれに賛同しているとは限らないだろうに。

 分かる。解る。警戒していたことも。何とか拾った命を大事にしようとしたことも。だが、だが―――。

 『アイテム』はその何とも形容しがたい感情をそれぞれの胸に収めて、明日早速捜索を開始することを決めた。




フレンダの能力はチートです。ただ、使い勝手が悪すぎるので、微妙ですね。慣れないと結標とか黒子とかでもミスしまくります(ミスった時点でどっかがごそっと切断されます)。え? むしろ、あの精度で戦闘中に使ってたフレンダのチートっぷりが上がる?




これは、フレンダを生かしたかった筆者による、フレンダのための、フレンダの二次創作である。よって、無問題!
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