フレンダ=セイヴェルン生存記   作:大牟田蓮斗

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セイヴェルン/成辺るん、遭遇

「やっぱ、適当にぶらついて見つけるなんて超無理な話だったんですよ」

 

 ポケットに手を突っ込みながら絹旗がぼやいた。

 かつての仲間、フレンダを探し始めて早三日。やっていることと言えば、ただ街を歩いているだけ。滝壺がAIM拡散力場から探っているのでそれに付き合うだけだ。一応肉眼でも探しているが、絹旗も滝壺の能力を信頼している。はっきり言って、暇で仕方がなかった。

 

「そもそも、フレンダがどの学区にいるのかすら分からないじゃないですか。第三次世界大戦のときに超学園都市から逃げてるかもしれませんし」

 

 実際、第三次世界大戦のときの混乱に乗じて逃げることは可能だった。それもかなり容易に。

 

「確かになぁ。でも、そうなると本格的に滝壺の能力が必要になるな」

「その可能性は低いわ。あの血の量見たでしょ? あの倉庫に治療するための道具は殆どなかったし、血痕からみてもそのまま外に出たのは間違いないわ。倉庫から脱出した後は、あそこで野垂れ死んだか、誰かに拾われた。一人であの状況を脱することはできないわ。電話も使ってたみたいだしね」

 

 珍しく麦野が丁寧に解説を始める。絹旗と浜面は口を閉じて話を聴く。

 

「連絡先の番号が破棄されるタイプの電話だったけど、ついでに言えばあれは学園都市内部にしか繋がらないタイプだった。つまり、フレンダはこの学園都市内の誰かに助けを求めた。色んなデータベースを当たったけど、フレンダの死体の存在はどこにも記録されていなかった。これはありえないわ。私が覗けないレベルの機密事項だとすれば別だけど、やろうとすれば私はフレンダの半生を全部探れるのよ。その最期だけ機密レベルが跳ね上がるのは不可解過ぎる。だから、フレンダの死体は実際に発見されていないと見た方がいい。それに、あの倉庫の搬入口付近の血痕を清掃した、っていうログは残っていたわ。ただのそこらにある清掃ロボットのログなんだけどね。機密レベルが上がっていたならこっちの情報も消されている筈。学園都市はそんなに甘くない」

 

 データベースを麦野が探っていたことに浜面と絹旗は驚く。それだけフレンダを真剣に探そうとしているのだ。少し、浜面は嬉しくなった。にしても、あの麦野が清掃ロボットのログまで直接確認したとは。

 

「ただ、そのログに血痕をそれ以上除去したというログはなかったのよ。これらから、フレンダがちゃんと誰かに拾われたことが分かるわ。けど、本題はここから。……倉庫内のロボットの操作履歴から三日後までの範囲で、救急車によってフレンダのような人物が運び込まれたっていう記録はないわ。推測される事態は二通り。そのまま手当てをされずに放置されたか、自力で手当てできる人間に拾われたか。ただ、あのフレンダが手当てもせずに放置するような人間に救助を頼むと思う?」

 

 浜面の記憶にあるフレンダ。友達の多さを自慢していたし、実際に仲良さ気に何人とも接しているところも目撃したことがある。

 絹旗が最近知ったフレンダ。リラックスしていても常に爆発物を取り出せるようにしている程に用心深く、実際に本気の麦野から逃げ果せている。

 

「思わない」「超思いません」

「そういうこと。で、自力で手当てできる人に助けられたとする。……あの出血量、私の経験から言って思いっ切り肉が抉れてるわね。内臓まで達している可能性も高いわ。そんな人間を手当てできる存在。それは一定数いるでしょうね。でも、そんな人間の手当てができる環境。それはそう簡単に用意できるものでもないわ。フレンダを助けた人間は、救急車を使わずとも十分な医療設備を使用できる人間」

「医者か?」「超研究者ですね」

 

 これは育ちの違いだろう。一般的感性なのは浜面だが、絹旗の考えもこの学園都市では実に一般的だ。

 

「もしくは大金持ちね。その三択だとして、学園都市外に逃げるかしら? 時間的に、私のような無理をしない限りフレンダという五体不満足な人間を連れて」

「むー。それは難しい問題ですね」

「ああ。……だが、個人的に搬送できる病院だとか研究所を捨ててまで逃げるか、っていわれるとな」

「どのパターンでも学園都市に根付いていることは確実。特別な処置を施す必要のある患者に、その特別な処置を行える環境。どちらも捨てて逃げるとは考えにくい。それにフレンダが学園都市から出たっていう記録も一切ない」

 

 都市の出入りの記録改竄、できないことではないが難しい。第三次世界大戦の混乱も、少し収まれば反対にあちこちが厳重になった。敢えてのリスクを冒しにいくことはないだろう。

 確かに、フレンダが学園都市から出ている可能性は低い。

 

「でも、ふれんだが見つかるのとは関係ない」

 

 滝壺が冷淡に返した。浜面がややびくびくしながら彼女の様子を窺う。

 普段はぼんやりとしている滝壺だが、ここ三日間は常に気を張っていた。フレンダのAIM拡散力場、既に過去の記憶となったそれを必死に思い出しながら周囲を探っていた。

 浜面が心配して声を掛ける。

 

「なあ、滝壺。無理、してないか? そんなに焦らなくても、フレンダが学園都市にいるならきっと見つかるさ。あんまり根詰めても、集中力だって落ちるし、な?」

 

 できるだけ柔らかく浜面は語り掛ける。何日も断食して飢えたジャッカルかのような雰囲気の滝壺は現在、かなりの地雷要素だった。

 麦野も、絹旗も本来ならばもっと気が急いている。しかし、彼女たちにできることは殆どなかった。現時点でフレンダ探しに有効な手を打てるのは滝壺だけだった。だから、二人ともどれだけ歯痒くとも我慢している。これ以上滝壺を追い詰めない為、敢えていつもよりも泰然に構えることを自らに課している。

 滝壺は自らの状態も、傍から見て恐ろしくなるほどに自分がギラついているのも分かっている。だが、自分だけが現状を打破できると思えば、休むことはできなかった。

 なぜなら―――

 

 

 

―――アイテムとして、また四人で笑いたいから。

 

 

 

「大丈夫だよ、はまづら。私、はまづらがいてくれれば頑張れるから。ほら、今だって、あの車の中のAIM拡散力場が捉えられた。―――ふれんだじゃ、ないけど」

 

 滝壺が指差したのは、かなりの高速で走る一台の黒いバン。周囲の車を追い抜き、猛然と走っていく。あのスピードで動き回る車内のAIM拡散力場を正確に捉え、その判別まで滝壺は一瞬で行っていた。集中力が落ちていないのは事実だった。

 浜面は大きく息を吐いた。

 

▽ ▽ ▽

 

「あはは、そうですね~」

 

 私は再び乾いた声で笑う。

 カフェ店内(と言ってもテラス席だが)、そろそろ一時間程居座っていることになる。完全予約制のため、客の出入りは殆どない。というか、そもそも一時間分の予約を取っていたらしい。

 料理、といってもおやつに相応しいスイーツだったが、実に美味だった。舌の上でとろけ、頭がとろけそうな甘さが広がるような洋菓子の数々。

 喫茶店(カフェ)としてのメインの茶、特にここでは紅茶。紅茶の良し悪しなど分からない私でもこれだけは分かる。

 

(この紅茶、高い!)

 

 芳醇な香り、まろやかな口当たり、大人しめの味ながらしっかりと残る後味、極限まで抑えられ寧ろ全体を引き立てる渋み。ついつい何杯も飲んでしまった。はしたないかもと思ったが、御坂もガバガバ飲むので遠慮はしなかった。

 話題。それは尽きない。光子、絹保、万彬の三人でも豊富な常盤台の話に武勇伝。御坂が加わればより話の幅は広がる。悔しいが、良い情報源だ。私が転校生という設定も、根掘り葉掘り聞くのに丁度良かった。

 更に人脈。常盤台の誇る二大広告塔の一つ、御坂美琴(超電磁砲)に加え、大覇星祭において御坂と共に活躍した婚后光子がテラス席で歓談している。それに釣られて無関係な生徒も多少の挨拶をしにくる。無論、彼女たちの目的は風神雷神コンビなのだが、ついでに常盤台の制服を着ていない私にも興味は向く。

 私が転校予定の生徒だと知ると、親切な常盤台生たちは積極的に色々と手助けしてくれようとする。ここ一時間で新調した私の携帯端末に大量の連絡先が登録された。

 悔しいが、実に悔しいが、有益な時間だった。

 

「あら、そろそろ一時間経っちゃうわね」

 

 御坂が自分の携帯を見て呟いた。というか、なんだあの携帯。カエルか? カエルなのか? 緑色主体で、恐らく目と思われる部品が飛び出している。

 

(もう、カエルは暫く見たくないわー)

 

 入院中、唯一と言っていい自分以外の有機物、それがカエル(医者)だった。あれよりかなり可愛げがあるが、食傷気味だ。

 

「そうですね。私もそろそろ帰らないと」

「も、もう帰ってしまうんですか?」

 

 絹保がやや動揺して訊いてくる。いや、そんなに帰って欲しくないのかよ。

 

「もう少しゆっくりしていらしたらいいですのに」

 

 万彬も残念そうに零す。……残念そうに見えるが、その目は私が帰ることを引き留めようとしていた。

 

「そうですわ。そ、それに、あんまり早く帰られても佐天さんだって―――」

「そうですね。佐天さんが今夜も料理を振舞ってくれると……。あれ、婚后さんにそのこと話しましたっけ?」

 

 慌てて口元を扇で隠す光子。その手が僅かに震えている。

 

(怪しい……)

 

 疑念を抱く。……ハッ!

 

 

 

(もしや、サプライズ!?)

 

 

 

 私は何も気づかないフリをして、端末を開いた。

 

「うーん。確かに、一応佐天さんに確認した方がいいですね。ちょっと電話してみます」

 

 ニコリと笑う。おいおい、四人ともホッとしているのが丸分かりだぞ。これだから中学生は……。

 ん? 四人?

 まさか、涙子は御坂にも声をかけているのか……? だとするなら、あのバクも腰巾着のように付いてくるだろう。もしや、今日、全員に合わせてしまう算段だったのか?

 油断しているときにサプライズで会わされたらボロを出してしまうかもしれなかった。学舎の園(ココ)で会えたのは悪運が良かった。

 

「って、ん?」

 

 私の耳元の端末から、無機質な機械音が聞こえた。

 

「佐天さん、端末の電源を切ってるみたいです。……でも、佐天さんって端末の電源切らないですよね」

 

 涙子からそんなことを昔聞いたことがある。テストのときも、電源を切らずに済むようにあえて家に置いていくそうだ。

 

(って、これフレンダのときの知識じゃん、ヤベッ!)

 

 危ない。現在は不思議に思われていないが、後で涙子に確認を取られると危険だ。気が抜けていると自らを叱咤する。

 

「あー、確かにそうだったわね。……ちょっと私の方でもかけてみる」

 

 御坂が私と同じように涙子にコールする。

 しばし経ち、

 

「……ダメ。電波を探ってもみたけど、本当に電源が切られているみたい」

 

 流石は電撃使い(エレクトリックマスター)、電波を探るとか最早訳が分からない。

 

(何かに、巻き込まれたか)

 

 タイミング的に、その何かは私の可能性もあるが、いまだ誰にもバレていないから別原因の可能性が高い。

 

(さて、と。ま、今の私じゃ何もできないし―――)

 

 無能力とまではいかないが、たかだかレベル三相当だ。本来の出力を出せるのなら涙子を助けるのも吝かではないが、可視範囲の一部までしか安定して能力を使えないのだ。私には身体能力程度しか残されていないではないか。それでは無謀が過ぎる。

 

「心配ね」

「心配ですね」

「はい、とても心配です」

「助けに参りませんか?」

「そうね、別に何もなくとも……」

「逆に手間が省けますものね」

「では、行きましょうか」

 

 …………え?

 

 …………マジ?

 

 無理じゃん。これ抜け出すの無理じゃん。これだから、中学生はァッッ!! 自分に自信があるからだろ!? 能力があれば問題ないと付け上がってんだろ!? 大人しく友人の不運を嘆いていればいいだろうがッ!? そんなんだから足元掬いたくなるんだよォッ!!

 ふぅ。キレた麦野を思い出して愚痴ってみたが、割とストレス発散になる。心にメモっておいた。

 ここで一人だけ抜けるわけにもいかず、私も他の四人に合わせて駆け出す。

 入るのは難しい学舎の園だが、出るのには何の障害もない。そのまま門扉の間を走り抜けた。

 

▽ ▽ ▽

 

 さて、黒いバンを目撃してから一、二時間後、麦野たち一行は第七学区の中心部に近付いていた。本日は第七学区を練り歩いていたわけだが、流石は第七学区、広い上に生徒の数も多く、その進みはゆったりとしたものだった。

 

「てか、この馬鹿でかいの超なんなんですか?」

 

 滝壺がいまだにビンビンとしている中、絹旗が左手で指差したものは、

 

「おいおい、絹旗。それ学舎の園だぞ? まさか、知らないのか?」

「そ、そんなわけないじゃないですか! ……超こんなところだったんですね」

 

 そう、学舎の園である。

 

「にしても、フレンダがこんなところにいるとは思えないけどね。そもそもこの中に入れないでしょ」

 

 麦野が頭を掻く。滝壺がふらふらと歩いていく方に進んでいた一行は、図らずしてここに辿り着いていた。

 

 

 

「あ、あ、あああ!」

 

 

 

 突如、滝壺が震え出した。周囲の三人が驚く。

 

「ど、どうした滝壺!?」

「いた、いた、ふれんだだ。ふれんだが、いた!」

 

 目を剥くほどに瞼を開き、興奮して滝壺は言う。三人の驚きが更に深まる。

 

「ちょ、マジですか!?」

「どこ!?」

 

 麦野の声に反応して滝壺は右手で指した。……学舎の園の、その門を。

 

「今、出てくる」

 

 そして、出てきたのは。

 

 思わず麦野が睨みつけた第三位(御坂美琴)。絹旗が本能的に警戒した風力使い(婚后光子)。ふわふわとした茶色の短髪の少女と、ストレートの黒髪の少女。

 ここまでは、全員が常盤台中学の制服を着用している。

 

 

 それから最後に、肩甲骨ほどまであるストレートの茶髪に黒縁の四角いフレームの眼鏡をかけた、()()()()()()()()()()()の私服の少女。

 滝壺の指は、迷うことなくその少女を指し示していた。

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