フレンダ=セイヴェルン生存記   作:大牟田蓮斗

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 一日遅れました。申し訳ありません。そして、あけましておめでとうございます。


セイヴェルン/成辺るん、奪還

「ここ、ね」

「さ、行きましょ。アンタらのお友達をさっさと助けて、フレンダと()()しなくちゃいけないからね」

 

 二つの集団の先頭に立つ二人の超能力者(レベル五)が、一切気負った様子を見せずに滝壺が指し示した倉庫へと足を踏み出した。

 が、その二人の耳に飛び込んできたのは、この二組の遭遇の原因となった者の声だった。

 

「あ。ここ、私の倉k―ッコッホン」

 

 何でもなかったように咳き込んで誤魔化そうとする。……当然、無意味なのだが。

 

「へぇ? そういえば、確かにここって()()()()の倉庫よね。ありがと、フレンダ。危うく能力ぶち込むところだったわ」

 

 発見した二十三の倉庫の場所を覚えているのは当然だが、さらりと恐ろしいことを言う。強盗団に加えて、人質までいる建物に破壊力に全振りしたかのような能力を向けようとしたのだ。

 ちなみに、その隣でビクッとした顔をしてコインをしまった第三位も、やはりこの街の超能力者なのだろう。

 

「爆発物で溢れてるってこと? なんつーめんどくささよ……」

 

 以前の戦闘で使われたイグニスという気化爆薬を思い出した御坂は蟀谷を抑える。下手に火花を熾せばそれだけで全ておじゃんになる可能性がある。更に言えば、小さな衝撃だけで爆発するものや、風圧で爆発するもの、水に反応するものまであるだろう。今回のターゲットは、正確に攻撃しなければならない能力テストのような火薬庫なのだ。

 成辺は心底やらかした顔をする。あそこまで否定したのに、今ので自供したようなものではないか。悩めば悩むほど、集中して考えれば考えるほど、何かを失敗する癖があるのだ。自覚があるのに治せないのが恨めしい。

 そんな成辺とは裏腹に浜面や絹旗などは、今のやり取りで少なくとも『フレンダが大事なところでポカをする』のは演技でないと分かり、安心していた。

 

「超どうしますか? フレンダの倉庫ってことは入り口ないですし」

「ん? 入口ないなら、強盗団はどうやって入ったんだ?」

 

 浜面の当然すぎる疑問。能力で簡単に穴を開けられてしまう者は何を、と思ったが考えてみれば当然だった。強盗などに身をやつす者は、大概がスキルアウト、つまり能力開発の落伍者なのだ。穴を開けられる出力の能力を備えているはずがない。

 安全に倉庫に入るため、一行は強盗が使う出入り口を探す。倉庫の周囲を駆ける。奇しくも、その様子は『アイテム』がフレンダの倉庫を探ったときとそっくりだった。

 そのときと違うのは、一行が一周しなかったこと、そして妨害者がいたことだった。

 一行が初めにいた反対側の倉庫の壁、そこは四分の一ほどがすっかりなくなっていた。その壁沿いに横づけられているのは一台の黒塗りのバン。その前に、軽機関銃を構えた青年が五人立っていた。

 五人は恐らく見張り役だったのだろう。倉庫を伝って出現した一行に、即時に銃を向けた。

 その反応の素早さは若さか、それとも事件直後の緊張感か。何にせよ警備員(アンチスキル)並の対応だった。

 だが、現れたのはそれが通じるような人々ではなかったのだ。

 五人のうちの二人は、上半身に強烈な風を食らって高く舞い上げられた。

 また別の一人は、なぜか足元に現れた水から強い反発を感じ体が泳いだところに猛烈な水流を当てられ吹き飛ぶ。

 残る二人は、飛んできたスタンガン程度に調節された電流によって意識を失った。

 それぞれの手から零れ落ちた五つの軽機関銃は、正確無比な五本の細いレーザーによってスクラップへと変えられる。

 二つの黒い小振りの銃器からプシュ、という空気が抜けるような音が計四つした後、黒いバンから今度は実際に空気が抜ける音が四つ重なりバンが沈み込んだ。

 無力化される直前に、見張り役の一人が何とか発射した銃弾は、成辺の前に突き出された絹旗の腕……の前でその全てが停止した。

 正に一瞬。角を曲がった瞬間の出来事。銃器を確認した刹那、常盤台の制服を着た四人は攻勢に移り、暗部として動いていた四人は敵の装備を排除し万が一を起こさせない動きをした。これが即席、チームと呼べるほどにもなっていない集団だというから恐ろしい。

 何もせずにそれを眺めていた成辺は恐ろしく思う。『アイテム』の面々は構わない。しかし、常盤台の連中は何なのだ。特殊部隊か何かなのか。能力を発動させるまでの思考時間がほぼなかった。更に、自然と互いに狙う相手を以心伝心で分けていたのだ。

 これだけの人材が集まった一行なら、と成辺は安堵する。無事に佐天を救い出せそうだ、と。自らの身に余裕があれば(もう余裕というよりは諦めだが)成辺には友達を思えるだけの精神性がある。

 

 だが、その一行の好調子が崩れ去るのにはそれから一分も要らなかった。

 御坂が黒いバンの中を一応捜索し、婚后達はその周囲の確認。浜面と滝壺で無力化した五人を拘束し、麦野と絹旗は拘束作業が終わるまでの間に周囲の索敵を終了させた。

 そして、いよいよ倉庫に乗り込もうとしたとき、その中から十人ほど(正確に言えば十一人)の青年達、そして彼らに連れられた佐天が出てきたのだ。

 見張り役の警戒心も高かったが、倉庫内部の危機意識も相応に高かったようで、防ぎ切れなかった見張り役の銃声を聞きつけて人質を連れて出てきたのだ。拘束は素早く終わったために、強盗団にも時間は与えなかったはずなのに、早速奇襲の態は崩れていた。

 

「んー!! ん、んん!?」

 

 猿轡をかまされた佐天が襲撃者一行を見て声を上げる。周囲の強盗団はそれに注意を向ける暇などなく、それぞれが手に持った様々な銃器を襲撃者に向けていた。一人、佐天の頭に拳銃の銃口を突き付けた者を除いて。

 見張り役には五人を立てていたはずだった。それが銃声を一度しか鳴らせないような面々なのだ。襲撃者の警戒も尤もだと言える。

 問題の襲撃者一行は、強盗団のその様子を見て動きを止めざるを得なかった。

 

「テメェら、何者だ!?」

 

 佐天に銃を突きつけた青年が叫んだ。それに麦野が気丈に返す。

 

「それを答える必要はないわね。どうせもう二度と関わることはないでしょうし」

「あ゛ぁ?」

 

 スキルアウトの凄み。それに憶する可能性があるのは婚后達三人だけ。その三人もとうに覚悟は決めていた。覚悟を決めた三人は、それこそ先程の通りとてもお嬢様とは思えない。

 

「何が目的だ!?」

 

 今度の叫びには御坂が答える。

 

「私達は佐天さんを返してもらいに来たの。ま、()()()にアンタたちも壊滅させにね」

「何だとぉお?」

 

 ついで扱いされた強盗団が飛び出しかけるが、それを佐天捕らえた青年が諫める。

 

「まあ待て、お前ら。そこのガキが言っただろ? こいつが目的だ、って。だったら俺らに手出しはできねぇはずだ。落ち着け」

 

 逆上させた隙に佐天を奪還しようとしていた御坂は舌打ちする。

 そして、それを最後にその場は膠着した。

 強盗団からすれば、こんな危険な集団とはことを構えたくない。人質さえ確保していれば攻撃はされないのだから自分たちから手を出す理由がなかった。

 御坂たちは逆だ。何としても攻撃を加えたいが、佐天が向こう側にいる限り手出しはできなかった。

 しばらく、二分か三分か、はたまた五分かの後、強盗団に動きがあった。

 佐天を捕らえている青年、仮に強盗Aとするが、その強盗Aが御坂たちに要求を出したのだ。

 

「おい! テメェら、一列に並んで両手を挙げやがれ!」

「は!? 超なに言っ―――「この女がどうなってもいいのか!?」

 

 絹旗が反抗しかけるが、人質を盾に取られてはどうしようもなく、麦野も目線で大人しく従えと促した。

 八人が横に並び、両手を挙げて無抵抗を示す。といっても、本当に形だけで意味などないのだが。能力の使用に両手は使わないからだ。

 この距離であれば、滝壺と浜面でさえ早撃ちで二人で十人程度の制圧はできる。暗部はそれほどだ。麦野、御坂は言うまでもなく、婚后の能力も規模から言えば一人で十人に対抗できる。泡浮と湾内も協力すれば制圧はできずとも逃走することはできる。

 八人は人質さえいなければ、何も気にすることはなかったのだ。そう思えば、強盗団は実に合理的な選択をしたのだろう。

 

 

 ああ、だが、強盗団にとっては哀しいことに、人質がいるというただ一点に頼った均衡は、人質がいなくなるだけで簡単に崩れ去るのだ。

 

 

 八人は気づいていた。だから大人しく従った。そうでなければ、全員でタイミングを見計らって突撃しただろう。

 

 

 この場には、成辺るんが、この倉庫に最も精通しているであろう人物がいなかったのだ。

 

 

 強盗Aが自分の背後に人がいると気づくのに、約五秒かかった。それは当然だろう。襲撃者に注意を向けていたのだから。

 その五秒で、その人物は手近な棚にあったものを使ってこの小競り合いを詰めていた。

 五秒後、強盗Aが振り向く。目の前にあるのはどこかで見た瓶。たしか、倉庫の中を探ったときに見つけた気体の爆薬。話によれば、多少の火花で爆発する危険な代物。

 それが目の前を落ちていく。地面にそのまま衝突すれば瓶が割れ、コンクリートの足元と火花が起こるかもしれない。強盗Aは慌てて、佐天の首に回していた左手でガラス瓶を掴む。

 しかし、そのガラス瓶の外側。そこが異常に滑る。強盗Aはその肌触りに心当たりがあった。これまた倉庫内の物品。銃器の手入れに用いる油が同じような手触りだった。当然、滑る。銃器を持たない、つまり利き手でない手でそれを掴み取るのは不可能だった。

 滑って手元を離れた超危険な物体。強盗Aはそれを追い掛け、右手を、拳銃を持っていた手を使う。無事にガラス瓶を強盗Aは確保した。

 突然、自分を押さえていた力がなくなった佐天は、後ろにいた強盗に思い切り後ろ蹴りをかまし、その反動で前方へと、皆の下へと飛び出した。

 不安定な体勢から無理矢理飛び出した佐天の足元へ、湾内の胸ポケットから水が飛ぶ。前へと転んだ佐天はそれに乗っかる形となり、そして不自然に水の上に浮かんだ。そのまま水流に乗って湾内と泡浮のところに辿り着く。佐天を護るようにその前には婚后が立ち塞がった。

 佐天に蹴られた強盗Aは、もともと瓶を拾うために無理な体勢をしていたこともあってそのままつんのめって顔から地面につく。ガラス瓶は何とか守り切ったが、自分の顔は守り切れなかった。

 そして、悲惨だったのは強盗A以外の強盗もだ。

 強盗Aの唐突な行動に、動揺が左右に伝播していき、その隙にそれぞれの手にあった銃器は全て破壊されていた。電撃によって、レーザーによって、あるいは銃弾によって。

 銃器を失ったスキルアウト。五人は絹旗の拳と蹴りの前に為す術なく沈んだ。

 残りの五人。成辺は強盗Aの背後から強盗集団の端に向けて走り出す。走りながら自分の足元の発火テープに細い着火装置を落とし、それが繋がっていたために二人の強盗の服の裾に火が点いた。慌てた二人は飛び跳ね、左右に避けることもできない空中で、飛んできた麻酔針の餌食となった。

 麻酔針を投げるのと同時に、成辺は足元にもう一本着火装置を落とし、今度の導火線の先にあった爆風に特化したミニ爆弾によって一人を排除する。

 一番端にいた最後の二人。成辺はまず足元に滑り込む。二人の反応は良くとも、銃の訓練を受けたわけではなく発砲には時間がかかる。ましてや動き回る的に狙いを付けては。

 そして下を見て狙いを付けようとした一人は、上から襲ってきた爆風によってその身を地面に叩きつけることになった。

 その爆弾に気づいて飛び退いた最後の一人だが、後ろに飛ぶのと前に走るの、どちらが速いかは試すまでもなく、実際に成辺は最後の強盗に追い付いてその足で足払い。体勢を崩し仰向けに倒れていく強盗の鳩尾に、脚を高く振り上げてから踵落としを決めた。

 その強盗が地面に落ち、十一人の強盗は壊滅していた。




 フr……成辺ちゃん大活躍。
 麦野さん、フラストレーション溜まってますでしょうねぇ。爆発物を気にして能力を存分に使えてないですからね。
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