憑依者がハンターとして生きていく世界   作:晴月

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第二話 ハンター試験の始まり

あれから四年の月日が経過した。

 

パイロに憑依という形で異世界転生した少年 草薙 透は現在山の中にある森の中で修行をしており、立派に成長していた。

 

「...さて、ここでの修行も終わりだな、後は.....」

 

辺りを見回すがそこにあるのは滝と森だけである。

 

「服はちゃんと洗濯してあるから綺麗だし、食料もちゃんと保存食に加工してある....準備は整った。」

 

後は、ハンター試験に行くだけだと意気込む透。

 

「原作だと、船に乗らなきゃ行けないんだよなハンター試験。」

 

そしてどんな特徴の船だったかを思い出そうと頑張るが、

 

「駄目だ、思い出せねぇ.....。」

 

まさか自分が其処まで記憶力が無いとは思わなかったのだろう。

 

orzの姿勢で絶望している。

 

「あ...でも船長の顔は覚えてるわ。」

 

仕方なく自分の朧気な記憶力を便りに船を探そうと移動を始める透。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「やっと山から降りられた。」

 

街の港まで来るのに30分は掛かった透、どうやら方角が分からなかったらしい。

 

(そりゃ10年近く山に篭ってりゃ方角なんて分かんなくなるわ。)

 

ハァ、とため息を漏らすと港に一石の船が停まった。

 

「あ...多分あの船だ。」

 

その船は他の船と違って古ぼけて見えた為、これはそうだなと確信した。

 

「あれに乗るか。」

 

急いで船に乗り込む透。

 

そして暫くしてから船は出港し、何処かへと向かって移動を始めた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

結論から言わせてもらうと、透のカンは当たっていた。

 

船内の客室らしき場所に入るとそこには、

 

(ゴンだ。)

 

HUNTER×HUNTERの主人公 ゴン=フリークスが居た。

 

それだけでなく、近くのハンモックの上でスーツを着た男がいびきをかきながら眠っている。

 

(あれはレオリオだな....間違いない。)

 

丸渕の眼鏡をかけたスーツの男などレオリオ以外この世界には居ないだろうと考えていた為、そのような結論に至った。

 

そしてゴンやレオリオがいるということは、そこにはやはり見覚えのある人物が居た。

 

(クラピカ.....!!!)

 

レオリオの近くのハンモックの上で読書をしている。

 

透はクラピカの親友 パイロの体に憑依という形でこの世界にやって来ている為、もし自分の正体が露見すればパイロが生きていると思われてしまう可能性がある。

 

が、現在の透、もといパイロはクラピカと遊んでいた十年以上前とは異なり、身体能力は透と同等になり髪も当時のパイロの髪型よりも伸びきっている為、クラピカがパイロ本人だと気付くには時間が掛かるものだと思われる。

 

(流石にまだ気付かれる訳にはいかない。)

 

今はまだ出会う時ではないと考え、成るべくクラピカとは鉢合わせしないようにその場を後にするのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

暫くして、海が荒れ始め船が大きく揺れる。

 

(来たか...。)

 

透はこの船が嵐によって転覆しそうになることは既に知っており、ここからが本当のハンター試験の開始を意味しているのだと

内心ワクワクしていた。

 

「平気なのは.....四人(・・)だけか。」

 

そして暫くするとそこに船長がやって来て、透達を見てそう言い放った。

 

「四人とも、付いてきな。」

 

(始まったか。)

 

ここから船長の面接が始まり、ハンター試験を受ける理由を包み隠さず正直に打ち明けなければならない。

 

(俺がハンター試験を受ける理由......やはり一番は、奴ら"幻影旅団"を追いかける事....だけどそれだけじゃないよな。)

 

自分がハンター試験を受ける理由、一つめの理由は幻影旅団を追いかけ、事件の真相を知ることだと理解はしている。

 

だけどそれだけではない、自分がハンター試験を受ける本当の理由......それに気付く事が出来なければ此処で失格になってしまう。

 

(やっぱり、俺自身.....この世界に来たことを楽しんでいるんだろう.....だから最初の目標としてハンター試験を受けてライセンスを取得したいと考えているんだろう.....だけどなぁそれ船長に言えねぇし.....どうしよう。)

 

━━━━━━━━━━━━━

 

操舵室にて、

 

「それじゃあ今から此処で、全員に自己紹介とハンター試験を受ける動機を聞いておこうと思う。」

 

部屋に着くなり唐突に船長が四人に指示する。

 

「動機って?」

 

船長の発言から直ぐにゴンが隣にいた透に質問する。

 

「受ける理由だよ....何故ハンター試験を受けるのかっていう。」

 

「ふーん。」

 

透はゴンに親切に言葉の意味を教えると直ぐに船長に答えた。

 

「俺はゴン=フリークス!ハンター試験を受ける理由は親父を探す為!」

 

最初に自己紹介と動機を話し始めたのはゴンだった。

 

「ほう、お前さんの親父はハンターにならないと見つけられないのか?」

 

「うん。俺の親父、ハンターらしいから。」

 

「そうか。」

 

ゴンの話を聞いて思うところがあるのか、船長は少し考えるような素振りを見せた。

 

「お前さんは?」

 

次に船長が質問を開始したのは透...いや、トールであった。

 

「...俺はトール....トール=スカーレットだ....ハンター試験を受ける動機は......ある事件の真相を確かめる為だ。」

 

「ある事件?....何だそれは?」

 

「.......」

 

トールは言うべきかどうか少し迷ったが、此所で虚言を並べても意味が無いことを理解していたので語る事にした。

 

「クルタ族の大量虐殺だ。」

 

「......!!!」

 

トールの発言にいち早く反応したのはクラピカであった。

 

「ほう?そりゃどうしてまた?」

 

「.....不可解だからだ。」

 

またも少し悩んだが、答えることにした。

 

「何が不可解だって言うんだ?」

 

「殺され方だ....まるで、公開処刑をするようにして殺されていたそうだ....俺は昔、クルタ族の少年に助けられた事があってな....おそらく彼も殺されたんだろう、だから俺は知りたいんだ...事件の真実を、何故クルタ族があんな酷い殺され方をされてしまったのかを。」

 

「下らない。」

 

トールの発言にそう返したのはクラピカであった。

 

「殺された理由だと....そんなもの決まってる、奴等はクルタ族の"目"を狙って殺した....それが真実だ。」

 

「....それでも、俺は疑問に感じる事がある限り、奴等を...幻影旅団をハンターとして捕まえて聞き出す....それだけだ。」

 

「ふーむ...てことはお前さん、賞金首(ブラックリスト)ハンターになるのか?...奴等はランクA級の犯罪者集団だ....捕まえるのは困難だぞ。」

 

「それでもだ....俺は、"一度決めたら最後まで貫き通す"....それだけだ。」

 

「...今の言葉....!」

 

拳を握り締めてそう言い放つトール。だが、その発言が原因なのかクラピカに首根っこを掴まれる事になってしまう。

 

「貴様.....今の言葉、まさかお前の言う..."彼"とは...!」

 

「"パイロ"という名前の少年だ.....もしかして旧知の仲だったか?」

 

「.....そうか、お前は....アイツを知ってたんだな。」

 

「ああ。」

 

トールの返事にクラピカは俯いた。

 

トールはクラピカの肩に手を置き、船長に見えないようにしてから耳元で囁いた。

 

(忠告しておく...此所では名乗った方がいい。)

 

「....まぁ、俺がハンターを目指す理由はそれだけだ...これでいいかい船長?」

 

「ああ....そっちの二人はどうなんだい?」

 

船長はクラピカとレオリオに目を向けて自己紹介を促す。

 

「私はクラピカだ....ハンター試験に参加する理由は...彼と同じ、幻影旅団を探し出し...そして捕らえる事だ。」

 

「ほぉ...お前さんもそいつと同じ...という訳か。」

 

「ああ。」

 

クラピカの目的を聞いて船長は吟味する様子でトールとクラピカの表情を確認した。そして次はレオリオの方に顔を向ける。レオリオも船長が自分の顔を見ている事に気付いたが、

 

「俺はレオリオだ。....動機?...試験官でもねぇのに言う訳ねぇだろ。」

 

と、一蹴した。

 

どうやらレオリオは船長のこの問いかけの意味に気付いておらず、そんな事をする必要はないと切り捨てているようだ。

 

「まぁ、そう言うなって.....もし、これがハンター試験に向かう前の意思確認とかだったらちゃんと動機ぐらいは説明しとかないとさ...。」

 

透は助け船を出すつもりでレオリオに話し掛ける。

 

「そんな訳ねぇだろ...いい加減な事言ってんじゃねぇよ。」

 

と、更に一蹴した。

 

「やれやれ。」

 

透がそう呟いた時船長が一言、

 

「そうか....おい、カッツオ!...ハンター試験委員会に報告しろ、コイツも脱落者に加えろ 。」

 

と、言い放った。

 

「な!?...どういう事だ!?」

 

「既にハンター試験は始まってるんだよ。」

 

動揺するレオリオにそう進言する透。

 

「この船長も....謂わば試験官....俺達がハンター試験を受けるに相応しいかどうかを此所で見極めるという事だろうよ。」

 

「その坊主の言うとおりだ。」

 

煙草をふかしながらレオリオを見る。

 

「ハンターの資格を取りたい奴らは世界で星の数程いる...そいつら全部を審査出来るほど、試験官に人的余裕も、時間もねぇ...そこで!俺達みてぇのが雇われて受験者をふるいにかけてんのさ。」

 

そう言ってまた煙草をふかし始める船長。

 

「それに、さっきの嵐の中で平気だったのは...俺達四人だけだったっていうのも関係してるんでしょ...船長?」

 

トールがそう聞くと船長は少しだけ笑う。

 

「そうさ....お前達以外の参加者は既に全員脱落者として審査委員会に報告した。」

 

船長の言葉を聞いて驚きの表情を浮かべるレオリオと、レオリオ同様驚いたが答えて好かったと安堵の表情も浮かべたクラピカ。

 

「あの程度でくたばってるようじゃ...この先のハンター試験なんて到底無理だからな。」

 

咥えたキセルを外してこちらを見る。

 

「つまり、お前らが本試験を受けられるかどうかは俺の気分次第って事だ....よーく考えてから俺の質問に答える事だな。」

 

「だってさ。」

 

ゴンがレオリオを見て返答を求める。

 

それを早く言えってんだ...。

 

小声で呟いてからレオリオは、

 

「つーか、そこの二人...要は敵討ちって事か...だったらわざわざハンターになんかならなくても出来るじゃねぇか。」

 

と、わざわざトールとクラピカの怒りを買うような発言をする。

 

「出来たらハンター試験を受けようなんて苦労はしねぇんだよ...というか、レオリオだっけ?...人の事を馬鹿にして言うんだからそっちも随分と御大層な理由があるんでしょうね?」

 

レオリオの言葉にムッとしてトールが反論した。

 

「それに、ハンターにならないと入れない場所、聞けない情報、出来ない行動...というものが君の脳ミソに入りきらない位あるんだよ。」

 

それに続けてクラピカがレオリオに対して皮肉を返した。

 

「ねぇ!....レオリオさんは何でハンターになりたいの?」

 

衣良だっていたレオリオにゴンが理由を聞き始めた。

 

「俺か?...俺の目的はズバリ、金さ...金さえあれば何でも手に入るからなぁー。」

 

と答えた。

 

「品性は金では買えないんだよ....レオリオ。」

 

と、またもやレオリオに対して嫌みたらしく皮肉を返すクラピカ。どうやら先程のレオリオの敵討ち発言にまだ怒っている様子だ。

 

「表へ出な....その薄汚いクルタ族の血ってやつを絶やしてやるぜ。」

 

今度はレオリオがキレてクラピカに安い挑発をかます。

 

「取り消せレオリオ!....取り消せ...!」

 

クラピカはその挑発に乗ってしまう。クラピカはクルタ族としての誇りを汚された事でレオリオに怒りを抱いてしまう。

 

「レオリオ"さん"だ。」

 

操縦からレオリオ、クラピカは甲板へと出ていってしまう。

 

(クラピカ....自分がクルタ族だということに誇りを持ってるんだな....にしても、レオリオのあの挑発....いくら何でも安過ぎないか?.....ん?)

 

その時、左目に何か、違和感を感じ取る。

 

(何だ?)

 

鞄から鏡を取り出し、左目からカラーコンタクトをはずして見てみると、目は緋色に染まっていた。

 

(そうか.....俺ではなく、お前が怒っているのか.."パイロ"。)

 

彼の身体に憑依しているとは言っても...結局、この身体の持ち主はパイロなんだと、嫌でも理解させられた。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

甲板にて、

 

嵐に呑まれないようにと、船員達が力を合わせて、船の帆を張る。

 

それにゴン、トールは手伝いを志願し、船員達と共に帆を張っていた。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!?」

 

突如吹いた強風により、船員が一人、煽られて海に落ちそうになる。

 

その時、近くにいたクラピカとレオリオが船員を助けようと、船に掴まりながら腕を伸ばす。しかし、二人は船員との距離が離れすぎており、とても助けられそうにはない。

 

その時だった。

 

「は?」

 

二人の間をゴンとトールが通過して船員を助けようと海へと飛び込む。

 

ゴンが船員の脚を掴み、ゴンの脚をトールが掴んだ。

 

それを目の当たりにしたクラピカとレオリオは、慌ててトールの脚を掴んだ。

 

「ぐっ....ぐぐぐぐぐ!!!」

 

レオリオが顔を赤くしながら力一杯トール達を引き揚げようと試みる。

 

その様子を見ていた船員達の一部がレオリオとクラピカに加勢し、トール達を何とか引き揚げる事に成功した。

 

「ハァ...ハァ....た、助かった。」

 

「「自分から突っ込んでいったんだろ!....あ。」」

 

トールが息を切らしてクチから飛び出した言葉にクラピカとレオリオがそうツッコみ、互いに目が合いそのまま吹きだしてしまう。

 

「先程は済まなかった....その..レオリオ"さん"。」

 

クラピカがレオリオにさん付け、して謝罪をした。

 

「えっ...あ、いいよ別に、レオリオで...」

 

言われたレオリオは照れ臭くなったのかそう言って頬を赤らめた。

 

「何とか、ふたりは仲直りしたな....さて、」

 

息を整えたトールは、少し黙り....そして、

 

「俺達"四人"はハンター試験を受けるにふさわしいかな....船長?」

 

そう言って振り返った。

 

「...ああ...間違いなく合格だ。」

 

トールの後ろには、船長がキセルを吹かしながら笑ってトールを見ていた。

 

「そうか....ん?」

 

ふと空を見上げると、嵐は過ぎ去り青空が姿を現していた。

 

「そろそろ港に付く、準備しな。」

 

船長はトールにそう言い残して操舵室へと戻っていく。

 

「さてと....」

 

空を見上げ、心に問い掛ける。

 

(見ているかパイロ.....これが外の世界の空だ....俺がお前の身体を借りてる間、お前の代わりに世界を見てくるよ。)

 

そうパイロに誓い、再び空を見上げる。

 

その空は、何処までも青く、澄んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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