ピュートーンさん!?d×d 作:塩で美味しくいただかれそうなサンマ
神撃のバハムート、ピュートーンのフレーバーテキストより
いったい何人の人がここを訪れただろうか。
朝が早く、うっすらと窓から陽の光が入り始めたばかりの薄寒い神託所の真ん中にとぐろを巻きながら心で思う。
いや、知っている。
それは知っている。
この神託所が無くなるまでに来る人の数も既に知っている。
じゃあ、いったいどれだけの神が私の元をおとずれたろうか。
知っている。
そう、知っている。
当たり前のことだろう。
俺に、知らないことはない。
いつもと同じ結末。
悲しいことだ。
知らないことを探してみるがそんなものはない。
いつも絶望に苛まれるだけ。
いや、それすらも《運命》なのだ。
神託所の真ん中で小さくため息をつく。
神託所の中に収まるよう、体を縮めて本当にただの小さな蛇と化しているため、その吐息はかすかなものだった。
「ピュートーン様?お気分が優れないでしょうか?」
「エアルか。大丈夫だ。心配をかけたな。」
そう、これも知っている。
ため息をついたら巫女のエアルが心配してやって来ると。
エアルは良い子だ。
黒髪、碧眼の整った目鼻立ちの巫女である。
敬虔な信者で気立てが良く、俺の世話を良くしてくれる。
長年過ごして精神がもう虚ろな俺とも、諦観と冷たさを滲み出す俺とも、全てを既知という理由を持って拒絶するおれとも、面倒臭がらず接してくれる良い子だ。
神託所の中では俺は「冷徹な神」として評判を受けてるからな。
「そうですか。あぁ、そういえば今日は予言者がいらっしゃるようですよ。何やらピュートーン様に伝えたいことがあるのだとか。」
「そうか。ありがとう。だが、知っていたよ。」
「ええ、そう仰るのも分かってました。どうせ話し相手が欲しかったんでしょう?さぁ、話しましょう?」
「…いつもすまないな。」
本当に優しい娘だ。
しかし残酷かな。
その会話はとてもつまらなかった。
気がまぎれるなんてこともなくむしろもっと辛くなった。
暇つぶしのためにするその会話でさえも、《運命》であり《必然》であり、知っていたから。
「ピュートーン様、隠し事はあなたには無駄でしょう。なので、率直に申し上げます。無礼は許してくださるとありがたいです。覚悟は…大丈夫でしょうか?」
予言者が恭しい口調でそう言葉を発する。
なんとも言いにくそうな、しかし言うべきであると大きい覚悟を持っているといった感じだ。
まぁ、そうだろうなと1人納得する。
なにせ、その予言の内容も、《知っている》のだから。
まぁ、予言者の口から聞くことも一興だろう。
「良い、話してくれ。」
「分かりました。…すぅー、はぁー。…」
予言者が深呼吸をする。
「ピュートーン様、あなたはレートーの子によって殺されます。」
「そうか。」
予言者の声が神託所を突き刺す。
神託所内の空気は凍った。
まぁ、それはそうだろうな。
目の前の強大な存在が死ぬと言われれば驚愕するほかないだろう。
しかもそれに全く反応を返さない主神ときたものだ。
巫女たちはみな、こちらを唖然としながら見る。
予想通りすぎてあくびも出ない。
「……ピュートーン様は…驚かれにならないのですね。」
「そうだな。それが予言なのであれば、《運命》なのだろう。ならば抗う術もなし。抗う気もないさ。所詮、俺も一つの命に過ぎない。」
「そんな…!ピュートーン様!そんなことを仰らないでください!ピュートーン様ならどうにかできるんじゃないでしょうか!?」
エアルが叫んでこちらに向かってくる。
その顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
可哀想に。
まぁ、知っていたけども。
どうにもできないのだ。
俺には。
運命というのは、実際に《不変》というわけではない。
というよりは一部だけ変化可能であるといえる。
運命は、大筋が決まっていてそれまでの細かな筋書きはあまり決まっていない。
つまりその筋書き部分はいかようにも変えられるということだ。
しかし、それは逆に…
大筋にはどうやっても逆らえないことを意味している。
この、俺の死からも…な。
エアルがこちらにダイブして泣きついてくる。
蛇体でもって受け止めて、優しく包み込んでやる。
とても暖かい。
「エアル、そんな泣かないでくれ。大丈夫だ。ここの神託所にはもっと頼り甲斐のある神様が来る。」
「違うのです!嫌なのです!ピュートーン様じゃないと嫌なのです!」
…心が痛い。
運命をつかさどる神。
神託を授ける神。
全ての運命は彼が定める。
ピュートーンはそんな風に言われるがその実どうだろうか。
ピュートーンは、運命を定めるわけではない。
運命を《知って》、《宣告する》だけである。
ピュートーンという悲壮な魔物は。
《運命》という絶望を何よりも知っている獣なのだ。
はい、ダークですね。
でもこれから明るくなりますよーなるなる(多分)
これからもよろしくお願いします。