あと、プロローグのちょっと前の時間軸です
1.2変わり果てた故郷にて
「しっかり全員そろったようだね。わかってはいたが、みな負けん気が強い」
「負けん気とかじゃないよ、キリシュタリア。やらなきゃいけないことがこれだと判った、ただそれだけ」
「なんだよ慎二、何をするのも生きてこそのよろこびだろう? そんなに思いつめないでも対価の仕事だと思えばいい。なにせ拒否したら死ぬんだからな、オレもノーとは言えなかった」
「何でもいいさ。チャンスは全員にあるんだ。要は世界を救えばいいんだろう」
「そうか?カドック。救う必要なんてない世界の方が僕も気が楽なんだけどねえ。まあ補欠同士の争いだ、世界ぐらい救えないと資格なしかな。
◇◇◇
サーヴァントを召喚した僕は、クリプターの仲間たちと軽く会話をしたのちに自らの担当する異聞帯へ移動した。
その異聞帯についてわかっていることは2つ。空想樹が落ちるのは日本(つまり異聞帯の中心地も日本)であること。異聞帯が汎人類史から分かれたのが比較的最近であること。1つ目は割り当てられたときに分かったことだが、2つ目はサーヴァントからの推測である。
僕のサーヴァントは1493年11月10日生まれのヴァン・ホーエンハイム・パラケルスス。医者であり錬金術師としても名の知られた人物である。このサーヴァントはどういうわけか汎人類史と異聞帯2つの記憶を持っているという。しかし、記憶を持っていることはわかるが、その2つの記憶にほとんど差異がないのか、2つを明確に区別することができないらしい。
よってその異聞帯はパラケルススが生きていた1500年代以降に汎人類史から分岐して、その結果切り捨てられた世界、ということになる。それを異界の神が2017年の今まで存続させたのだろう。
つまりなにが言いたいかというと、
「さ、さむい……。寒すぎる」
自らの担当する異聞帯の気候など知る由もなかったのである。
目の前には一面の銀世界、というには暗すぎる灰色の雪景色が広がっている。雪は吹雪いていて遠くが見えないし空は一面雲で覆われ稲光が時折見えている。あたりにあるビルは2017年だということを感じさせてくれるが、半ばまで雪に埋まっている気がする。気温は何度か知らないがカルデアのあった山の上と同じくらいだと思う。
「慎二、とりあえず羽織る防寒具を用意しました。それとこちらの寒さを和らげるドリンクを。暖かいところへ行くと熱でうなされる副作用はありますが、この寒さでは大丈夫かと」
「あ、ありがとう」
ハンター愛用のホットドリンクのようなものだろうか。副作用は気になるが背に腹は代えられない。
冷気を吸い込まないようにちびちび飲んでいると、次第に寒さが和らいできた。もこもこした上着も今作り出したもののようだし、医者で錬金術師の英霊なのは伊達ではないようである。
「しかしなんで日本がこんなに寒いんだ。氷河期になったってもっと暖かいんじゃないか?」
「すいません。気象についてはあまりお役には立てません。それよりどこか風の防げる場所で暖をとりましょう」
ああ、その通りだ。見渡すと、周囲の人工物はビルしか見えない。とりあえず窓らしき場所から侵入しようか。
「じゃあ、あの建物がいいんじゃないか」
そういって適当なビルを指さし今晩の宿を決める。ここでもキャスターにスノーシューを作ってもらい何とか建物にたどり着く。
窓は当然のように開かなかったので割って侵入し、別の階に移動する。
そしてほかの階に移り、密閉できる部屋を探しだして、キャスターの魔術で温めてもらい、途中で見つけた嘘みたいに賞味期限の長い缶詰でひと心地ついているのである。
仮にも魔術師なのに僕の魔術役に立たな過ぎである。
「悪いねキャスター、雑事にばかり魔術を使わせて」
「かまいませんよ慎二。貴方が体調を崩してしまうことを考えればこの程度、苦労のうちにも入りません」
「それに、慎二は外界に作用する魔術が苦手でしょう?」
やけにあっさり聞いてくる。本来の慎二とかカドックみたいなコンプレックスをもってるやつにとっては結構な地雷ではないだろうか。いや、わざわざ外界と言っているということは
「ああ、そうだよ。内界の魔術が得意で、次が肉体、外に働きかけるのはあんまり得意じゃない」
「やはりそうですか。雪上を歩くときに強化を使っているようでしたし、それだけにしては移動が効率的だった。それに錬金術も学んでいるということでしたし、アトラス院の系譜の魔術師なのですか?」
そういえば三大魔術組織の1つアトラス院の錬金術師は魔術回路の本数が少なく、通常の魔術行使に支障がでる代わりに、脳内で何重もの多重思考を行うことができ、それは疑似的な未来予知にすらなる、という話だった。
それに相手の脳にハッキングできるアトラス院の糸使いの異名が霊子ハッカーでウィザードの別名と同じである。
しかしそれと僕は無関係だ。この際だから僕の由来や魔術について話しておくとしようか。
「……ちがうって。もとはヨーロッパから日本に越してきた魔術師で、多分もとから時計塔所属だよ。そうだな、僕について話すから、キャスターも代わりに何か話を聞かせてくれよ」
確か、マキリ・ゾォルケンはロシアあたりの出だったはずだ。それ以上祖先のことは知らないが、間桐の始祖はマキリでいいだろう。なにせ日本に住処を変える際に名をマキリ・ゾォルケンから間桐蔵硯に変え、マキリの名前が間桐の苗字になったのだから。
そんなマキリの魔術は使役の特徴を持っており、本人は虫の使役を行うほか、聖杯戦争のサーヴァントを使役するシステムの構築も行っている。
そう聖杯戦争。アインツベルン・マキリ・遠坂の三家によって創られたこの儀式は7組のサーヴァントとマスターが争い、最後の1組に万能の願望器である聖杯が与えられる争いである。このサーヴァントを呼び出し使役するシステムはカルデアの召喚システムにも参考にされ、おそらくクリプターが呼び出したサーヴァントも同様の仕組みをとっているだろう。
そして間桐の末である僕がカルデアにスカウトされたのもサーヴァントを使役するすべが目的だったのだろう。僕としてもまともに引継がれていない魔術の情報と引き換えに最新の魔術を学べるのは魅力的だったからそのスカウトに飛び乗った。
それで最新の魔術だ。
そうして僕はカルデアで随一のウィザードになって世界の破滅を防ぐメンバーのAチームに配属された。しかし、内部犯の破壊工作でメンバーは全滅。唯一無事だった一般人のマスターによって世界は救われ、僕はこうして侵略の先兵になっている。
「こんなところか?」
「ありがとうございます。しかし聖杯戦争とは……」
「参加したかったの?」
もしかして願いがあって召喚に応じたのだろうか。クリプターの戦いに強力してくれるとは言っているが、それも願いあってのことなのだろうか。
「いえ、たしかに願いはありました。すべての愛し子らに光を。しかし……、その願いを自ら踏みにじってしまったのは私だ。それに聖杯も、われら7騎の願いの果ても決してそれをかなえてくれるようなものではなかった」
聖杯戦争に参加したことが、しかもその記憶を残しているのか!
「それは、まさか聖杯が汚染されていたのか?」
「……もしや慎二の故郷の、冬木の聖杯も汚染されて?」
それは……どう答えたものか……
「いや、
「そうですか……。おそらく私の参加した聖杯戦争と冬木のものの聖杯は別物でしょう。私たちの聖杯戦争では最初から前提が違っていた。杯の中にいたのは人類悪、ビーストの幼体でした」
人類悪? この世すべての悪とは違うのだろうか。
「ビーストとは劣化したサーヴァントではなく万全の守護者7騎が総がかりで挑まねばならない人類の敵です」
そういえば、たしかガイアの怪物を倒すのに守護者7騎が必要で、冬木のサーヴァント7騎もそれになぞらえているんだったか。
「しかしよかった。マキリ・ゾォルケンの夢は私のように醜く地に落ちることはなかった」
先ほどから聞いていての疑問だが、このサーヴァントは聖杯戦争でいったい何をやらかしたのだろうか。いやそれ以前に
「マキリ・ゾォルケンと知り合いだったのか?」
「ええ、生前の知己です。素晴らしい理想を持った魔術師でした。かなうのなら彼とも友達になりたかった」
素晴らしい? いやたしかに在りし日は悪の根絶という善い願いを持っていたらしいが……
「そうか、だけど冬木の第4次聖杯戦争で10年くらい前に亡くなっているよ。残念ながら。いやそうでもないか」
「たしかに、私たちは過去の影のようなもの。生前の知人になど合わぬほうが良いのでしょう。しかし、相当な長生きですね。どのような秘跡を用いたのでしょうか」
いや、そういう意味で言ったのではなく
「いや、そうじゃないんだよ……。最初は儀式の完成を、悲願の達成を求めての延命だったんだろうけど。体を虫に置き換えて、それでは足りずに人を喰らって肉体を補って、最初の願いも忘れてただ聖杯を手にして永遠の命を得ようとしていたんだ」
沈黙が続く
「……とても信じられません。……しかし、しかし、本当にそうであったなら、聖杯の輝きは貴方までもを狂わせて……」
このサーヴァントと顔をあわせてまだ短いが、これほどまでに落ち込むのか、と思う落ち込みようである。正直かける言葉が見つからない。
「あー……キャスターの話はまた今度でもいいよ。そうだ、僕の魔術を見せてやるよ。まあ、この環境じゃ大したことはできないけど」
「……すいません、気を使わせてしまいますね」
「大丈夫だよ。それより僕たちウィザードは魔術回路によって魂を霊子化できるんだけど、その主な活躍場所はコンピュータの内部になるんだ」
「現代の科学による演算装置ですね。賢者の石が広く人々に用いられればこのような社会になったのでしょうか」
そういえば賢者の石の作成者だったな。賢者の石は別名フォトニック結晶といい、内部で光による計算、記録を行う光コンピューターだ。魔力を貯蔵したり、触媒に使用したり利用法は多岐にわたるが非常に錬成が困難だ。そしてウィザードにとってはその超多重演算能力こそが賢者の石の真価である。だが、電子コンピューターどころか歯車式コンピューターの理論もなかった時代の人間がこれを理解していたことは、製作者ということを差し引いても驚きである。
「もちろん賢者の石より低性能だし、魔術的な効果もないけどね。でも、多人数での開発ができること、既存の魔術理論を応用できること、この辺りはウィザードは魔術と科学のいいとこどりだね」
「カルデアにいたころはほかの技術スタッフとか、別の支部にいるウィザードの適性があった人とかと、共同でコードキャスト、ああ予め設計した簡易的な術式で、魔術礼装みたいなものかな? それを開発してたんだけど……」
とはいえ、なにを見せるのかということなのだが。見た目の派手さはあきらめよう。なにか役に立つ事のほうがいいだろう。
「でも、この建物の電子機器は生きていなさそうなんだよね……。ああ、遠くの生きている機器を探せばそこに人間がいることになるか」
それがよさそうだ。
――――
電源を付けるイメージで魔術回路のスイッチを入れる。
――――
直接電波を拾うより手元の端末を介したほうが安定しそうだ。
この端末はサーヴァントの攻撃にも耐える、を目標にカルデアの装甲技術のすべてが詰め込まれた逸品である。あの爆破テロにも耐えきったほどだ。まあ持ち主が致命傷を受けたので片手落ちだが。そしてその中身の演算装置はカルデアの心臓、霊子演算装置・トリスメギストスと同じ素材でできている。つまり
「賢者の石、ですね」
そのとおりだ。これはカルデアからの存在証明が途絶えたとしても現地で自己証明を続け、生還するための小型のカルデアといってもいいものである。まあ、それ以外の機能も数多くインストールされているのだが。
だから電波を拾ってその方向を割り出すぐらいなら簡単にできる。
南の方角から弱いが雑多な電波、大きな都市があるか。南西から微弱な電波、これは小さいがこちらのほうが近そうか。あとは北東からしっかりした電波、これは広域に飛ばすことを目的としているな、少し遠そうだ。
「えーと南の大きな都市は神戸シティと言うそうだ。これが神戸市ということなら大体の位置はわかったね。あと今の時刻は午後2時半らしい。南西はよくわからない、集落といえる程度の規模はありそうだけど。北東は、ラジオ放送か。音楽が流れている」
「このような環境でも音楽を聴く余裕がある。よいことですね」
「えーと、ジーンDのパーフェクトワールド? ああ、聞こえるように流すよ」
知らない曲だ。元の世界にもあったのか、この世界特有の曲なのかはわからないが。しかし、故郷での再起を歌うこの曲は不思議と気分を落ち着けてくれる。
パラケルススもそうなのか、しばらく2人とも無言で歌に聞き入る。
「慎二、そろそろ休んではいかがですか? おおよその方角さえわかれば私が使い魔で探っておけます。明日になったらその結果を見て行き先を決めましょう」
そうか? 自分はまだ余裕があるが
「いえ、温まってだいぶたったのでそろそろ薬の副作用が効いてくる頃ではないかと」
「いまさら!? ああ、そうするよ。おやすみ」
そういってに拾い集めた布を床に敷き、上着を掛布団にして素直に横になる。
「ええ、おやすみなさい」
◇◇◇
いまだに音を奏で続けている端末を見つめる。
その中心にあるという賢者の石を見ることはかなわないがその形は想像できる。
なぜなら自分が作り、人へ送ったものなのだから。
「マキリ・ゾォルケン、貴方は……」
◇◇◇
夢を見る
――――時間が来たらしい。
その予想はついていた。
私があまねく人々のために、医療の発展のために、と神秘を広めるような行いをしたことは、彼らにとって到底認めうることではなかったのだろう。
すでに再三にわたり忠告が送られてきており、そのすべてを無視してきたのは私だ。
けれど、私は彼らが疎ましいわけでも憎らしいわけでもない。
願いを次代へ託してゆく魔術師たち、希望を次代へ託してゆく親子たち、どちらも私にとって慈しむべき愛し子である。
だから私を粛正に来る彼らと剣を交える事はない。私はここで死ぬだろう。
けれどそれを恐れることもない。すでに次代への種は蒔いた。
心残りがあるとすれば友達になれなかった彼のことだろうか。彼は私のプレゼントを喜んでくれるだろうか。彼が人々に光をもたらす助けになればよいが。
本当はもっと大勢の人々へ贈りたかったのだが……いや、確か製造を早めたから、私の死後人々へ行き届くように用意したのではなかったか……。まて、おかしい、確かに賢者の石を贈ったのはマキリ・ゾォルケン、彼一人のはず……。
記憶が混乱している。研究資料をまとめていて疲れたのだろうか。
こんな様ではいけない。これから訪れる彼ら執行者との語らいが私が遺す最後の遺産なのだから。
さあ、ドアを開く音がする。彼らを迎える準備をしなくては
目が覚める。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
周囲を見渡すが外は昨日とほとんど変わらない暗さだ。
「どれくらい眠っていた?」
「まだ朝にはなっていませんよ。残念ながら日中になっても光は差し込まないようですが。しかし進展はありました。南と南西、どちらも人の住む街と確認できました」
それはよかった。人がいることは昨日の時点で分かっていたが、実際に確認できると安心する。
「南西は予想通り比較的小規模の集落でした。距離もこちらのほうが近いです。しかし興味深い点は街の中の道に、いえ、街中すべてに雪が見当たらないということです」
「それは、除雪されているっていうことじゃないの?」
この雪の中で生き延びているんだから、雪の対策はあるだろう。
「それが、どうやら結界のようなものが街を覆っていて、街の中の気温を保っているようなのです。ただそれが魔術的なものなのか判断がつきませんでした」
「結界? まあこんな状況じゃ魔術が表に出るってこともあるのかな。それとも見た目が似ているだけで科学的なものか?」
キャスターがわからないなら実際に近くで見ないことには何とも言えないだろう。
「次に南の街ですが、これは街といっていいのかどうか。こちらは結界ではなくドーム状の建築物で雪を防いでいるようでした。ただし規模がけた違いに大きいです」
けた違いに規模が大きい? このあたりのビルを見たうえで言うのだから東京タワーを3倍して1000メートルとかそのあたりだろうか。
「おおよそですが高さ10キロメートル。地球に存在するどの山よりも巨大ですね。晴れていればここからでも見えることでしょう」
……え?
……本当に桁が違った。この世界はバベルの塔を再び建てて神罰に触れた世界なのだろうか? どうしよう、これから会う住人すべてがゴドーワードだったりしたら。
「とりあえず結界の方の街に行こうか。巨大ドームの方は中がどうなってるかもわからない」
「移動手段は、昨日話に聞いた犬ぞり、のようなものを用意しましたよ」
「ああ、それから、今いるこの街だった場所についてですが」
「何かあったのか?」
「いえ、このビルの内部の書物を確認したのですが、冬木市と言うそうです。すいません、伝えるべきか迷ったのですが」
……そうか。だけど昨日神戸の位置を確認した時からこのあたりだろうとはわかっていた。いまさら別に郷愁の念などない。だから
「ただの似た町さ。僕の故郷じゃないよ」
次回町に行きます
WBキャラもやっと出せるかも