お付き合いいただければ幸いです。
野外に設営された真っ暗なステージの上。スポットライトに一人照らされたわたしはマイクを手に取り声を張り上げる。
「みんなー! 盛り上がってます、かあぁぁぁ!!!」
応えてファンのみんなも叫ぶ。
「いえぇぇぇ!!!」
「気合は十分! それじゃあ張り切って行ってみよう! 一曲目『
光が弾けた。
けたたましい音と共にステージの左右からカラフルな光弾が発射され、観客の頭上で爆発する。
爆音と同時に演奏開始、テンポは上げ気味に明るく歌い上げる。
文字通り『はじまりのまち』のタウンBGMをアレンジしたこの曲は、リズムだけなら誰でも知っている乗りやすい曲。
終わるころには会場のテンションも上がり、その熱気は止まるところを知らない。
「次いくよ! 二曲目『極天火山』!!」
「うぉぉぉぉ!!!!」
大地が火を噴く。
土属性魔法で作り変えられたステージは、ところどころから溶岩が溢れ出す死の大地。
この曲は一周年記念に追加された巨大マップ『極天火山』のレイドボスBGMのアレンジで、彼の火龍をイメージした歌詞になっている。
ボルテージはさらに上がり、そのまま三曲目、四曲目。
焔が天を衝き、光が闇を祓い、歌が世界に響く。
――――ここは
――――今日は
――――今までの想い出を声に乗せて、わたしは最後の
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没入型VRの黎明期に当たる時代にサービスを開始したEFOは、日本の小さなゲーム会社が作ったもので、グラフィックはいまいち、ストーリも特に無し、マップもそれほど広くないとその数年後に発売されたものと比べても格段に劣っていた。
しかし、日本初のVRMMORPGという触れ込みの影響はは大きいもので、βテストの抽選は倍率1万倍を超える大変なものだったらしい。
多くの人は正式サービス開始後からしばらくして離れてしまったが、一部の根強いファンはひたすらにこのゲームを遊び続けた。
ある者は全てのダンジョンを制覇し、ある者はレベルをカンストまで上げ、ある者はひたすらモンスターをテイミングし、――――――――そしてある者は歌って踊るアイドルになった。
彼女彼のアバターは小さな女の子で、愛くるしいその姿は掲示板で話題になったこともあってプレイヤーの間で瞬く間に知れ渡った。
最初は数えるほどしかいなかった観客も回を重ねるごとに増えていき、遂には町一つ貸切ってのワンマンライブまで開催された。
そしてサービス開始から3年。
開発元の『コライダメモリアル』社が買収されたことに伴い、急遽EFOのサービス終了が告知された。
サービス開始時のプレイ人口からかなり減少したとは言え、未だ数万のアクティブユーザーを抱えているゲームが終了すると発表され、当時掲示板には廃プレイヤーの阿鼻叫喚が満ちていたらしい。
その数時間後。
コライダメモリアル社の買収元である没入型VRゲーム業界の最大手『オルタナティブVR』社から、『極めて重大な発表』がなされた。
曰く――
「我々オルタナティブVR社は遂にVRMMORPGというフロンティアに挑戦致します。今回の買収は、VRMMORPGのパイオニアとも呼べるコライダメモリアル社の技術を取り入れる為のものであり、弊社の傘下企業という立場にはなりますが、事実上の対等な協力関係を結んでおります」と。
発表と同時にEFOのサービス終了についても詳しい事情が掲載され、現在のアクションユーザーにはアバターの移行や、多少の初期データの優遇などの救済措置も発表された。
多少の非難はあったものの、どちらかと言えばサービス終了を惜しむ声よりも新作ゲームに対する期待の方が大きかったのは事実である。
そして、EFOサービス終了の日。
MMORPGのサービス終了と言えばひっそりと終わるのが通例であるが、このゲームはそれに当てはまらなかった。
あちこちで会話が交わされ、モンスターとの戦闘が繰り広げられ、いつもと変わらないEFOの風景があった。
夜には、すでにEFOで最も有名なプレイヤーになっていた彼女――「レティ」――のワンマンライブが行われ、数千のプレイヤーがそのライブに殺到したという――――――――。
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サービス終了から二日後、未だに夢で追体験するほどの最高のライブから一転し、日々の一部となっていたEFOがなくなってしまったオレは仕事にもやる気が起きず自堕落な日々を送っていた。
とりあえずお湯を入れて10秒でできるインスタント麺をすすりながら、ふと考える。
「見えそうで見えない感じのラフな格好でカップ麺をすする幼女……もしかしてお金になるのでは…………?」
なんてったって金髪碧眼美幼女である、あっち方面の方々になら売れるような気がしなくもない。
「まあ阿保なこと考えてないで、仕事するか…………」
この姿になってから身の丈に合わなくなった大きな椅子に登りながら、どの案件から片付けようかと思索する。
とりあえずそれなりに締切が近いのが一つあるのでそれから手を付けようと、これまた随分打ちにくくなった大きなキーボードを、ぷにぷにですべすべな幼女ハンドで打っていく。
最近はVR空間上で動く仮想キーボードが主流だが、オレは昔と変わらず物理的なキーボードを使っている。
一時間ほどプログラムコードとにらめっこした後、少し休憩するかと手を休めた時に、ふと壁に貼り付けられた雑多なメモが目に留まる。
殆ど整理していないため、数年前のものから一昨日のものまで様々だ。
「うわぁ……懐かしいなぁ……」
そう言って手に取ったのは、ほかのメモより遥かに汚い大きな字で書かれたメモだった。
「『ようじょになった!!』かぁ……あの時からもう3年になるのか」
朝起きたら幼女になっていたなんて摩訶不思議な体験をしているのは自分だけだろうと、昔を改めて振り返る。
元々の自分はそれなりに体格が大きかったので、始めのうちはその体格差に随分と苦しめられたものである。
まぁ、そのおかげでVRアバターの性別、体格制限に引っかからずにアイドルロールができたのだから、今ではこの体になってありがたいと感じられるくらいだ。
この現代、誰にも顔を合わせずに生きていく方法なんていくらでもあるし、なにより自分が在宅のプログラマだったのが幸いした。
もし誰かに見つかっていたら一生入院コースだったかもしれない。
と、回想はここまでにして、しばらく放置して溜まっていたメールを処理していく。
殆どはゲーム関連の割とどうでもいい情報や仕事の連絡などだったが、一つだけ見覚えのないアドレスからのメールが届いていた。
差出人は『Unlimited Fantasy Online運営』という聞いたことのないゲームの運営からだった。
スパムかもしれないのでウイルスチェックをかけてみるも問題なし。
タイトルで検索してみるもヒットなし。
どうせただの迷惑メールだろうが、何かやばいのが入っているわけではなさそうなので、とりあえず読んでみることにする。
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拝啓レティ様。
春深み行く今日此の頃、如何お過ごしでしょうか。
この度、弊社オルタナティブVRはVRMMORPG『Unlimited Fantasy Online』の開発に際し、既存のVRMMORPGには存在しなかったあるシステムを採用したいと考えております。
そのシステムとは、通称『NNPC』と呼ばれる、人間が操作するNPCの存在です。
通常は弊社の社員が操作を行いますが、レティ様には同名のNNPCキャラクタとしてUnlimited Fantasy Onlineの世界を楽しんで頂きたいと考えております。
『Unlimited Fantasy Online』は弊社の全霊をかけたゲームであり、既存の如何なるMMORPGより優れたゲームにするため、様々な工夫を考え、またそれらの全てを実現できるよう鋭意開発中です。
急なご提案ではありますが、ご返信いただければ幸いです。
敬具
2052年04月29日
Unlimited Fantasy Online運営
追伸
ゲームタイトルについては半月後に発表予定のため、外部に漏らさないようお願いいたします。
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……………………????
つまりどういうことなのだろうか。
まずUnlimited Fantasy Onlineというのは、どうやらEFOの後継の新作VRMMORPGのタイトルらしい。
そしてそのゲームには『NNPC』と呼ばれるシステムがあって。
自分にその中身をやってくれ、と。
ふむ。
「ええぇぇぇええぇぇ!!!!」
椅子から転げ落ちた。すごく痛い。
「まじで!? まじでいってんの!?」
何度読み直しても文面は変わらない。幻覚でもない。
「うぇ……なんか緊張してきた……と、とりあえず、OKの返事を……あっでも給料とか出るのかな……」
とりあえずこれが本当の話なら一も二もなく引き受けるのであるが、何せこのメール一通だけでは判断の仕様がない。
はやる気持ちを抑えながら、まずは本当にあのオルタナティブVR社なのかを問うメールを送る。
3分で返事が来た。早い。
「ええっと……『勿論です。証明のためUFOのスクリーンショットを数枚添付させていただきましたが、後日弊社の社内サーバーにてお話しさせていただきたいと考えております。よろしければ都合の良い日時をお教えください』……なるほど」
添付されていた画像には確かに見たことのないゲームのUIなどが載っていた。
しかし、ただの画像だけでは本物か証明されたとは言いずらい。
恐らく向こうもそれを分かっているからこその社内サーバーへの招待なのだろう。
予定に関しては……まだ締め切りに余裕があるためいつでも大丈夫だろうと考え、『何時でも大丈夫です。何なら今からでも』と返信する。
オルタナティブVR社はたしかVR空間上で出社できると聞いたことがあるし、どんな雰囲気なのかとても楽しみだ。
また直ぐに返事が来た。
担当者は画面にへばりついているのだろうか。
「『それでは今からでも大丈夫でしょうか? 恐らく1、2時間ほどお時間頂きますが……』……オッケーですっと」
もう一度了解の返事を送ると、今度はメッセージと一緒にパブリックワールドのナンバーと座標が送られて来た。 まずは一般に開放され誰でも使えるパブリックワールドで落ち合い、そこから社内サーバーに移動する段取りのようだ。
政府が管理運営しているパブリックワールドなので、特に犯罪に巻き込まれると言ったこともないだろう。
机の直ぐ横にあるカプセル式ベッドで頭にVR機材を装着して横になり、蓋を閉めて起動させる。
心地良い浮遊感と共に一瞬視界が真っ暗になった後、自分のパソコン内にあるマイルームに転送された。
現実の自分の部屋と殆ど変わらない雰囲気のマイルームで、メニューを開いて手早く先ほど送られてきたナンバーを入力する。
また一瞬視界が暗転したあと、今度はガヤガヤと騒がしい空間に転送された。
周りには多くのアバターが、それぞれ雑多な会話を交わしている。
とりあえず今自分がいる座標を確認して、目的地に向かって
普段はちゃんと重力が設定されている仮想空間ばかり使っているせいか、未だこの空を飛ぶ感覚に慣れない。
「うへぇ……すこしきもちわるい……」
久しぶりの感覚を思い出しながら、目的地に到着する。
そこには周りから少し浮いたスーツ姿の女性がベンチのオブジェクトに腰掛けていた。
「あっ、あのひとかな……?」
女性はこちらに気づいたのか、立ち上がってお辞儀をするとこちらに歩み寄ってきた。
「こんにちは。
「は、はい! ここここんにちは! レティでちゅっ!」
噛んだ。
「…………」
「…………」
風見さんとの間に気まずい沈黙が流れる。
「……それではご案内します」
「は、はい……よろしくおねがいします……」
結局このあと話し出すこともできず、てくてくと風見さんの後をついていくことしかできなかった。