この息が止まるその日まで   作:りんごあめ

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かなり長くなってしまいました(^_^;

第九話よろしくお願いします。


第九話 「であい」

えんそくに来ていた4人はショッピングモールで出会った犬、太郎丸を仲間に加え次の階を目指していた。かれらに見つからないように慎重に進み3階へたどり着くと次の目的地を悠里が告げる。

 

「みんな、次は電器屋に行くわよ」

そう言って悠里はモールに入る際に見つけた館内の地図を見て場所を確認する。どうやら今いる場所からそう遠くない所にあるらしい。光と胡桃も地図を見せてもらい場所を把握し1列になり進んでいく。

 

かれらを遠くに多少見かけはしたが近くにはいなかったため簡単に電器屋に着くことができた。

 

「やっぱり1階よりも少ないな、やつら。」

 

「そうね。やつらやっぱり階段が苦手なのね。」

3階に着いてから明らかにかれらの数が減ったことに悠里と胡桃も気づいたようだった。

 

「多分体の筋力とかがだいぶ落ちてるんだろうな、学校のやつらもだけど階段とか苦手みたいだし走ってるとことか見たことない」

2人の会話を聞き光も口を開いた。

 

「あー確かに言われてみれば走ってるとことか見たことないな。」

 

 

「そうね、走ったりして襲ってこないから逃げたりするのもだいぶ楽よね。」

 

「さすがにあの数に走って追いかけられるのはキツイよな…」

かれらの習性について話していると由紀の声が前の方から聞こえた。

 

「みんな何話してるのー?電器屋にお買い物早く行こうよ〜」

由紀が少し先を歩いて3人にそう促す。早足で3人は由紀に追いつき電器屋を目指す。

 

少し歩くと目当ての店に着いた。まず最初に光と胡桃が店の中にかれらがいないか確認する。その結果かれらはいなかったためシャッターを閉め買い物を始める。

悠里があらかじめ必要な物をメモにまとめていたため手際よく集めることができた。カセットコンロや電池など必要な物をリュックに詰めていく。

 

 

 

「コンロにボンベ、それから………あった!」

そう言って悠里はある物を手にとる。

 

「防犯ブザー?なにに使うんだよそれ」

胡桃が不思議そうに問いかける。

 

「かっわいいー!確かここを引っ張ると〜…」

そう言って防犯ブザーを引っ張ろうとする由紀だったが

 

「だめよ。イベント中だって言ったでしょ?」

悠里が手を引っ込めてそれを阻止する。

 

「え〜ちょっとくらい〜」

また引っ張ろうと手を伸ばす由紀だったが」

 

 

 

「だ・め・よ〜!」

悠里が笑顔で由紀に告げる。後ろには黒いオーラのようなものが見えた…気がした。

 

「ひぃ〜〜わかりましたぁ…」

笑顔のまま告げてきた悠里に恐怖を覚え由紀はものすごい速さで後ずさりをした。

 

「そんなもんどうするんだよ?」

胡桃が改めて悠里に問う。

 

「防犯よ。ぼ・う・は・ん」

悠里はニコリと笑い答えた。結局何に使うのかは教えてくれなかったが悠里のことだ、きっと何か考えがあるのだろうと思い光は深くは聞かなかった。

 

 

 

「さて、だいたい必要なものは揃ったけどこれからどうする?」

店から出ると光がそう3人に問いかける。

 

「そうね。それじゃぁ次はお洋服を見に行きましょう」

悠里が次の目的地を指定した。目的地を聞くと由紀だけではなく胡桃まで嬉しそうに声を上げた。

 

「「やったぁー!」」

 

「しっー」

すぐに悠里が静かにするよう促す。2人はごめんと少し恥ずかしそうに小さな声で答えた。

 

 

 

服屋は同じ3階にあったためすぐに着くことができた。

店に入るやいなや由紀はすぐに嬉しそうに駆け出していった。

 

「おい由紀、待てよ〜!」

胡桃は由紀を追いかけて行ったがこちらもまた嬉しそうな様子だった。

 

「2人とも店に着いたとたんにテンション上がったな…」

光ははしゃぐ2人を見て苦笑いを浮かべて悠里に言う。

 

「ふふふ。そうね、2人ともずいぶん楽しそうにしてるわね」

と言う悠里の声もいつもより明るく聞こえた。

 

「なんだ、りーさんもだったか。」

 

「そうね。こんな機会めったにないし、さあ私達も行きましょ?」

笑顔で歩きだし気になる服を手にとり見ていく悠里。楽しそうにしている3人を見て

 

「こんな時でもおしゃれに気を配るとは、さすが女子だな」

と1人で呟き笑って光も店内へと入っていく。

 

 

「ねえ、りーさんこれどうかな?」

 

「あらかわいいじゃない」

 

「これ似合うかな?」

 

「うん、似合ってるよ〜」

 

「あ、これもかわいいよー!」

 

楽しそうに服を見ていく3人を光はイスに座り眺める。すると光の元に太郎丸が近寄ってきてわん!と鳴いた。

 

「はは、太郎丸お前もひまか。みんな俺たちそっちのけで楽しんじゃってるもんな。」

太郎丸の頭を撫でながら光は笑う。撫でられて嬉しいようで太郎丸はしっぽを振って光にくっついていた。

 

 

 

しばらく太郎丸と遊んでいると試着室のカーテンがシャッと開かれ由紀から声をかけられた。

 

「ひかるくーん、どう、似合ってる?」

なぜかドヤ顔で聞いてきた由紀。

 

「うん、いいと思うぞ。似合ってる似合ってる。」

と笑って光は答える。

 

その後胡桃と悠里も試着室から出てきて試着した服を見せ合う。

 

(なんでさっきだけ俺にも聞いたんだ…?)

光は心の中だけ疑問に思うが笑顔で感想を言いあう3人を見て自分は暇だがみんな楽しそうにしているからいいか。と光は買い物が済むまで太郎丸と遊ぶことにした。出会った頃よりかなりなついくれた気がした。

 

 

 

 

ようやく買い物が済んだようで3人から声をかけられた。かなりの数試着していたが結局持ってきたのは水着を含め全員2着程度だった。

 

「お買い物楽しかったね〜」

 

「え、あんだけ着て結局それだけしか買わないんすか…」

 

「ええ。あまりたくさん持って来ても持ち帰るのが大変だもの。」

 

「選ぶの大変だったよなぁ悪いな光、だいぶ待たせちゃって。」

 

「いえいえ楽しかったようでなによりです。」

光は苦笑いで答える。やはり女子の買い物は驚くほど長いなと思う光であった…

 

 

 

4人と1匹は4階へと上がった。途中かれらと出くわしたが悠里がCDショップで手に入れたサイリウムを取り出しそれを遠く投げ注意を引き戦わずに通り抜けることができた。

 

「便利だな。それ」

 

「そうでしょ?たくさん持ってきたし学校でも使えそうよね。」

 

胡桃と悠里が話していると光がやってきた。1人でペットショップへ行っていたのだ。

 

「ひかるくんおかえりなさい。どうだった?」

 

「ちょうどよさそうなのあったよ。太郎丸が食べられそうなのはさすがに学校にはないもんな。危うく忘れるとこだったよ」

 

「よかったね。太郎丸、ひかるくんがおまえのごはん買ってきてくれたよ」

 

由紀がリュックの中の太郎丸に語りかけるとわんと鳴いた。

 

「太郎丸ありがとうって言ってるのかな?」

 

「さあな、もしそう言ってるんだったら取ってきた甲斐があったって思えるけどな。」

太郎丸を撫でながら光は答えた。

 

「じゃあ最後に5階に行きましょう。誰もいなかったらその後は学校に帰るってことでいいわよね?」

 

悠里が3人に確認をとる。光も胡桃も頷き5階を目指す。

 

「いるとしたらここだよな…」

5階に向かう途中胡桃は少し緊張した声で言う。

 

「そうだろうな。見た感じ4階までには誰もいなかったしな。」

5階へ続く階段を登り上までたどり着く。そしてそこにあった物を見て3人は目を見開く。

 

そこにあったのはダンボール箱や木の板で作られたバリケードらしきものだった。

すると突然由紀の背にいる太郎丸が吠えだした。

 

「どうしたの?太郎丸」

由紀が問いかけるが太郎丸は吠え続ける。

 

「太郎丸、静かに。ね?」

 

「くぅん……」

しばらく悠里が撫でていると太郎丸は悲しそうに吠えるのをやめた。

 

「太郎丸もしかしたらこの中から出てきたんじゃないか?」

その様子を見て胡桃が口を開く。

 

「確かに。もしかしたら中に生存者がいるかも…!」

 

「あたし中を見てくるよ。みんなここで待ってて」

 

「くるみ、1人で大丈夫か?俺も行くよ。」

 

1人で中の様子を確認しに行こうとする胡桃を光は呼び止めたが

 

「1人でいいよ。ちょっと見てきたらすぐ戻ってくるって。あ、リュック持ってて」

 

胡桃背負っていたリュックを光に投げ渡すとダンボールのバリケードをよじのぼり仲良く入っていった。

 

「どう?」

心配そうに悠里が中の胡桃に訊ねる。しかしその直後

 

 

 

 

「くるな!!」

 

胡桃の声が響いた。そして慌てて胡桃がバリケードから落ちるように出てきた。

 

「だ、だいしょうぶ?」

胡桃を心配して声をかける由紀だったが胡桃は焦った様子で顔を上げ3人に言った。

 

 

「急げ!やつらだ!」

 

その直後積み上げたダンボール箱がゆらゆら揺れて音を立てて崩れる。そして現れたのはたくさんのかれらだった。

 

「そ、そんな…!」

「走るぞ!早く!」

 

由紀の肩をたたきすぐに走り出すように促す。

 

 

 

そうして4人は急いで階段を下っていく。必死に走り3階にある小さな部屋を見つけその部屋に身を隠した。部屋に入る直前由紀がその場に膝をつき倒れそうになる。慌てて悠里が抱きとめ声をかける。

 

「ゆきちゃん大丈夫!?ゆきちゃん!」

体を揺すってみるがなんの反応もない。どうやら意識を失っているようだった。

 

「とりあえず中に入って寝かせよう。ここにいたらあぶない。」

光が悠里に中に入るよう急かす。悠里達が入ったのを確認した後光はそっと辺りを見回す。どうやら逃げ切れたようだ。それを確認すると静かに扉を閉める。

 

 

 

 

部屋の長椅子に由紀を寝かしつけほっと息をつく。

 

「ゆきちゃんのこともあるしここで少し休んで行きましょう」

 

悠里は眠っている由紀の隣に腰かけながら言う。

 

「そうだな。ずっと歩きっぱなしでゆきもりーさんも疲れてるよな」

 

「まあ、暗くなる前にはここを出たいけどひとまず休んでくか」

 

悠里の提案に賛成し2人も部屋の椅子に腰かける。

 

「胡桃たちの方が疲れてるでしょ?2人もゆっくり休んでね。はい、お水」

 

「おう、さんきゅ」「ありがと」

 

悠里から差し出されたペットボトルを受け取り口に運びほっと息をつく。モール着いてからは飲まず食わずでここまで来たこともありここにきて疲れがどっと出てきた。

 

「いまのうちにゆっくり休んで。2人にばっかり苦労かけちゃってごめんね。」

 

「いや、気にしなくていいよ。これが俺らの仕事だし」

うっすら笑みを浮かべ光は悠里を気遣う。

 

 

 

「ん〜」

長椅子に寝かせていた由紀がゆっくりと起きあがった。

 

「ゆきちゃん!大丈夫だった?」

眠っていた由紀が目を覚ましたため光と胡桃も由紀に駆け寄った。由紀はいつもより頬が赤くなっており汗をかいていた。悠里がおでこに手を当て心配そうに呟ぶやいた。

 

「熱があるわね…」

 

「へ〜きだよ…」

平気だと言うが由紀の声はいつもよりも弱々しくいまにも消えてしまいそうなほど小さな声だった。

 

「ケガは?」

 

「それは大丈夫よ」

悠里から由紀の容態を聞くと胡桃はニヤリとしわざとからかうように由紀に声をかけた。

 

「やっぱり遠足で熱出すタイプだったかぁ〜」

 

「えへへ〜」

普段なら何かしら言い返す由紀であるが今回ばかりは弱々しい声で笑うことしかできていなかった。

 

「ゆきちゃん少しの間休んでいて。出発する時に起こすから。」

 

「わかった〜」

悠里の言うことを聞きもう一度由紀は横になる。するとすぐに寝息をたて始めた。由紀が眠りについたとわかると胡桃は暗い表情で口を開いた。

 

 

「どうも来るのが遅すぎたみたいだな」

 

「5階のことか?」

 

「うん」

 

「あたしたちみたいに避難して大勢暮らしてたんだろうな。それが……」

 

胡桃そこで言葉を詰まらせ辛そうな表情をしていた。あまりにも悲惨な様子だったのであろう光は胡桃の様子からそう察し同じように暗い面持ちになる。

 

「…ほかに誰か生きてると思う?」

 

途切れてしまった会話を悠里が続けさせる。

 

「いてほしいけど…無理だろ」

 

「そうね…」

 

すると胡桃はなにか決心したようにすっと立ち上がり真剣な眼差しで光と悠里に告げた。

 

 

 

「もしあたしが感染しても迷わないでほしい。」

 

「何言ってるの、もう…」

冗談じゃない、と言いたげに悠里は胡桃を見上げるがそこで黙り込んでしまう。いろいろと思うことがあるのだろう、複雑そうな様子でそのまま俯いてしまった。

 

 

「約束してくれ……」

胡桃はいまにも消え入りそうな声でそう続けた。

 

 

 

「わかった。」

少し間をあけて光が頷いた。

 

「え、ひかるくん…!」

光がはっきりと言いきったことに驚き悠里は顔を上げる。そして何か言おうとしたが光がそれを遮るように言葉を続ける。

 

 

「その代わりお前も約束してくれ、

俺が感染した時にも迷わない…って。」

 

 

「…ああ、わかった。じゃあさ、ゆびきり。」

 

「おう」

そう言って光と胡桃は小指を絡める。その後悠里とも同じようにゆびきりをした。

 

「…ええ、わかったわ。」

悠里は寂しげに笑い2人と指を絡めた。ゆびきりをすると光が立ち上がりここを出発することを提案する。

 

「そろそろ日も暮れてきたし帰ろう。夜になる前にここを離れたい」

 

「そうね、じゃあ行きましょうか。

ゆきちゃん起きて。そろそろ学校へ帰りましょ」

 

 

「うん、わかったぁ…」

いつもほどの元気はなかったがさきほどよりはだいぶ楽になったようですぐに立ち上がった。由紀はまだ眠いらしくあくびをしながら目をこすっている。

 

 

 

 

「だっしゅ〜つ。」

4人は無事に1階へたどり着きモールの入り口まで戻って来ることができていた。夕方になり日が暮れ始めていたためかれらの数が少し減っていて思いのほか楽に脱出できた。

 

「さ、帰りましょうか。」

 

「ゆき〜帰るぞー」

 

「……」

さきほどからなぜか入り口の方をじっと見つめている由紀に胡桃が呼びかけた。しかし由紀は何も言わずただひたすら入り口の方を見つめるだけであった。その様子を不審に思い光が由紀に近づき声をかける。

 

「なあ、ゆきどうしたんだ?さっきからずっとそっち向いてさ。」

 

 

「ねえ、いまなにか聞こえなかった?」

太郎丸を抱きかかえ由紀が珍しく真剣な眼差しを向け光に問いかける。

 

「…いや、別に何も聞こえなかったけど」

 

「声がしたの。私たちを呼んでた」

「わん!わん!」

由紀だけには何か聞こえたようで声が聞こえたのだと必死に主張する。太郎丸も何か伝えたそうに鳴いていた。

 

「ゆき、それ気のせいだよ、早く帰ろうぜ?」

そんな由紀に困り顔で胡桃と悠里も近づき優しく諭す。

 

「ちがうよ!ほんとに声がしたもん!」

胡桃からそう言われたが聞き入れるつもりはないようで由紀は声がしたと繰り返す。

 

「わん!わん!」

 

「わわ。待って、一緒に行く!」

突然太郎丸が暴れだし由紀の腕からすり抜けてモールの中へ走り出してしまった。由紀も太郎丸を追いかけモールの中へ走り出す。

 

 

「だめ!待ってゆきちゃん!」

慌てて悠里が叫び呼び止めようとするが由紀はそのまま中へ入ってしまった。

 

「とにかく急いで追いかけるぞ!」

光は走りながら2人に呼びかける。そうして3人は由紀と太郎丸を追いかけ再びモールの中へと駆け込んだ。

 

 

「くそ…!どうなってんだ!」

先に走り出した光が最初に由紀の背中を捉えた。しかしなぜか光でも追いつけないほど由紀は速かった。

 

 

すると先の方からなにやらピアノのような音が聞こえてくる。しかし弾いている訳ではなく叩きつけるような勢いで低い音が鳴り響くばかりの気味の悪いものだった。そしてその直後聞こえてきた別のものに光は耳を疑った。

 

 

 

「……誰か!誰かきて!…助けて!!」

 

 

「いまの声……まさか!」

間違いない、今の声は自分たち以外の人間の叫び声だ。光はそう確信する。

 

そうしているうちにあっという間に由紀と光は1階の広場へたどり着く。そして由紀が指を指し叫ぶ。

 

 

「いた!!あそこ!」

光が由紀の指指す方向を見る。

 

 

 

そこにいたのはピアノの上でたくさんのかれらに囲まれて身動きが取れなくなっている1人の少女であった。

 

少し遅れて胡桃と悠里もやってくる。そして目の前に広がる光景に目を疑う。

 

「…!本当にいた…」

ピアノの上で怯える少女を見上げ2人は驚いたように声をもらす。

 

 

 

 

この日、世界が変わってから初めて4人は自分たち以外の生存者に出会った。

 




読んでいただきありがとうございました!

前回の更新から1週間以上経ってしまってすみません…なかなか書く時間がとれなくて…(T^T)これからしばらくは更新めちゃくちゃ遅いと思いますが気長に待っていただけると幸いです。

さて次回でようやくえんそくが終わります。思っていたよりかなり長くかかってしまった…
これからもよろしくお願いします。

感想や評価、お気に入りなどもよろしければお願いしますm(_ _)m


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