第十二話よろしくお願いします。
美紀が学園生活部に仮入部という形で加わった翌日、彼女は悠里と家計簿に目を通していた。何かしていた方が落ち着くからと悠里に手伝いを申しでた。様々な説明を受けこれからの方針を練っていると突然なにか閃いたように由紀が立ち上がり声をあげた。
「体育祭!」
由紀の突然の一言に光は首をかしげ悠里はあら、と小さく呟き美紀は怪訝そうに由紀を見つめ胡桃がなぜ体育祭なのかと理由を訊ねた。
「みんなで体動かすと楽しくなるよ!ね?みーくんも一緒に!」
「…仕事が終わったら一緒に遊びましょう?」
「もう、遊びじゃないよ部活動!」
「部活動?」
そうは言われたもののさっぱり意味が分からないといった様子で首をかしげる美紀をみて悠里が由紀に声をかけた。
「ゆきちゃん、みきさんはまだ知らないから」
「あっ、そっか。学園生活部心得第五条!」
由紀は思い出したような素振りを見せ手を上げるとそれに続いて美紀以外の3人も手を上げ声を合わせた。
「「「「部員は折々の学園の行事を大切にすべし!」」」」
「だ、か、ら、体育祭!わかった?」
そう言って美紀に駆け寄るが
「さっぱりわかりません。」
と即答された。さらに美紀は語気を強め
「もっと他にやるべきことがあるんじゃないですか?」
と由紀に詰め寄るがそんなことは全く気にしていない様子で
「やるべきことよりやりたいことだよ〜」
「ダメ人間じゃないですか!」
お互い一歩も譲らないといった様子になってしまった。このような時の由紀は何を言っても聞かないと分かっているためひとまず美紀を納得させるため光が助け舟を出した。
「いい機会なんじゃないか?ゆきのことをよく知るためのいい機会だと思うけど?」
それを聞くと美紀は納得してくれたようで軽くため息をつき
「…わかりました確かにそうですね。」
「じゃあ始めよ!体育祭!!」
美紀の参加も決まり5人はさっそく体育祭の準備に取りかかった。
玉入れの為に鍋を吊るしたり紙とガムテープで玉を作っていく。光は部室の前の廊下に徒競走用のテープを貼り付けていた。貼り終えると部室に入り悠里のポスター作成の手伝いをした。準備は1時間ほどで終わりいよいよ体育祭が始まった。
始めに簡単な開会式を行ってから最初の種目に移る。第1種目は徒競走である。
参加するのは胡桃と美紀、そして光。胡桃と美紀で競い勝った方が1番足の速い光と走るということになった。
床に貼られたテープの前に2人が立ち軽く準備運動をする。その際胡桃がシャベルを背負っている事に気づき美紀が声をかける。胡桃はにやりと笑い
「ハンデ」
と一言だけ発した。胡桃と意図がわかると美紀もにやりと笑い
「なるほど」
と一言だけ呟き胡桃の提案を自信ありげに受けた。
2人の準備が終わったのを確認すると由紀と光がゴールの位置で開始の合図をする。
「よーい、どん!」
それを聞き2人が一斉に走りだす。出たしこそは一緒だったが少しずつ差が開いていく。先にゴールにたどり着いたのは胡桃だった。胡桃よりわずかに遅れ美紀もゴールへたどり着く。息を切らし肩を揺らしながら胡桃は笑みを浮かべ美紀の方を向いて
「結構やるじゃん。」
美紀の走りを讃えた。胡桃同様肩で息をしながら美紀はその場に座り込むと
「ハンデつきで負けるとは…」
ハンデを背負った相手だったため勝てると見込んでいたにも関わらず敗北を喫したため悔しそうに唇をかみしめた。
多少の時間をおき光と胡桃の番になる。さきほどより入念に準備運動をしていた胡桃がとあることに気づき顔を上げる。
「なんでゴルフクラブ背負ってんだよ」
「ん?そりゃハンデに決まってんだろ。」
余裕の笑みを浮かべ胡桃に向かって言い放つ。胡桃はそんな彼の様子に眉を吊り上げ睨む。
「…ほう随分舐めならたもんだな〜あたし相手にハンデをつけるとはいい度胸じゃないか」
「ああ、ハンデつけてても今のお前には負ける気がしねぇ」
「言ったな?じゃあもしお前が負けたら今日の夕飯無しな。」
「いいぜ、そんなことには絶対ならないけどな」
約束を交わしスタートラインに立つ。由紀が2人の準備ができたのを確認し声を上げる。
「よーいどん!」
2人が一斉に飛び出した。勢いよく廊下を駆け抜ける光と胡桃、そしてその様子を息を呑んで見届ける由紀と美紀。先にゴールへたどり着いたのは…
「ああ〜!ちくしょう…ハンデつけられて負けるとか悔しすぎる…!」
「さっきお前もやってたけどな。」
結果として勝ったのは光だった。ハンデつきで負けた胡桃が床に拳を叩きつけ唸る。その様子を苦笑いを浮かべながら光は見下ろす。徒競走は光の勝利で幕を閉じた。
その後も体育祭は順調に進んでいく。二人三脚、玉入れ、大玉転がし、借り物競走。最初はあまり乗り気ではなかった美紀も競技が進むにつれだんだん楽しそうに笑うことが増えていった。そんな彼女に光達は安堵しほっと胸をなでおろした。
全ての競技が終わった頃には日も暮れはじめ教室も茜色に染まっていた。由紀が太郎丸とゴミ捨てに行き残った4人で教室の後片付けをしていく。ボールを箱にしまいながら光が口を開いた。
「なにも考えないで体を動かすっていいよな〜久しぶりだったから楽しかった」
「ええ、そうね。みきさんも楽しかった?」
自分の名前を呼ばれて少しだけ驚いたような素振りをみせると美紀は少しだけ悠里から顔を逸らし「はい…楽しかったです」と小さく呟いた。その言葉を聞き3人は静かに微笑んだ。
「そっか。最初は嫌そうだったのに途中からよく笑ってたからさ、楽しんでくれてるんだなってあたしたちもひと安心してたんだ。」
「え、私そんなに笑ってましたか?」
美紀は思いもよらないといったふうに目を丸くし頬を赤らめ胡桃に問いかける。
「なんだ気づいてなかったのか?玉入れしてる頃にはゆきと同じくらい楽しそうに笑ってたぜ?」
「ゆ、ゆき先輩ほど楽しんではいません!」
胡桃が笑ってそう言うと一緒にするなといったように美紀は慌てて否定しさらに顔を赤くした。しかし由紀のことで思うことがあるのか暗い顔をでぽつりと呟いた。
「ゆき先輩これからどうするんですか?」
「ん、ゆきならゴミ捨てに行ってるぞ。」
光が由紀の居場所を伝えるが美紀は首を横に振って、
「そうじゃなくて、このままじゃダメですよね。」
不安げな様子で3人に訴えかける。胡桃は美紀の方をへ向き直り「別にダメじゃないだろ」と美紀の考えに異を唱える。
「ゆきちゃんは学園生活部に欠かせない子よ?楽しいこといっぱい思いついてくれるから私もくるみも、ひかるくんも助かってる。…それじゃダメ?」
悠里はいつものような笑みで美紀に優しく訊ねる。美紀はそんな2人の言葉に呆れたように口を開く。
「そうやって甘やかしてるから、治るものも治らないんじゃないですか?」
「…甘やかすとか治るとかそういうものじゃないのよ」
顔に笑みを浮かべたまま美紀の問いかけに答えるが目が笑っていない。それに気づいた胡桃が緊張に顔を強ばらせる。不穏な空気が空気が教室に立ち込める。そんな空気に臆することなく美紀は悠里の目を真っ直ぐ見据え言い放つ。
「どう違うんですか?」
「……まだ知らないから」
「え?」
悠里は目線を下に落としぽつりぽつりと呟く。握りしめられた拳はプルプルと震え悠里の激情を表していた。
「あなたはまだゆきのことをよく知らないから、ゆきのおかげでどれだけ私たちが助かってるか…あなたはまだ知らないからそんなことを言えるのよ…」
一瞬戸惑ったような顔をした美紀だったがすぐに険しい顔に戻り悠里に、光と胡桃に言い放つ。
「…そんなのただの共依存じゃないですか!」
「…!」
「あなたねっ…!」
共依存。自分達の築いてきた関係を、これまでの自分達の努力を。突然自分達の前に現われた者のたったひと言に否定され悠里の怒りは頂点に達する。肩を震わせ憎悪に満ちた目で睨みつける。対する美紀も自分は間違ってはいない、そう主張するように悠里を睨み返す。
これ以上2人の関係に溝を作ってしまうのはこれからの生活に響くと判断しここまで沈黙を貫いてきた光が2人の間に割り込み仲裁に入る。
「そこまでだ、2人ともちょっと落ち着けって」
「……」
「私間違ったこと言ってますか?」
光の仲裁に悠里は怒りを抑えずに黙り込み美紀はまだ諦めていないようでさらに詰め寄ってくる。答えを聞かせろと目で訴えてくるため自分の考えを正直に伝えてやることにする。
「俺は2人の考えどっちも間違ってはいないと思う」
「…それじゃ答えにならないと思います!」
美紀が声を荒らげるがそれと同時に教室の扉が開く音がし全員の視線がそちらに集まる。
「ゴミ捨て行ってきたよー、あ!片付けまだ終わってないじゃん!もう〜みんな何してたの?早く片付けてご飯にしようよ」
「お、おう!そうだな早く片付けちまおう」
胡桃が慌てて片付けを再開し悠里達も後に続く。事情を知らない由紀のおかげでなんとか言い争いを終わらせることに成功する。光は由紀に「ありがとう」と一言声をかける。由紀は何のことかわからず首をかしげていたがその後すぐに「うん!」と頷き笑い返した。
読んでいただきありがとうございました。
やっぱり小説書くのって難しい
次回もよろしくお願いします。
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