体育祭の一件で学園生活部には険悪な雰囲気が立ちこめていた。そんな中、直樹美紀は1人バリケードの外に出ていた。もちろんこのことは誰にも言っていない。
今日は何の予定もなかったため昼食を食べてからはそれぞれ別行動を取っていた。
由紀はいつものように授業を受けに誰もいない教室へ。胡桃と悠里は昼食の片付けを済ませた後部室や寝床として使っている部屋の掃除をすると言っていた。いまなら気付かれずに抜け出せるかもしれない、そう思い美紀はリュックを取り足早に部室を出た。部室から遠い方のバリケードの前に着くと美紀はリュックからプレーヤーを取り出し音楽を流す。これを囮にしかれらの注意を引きもう1つのバリケードの方から悠里達に気づかれないようそっと外に出る。階段で2階に降り辺りを見回すと近くにかれらの姿はない。廊下の奥をみると複数のかれらが同じ方向に歩いていた。その様子にひと安心し軽く息を吐き慎重に目的地を目指す。幸いかれらに遭遇することなくたどり着くことができた。
美紀はできるだけ音を立てないように図書室と書かれたプレートがある扉をそっと開いた。
部屋の中は明かりがなければ本の題名など見えないほど薄暗い。リュックから懐中電灯を取り出し本棚を照らしながら歩く。そして心理学と書かれた本棚を見つけると立ち止まり本の背表紙ひとつひとつに目を通していく。そんな中であることに気づく。
「どうしてここだけ本がないんだろう…」
隙間なく埋められ本棚の中にぽっかりと本が置かれていない所があった。なぜだろうと疑問が生じたが考えても分からないことだと諦め目当ての本を見つけリュックにしまっていく。思っていたより少なかったが仕方ない、早く戻らないと怪しまれると思い図書室を後にしようとする。
「こんなとこで何してんだ?危ないだろ」
「え!」
突然後ろから声が聞こえ慌てて振り返る。するとそこには自分と同じようにリュックを背負った光が目を丸くして立っていた。
「ひかる先輩!?どうしてここに?」
「それはこっちが言いたいんだけど…まぁちょっと本を探しにな。」
「わ、わたしもです」
「まぁ図書室に来るってことはそれしかないよな。もう用がないなら危ないし一緒に戻ろうぜ。」
光が笑いながら言った。
2人で静かな廊下を歩く。美紀の仕掛けた囮のおかげか近くにかれらはおらず簡単に階段まで戻ってくることができた。階段を登りながら美紀が光に問いかけた。
「昨日のことで聞きたいことがあるんです。どうしてどっちも間違ってないって言ったんですか?ひかる先輩はゆき先輩のことどう思ってるんですか」
そう言われ光は足を止め立ち止まる。
「…そうだな〜、とりあえず立ち話もなんだし座ろうぜ」
少しの沈黙の後、階段に座り美紀にも座るよう促す。美紀は頷きそっと光の隣に腰掛けた。
「昨日言ってたことだけど、」
光はきまりが悪そうに頬をかいて考えこむ。それからゆっくりと口を開いた。
「…まぁ実際ほんとにどっちも間違ったこと言ってないって思ってるんだよ。みきの言う通りこのままじゃダメって分かってるし俺もそう思う。でもりーさんが言ってたようにあいつがいたからここまでなんとかやってこれた。
なぜかいつもどうにもならないって時に答えをくれるのがゆきなんだ。モールに行ったのも突然ゆきが遠足行こうって言いだしたからだし。だからこのままでもいいやって思ったりもしちゃってさ、またあいつが俺たちを助けてくれるんじゃないかって。だからどっちの方が正しいか分かんないんだよ」
苦笑いを浮かべながら答える。
「そう、だったんですか…」
光の真意を知り美紀は困ったように顔を曇らせうつむき呟く。
「さっぱりわかりません…私たちはどうするのが1番いいんでしょう…」
「さぁな、俺たちにはわからないことだらけだ」
明るい声で光が言うと美紀はそれにつられ顔を上げる。
「ゆきのことだけじゃない、どうしてこんな世界になったのか、また元の普通の世界に戻れるのか、このままここにいていいのか。どうやって生きるのが1番いい選択なのか俺たちには考えてもわからないことだらけだろ?」
「…そうですね」
美紀は静かに頷き光の言葉を待つ。
「だからそんなに急がなくてもいいんじゃないか?もっとゆっくり考えて、考えてそれで答えを出せばいいと思う。そしたら意外と答えがわかる時があるかもしれないからさ。ゆきのことももう少し様子見て考えてくれないか?時間は結構ありそうだし。」
「ゆっくり考える…」
光の言っていた事を繰り返しこれまでの自分を振り返る。
モールの小さな部屋で親友と太郎丸と3人で生き残り「生きていればそれでいいの?」と問われ親友が出ていった後モヤモヤとした気持ちが残ったまま部屋を飛び出し学園生活部に助けられた。そして部屋に閉じこもっていた自分と違い適当なことばかり言って過ごしている由紀達を見て焦りや怒りを感じそのまま感情をぶつけた。わからないことを解決するために急ぎすぎにゆっくり考えることで答えを得ることができるなら…
「それで答えを出せるなら試してみてもいいのかもしれません」
決心した様子で光を見つめ美紀は言った。
「そっか」
光は答えを聞くとふふっと笑い立ち上がって階段を登り始める。
「そろそろ戻ろう、もしかしたらあいつら心配してるかも。」
「やっぱりひかる先輩も黙って下に降りてたんですか?」
「もちろん、度々黙って下に降りてる。」
「先輩も悪い人ですね。」
美紀はうっすら笑みを浮かべ光の後ろを歩く。
階段を上がるとすぐに部室の前に着いた。美紀が深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。光はそれが終わり準備できたのを確認すると扉をゆっくりと開けた。
中に入ると不満げに机に置かれたプレーヤーを見つめる悠里がいた。胡桃気まずそうに隣に座っている。美紀が入ってくるのを確認すると悠里は鋭い視線を向け声をかける。
「みきさん、もしかして下に行った?」
「はい、ひかる先輩と一緒に」
「え、そうなの?…だったらいいのだけれど行くならちゃんと教えてからにしてね」
1人で行ったと思っていた悠里は驚いたように目を丸くする。
本当は光も美紀も1人で下に降りていたのだがこのひと言のおかげで自分へのお咎めもなくなりそうだと光は安堵に胸を撫で下ろす。
「あの、ちょっといいですか?」
「あら、どうしたの?」
悠里と胡桃の視線が自分に向いているの確認し意を決して話す。
「まず昨日のことですが…すみませんでした!」
そう言って頭を下げる彼女の姿に2人は驚いて目を丸くし突然どうしてたのかと問いかける。
「みなさんの気持ちもあまり考えずきつい言い方をしてしまったと思って、反省してます。」
「…別にいいよあたしはもう気にしてないし」
「そうね。謝ってくれたしもういいわ、顔を上げて?」
突然の謝罪に少し戸惑っいながらも2人は美紀に顔を上げるよう促す。それを聞き顔を上げるともう1つ話があるとさらに話を続ける。
「学園生活部に正式に入部しようと思います。」
「へー」
「え?」
胡桃は少し嬉しそうに美紀の話を聞き悠里は不思議そうに首をかしげた。
「どういう風の吹き回しなの?」
「少し考え直したんです。」
そう言うと美紀は椅子に腰掛けた。ずっと立ったままだった光もそれに続き腰掛ける。
「ちょっと焦りすぎてたんじゃないかって思ったんです。今の私たちにはわからないことがたくさんあって、それを解決するためにもう少しゆっくりと周りを見てどうするか決めてもいいんじゃないかって。ひかる先輩と話して思ったんです。」
「へー、ひかるがそんなこと言ってたとは意外だな〜」
ニヤニヤと眺めてくる胡桃に光は「文句あんのか」と肘をついて睨む。
「はは、別にー。ってことらしいけどりーさんどうする?あたしはいいと思うぜ」
胡桃は笑って美紀の入部を認めるか悠里に訊ねる。悠里は軽く微笑むと立ち上がって美紀を見る。
「なるほどね、わかったわ。歓迎します」
そう言って手を前に出した。
「…!ありがとうございます」
美紀は軽く頬を染め嬉しそうに自分の手を前に出し握手を交わす。
「よかったなみき。」
胡桃も笑みを浮かべ美紀を見上げる。
「たっだいま〜!あれ?りーさんとみーくんどうしたの?握手なんかして」
授業を終えた由紀が2人の様子見て驚いていた。悠里は由紀に笑いかけ事情を話した。
「ほんと!?みーくん正式に入部してくれるのー!?」
「はい、よろしくお願いしますゆき先輩。」
満面の笑みでこちらに飛びついてきた由紀に美紀も少し恥ずかしそうに笑いかけた。
「これでなんとか仲良くやってけそうだな、おまえのお手柄だな。」
光の背中を叩きながら胡桃が笑う。光は笑みを浮かべ
「別に俺はなにもしてねぇよ、思ってたこと言っただけだ。どうするか決めたのは全部みきだからあいつのおかげかな。」
そう言って由紀とじゃれ合う美紀を眺めた。
「まぁ、それもそうだな」
険悪な雰囲気は去り部員が1名増えたが学園生活部にいままでのような平穏な日々が戻った。
読んでいただきありがとうございました。
原作よりの話にするとか言ってたけどそんなことなかったですね^^;
みーくんが正式に学園生活部に入部する所オリジナルで書いてみようかなーって思いたって書いてみたのですがどうだったでしょうか?
次回もよろしくお願いします。
感想や評価なども気軽にお待ちしてます(*´v`)